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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第五章 人魚はそうして目を閉じた
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第五章 16 だから目を閉じたんです

嫌な予感がして、行動を押し留めようと手を伸ばす。

「真魚ちゃん、ダメ……!」

しかし、目の前に広がっていた光景は想像とは全く違うものだった。


「……ふふ、心配しないでも。大丈夫ですよ」

はらはらと、黒い髪がその場に散らばる。

彼女の視界を覆っていた前髪が、ほぼ全て切られていたのだ。

「はぁ……良かった……」

「何を想像してたのかはだいたい察しましたけど、私がそんなことするわけないじゃないですか」


鏡も見ずに切った前髪は、あまりにも不恰好で不揃いで。

でも、さっきまでの視界ほぼ全てを覆ってしまうような前髪よりは、遥かに魅力的に見えた。

「ど、どうですか……おかしくないですか?」

「全然おかしくないですよ。とっても魅力的です」

「それは良かったです」

これまでに見たことがないほどの、自然な笑顔。それだけで、彼女が何かいい方向に吹っ切れたのだろうなということが、わたしにはわかった。


「さて、とはいえ当初の問題は全く解決していないけど、どうするつもりなのかしら?」

「あ、そういえば……原因はわかったけど、結局押し止める方法がわからないから、最終的に元に戻れなくなっちゃうんじゃ……」

「それでもいいとまでは言いませんけどね。なので頼みがあります」

ぐいっと顔を近づけられる。いきなり接近したものだから、慌てて少し飛び退きそうになってしまった。

「あの、あなたたちってあともう少しで街を出るんですよね?でしたらその、一緒についていくことって……出来ますか……?」


想像もしていない提案だった。確かに、街を出るというのはその通りだけど……。

「芽衣さん、どうしますか?一応、わたくしたちの事情を知ってもらってからの方が……」

「う、うん。そうだね、まずはわたしたちが何でここに来たのかっていう話と……」

「は、はい……!」

はっきり言って、わたしたちはもうまともな身分ではない。街を飛び出したし、最悪亜人狩りに命を狙われるかもしれない立場だ。

だから……出来れば真魚ちゃんを、そこに巻き込みたくない。


「すべて話すね。それを聞いた上で、それでもいいなら。あと、お父さんとも相談してからにした方がいいと思う」

わたしは、家族との相談もなしに、飛び出してきちゃったから……

「はい、わかってます」

出来れば、ついてきてほしくはない。でも、その決意に染まった瞳からは目を逸らせなかった。


「そうですか……」

「どう……どう思った?」

「いえ、たいへん理由ありなのはわかったんですけど、それでもついていかない理由にはならないです。それに街にずっといても、あんまり良いことないですから」

「そんな消極的な理由なら、同行を認めるわけにはいかないわね」

今まで静観していたリアさんが、突如冷たい声で言い放った。

「困っている人全てを助けようとするのは、傲慢なことよ。軽い気持ちであなたを拾いたくないし、あなたも軽い気持ちで拾われてほしくないの」

それに対し、真魚ちゃんは何も言えなかったのか、目を逸らして俯いている。


リアさんの言うことは確かに正論だ。

全ての人を助けていたらきりがないし、そのたびにその人の人生を背負う覚悟がいる。

真魚ちゃんも学校には居場所がないとはいえ、それでもまだ中学生だ。大人ならともかく、わたしたちで守りきれるとは思えない。

でも……それでもわたしは、彼女を放っておくことは出来なかった。

放っておくことは出来ないのに、どうすれば説得できるのかわからなくて、わたしは何も言えなかった。


「……気にすることはありませんよ。元よりわたくしは全て拾って助ける気はありません」

「リリス……!」

「リアも意固地にならないでください。それに、このまま放置していれば彼女はいずれ人間でいられなくなります」

「本当に助けられる保証もないのに?」

「ありません。ですが、立ち止まっていては何も見つかりませんから」


「……わたくしはあなたの同行を認めましょう。しかし、もし学校に行きたくないからとか、そういった理由であるのならばわたくしは認めるわけにはいきません」

「そんな理由じゃ……ないです」

「うん、そうだよね。ごめんね……二人も責めようと思って言ってるわけじゃないの。ただ、わたしたちについていくには危険もあるから、ね?」


「はい……わかってます。それでも、私はあなたたちの優しさが……身に染みたんです。私、他人なんて誰も信用できないって思ってました。

私にぶつけられるのは悪意ばかりで、善意で手を差しのべる人なんていない、って思ってました。

だから私は目を閉じたんです。誰かと目を合わせたくない。誰かから悪意の視線を向けられるくらいなら、それを全部シャットアウトしたい。

でも、私が何度拒絶しても、酷いことを言ってもあなたたちは決して諦めませんでした。

……私がまた目を開けられたのは、あなたたちのお陰です。ひどい事実がわかっても、受け入れられたのはあなたたちのお陰です。

だから、せめて今度は、あなたたちにとって助けになることをしたいとも、思ってます」


「……はぁ。そこまで言われたら仕方ないわね」

「はい。ここまでの熱意をぶつけられて、無下には出来ないでしょう」

「やった…………!」

「ただし、お家の人にはちゃんと伝えてからお願いしますね。突然いなくなってしまえば大騒ぎになりますから」

「はい、わかりました……!」

その表情は、今まで見たどの顔よりも、喜びに満ちたきれいな顔だった。


「……帰ろっか。わたしたちも」

「……そうね」

ここから歩いて帰るには、まだまだ時間がかかりそうだけど。

何故か不思議と、それを苦痛だとは思わなかった。


「そうだ。さっきリリスさん、ものすごく怒ってたけど…」

「それがどうかいたしましたか?」

「一体……何があったのか、聞いてもいい?」


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