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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第一章 紅の瞳の吸血鬼
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第一章 15 物語の主人公になるなんて、思いもしなかった

「芽衣ちゃん、今日は早かったんだね」

あれから家に帰った後、葉月ちゃんにこんなことを言われた。

言われている意味がわからず、思わず首をかしげてしまった。そこまで不思議な事があるだろうかと少し考えていると、

「昨日も帰り遅かったでしょ芽衣ちゃん!!!」

「昨日……昨日…あーー!ごめんね葉月ちゃん!」

「ごめんねじゃないでしょっ!どんだけボケっとしてるの芽衣ちゃんってば!!」

何か頭に衝撃が走ったと思ったら、葉月ちゃんがわたしの頭をチョップしていた。うぅ、痛い……。

昨日帰りが遅かったのは怪物と戦っていたからで……なんて言えるわけでもなく、次の言葉をどうするかずっと思考を巡らせていた。


正直、葉月ちゃんについては、すぐに事実を伝えるべき時が来るだろうなと思っている。

リリスさんが葉月ちゃんと接触しているからとか、多分そういう問題ではないんだろう。

理由は一つ。彼女はわたしにとって大切な家族であると同時に、わたしも彼女にとって大切な家族だからだ。

もちろん、お父さんやお母さんだってそれは例外じゃない。けれど、ほとんど家にいなくて会話もないお母さんよりは、まずは葉月ちゃんに……。


「だいたい顔色も悪いし!今日この時間に帰ってきたってことは多分アルバイトだよね?」

「あれ、そうかな……別に普通だと思うんだけど……」

貧血も昨日ほどではなく、かなり収まってきてる。

少なくとも授業は…ほぼ聞き流しちゃったけど、受けるには問題がない程度には回復してたはず……。

「…まあ、周りの人はわからなかったかもしれないけど、今相当顔色悪いからね?というか朝起きた時よりひどくなってない!?」

「……うん、そうかな、そうかも…」

葉月ちゃんに言われて、何となくそんな気がし始めている。単純なわたしだ。

「もう……あのね。私芽衣ちゃんがそうやってぼけっとしてるの、昔からだからよくわかるんだよ。

寝坊だってよくするし、忘れ物だって多いし、休みの日はご飯まで食べ忘れるし。」

「あはは…なんかごめんね?わたしあんまりしっかりしてなくて…」

「それはいいの。だって言った所で芽衣ちゃんのぼけっとしてるのが治るわけじゃないし、それが私のお姉ちゃんなんだからさ、今更だよ。何年一緒にいると思ってるの。でもさ……」


「最近、ほんとひどいよ?芽衣ちゃんはここまでぼけっとはしてなかったもん。」

思わず胸に何が刺さるような感覚がした。何だろう、何か隠したことをすぱっと言い当てられてしまったかのような……。

「何か私に隠してることあるでしょ」

「そ、それは……」

「隠し事するのがダメ、ってわけじゃないの。最近やけに帰りも遅いし、なんか上の空な時があるし、聞いたことがない友達が家に来てたし。

別にさ、芽衣ちゃんにだって言いたくないことの1つや2つあるのは知ってるの。そんなの私だってあるしさ」

「あの、葉月ちゃん……」

「もうちょっと、家族を頼ってよ……悩みがあるならちょっとは言ってよ……」

そう言う葉月ちゃんの顔は、今にも泣きそうだった。

わたしはそんな彼女の姿を、これ以上は見ていられなかった。

けれど、でもそれ以上に。葉月ちゃんにあんな殺し殺されるのが普通にありえてしまうような、そんな世界を見てほしくない。だから……。


「ごめんね、葉月ちゃん。でもね、わたしは大丈夫だから。だから安心して」

一体、何が"大丈夫"なんだろう。その意味は自分でもよくわからない。

でも、今はひとまず葉月ちゃんに安心してほしくて、そういった気持ちしかなくって……。

「本当に?信じるからね!絶対だからね!」

葉月ちゃんが真剣なまなざしで、わたしの方を見る。

これは絶対、彼女の気持ちを裏切ることは出来ないだろうと、そう強く思った。


日が沈み、すっかり夜になった頃。時刻は気づけばもう20時30分になっていた。

いつものように葉月ちゃんの作ったご飯を食べ、お風呂に入って夜に眠る。そんな日常は、いつまで続くんだろう、なんてことを考えながら。

「そういえばこれ、まだ読んでなかったなぁ……」

本棚から手に取ったのは、あの日、カメリアさんとたまたま会った時に買った一冊の小説。

あらすじは単なるファンタジー小説だったけど、何故かどうしてもその小説が気になってしまった。

思えば、この1週間の間のんびりと小説を読む暇なんてなくって、ついつい後回しにしていたのだった。


読み終わるまでの時間は、思ったよりもずっと短かった。

もともとページ数が少なかったのもあるけれど、読み終わってもまだ時刻は21時を少し回ったくらいの時間。

内容は図書館で本を読んでいたら、本の世界に入り込んで、元に戻るためにその世界で戦っていくというもの。

そして、読んでいて何故か、その小説の主人公が他人とは思えなかったのだ。

急に日常を手放して、家族とも会えなくなったけれど、それでも元の世界へと戻るため奮闘する彼が。

18歳の少年だった彼と、16歳の女子高生である自分。

生まれた場所も育ったところも違うのに、それでも覚えたシンパシー。

こんな感覚は初めてだ。少なくとも、ファンタジー小説でそうなることはなかった。


「どうしてなんだろう……」

それは、まるで、そう。自分が物語の主人公になったような、そんな不思議な感覚。

今までのわたしは、ただ小説という窓を通して、その世界を覗くだけの存在だった。

それが、この1週間ほどですっかり変わってしまった。

あの時カメリアさんと出会ってから、世界が全て変わってしまったのだ。

携帯が鳴る。特に何の変哲もない、簡素なだけのコール音。

何故かそれが、分厚いドアを何度もノックされたように、胸の中で消えた後も響き続けていた。


届いていたのはメールだった。宛先には「Camellia」という名前。内容はもうわかってた。

『メイ、答えは出たの』

そうだ、わたしは彼女からの問いに、今日この日までには答えを出さなくてはいけないのだった。

今まで"何かの当事者"ですらなかった咲坂芽衣が、初めて問われて出す答えなのだろう。


そして、それはもう決まっていた。

一度"死んでしまう"という異常な出来事にあってからの、6日間。

本当に長かった。それは今まで漠然と学校に通って、寝て起きて、その合間に物語を読み続けての6日間とは、まるで違うものだった。

見えていなかったものが見えて、すべてが変わってしまった。それはわたしが吸血鬼になったとか、美しい吸血鬼に会ったとか、そういった言葉で片付けるのは簡単だった。


物語の主人公になるなんて、思いもしなかった。

きっとこんなわたしに、"主人公"なんて無理だって、ずっと思っていた。

でも、それは違う。主人公なんて無理、って思っていたこと自体が、全て間違いだったのだ。


足はすぐにあそこへと向かっていた。

カメリアさんと初めて出会った、"吸血鬼としてのわたし"が産声を上げたその場所。

エレベーターが上へ上へと上がっていくうちに、心臓の鼓動が徐々に速度を増していく。

気づけば、エレベーターは目的の階をすぐに指していた。長いようで短かった、エレベーターの中での時間。

『25階です』

その機械の声を聞いた後、わたしはすぐにエレベーターを駆け出した。


部屋のインターフォンを押した後、すぐにその人は姿を表した。

普通に暮らしていれば見ることなんて決してないような、真紅の髪に、見るものを捕らえて離さない真紅の瞳。

その人……いや、その吸血鬼は、優しい声で、わたしにそう語りかけた。

「来てくれたのね、メイ。あなたがどんな選択肢を選ぼうと、私はそれを受け入れましょう」



「それでは……答えを聞きましょうか」

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