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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第三章 円熟した者の愚かしさ
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第三章 5 君はそういうことにロマンは感じる?

燃え盛る炎の中で、葉月ちゃんがわたしの方に手を伸ばしてくる。

わたしはそれに何とか応えようと、熱い中を必死に這うようにして進んだ。でも、足が動かない。伸ばしたはずの手が、先へと全く進まない。

「ーー!」

声にならない叫びをあげる。そうこうしているうちにも、リビングのテーブルが。テレビが。観葉植物が。日常にあったはずのあれこれが真っ赤な炎に包まれていく。

最後に見たのは、必死の形相でわたしに向かって叫ぶ葉月ちゃんの顔で……


「……坂さん、咲坂さん!」

わたしを呼ぶ声がする。目を開けてみると、そこには保健室の先生の顔が。いつも穏やかでニコニコしている先生が、珍しく血相を変えて叫んでいる。

気づけば、制服の背中と保健室の枕がじっとりと濡れていた。

「よかった……ものすごい魘され方だったものでしたから。」

「そ、そんなに魘されてたんですか……?」


「ええ。あなたがおそらく寝に入った直後から、ものすごい大声で叫んでいました。注意をしようと思ったら、どうやら眠っていたようだったので、無理矢理起こしてしまいました」

想像以上に大変なことになっていたらしい。先生には迷惑かけちゃったな……。

「とにかく、何事もないようで良かったです。風邪を引いてしまってはいけませんから、念のため身体を拭いておきますね」


「ありがとうございます、ほんとに、迷惑かけてしまってすみません」

「私も少しビックリしましたけど……寝ている間のことはどうにもなりませんから」

背中をタオルで拭きながら、優しい声で先生が語りかけてくれた。その声にわたしは少しだけ安心する。

「まだ顔色も悪いですし……今日はもう帰って寝ましょう。……ここだけの話、一日二日くらい授業を休んだところでどうってことないですよ?クラスはどこでしたっけ?」

「2-Bです、はい、わかりました」


こうしてわたしは荷物を持って保健室を後にした。

それにしてもあの悪夢……今まで見た炎の夢のどれよりも生々しく感じてしまった。本当に炎に包まれて死んでしまうようにまで思えてしまったのだ。

まだ、脳裏にあの光景が焼き付いて離れない。

帰って寝ようかなとも思ったけれど、そうしようにももし寝てしまったらまたあの悪夢を見てしまう気がして、そうするわけにもいかなかった。

本を読むような気分でもないし、あまりよくない気分のまま通学路を歩き続ける。


「君、そこの君」

歩いていると、ふと肩を叩かれた。

「これ、落としたよ。君のじゃない?」

振り返るとそこには、少し背の高い白衣を着た女の人……歳はかなり若そうな、なかなかきれいな人だ。


「はいっ……ありがとうございます!」

「どういたしまして。えーっと……うーん……?」

「あの……何を……」

女の人がわたしの方を覗き込むように見る。考え込むような仕草をしているけど、一体どうしたんだろう。

「いや。失礼。つい考え事をしててさ。君はさ。人間の進化について興味はある?」

「人間の進化……?」

「ごめんごめん。唐突すぎたかな。まあ専門的な話だから君には難しいかもしれなかったね。気にしないでもいいよ」


困惑しているわたしをよそに、女の人はまだ話を続ける。

「ただ僕は思うんだよね。人類がもう少し進化したら人々はもっと豊かになる。病気にだって強くなれば医者は要らなくなる。もっと少ない食糧で動けるようになったら?更に賢くなったら?君はそういうことにロマンは感じる?」

「は、はぁ……よく、わかりません」

よくわかりませんとしか言えなかった。いまいち、何を言ってるのかわからなかったから。

「わからないかーそうか。なら仕方ない。もしまた会えたらその時はよろしくね、そんじゃ」

と言って、女の人はそのまま去っていってしまった。最後までよくわからない人だったな……


「悪夢ですか……」

「うん、体調崩して保健室で寝てたら、ものすごい悪夢に魘されてたみたいで……」

午後、わたしは冷凍庫にあった冷凍のチャーハンを食べながら、リアさんたちと3人で話をしていた。

「困ったこともあるものね。もしや血が足りていないのではないかしら?」

「あら、それならいくらでも吸わせてくれる相手がいるのですからすぐに頼めば」

「リリス、芽衣の前でそういう話はやめなさい」

「だからと言って足を踏みつけなくても……」

血が足りない、という可能性は考えてなかった。


もっとも、吸血鬼は基本的にしっかりと食事さえ取っていれば血が足りなくなることはそうそうないそうだから、今まで吸血が必要かどうかはあまり考えてなかったのだ。この時代で食事が充実しているからこそらしい。

「それで……そうね。詳しい話は昼食が終わってからにしましょう。芽衣もあまり箸が進んでいないようだし」

「そうだね。ごはん食べてる時にする話じゃなかったかも」

それからは3人とも、ゆっくり黙々と昼食を進めていた。


「リアさんやリリスさんは、悪夢を見る原因、って心当たりある?」

部屋のベッドで横になりながら、二人に聞いてみる。もしかしたら、吸血鬼特有の何かがあるのかもしれない。

「わたくしにもわかりませんね。吸血鬼でも夢を見る以上それが悪夢になる場合はあります……が、芽衣さんのその様子はかなり危ない気がしますね」

先生の話では、わたしは大声をあげて魘されていたらしい。そこまでの悪夢を見たのはわたしも初めてだ。だからこそ、今のこの状態には少なからず不安があった。


「一度学校を休む……いえ、芽衣さんの不安の原因は学校だけではないでしょう。となると……」

「となると?」

「あなたが仰らなくてもわかります。『あの』手紙でしょう?」

やっぱり、全部わかってたんだ。

「うん、実は……」

わたしは、これまであったことを全て二人に話した。話しているうちに、少しだけ気が楽になった。けれど、最後まで話し終わった後、リリスさんの顔がかなり険しくなったのが見えた。


「と、いうわけなんだけど……リリスさん?どうしたの?」

「いえ……少し嫌な思い出が頭によぎっただけです」

リリスさんもストーカーか何かに遭ったことがあるのかな。リリスさん綺麗だからなぁ……

「もしリリスの心当たりが本当だとしたら。私たちも相当の……それも最大級の警戒が必要でしょうね」

どうやら、そんなレベルの話ではなかったらしい。

「ええ。けれど私達でなんとかするわ。私があなたを勝手に同じ存在にした以上、私が責任を取るべきだもの。だから……」


「あなたはここで休んでいて」

「うん……わかった。休んでるね」

瞼を閉じて、再び眠ろうとしたその時。家のインターフォンが鳴った。

「わたしが出てくるね」

「ええ。わかりました。まったくこんな時間に誰が……」


階段を降り、玄関まで駆けていき、そのままドアを開ける。

そこには。

「芽衣!お見舞いに来たわよ!」

楓ちゃんの姿があった。

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