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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第三章 円熟した者の愚かしさ
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第三章 10 ふーん、あっそ

「……さん」

誰かが呼ぶ声がする。

「……起きてください。芽衣さん、起きてください」

その声に応じるように、ゆっくりと目を開ける。

「わわっ!?」

「ふふ、葉月さんももしかして、このようにあなたを起こすのではないかなと思いまして」

思わず、すっとんきょうな甲高い声が出てしまった。リリスさんが、わたしの方に覆い被さるような恰好になっていたのだ。

「葉月ちゃんもそんな起こし方しないよ……!」

心臓の鼓動が早鐘を打つように早くなる。そういえばリリスさん、こういうところがあったなぁ……


「そういえば、リアさんも来てるの?」

「はい。少々不機嫌ですけれどね」

乱れた呼吸を直しながら部屋を出ると、リリスさんの方から明らかに目線を逸らしたリアさんの姿が見えた。

「もう、単なるいたずらだといいますのに」

「いたずらが過ぎるのよ、もう少し自重して」

「ふふ、かわいい焼きもちですこと」

そう笑っていたリリスさんは、なんだか満足げな表情をしていた。あ、この人。リアさんのこともからかおうとしてたんだ……


「さて、わたくしはこれから麻倉さんの方の護衛に向かってきます」

「楓ちゃんの?」

「ええ。彼女でしたら裏の事情についてもある程度はごまかしが聞きますし、それに麻倉さんもあなたのお友達を探したくて仕方ないようでしたので」

楓ちゃんにとっても、柚葉ちゃんは大切な人だ。もう一年以上もの間、文芸部で過ごした仲間。そんな人に何かあったとなって、ただ黙っていられるような子じゃないというのは、わたしが一番知っている。


「芽衣と私、リリスと麻倉さんで二手、ということで良いのかしら?」

「ええ。そちらは好きに動いてくださいね。芽衣さんの準備が出来ましたら出発してください」

お互いの顔を見合わせる。

「?」

リアさんからの目線が、何やらいつもと違うような気がした。

「私はあなたを一人前の仲間として認めているから。だから、全力で私について来て」

その言葉に、わたしは無言で小さく頷いた。


家を出て目の前に広がる景色は、いつもとまるで違っているように見えた。

それにしても……

「探すっていっても、どうしたらいいんだろう……?」

「目撃情報はあったかどうか。天野さんが行きそうな場所はどこか。その二つね」

柚葉ちゃんの行く場所は、残念ながら見当がつかない。

つまり、柚葉ちゃんをどこかで見た人がいるかどうか。

町の人にわざわざ聞いて回るのは少し緊張するけど、それも彼女のためには仕方ないことだ。


「それと。武装は常に出せるようにしておいて。リリスの話が本当なら、いつ亜人の成れ果てが襲ってくるかわからないから」

その言い方に、少しだけ引っ掛かりを覚える。

「リリスさんは、そういう嘘はつかない人だと思うけど……」

「別に信用していないわけではないのよ」

そう言うと、リアさんはどこかを見つめるようにしながら立ち止まった。

「ただ、たまに何を考えているかわからなくなることがあるから」

それは……確かにそうだった。


人探しはなかなか進まなかった。どうやらわたしだけでなく、

リアさんもそんなに人探しの経験はなかったらしくて、つまり勘のない二人にはとても難しい仕事なのだった。

それに今は7月。つまり真夏だ。30度を越える日差しが照り付ける中2時間も歩いたら……人間も吸血鬼も暑さでどうにかなりそうなのは明白だった。


「そろそろ……ちょっと休もう?近くにコンビニがあったし、そこで涼めば……」

「とはいえ、私たちに残された時間はそこまで長くないはずよ。休んでなんている暇は……」

そんなことを言っているリアさんも、もうかなり疲れている様子だ。

「いえ。本当に、この国は、夏がここまで暑いのだけは玉に瑕ね。」

「…せっかくだし少し休憩しましょうか」


コンビニの方に入ると、案の定店の中はとても涼しかった。エアコンの冷気が身体を癒してくれる。

「あまりコンビニって入ったことがないのだけど、何でも売っているのね」

「うん、今のコンビニってすごいからね、お母さんがコンビニさえあれば一ヶ月は不自由なく暮らせそう、って言ってた」


「お母さん……そういえばあなたの母親とは、会ったことがないわね。いずれ挨拶をすべきかしら」

そういえば、お母さんもわたしの今の事情は全く知らないんだったなぁ……

それに、ほとんどお仕事で家を空けているお母さんとは、最近会話もほとんどしていないような気がする。

それよりも……今。

「挨拶をすべきって、その……」

「ふふ、冗談よ」

本当に冗談なのか、少し気になってしまったけれど、今はそれどころではなかった。


お昼時も近かったから、わたしたちはお弁当を買うことにした。

リアさんはコンビニで買う食事は初めてらしくて、興味深そうに商品の棚を見つめていた。

「本当に色々な種類があるのね」

「やっぱり、初めてだと迷っちゃうかな?」

「そんなことはないわ。そうね……これにしようかしら」

リアさんが手に取ったのは、シンプルな日の丸弁当。ちょっと意外だなと思ったけど、最初はあんまり変わったものを買うよりは、きっとこういうのの方がいいんだろう。


レジには何人か人が並んでいたみたいで、どうやら結構待つことになりそうだ。

そして、わたしたちが並ぼうとしたその列の後方では。

「……げ」

詩音ちゃんが、気まずそうにわたしたちの顔を見ていた。

「……何であんたたちがコンビニなんか来てんの」

「コンビニくらい来ると思うけど?」

「ふーん、なんというか。あんたたち見てるとイメージ崩れるんだよ。もっとこう、神秘的でミステリアスな存在でいてくれないわけ?」

わたしは思った。この子、無茶言ってるなぁ……と。

確かに、最初に会った時のリアさんはとてもミステリアスな人だった。

でも、それはあくまで彼女がわたしの理想に応えるためにそうしていただけ。

あくまで、それは理想像でしかないのだ。


「で、咲坂芽衣。あんたはこんな時間に何でほっつき歩いてるわけ?平日でしょ?」

「ああ、わたし今日学校休みなんだ、創立記念日」

「…………えー、同じ学校か……」

ものすごく小声でため息をつかれた。そ、そんなに嫌だった……?

「はー、あの単細胞クソバカ野郎も創立記念日で休みだからって腹黒クソ漫画マニアと3人組で調査する羽目になるわ会いたくない顔見る羽目になるわ。はぁ、睦海がせめていたらなぁ」

わたしたちのことなんてもう見えてないのか、独り言を呟き続ける詩音ちゃん。どうやら相当疲れているらしい。

「睦海さんはどうしたの?」

「わざわざ聞く?違う学校だからいないだけだけど?つーかあんた警戒心とかないわけ?」

「警戒はしているわよ。ただ、こんな衆目の目の前で私たちを攻撃は出来ないと思っているから」

「あんたには聞いてないんだけど」


「あー、わたし?」

ここでようやく、わたしに聞かれているんだ、ということを理解する。

「あんた以外に誰がいんの」

「警戒…そうかな。警戒はしてるよ。だから今も喋っててとっても落ち着かない。でも、だからといって無視したくはないんだ。ちゃんと、亜人狩りが何をしているのか、知りたいから」

そう、平静を装ってはいるけれど。実のところはいつ攻撃されるかわからない恐怖でいっぱいだ。頬を汗が伝う。手が震える。視界だって上手く定まらない。

でも、亜人狩りがもしわたしたちをまた狙っていたとしたら。それこそ無視は出来ないし、また争うことになるかもしれない。それを考えると、詩音ちゃんから目をそらすのは、もっと不安になってしまうのだ。


「ふーん、あっそ」

詩音ちゃんはそう言った後、再びレジへと並び直した。

そのリアクションの意味は、わたしにはわからなかった。

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