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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第二章 月へと吼える
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第二章 12 少し意地悪なのではないかしら?

「芽衣ちゃん、今日も用事?」

着替えて家を出ようとしたところ、後ろから声がかかる。葉月ちゃんの声だった。

「うん、そうだよ?」

「最近、私の知らない用事が増えてるから、どうしたのかなって思ったの」

そう言う葉月ちゃんの顔は、今までにないほどに不安げだった。

どうしよう、なんて言おう。そう迷っている間にも、彼女のその顔はより不安の色が濃くなっていた。


「いつの間にかものすごい美人なお友達作ってたし、帰り遅い日多いし…ほんと何があったの?」

「…なんでもないよ」

そう答えるしかなかった。まだ、わたしが吸血鬼であることは、葉月ちゃんには秘密にするしかなかった。

「……そう」

ゆっくりと頷いた葉月ちゃんの顔からは、不安の色は、消えない。


そのまま家を出ていると、

「うわっ!?」

リアさんが立っていた。月の光に照らされたリアさんの顔は、やけに迫力があって思わずたじろぐ。

「他人の顔を見るなりそのリアクションとは少し意地悪なのではないかしら?」

「ごめんなさい…まさか家の前にいるなんて思わなくって」

「私もどうしたらいいかわからなかったから。なら家の前で待っているのが確実だと思わないかしら?」

一瞬、確かにそうだと思ってしまった自分がいた。


「それにしても、リリスにもなかなか困ったものね。」

「リリスさん?」

「ああ見えてかなり頑固だからよ。あなたを吸血鬼にしたなんていうことになった後も、相当怒られたわ」

「あはは……人間から吸血鬼になるって、なかなか考えられないことだもんね」

20時前のすっかり暗くなってしまった道を歩きながら、そんなことを話す。

思えば、あの時からまだ1ヶ月も経っていないのだ。

けれど『吸血鬼ではなかった頃の自分』が、まるで遠い昔の存在のように思えてしまう。

それほどまでに、わたしの生活を変えてしまった1日だった。


「芽衣は…あの藍さんという女の子のこと、どう思うのかしら」

「ど、どう思うって…どういう意味です…か?」

予想外の言葉に、うっかり前のような敬語が出てしまった。

「難しいわね……。こういう時はリリスの口の上手さが羨ましくなるわ。

そうね、同じ亜人として、あの子が亜人であることについてどう思っているか……といった所ね」


「そうだなぁ…すごく、すごく何とかしてあげたい、って思う」

「ほぼ赤の他人であるあなたが?」

「うん。同じ亜人だっていうのもそうなんだけど、藍さん、すっごく人を寄せ付けないような顔してたから、そうなる前に手を差し伸べられなかったのかな…って」

藍さんのことは、実のところそういう意味では他人とは思えなかった。

彼女が亜人として、どのように苦しんで生きてきたのかはわからない。

けれど、あの人を寄せ付けない目を見ただけで、『もうかなりの所まで来ている』というのは、察しがついてしまったのだ。

「あなたは赤の他人を助けたい?」

「手を差し伸べられるなら、助けたいかな。見捨てるなんて出来ないよ」

「…やっぱりあなたの考えはリリスと近いみたいね。その考えそのものは立派だと思うわ。でもね……」


「すべてを助けられないからと言って、それはあなたがダメだということにはならない。何もかも救えると思うほど、傲慢なことはないわ」

リアさんはわたしの方に、目を合わせずにそう言った。

「リリスにも同じことを言ったのだけどね。聞く耳を持たないのよ、あいつは」

「あはは……あ、あそこが藍さんの家だよ。あそこのアパート」

そんな風に話していると、案外すぐに目的地が見えた。

街灯の弱い光に照らされたアパートは、まるで夕方に来た時とは違う場所のようにも見える。

「案外普通の家なのね。リリスもそうだけど、この時代の亜人は案外さびれた所に住むのがブームなのかしら?」

「多分、リアさんの家が特別なだけだと思うよ…?」

あんな高級マンション、多分一生かかっても住めないだろうなぁ……と、豪勢なリアさんの部屋を脳裏に浮かべるわたしだった。


藍さんの部屋の前まで向かうと、リアさんが何の迷いもなくインターフォンを押す。

「……返事がないわね」

「ま、まだ早いよ!?」

すぐに踵を返そうとするリアさんを引き留める。しかし、その部屋の扉から藍さんが出て来ることはなかった。

「…本当に返事がないじゃない」

「あの、リアさん?何してるの!?」

ふとドアの方を見ると、既にドアノブに手をかけているリアさんの姿が見えた。

なんというか……前から思っていたけれど、リアさんは本当に驚くほどに行動が早い。

わたしが何か考えるまでもなく、気が付いたらすぐに次の行動を起こしている。


「ドア、空いてるみたいよ」

「だからと言って勝手に入っちゃいけないんじゃ……」

「『バレなければ犯罪ではないのですよ』……前にリリスが言っていたわ。何かあったらリリスの責任にしましょう。

それにこの時間にこの部屋に来いと言ったのは彼女の方だから何も問題はないはずよ」

既にリアさんは全く似ていない声真似をしながらドアを開けて靴を脱いで部屋に上がろうとしていた。

わたしは止めるのを諦め、一緒に部屋へと上がって行く。こうなったらもう流れに身を任せてしまおう。

あと、ほんとにリリスさんそんなこと言ってたの…?


部屋の中はまだ照明がついていた。誰かいた証拠だろう。そして、その中の異様な光景が目に入る。

家の中の壁はほとんどが何か爪のようなもので切り裂かれてボロボロになっていて、何か乱闘でもあったのかと言いたくなるような有様だった。

「酷くボロボロな家ね…芽衣はこれを見てどう思うかしら」

「うーん……何かあったんだろうな、っていうことくらいしか…」

何となく、どうなってこうなったのかは予想がついてしまうけれど、でもこれは「当たってほしくない」予想だ。だから、口には出さなかった。

口に出してしまったら、それが現実になってしまう気がしたからだ。


「うわっ!?」

「芽衣!?」

何かに足を取られ、思い切り床に頭をぶつけてしまう。

鈍い痛みと共に視界に入ってきたのは、破り捨てられた紙の残骸。それが、部屋の中のあちこちに落ちていた。

「見たところ学校で使う書類に見えるわね。見覚えはあるかしら?」

「これ、前に藍さんに渡したプリント……」

間違いない。これはこの間渡したはずのプリントだ。中に書き込まれた跡がないのを見ると、藍さんはまだ手をつけていないんだろうか。


「本当に、どうしちゃったんだろう……」

「私たちではどうにもならない状態になっているのかもしれないわね」

やっぱり、そうなのか。わたしよりもよほど、亜人の事情を知っているであろうリアさんが言うからこそ、絶望感がより強くなっていく。

「ただ……」

「ただ?」

「この部屋に普通にまだ入れたということは、家の主である彼女は私たちを迎え入れる意思がある。そうでないなら入れないはずだから」

「そういえば、そうだったね」

吸血鬼は、屋敷に招かれなければ入ることが出来ない。もしかして、リアさんはそれを考えてあんな行動に出たのだろうか。


「もし、彼女に何かあったのだとしたら、あなたはそれを見届ける覚悟はある?」

「覚悟……」

はっきり、『ある』とは答えられなかった。『見届ける』という言葉の意味すら、まだ呑み込めていなかったのだ。

「……そう。でも、それはきっとあなたの優しさ。もしそうだったからと言って私はあなたを責めはしないわ。だって私は……」

リアさんがわたしの方を見つめながらそう告げる。その少し不器用な優しさに、胸の奥がちょっと温かくなったような気がした。


しかし、そんな感覚は不意に停止する。ガチャガチャと、乱暴にドアノブが開く音がしたからだ。

「……逃げるわよ芽衣!」

「は、はいっ!」

手を掴まれ、ベランダを目指して逃げ出そうとする。その間、わたしの頬を何かがかすめた。


「ちぇっ、避けちゃうなんてつまんないのーーーー」

「…そもそも、その方はターゲットではありません。わかったら威嚇射撃などという刺激を与える行為はやめるように」

背後から、2人組の女の子の声がした。

そして、その片方に聞き覚えがある。


「あっれー?この間の吸血鬼さんじゃーん。何であの犬ッコロの部屋なんかにいるわけー?」

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