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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第一章 紅の瞳の吸血鬼
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第一章 14 皆優しくて良い友達だよ


休み時間、お昼休み。いろんな時間に考えてみても、結局答えは出なかった。

そして放課後になっても、それは全く変わらない。

『明日の夜までに、どうするか考えておいて』

昨日の夜に告げられた、カメリアさんからの言葉。

わたしは結局、あそこで事実上カメリアさんの血を吸うことを断ってしまった。

自分が、まだ化け物になりたくないから。まだ、人でいたいから。

でも、人と怪物の境界線って、いったい何なんだろう?わたしにとって、カメリアさんは。リリスさんは……。


気づけば、放課後になっていた。

授業にもあまり身が入らなくて、先生の言うこともほとんど聞き流してしまった。

もし今日の授業で何の話をしていたのかと聞かれたら、ほとんど答えられる自信がない。

「うーん……どうすればいいんだろう…」

「何、どうしたのよ芽衣?」

楓ちゃんが、顔を覗き込むようにしてわたしの方に質問をした。

「ううん、なんでもないの。」

「ほんと?今日ずっとぼーっとしてたし、ちょっと顔色悪かったし、何かあったらすぐに言いなね!」

「大丈夫、ただの寝不足、だから……」

胸がちくりとするような感覚がする。

このまま、吸血鬼であることをいつまで隠し通せるんだろう。そもそも、隠し通すことが本当に楓ちゃんの為になるのかな。

……考え事が増えてしまって、また頭がふらふらして倒れてしまいそうだ。


「ふーん……それならいいけど」

「楓ちゃんどうかしたの?」

「別に、なんでも」

楓ちゃんの様子が、いつもと少しだけ違うような気がしたのは、わたしの気にしすぎなのか。

いや、今はそう思うしかなかった。


-----------------------------------------------------------------------


貧血の症状は、朝起きてからだいぶ収まっていた。

少し頭がぼーっとしたりはするけれど、立てなくなるとか、意識を保つのがやっととか、そういうようなことは一切ない。

このまま何日かずっと安静にしていれば、また"吸血鬼の力"を使うことも出来るようになるんだろうか。

なんてことを考えながら、わたしの足はいつもの家…ではなく、商店街の方へと向かっていた。

向かう先は、わたしが小さい頃からずっとある古書店。

「秋の葉堂」という小さな看板が掲げられたそのお店は、昔から大好きだった所だ。


「あら芽衣ちゃんいらっしゃい。今日もお手伝いお願いね」

店主のおばあさんが、優しい笑顔でわたしを迎え入れてくれる。

小学生の頃にお店に入り浸っていたら、いつの間にか名前も顔も覚えられてしまって、色々と昔の本の話なども聞かせてくれるようになったのだ。

その時に「大きくなったらここでお手伝いしたい!」と言って、高校生になってからここでアルバイトをさせてもらうことになった。

「芽衣ちゃんがいてくれるとほんとに助かるわ。この頃は若い子も本を読まなくなってねぇ、ここに来る子も少ないのよ」

「そうなの?でもわたしのお友達も、本読むの好きだから、あんまりそんな感じしないなぁ」

「芽衣ちゃんはいいお友達を持ったのねぇ」

にこにこと笑うおばあさん。

「うん……そうだね。皆優しくて良い友達だよ。本当に」

どこか距離を感じるようになってきた自分の友達たちの姿を浮かべながら、そう答えた。


アルバイトと言っても、そこまでお客さんも多くない古書店での仕事はそんなに苦じゃなかった。

最初は緊張したし、接客も上手くいかなかったこともあったけど、そのたびにおばあさんに支えてもらっていた。

わたしは文芸部も好きだけど、この場所も好きなのだ。


「あれ?」

いつものように来てきたお客さんに応対をして、仕事を終えて帰ろうとしようとしたとき、珍しく若いお客さんが来ていた。

見たところ高校生くらいだろうか。

「お前…よくこんなとこでテンション上げれるよな」

「でもさ、こういう所って雰囲気が出ないかな?古い場所独特の空気というかさ。僕は結構好きなんだよ」

たまにここに来る若いお客さんはいるけれど、2人組っていうのは珍しい。

そして、その顔には見覚えがあった。カメリアさんとのショッピングモール帰りに会った"亜人狩り"の2人組だ。


正直、この2人にはあんまりいい思い出がない。

そこまで悪い人たちじゃないと思うんだけど、やっぱりどうしてもあそこで血を流したことを思い出してしまう。

何か目的があってきたのかな?それともただ単にああ見えて本を読むのが好きなのかな?

「あのー、何かお探しでしょうか?」

そんなことを考えながらも、出来るだけ笑顔を作って応対をする。

「お前、なんでそこにいるんだ……!?いや、ちょっと待て……」

2人組の小柄な方……鳴くんが、思い切り目を見開いて驚いた様子を見せていた。

そして、わたしのことを見回すように見る。正直気分が良くはないけど……。

「えっと、鳴くん、って言ったっけ。どうしたの?」


「お前がこんなところで働いてるのもそうだが……お前、なんでお前から亜人の気配がするんだよ……!?」

鳴くんの表情が険しくなる。そして、その台詞はわたしにとっても全く他人事な話じゃなかった。

考えが、甘かった。いや、及ばなかった、というべきか。

普通にしていればほぼ人間と変わらぬ姿をしているその亜人という存在を、彼らはどのようにして"狩っている"のか。

「その顔、心当たりがある、って様子だな?ただの吸血鬼に魅了されちまっただけのやつだと思ってたが……まさかお前自身が吸血鬼だったのか!?」

「あの、ちょっと待って?その、声大きいから、お店の中に聞こえちゃう…」

「うるせぇっ!まずは俺の質問に答えろ!"お前は何者だ!"」

彼の勢いは止まらなかった。説得しようと思ってもダメだろう。それどころか彼を更に逆上させるかもしれない。

このままわたしが"吸血鬼だということが多くの人に知られてしまえば"。

わたしはこれまで通りのわたしではいられなくなってしまう。

カメリアさんやリリスさんだって、それを許さないだろう。そうなってしまえばわたしの日常はもう終わりだ。


「質問の仕方が悪かったか。学校の中で見た事あるんだよ。同じ学年だろ、お前。名前までは知らないけどな。

もしうちの学校に通ってるようなやつが、"人の血を吸って殺すような凶悪な吸血鬼とグル"だったりなんかしたら、お前を殺さなきゃいけねえんだよ…!」

「えっ……君、もしかして神楽坂高校の?」

「そうだよ。で、お前はどうなんだ。お前は人の血を吸い殺す吸血鬼に心当たりはあるか」

「……ないよ。そんなのは知らない。でも……そんないきなり脅しみたいなことするの、やめてよ。わたし…殺されちゃうかと思ったんだよ」

気づけばわたしの目からは涙が流れ、身体も震えていた。本当に怖かった。

彼にもきっと彼なりの目的があるのだろう。そういうやり方をするしかない理由が、もしかしたらあるのかもしれない。

でも……だからこそ、こんなやり方は認められなかった。


「そうだよ鳴、落ち着きなよ。その子の言う通りだ。脅迫なんて賢いやり方じゃない。それに女の子を泣かせるなんて、それはダメだ。」

誰かが鳴くんの肩を叩き、彼を宥めていた。確かこの人は……優斗さん、と名乗っていただろうか。かなり背の高い男の人だ。

「………っ。悪かったよ。」

「…うん、大丈夫だよ。そっちにも何か理由があるんだと思うし……」

彼の瞳から見えた"殺意"のような感情が、ようやくなりを潜め始めた。それと同時に、ようやく身体の震えも収まり始めてきた。

「うちの相棒が迷惑をかけたね。あとで鳴にはちゃんとお説教しておくから。ただ……」

「ただ?」


「君が何者なのか、という点においては興味がある」

優斗さんの表情が一瞬こわばる。

「君を最初に見た時、君は赤髪の吸血鬼と一緒に歩いていただろう?まるで楽しそうにデートでもするようにさ。

それだけなら君もあの吸血鬼の仲間なんだろう、って思うんだけど」

「仲間…っていえばそうかな。まだ、会って1週間も経っていないんだけどね」

「…1週間も。へぇ、道理でよそよそしいと思ったんだ。君からは亜人の気配がするのに、君の振る舞いはあまりにも亜人らしくなさすぎる。

それがあまりにも奇妙でね。聞いたところ今連続殺人事件を起こしてる吸血鬼だって知らないらしいじゃないか。」

「は、はぁ……。その吸血鬼?さんについては、もしかしたらそれかもしれない、という怪物には遭遇してますけど、はっきりとは知らない、です」


優斗さんの見透かすような目が少し怖くて、思わず敬語が出てしまう。

実際にこの人がいくつなのかは知らないけれど、少なくとも年下ではないだろう。

「うん。ならこれ以上はもう追及しないよ」

「え!?」

思わず驚いてしまう。さっきまでの様子なら、もう何がなんでも聞いてやるっていうくらいに見えたのに…

「僕たちの目的はあくまで殺人事件を起こした怪物を突き止めることだ。

君の正体は実に気になるけれど、予定にないものまで追いかけたらそれこそ本来の目的だって見失ってしまう」

「う、うん……」

「そういうわけだから、また縁があったらよろしくね。君を殺すようなことにならないことを、祈ってるよ」

そう言って優斗さんは去ろうとする。本当につかみどころのない人だった。この人の真意がまったくわからない。

わたしに敵意があるのか、それともないのかすらも、全く掴ませてはくれなかった。


「そうだ、君の名前、聞いてなかったね」

「咲坂、芽衣。神楽坂高校の2年です」

「なるほどね。僕も神楽坂高校の生徒なんだ。僕は3年生。だから君よりは1つ上かな。

僕の方からも名乗らせてもらおうか。相澤優斗。人の生活を脅かす亜人を狩る、そういう仕事をしてる者だよ」

人の生活を脅かす亜人……。亜人っていう存在は、そんな風に扱われていたのだろうか。

なんだか、それはとても悲しいことだと思った。何故だかは、自分でもわからないけれど……。


「……ん?」

「どうしたの?」

鳴くんが、何かに気づいたようにわたしの方を見る。

「いや、何でもない。どっかでお前の名前聞いたことある気がする、ってだけ。」

「同じ学年なら、もしかしたら選択授業とか同じだったのかも?

あ、でも1年生の時は同じクラスじゃないよね?鳴くんなんて子は同じクラスにいなかったし…」

彼のことについては思い出せない。鳴くんという名前も、優斗さんから呼ばれていたのを覚えているだけだ。

「いやわかんねぇ。あとお前"鳴くん"って呼び方はやめろ。有栖川鳴。それが俺のフルネーム。

お前が仮に吸血鬼か何かだとしたら、俺たちはあくまで敵同士だ。敵同士で馴れ馴れしくするもんじゃねえ」

「……そっか」

敵同士。その言葉が、明確に彼…有栖川くんと分かり合えない何かがあるような気がして、やはり何かモヤモヤするものが、胸に残っていった。

たとえるならそれは、寂しい、という感情よりは、悲しい。という感情。


「……はぁ。どうすれば良いんだろ、わたし」

今すぐに、誰かに打ち明けられないこの気持ちは、ため息となって商店街の喧騒の中に消えていった。


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