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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第一章 紅の瞳の吸血鬼
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第一章 11 失望した?


目を覚ますと、見慣れない天井が見えた。

少し頭がふらふらする。寝て起きたからだろうか。

周囲の景色を確認する。高級な調度品に彩られたそこは……。

「カメリアさんの、部屋だ……」

再確認するように呟く。

「芽衣さん、おはようございます」

わたしの顔を覗き込むようにしてそこに立っていたのは、カメリアさん…ではなく、リリスさんだった。


「そうだ、わたし今どうなったんですか!?」

未だに少しふらつく頭で何とかさっきまでのことを思い出す。

さっきまで、わたしは影みたいな怪物と戦っていて、それで……。

「怪物でしたら、リアが退けましたよ。完全な退治はしていませんが…それでもだいぶ力を奪うことには成功しました」

その言葉を聞いて、ほっ、と胸を撫でおろす。

結局、カメリアさんの力を借りてしまったわたしだったけど、改めてカメリアさんの強さというものを実感する。

吸血鬼になってまだ日が浅いから、きっとわたしはまだ"吸血鬼"になりきれていないのだろう。


「リアももうすぐ戻ってくる頃でしょう。まったく…リアってば人使いが…いや、この場合は吸血鬼使いが、と言うべきなのでしょうかね」

「えっと…リリスさんはどうしてここに?」

「リアが戦っている現場を見て、リアの助けに入ったんです。そして、傷ついて倒れている芽衣さんを保護してほしい、と頼まれました」

ということは…

「リリスさんもあそこで戦っていたんですか?」

「少しだけ、ですけれど。とはいえあの怪物にダメージを与えたのは、ほとんどリアですけれどね」

リリスさんはそうやって、綺麗な笑みを返す。

ただ話しているだけなのに、自然と気分が落ち着いていくような感覚がある。彼女の美しさの成せる業なんだろうか。


「さて、まずはあの怪物について説明を……」

と、リリスさんが話し始めようとしたところで、ドアノブを回す音がする。カメリアさんが帰ってきたんだろう。

「ただいま、リリス。余計なことまで話さなかったでしょうね?」

「そんな人聞きの悪い。わたくしがそんなことをするように見えます?」

カメリアさんは少し険しい顔をしていた。戦いの後だから、表情が硬くなっているのかな。

しかしそんなことはもうお構いなしだ。

「カメリアさんっ!」

立ち上がって、彼女の方に向かった。…いや、そうじゃない。向かおうとした。

「わっ」

気づけば、転んでフローリングに頭をぶつけてしまっていた。

立ち上がろうとすると、さっきより更にひどく頭がふらふらする。


「メイ、もしかして……」

「ええ、これは……」

「あの…お2人の話してることがよく…」

2人が、わたしの顔を覗き込むようにして、何か考えるような仕草をしている。

その仕草すらものすごく様になっていて、思わず見とれそうになってしまった。

「ああ、もしかしてメイは初めてだったかしら?その症状は人間でも起こりうるものよ。簡単に言えば……貧血ね」

「……なんだ、貧血かぁ。それくらいなら…」

安心して、再び立ち上がろうとする。けど、頭がふらふらしてまだうまく立ち上がれない。


「これは…随分重症みたいですね」

「えっと…今どういう状態なんでしょうね?」

ふらふらする頭を押さえながら聞いてみる。まだ立ち上がれないから、ずっと座った体勢のままだ。

「……あなたは少々血を使いすぎてしまったようね」

「血を……?」

言葉の意味がいまいちわからなくて、つい聞き返してしまった。

血を使いすぎた、というのも、心当たりは武装を出したことくらい……。

「吸血鬼の本体は血。身体の再生も、武装を出すのも、他の力を使うのも、全て血が必要」

「もしかして、再生に血を使ったから、今こうなってる、ということなんですか…?」

「吸血鬼は血さえ充分に残っていれば、心臓を破壊されない限りいくらでも再生できます。

逆に言えば血が残っていなければ、吸血鬼は何も出来なくなります。立ち上がれなくなるほど血を失うというのは……かなり深刻ですね」

リリスさんが今までにないほどに、神妙な面持ちになる。


「普通の吸血鬼ならば、ほとんどの血を失っても気を失うだけで済みますが…あなたの場合一度死亡してから吸血鬼として生き返っていますから……

吸血鬼の心臓の効力を失い、あなたはまた死んでしまいます」

死んでしまう。せっかく、カメリアさんに貰った命なのに。もう、死にたくないのに。

「わたし…どうすればいいんですか!?」

そう叫ぶと同時に、一瞬景色が歪んで、意識が飛びそうになる。

よほど血が足りていないということなのだろうか。ということは…もうわたしの命は……。

「何日か安静にしていれば、少しは力を使える程度には回復するわ。心臓さえ残っていれば血の生成は出来るから。」

良かった……。このままずっとこの状態なら、きっと学校に通うのだってままならないだろうから。

「ただ……この状態で先ほどの怪物に遭遇してしまうことを考えると…」

リリスさんは悩んでいるようだった。


「そうだ、あの怪物の正体って何なんですか?」

「怪物の正体?」

カメリアさんが目を丸くする。そんなに予想外のことを言っただろうか。

「あの怪物の正体はおそらく、吸血鬼でしょう。正確には何らかの原因で精神が穢れ、人の姿を保てなくなった吸血鬼、と言うべきでしょうか」

「吸血鬼…吸血鬼に限った話ではないけれど、亜人の本体は人間ではないわ。生きるのに都合が良いから人の姿を取っているだけ。

私もリリスも、本来の姿はおそらくあなたから見れば醜い怪物でしかない」

「そうなんですね……」

「失望した?」

「いえ、そんなことはないです。本当の姿が人間の姿じゃなかったとしても、もうそのくらいで驚くわたしじゃないですから」

その言葉は本心だった。

ここまで、あまりにも色々なことがありすぎた。

自分が死んでしまって吸血鬼になったり、亜人狩り、と呼ばれる少年に遭遇したり、怪物に襲われたり。

だから、それくらいは本当に何ともなかった。

「……そう。良かったわ」

そう言うカメリアさんの髪をかき上げる仕草は、相変わらず様になっていて、正体が醜い怪物だと言われても、全く信じられるものではなかった。


「そろそろ本題に移りましょう。と言っても……あなたはもう大方察しているでしょうけどね」

改めてわたしの方を見据えるカメリアさん。

"察している"というのは半分合っていて、半分間違っていた。

何故なら、そのアイデアがカメリアさんやリリスさんから出るとは思っていなかったから。

そして、それを呑んでしまえば、わたしが一つブレーキを踏み外してしまうような気がしてしまったから。

「…………」

わたしはその言葉に、黙って俯くしかなかった。

改めてそれが現実になる前に、話を逸らしたりしてみたけれど、やはりそれは避けられないんだろう。


「簡潔に済ませるわ。…メイ。私の血を吸って」


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「また一人、吸血鬼による犠牲者が出た。お前が動けなくなっている間に、だ」

電話の相手はそう告げた。

耳が痛いことを言ってくるなとは思ったが、それは事実として受け止めるべきことであることに変わりはない。

「だが、もう一つ良い知らせがある」

「……へぇ」

「件の吸血鬼の正体が大方掴めた。問題の吸血鬼はもう人の形を保てていないらしい。」

「なるほど、わかったっす」

「だがそれはお前が関係のない相手に手を出し、無駄に返り討ちになったという意味でもある。そのことはきっちり受け止めろよ。俺たちが狩るべきはあくまで人に危害を与える亜人だ。

亜人全員皆殺しにしては余計な報復が来る。大義のない亜人狩りは単なる迫害でしかないんだからな。」

「…その件については反省してるっすよ。」

「だったらよかった。なら、せめてその分はしっかり働いてもらわねえとな」

その言葉を最後に、電話が切れた。

まだ言いたいことは少しあったが、何とかそれは飲み込むことにする。

自分の"上司"への不満なんか言っている暇があったら、その時間をターゲットを倒す方法を考えることに使った方がいい。


改めて腕を回してみて動きを確認する。

だいぶ長い間眠っていたから、少し動きが鈍ったような気はするが、問題はなかった。

「調子はどう?病み上がりなんだし、あんまり無理はしないでね?」

そう俺のことを心配して声をかける相棒。

「心配いらねーよ。もう本調子だ」

俺はそう答えて、そのまま"吸血鬼退治"へと出かけることにする。

悪しき化け物を殺すためだけにある、銀の刃をその手に抱えながら。

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