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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第一章 紅の瞳の吸血鬼
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第一章 7 吸血鬼が本当に人を殺したと思う?

何もない真っ白な天井、薬品の匂いが鼻をつく空間。

俺は病院のベッドで目を覚ました。というのも、俺は2日ほど前からここに入院しているのである。

原因は単純。赤髪の吸血鬼の女に腹を蹴られ、意識を失い病院に運ばれてきたのだ。

こうして念のため検査を受け、経過観察ということで入院することとなった。

今思っても本当にダサい。仮にも"亜人狩り"である俺が、不意打ちにすら対応できない上に、おまけに腹を蹴られたときた。

亜人の身体能力は人間よりも高い。

吸血鬼は見た目こそ人間に近いが、人間が吸血鬼に首をねじ切られて殺されたなんていう与太話が平気で信じられる程度には、そいつらの力は強い。

そんな力で蹴られたりなんぞしたら、そりゃあ入院するような事態にもなるという話だ。


「…ほんと何もねーな、病院って」

呑気に呟いてみても、特に何か変わるわけでもなく、退屈な時間をベッドの中で過ごし続ける。

あまりに何もないものだから、病院の中を歩いて興味もないような雑誌を買おうとしてやめたり、

ただ廊下をうろうろしてはたまに話しかけてくる他の患者とどうでもいい話をしたりと、暇が極まったような生活を繰り返して2日。

そう、まだ2日だ。驚くほどに退屈だった。

「マジで優斗のやつ今何してんだろうな……」

こう思いながら、今会えもしない相棒の名前を呼ぶ。

優斗のやつは昨日も一昨日もお見舞いに来てはくれたんだが、あいつだって常にいられるわけじゃない。

これ以上、あいつに迷惑をかけるわけにはいかない。自分が弱いというのは、それを正当化する理由にはならないのだ。


起床してから30分ほど経った後だろうか、病室にナースがやってきた。

「有栖川さん、調子はどうですか?」

「あー、だいぶ痛みも引いてきたみたいです。もうすぐ退院できますか」

「順当にいけばおそらく今日には。意識などはどうですか?」

「はっきりしてきましたね。入院当日なんかは頭フラフラだったんですけど、もうそんなことも無くなってきました」

ナースは色々と俺に質問をしてきた。

応答をしてわかったことは、俺はおそらく今日にも退院できるだろうということだ。

念のため検査を受け、その結果が良ければ退院とのことらしい。

「退院したら優斗に連絡しなきゃな……」


俺が入院する3日前。

俺たちに下ったのは「吸血鬼による殺人事件」の調査だ。

これがもし本物の吸血鬼による仕業なら直ちに始末せよ、という命令まで出ていた。

吸血鬼による殺人事件。神楽坂町で血液がほとんど抜かれた遺体が見つかったという。

また、これとは別に致死量の血液が見つかったが遺体が一向に見つからないという不可解なことも起きていたそうだ。


「ねえ鳴、吸血鬼が本当に人を殺したと思う?」

優斗は俺にこんなことを聞いてきた。

「そりゃもちろん、こんなやべえ事件起こすの吸血鬼くらいだ。そもそも俺たちの仕事は人間に危害加える亜人を殺すことだろ?

そんなこと確認して何になるんだよ?」

「いやあ、もし人間の仕業だったら、それは吸血鬼が起こした以上に説明がつかなくて怖いと思ってね」

意味のわからないことを言うやつだ。だが、確かに。

「なるほどな、そりゃ意味不明で怖いわ。もしかしたらそいつは、吸血鬼ってのを知ってて吸血鬼に罪を擦り付けてるのかもしれねえな?」

実際考えられる理由なんてのはそのくらいだ。自分でも素っ頓狂すぎることを言った自覚はあるが、そんなことはもう知らない。

だって他に思いつかなかったのだから。


だが、よりにもよって俺の相棒は、

「おい優斗……そんなにおかしかったのかよ!?」

めちゃくちゃ笑いを堪えていた。しかも本人が見てる前で堂々と!

「いやぁ、だってさ。真剣に考える鳴の顔があまりにも可愛くてつい」

「そんな理由かよ!?」

こいつはそういう風に俺をいつもからかってくる。指令の最中までいつもそうだ。

そして、決まってそういう時は俺をいつも「可愛い」と言う。納得がいかない。確かに俺は身長こそ低い方だけど、そんな可愛いとか言われる方じゃ……。


「そうだ、吸血鬼の目撃情報とかそういうのはあんのかよ!?」

「おっと、話題逸らしたね?と言ってもあるにはあるんだ。不自然なほどきれいな見た目をした赤い髪の女がいて、そいつが吸血鬼に違いない、なんていう話が持ち上がっていたよ」

亜人は常に人間と違う"匂い"を放つ。普通の人間にはなかなかわからないが、亜人狩りはそういう"匂い"を判別する力がある。

だから、結果的に目撃情報なんてものがなくても亜人自体の判別はできるのだが、ターゲットであるという特定までは困難だ。

こういった情報がないといつまでもターゲットを探しきれない。

「あ、でも俺にとって一番きれいなのは鳴だから安心してね」

「そういうのうぜえからやめろ!」

こいつのそういう所は、相変わらず気に食わない。


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月曜日。いつものように学校から帰ってくると、

「おかえり、メイ。随分と待ってしまったわ。学校って大変なのね」

家の外にはカメリアさんとリリスさんがいた。

あまりの驚きに一瞬声が出なくなる。

「あの…何してるんですか!?」

「何って…メイはこういう話を知らないの?」

そういわれて、10秒ほど考え込む。

「もしかして、吸血鬼は招かれなければ家に入れない?」

「そう。厄介な特性よね。一度入ってしまえば自由に入れるようになるのだけど…」

吸血鬼って大変だなぁ、と思う瞬間だった。というよりそもそも…


「あれ、カメリアさんって壁通り抜けられるんですよね?ならそうやって入ってしまえば…」

「人の住む家だけはそれが出来ないのよ。もともと人の家というもの自体が魔除けの特性を有しているから。

それと。仮にも自分の家に対して勝手に吸血鬼が侵入したらという状況そのものを、もう少し警戒しなさい。」

注意されてしまった。でも……。

「カメリアさんなら、大丈夫ですよ」

「呑気なものね……」

カメリアさんが少し、頭を押さえていたような気がした。

けれど、カメリアさんについては、ほぼ安心しきっているのだ。ちょっと怖いところもあるけれど、それももう受け入れられる気がする。

「そうだ、リリスがもう家で待っているから、あとで3人で話をしましょう」

「えっ、リリスさんいるんですか!?じゃあリリスさんに家を開けてもらえば…」

「リリスは家主ではないでしょう?」


家を開け、カメリアさんを「招き入れる」。すると、本当にリリスさんがいた。

「あら、おかえりなさい芽衣さん」

優雅に本を読みながらたたずむその姿は、わたしの家の中ででもとても絵になった。

「見とれてしまいましたか?何せわたくしは世界一美しい吸血鬼なので」

そう自慢げに言い放つリリスさん。

「リリス。美しさなどせいぜい人の価値観に過ぎないわ。美醜の判断基準など時代や文化などでいくらでも変わるもの。あなたは"人"に寄りすぎなのよ」

「時代に合わせ適応していくのも生存の方法です。それに"今の姿"も、この時代に適応した姿ですから。

ほら、いい加減にしないと芽衣さんが困っていますよ」

「え!?あ、あの。そんなことない…です?」

自分でも何を言ってるのかよくわからなかった。


「そういえば、リリスさんはどうしてこの家に?」

「はい、わたくしとあなたの妹さん…葉月さんは既に知り合いの仲なので。」

あれ?どうして葉月ちゃんの名前を…?

「あなたが私の家に運ばれた後、どうやらリリスが先んじて妹さんに色々と説明をしたそうなのよ。リリスが何と言ったのかは知らなかったけれどね」

もしかして、カメリアさんが"事後処理"と言っていたもののことだろうか。

「その時に晩御飯までいただいてしまいました。美味しかったですよ」

「ちゃっかりしてるなぁ……。」

驚いた。葉月ちゃん、びっくりしなかっただろうか。


「そうだ、あなたの部屋に移動してもいいですか?リビングだと色々と話しづらいでしょう」

「そうですね。そういえば、葉月ちゃんには吸血鬼のことは話していないんですか?」

てっきり、葉月ちゃんは何も知らないのかと思っていた。けれど、もしそうなら色々と事情が変わってしまう。

「話していません。ただ、あなたが怪我をしたことと、知り合いの医者に見せた、ということだけ言っていれば、納得してくれましたよ。

わたくしのことは"学校での友人"ということになっています」

良かった。葉月ちゃんにそういう世界のことはまだ知っていてほしくはなかった。

この間のことで、こういう"吸血鬼"とかそういう世界は、危ない世界なんだということを痛感したのだ。だから……。


「葉月さんのこと、巻き込みたくないですか?」

「勿論です。ああいうことが起こるくらいですから。この間みたいに突然襲われたりなんてことがあったら…」

鳴くんが偶然話の分かる人で良かったけれど、今度はそうじゃないかもしれない。

そのくらいのことは、わたしでもわかっているのだ。

「全く、芽衣は何もかも気にしすぎなのよ。もっと堂々とした方が、あなたは魅力的だわ」

「うーん……そう言われると…」

そういうことを言われちゃうと、ちょっと弱い。迷ってしまうけれど、今はまだ、皆と過ごす日常を選びたいなぁ、と思ってしまう。


「そういえばメイの部屋、来るのは初めてね」

「はい、結構殺風景な部屋ですけど…」

ドアノブに手をかけ、2人と一緒に部屋に入る。家族以外の人を部屋にあげるのは久しぶりだから、少し緊張してしまった。

「素敵な部屋だと思うわよ。好きな物に囲まれているのはそれだけ自信を持てるものがあるということだから」

カメリアさんはそう笑いかけてくれた。不器用な所がある人だけど、だからこそその言葉は本心からのものなのだろうな、と確信できた。

「さて、本題に入りますが……」

リリスさんが改めて、向き直った。それに続いてカメリアさんも、姿勢を整えた。

「あなたは吸血鬼の力をもう少し引き出したいと、思ったことはありますか?」

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