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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第一章 紅の瞳の吸血鬼
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第一章 18 分かり合えるなんて、思わないけれど

大急ぎで身支度を整え、リリスさんのいる家へと駆けだす。

葉月ちゃんにはどうしたの?と言われたけれど、これから友達に呼ばれている、ということにした。

今の時刻は大体19時40分。友達に呼ばれる時間にしては遅いけど、

「あれ……?」

外に出ると、夜なのにあまり暗くないように感じた。

しばらく目を凝らしていると、これは「外が暗くないのではない」ということに気づいた。

吸血鬼になったことで、夜目が利くようになったんだろうか。道がすっごくはっきりと見える。

けれど、ちょっと前はそんなことは……。

「身体がどんどん吸血鬼に近づいて行ってる、ってことなのかなぁ……」

口の中に、まだ吸ったあの血の後味が残るのを、ふと思い出した。


道中にある小さな一軒家のインターフォンを押すと、リリスさんがすぐに応じて出迎えてくれた。

金色の髪は月の光に照らされて輝き、より一層美しく見える。

「おや、思ったより早かったですね。もう少しゆっくり身支度をしていても良いですのに」

「急に電話が来たから慌てちゃいまして……ダメでしたか?」

「いいえ?早く来てくれてわたくしとしても嬉しいです。さあ、上がって上がって」

靴を揃えて入るために、足元に目を向ける。

そこには見覚えのない靴が二足あるのが見えた。しかも男性物の靴だ。

「あの、もしかしてわたしのほかにもお客さん来てるんですか?」

「来ていますよ。というのも今日あなたを呼んだのはその方たちとの話し合いのためでもありますので」

話し合い……。どんな人なんだろう。知っている人だろうか。


「やぁ」

「うげっ」

リビングに入ると、さっそく歓迎……?一人は明らかに気まずそうな顔をしているけれど、見覚えのある顔が2人。鳴くんと優斗さんだ。

「さて、芽衣さんも呼んだことですし本題に入りましょう」

「あの…どうしてこの2人を…?というか呼んで大丈夫なんですか……?一応この人達吸血鬼の敵じゃ…」

この2人に会った時のことは、何よりわたしがよく覚えている。

そして、何より鳴くんたちとはなかなか分かり合えないだろうということも、既に嫌というほど痛感させられた。

リリスさんの意図が、全然読めない。

「敵であるからこそです。単刀直入に結論から言いましょう」


「わたくしたちで停戦協定を結び、例の…街を騒がせている怪物に対抗しませんか?」

「そんなことだろうと思ったよ。けど俺は反対だ。協定を結ぶと言いながら、隠れてコソコソ何か悪事やってる可能性は否定できない」

「いいアイデアじゃないか。もちろん僕たち側からも条件を出す上で、だけどね」

鳴くんは即座に、首を横に振った。

しかしその一方で、優斗さんはこの提案に乗り気なようだった。

「わたくしたちが呑める条件であればOKしましょう」

「おい優斗本気かよ!?仮にも相手は吸血鬼だぞ!?例の化け物だって吸血鬼の同族だ、信用できない」


「だからこそだよ。そう言われるリスクを冒してまでこっちに提案をしに来ている。だから僕からはこう提案しよう。

君たち吸血鬼組が何か悪事を犯したと判断すれば、すぐに僕たちが殺しに行く。それでどうだろうか」

優斗さんの目が細くなる。またあの何かを見透かしたような眼だ。

その目はわたしじゃなくてリリスさんの方に向けられているとわかっていても、思わず目をそらしてしまう。


「いいでしょう。しかし具体的な"悪事"の線引きをそちらだけで決められると、わたくしたちは動きづらくてたまりませんね」

「ふふっ。そう言われると思ってたよ。あなたがこのくらいで引き下がるような人じゃないっていうのも予想通りだ。

ならばこうしよう。吸血鬼による『無断での人間への吸血』『人間への殺害』この2つのどちらかが行われた時、あなたたちを討伐対象にする」

「殺害はともかく、吸血まで封じられるとは…まあいいでしょう。

既にわたくしにも血を吸える程度の眷属はおりますし、そちら相手であれば合意の上。わたくしはその提案を呑みましょう。ですが……。」

こちらとしても条件を出しましょうか。わたくしたちの同族を好き勝手に殺されては困ります。

この件が終わるまで、問題の怪物以外の吸血鬼に手を出すのを禁止。というのはいかがでしょうか」

「随分と吹っ掛けてくるなぁ。いいよ。ただしその条件に関しては例の怪物が討伐されるまでだ。

そしてこの件が終わっても、僕たちはみだりに吸血鬼相手に手を出さないと約束しよう」

2人が何やらメモをしながら、話し合いを進めている。

気づけばわたしはすっかり蚊帳の外で、ふと目をやると鳴くんもちょっとばつが悪そうな顔をしていた。


「優斗さん、なんかすごいね……」

「あ?」

我慢できなくなって、つい鳴くんの方に小声で話しかけてみる。

「だって、わたしたちとそんなに歳、変わらないでしょ?なのにああやって対等に話し合ってるの、すごいなーって」

「そりゃ、あいつは俺らの仲間ん中じゃ一番交渉事が上手いからな。よく口が回るだけじゃない。相手を観察する能力にだって長けてる。

ま、恭平さん…所長ほどじゃねーけどな。と言っても所長は表に出てくる気がないから、こうやって結局俺たちが交渉することになったんだが……。

で?何の用だよ。今更仲良くなろうとか言っても無理だからな」

「うーん…そういうつもりじゃないんだけど……。あ、そういえばその所長ってどんな人なの?」

「それ聞いてどうする」

鳴くんの顔が険しくなる。もしかして、聞いちゃいけない話題だったのかな?


「えーっと、ただどういう人なのかなーって。もしかして聞いちゃダメだった?」

「いや?ただお前がこうやって雑談するふりして情報集めようとしてるんじゃないかって警戒してただけだ。」

「大変なんだね」

「俺からすりゃ警戒心抜きで来るお前の方がわかんねー。つか、一応敵って自覚あるんなら無防備に話しかけてくんな」

「…はーい」

一時的に協力するのなら、少しくらいは向こうの事を知っておこう、って思ったんだけど、どうにも鳴くんはガードが固いようだった。


「話し合い、終わりました?」

2人のペンを走らせる音と声が聞こえなくなったのを確認してから、リリスさんに改めて話しかける。

「ええ、好き勝手に吸血鬼相手に攻撃をさせない約束まで取り付けました。

向こうの方も賢いようですから、一方的な交渉など無意味ということも理解しているのでしょう。かえってやりやすかったです」

穏やかに微笑むリリスさんの顔が、何故かいつもよりちょっと恐ろしく見えた……のは、きっと気のせいではないんだろう。

「なるほど……」

「本当に分かり合うことなど難しいです。ですが…せめてお互いの領域を侵略されないように話し合うことくらいは出来ます。

そういった線引きを全くしないのでは、必要のない争いを結局繰り返してしまうだけになりますから」

「必要のない争い……」

ショッピングモールからの帰り、襲撃されたこと。アルバイト中、脅しに近い質問を受けたこと。

それらはきっと、向こうにも正義があってのことなんだろう。だから、あんまり彼らを責めたい、みたいな気持ちは、浮かばなかった。


「芽衣さん、あなたは彼らをどう思いますか?」

「どう……って言われるとなぁ。難しいけど…うーん」

「答えにくいなら別に構いませんよ。わたくしとしても質問が抽象的過ぎたなとも思っているので」

「えーっと、ちょっと怖いけど、それでも悪い人ではないんだろうな、って思うくらい。でしょうか」

そう言うとリリスさんは、少し目を丸くして、その後。

「ふふっ……面白いですね、芽衣さんは」

「笑わないでください!これでも真剣です!」

「いえ、すみません。そうですか……ですが芽衣さんに一つ忠告を。

相手が悪人でなかったからと言っても、どうしても戦わなくてはいけない場面というのは存在します。

わたくしやリアもあなたが余計な血を流さぬよう尽力しますが…それでも限界というのはありますから。さて…」


「改めてそちらのお2人はどうしますか?」

リリスさんが再び、2人に向き合う。

その横顔はいたって真剣で、普段にこにこと笑っている彼女からはまるで想像できないような表情だった。

「優斗とも話した。俺たちとしては協定に賛成だ。だが、優斗の提示した条件を呑めないんだったら俺たちはこの協定を破棄する」

「…ということらしいよ。僕としてはもう少し穏便に済ませても良かったんだけど、うちの鳴がなかなか聞いてくれなくてね」

「おいしれっとそういう変な言い回しやめろ」

鳴くんが優斗さんを軽く小突いた。仲良いんだなぁ……。

「そうですか。信用をしてもらえないのは悲しいですが、あなたたちも例の怪物にはいい加減辟易しているでしょう?」

「まあね。こうしているうちにも刻一刻とあれによる被害者は増えている。

僕たちはそれを止めるのが使命である以上、使命のためにはもう協力は必須と、そう言いたいわけだね?」

「お察しが速いことで」


「質問が2点ある。まず1点。所長にはどう話を通した?」

「先ほど提示した条件と同じことを提案したら、吸血鬼の怪物の影を追っているのはあの2人だからそいつらに話を聞け、とのことでした」

「もう1点。そっちのやつ」

「わたし!?」

「お前しかいねえだろが」

急に指をさされて、戸惑ってしまう。どうしてもこう鋭く飛んでくる彼の言葉は、わかってはいても苦手意識がぬぐえないものだった。

「わたしはその…停戦とかそういうの全然わかんないし、2人と分かり合えるなんて、思わないけれど」

目に見えて鳴くんの眉間の皺が濃くなっていくのが見える。正直逃げたい……。

「でも、協力できるようなことがあるなら協力した方がいいのは確かだと思う。だから、わたしは賛成かな」

「……ふーん、あっそ」

険しくなった表情がもとに戻る。あれ、意外とリアクション薄い……?


「話はまとまったようだね。じゃあ明日にも僕たちの方から集めた情報をそっちに渡すから、そちらの方からもわかっているだけのことを教えてほしい」

「了承しました」

「じゃ、帰ろっか鳴」

「…おう」

「あれー?ちょっとご機嫌斜め?仕方ないなぁ。後で癒してあげるから今日はゆっくり休もうね?」

2人はそのまま席を立って、リビングを去っていった。


「はぁ……緊張した!!」

「あら、やっぱりそうでしたか」

「すっごい…なんか、息詰まった……怖かった……」

「よしよし、お疲れ様です」

頭を撫でられた。不思議と心地よい感じがして、ちょっとだけ安心するような気がしてくる。

…初めてのはずなのに、何故かもう何度もこういうことをされていたような、懐かしさまで覚えてきた。

「さて、芽衣さんもそろそろ帰りましょうか。葉月さんが心配されていると思いますよ」

「そうですね…もう夜遅いですし。今日はありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそいきなり呼び出してすみませんでしたね。このことはリアの方にも伝えておきます」

「…あっ、そうだ、今日どうしてリアさんは呼ばなかったんですか?」

「呼んでも断られました。あなた正気?とまで言われてしまいましたね」

「あはは……」

その様子が想像できる気がして、思わず笑みがこぼれてしまう。本人にはちょっと悪いとは思いながら。


「……リリスさん」

「何でしょうか」

席を立とうとした時、外の方から何か物音がしたのが聞こえた。

その物音は徐々に大きくなり、またこちらに近づいてきているようだった。

「外が騒がしいです。念のため、外の様子を見てから帰ろうと思います」

「あらら…わたくしにはよく聞こえませんでしたが。」

窓を開け放ち、外がどうなっているかを確認する。

そこには……


あの影の化け物が、亜人狩りの少年たちに襲い掛かろうとしているのが見えた。

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