ベタノロコラボレーション!~ゲストが加わったらカオスさが増すハチャメチャパーティー~
今作はコラボ作品でございます!
まずはあらすじに目を通していただけるとありがたいです!
俺の名前は坂桐 吉晴。
ひょんなことから異世界に飛ばされ、世界を滅ぼそうとする魔王を討伐するため、これまたひょんなことから勇者に任命された男だ。
ただ、俺には普通の勇者とは違うところがある。
それは、魔王によってベタの呪い…………『ベタノロ』を掛けられてしまったこと。
ベタノロとはその名の通り、ベタなことをすると発動してしまう呪いだ。
漫画やアニメにありがちなことをしてしまったら最後、耐え難い苦痛が襲いかかる。こわいね。
たとえるならば、歯が痛い時に歯が痛くなるようなものを食べたら歯が痛くなるみたいな。
全く関係ないが、俺の学生時代のアダ名は『比喩がヘタなヨシちゃん』だった。ヨシちゃんだけでええやん。
ともかく、俺はこれからベタなことを一切せずに魔王の所まで辿り着き、世界を救わなければならないのだ!!
「何を一人でブツブツ喋ってるの、おにーさん?」
白ワンピースと赤い短髪、少し日に焼けたお肌が特徴的な可愛らしい少女が話し掛けてきた。
俺のことを『おにーさん』と呼ぶこの生き物は、俺がこの世界で偶然出会い、一文無しのヨシハル君をタダで寝泊まりさせてくれている少女、メリカ=テレット。
ここで勘違いしないでもらいたいのは、俺は決してヒモでもニートでもないということ。
ちゃんと恩返しはしてるからね。いつか肩でも揉んでやろうと思って握力を鍛えているし、家事とかも手伝いたいなと思うようにしているのかもしれない。
まあ細かいことはどうでもええやないの。毎日が楽しければそれでハッピーやで。
「だから何を一人で喋ってるのさ? オブラートに包んで言えば、クソ気持ち悪いから毒殺したいんだけど」
包めてねえな。ビリッビリに破れすぎてダメージジーンズみたいになってんじゃねえか。
この娘、可憐な見た目に反して口がメチャ悪い。定期的に俺の涙腺を熱してくる。
「それはそうとおにーさん! 突然ですが今日はここに素敵なゲストが来てくれていまーす!」
「ょぇんゎ?」
あまりに急なお知らせに、二度と出せないような驚き声が喉から放たれる。
「なんだよゲストって? お前の友達とか?」
「えっとね、こことは違う世界から遊びに来てくれたんだって!」
「ってことは、俺と同じ世界の奴らってことか?」
「いや、それともまた違う世界だね。おにーさんの世界から見たらこの世界は異世界だけど、この世界の他の世界にいる人たちだから、その世界も異世界なんだよ。異世界の異世界っていうか……異世界じゃない異世界なんだよ!」
わざと分かりにくく説明してんだろコイツ。世界がゲシュタルト崩壊するわ。
世界がゲシュタルト崩壊するってなんかカッコいいな……。
「つーか遊びに来るってどういうことだよ!? こういうのって普通は『転移魔法に失敗して~』とか『強力な敵の技により空間移動させられて~』とか、そういうファンタジーな理由だろ!! なに友達の家感覚で訪れてんだよそいつら!!」
「細かいこと気にしてると尚更ハゲるよ?」
「尚更って何だよ既にちょっと薄らぎが始動してるみてえな言い方すんなや!! あーもう分かったよ、連れてこい!」
「はい、それではお待たせしました! ゲストの方々に登場していただきたいと思いまーす! どうぞー!」
元気だなぁこの子。魚の目玉とかたくさん食べてそう。レントゲン撮ったら何個かこっち見てそう。
「どーもぉ、白魔導士のニーヴェルング・ヴァイスでーす」
「私はアズリス! アズって呼んでね!」
メリカに紹介され、とてとてと歩いてきたのは……若い男女の二人組。
黒い短髪と夕焼け色の瞳、白いローブが特徴的な男。
青い長髪と青色の瞳、青いワンピースが特徴的な女。
いや女のほう真っ青だな。『ブルーハワイちゃん』って呼びてえ。
「あなた今、私を見て失礼なアダ名を思い付いたでしょ?」
「はぇ? いや、あの、おもいつい……ては、ないっす……けど、ね? うん、うん、うん」
ブルーハ…………アズちゃんがジト目でこちらを睨んでくる。
幸い俺のアドリブ能力が高かったから華麗に誤魔化すことができたが、どうして分かったんだろうか。
「気を付けた方がいいよ、アズは変なところで勘が冴えてるから」
「えへへ……ありがとニーヴェ!」
「うん、褒めてないからね? そこで喜ぶのおかしいよアズ」
二人は俺の目の前で仲良さげに話している。
特にアズとかいう女は顔を赤く染め、にへらと幸せそうに笑っている。
まさかこいつら…………カップル?
「ハッハッハ、お引き取り願おう」
「いでででで!! なにすんだよ急に!?」
「ちょっと、押さないでよ!! 豪華ゲストに対して失礼すぎない!?」
ヨシハルくんはイケボを発しながらゲスト二人の背中を押して帰宅を促す。
「じゃかあしいわ!! こちとらあんな色気もクソもねえチンチクリンの鼻垂れ小娘と二人で冒険してるってのに、テメエらは何だよ!! 完全にラブが芽生えてんじゃねえか! 特に女の方は男にゾッコンだろもう!!」
「そっ……そんなことないもんっ! 私はただ、ニーヴェと一緒に戦ったり、喋ったり、遊んだりするのが楽しいだけで……」
「ポッポーーーーーー!!! それを愛情と呼ばずして何と呼ぶんですかねぇぇぇぇぇウェェェェェへッへッへへへ!! アツアツのリア充どもはヨシハルくんの半径5惑星以内に近付かないでくださーい!!」
「半径5惑星!? あと何なのよその暴走機関車みたいな奇声!!」
メリカめ、これが狙いか!!
美少女に好かれる男を俺の所に連れてくることで、俺を嫉妬で発狂させて殺そうとしてやがるな!!
「くそおおお!! くそおおおおおおおお!!! うっ……ゲホッ!! ゴホッゴホッガハッ!!」
劣等感で吐血。今の俺は嫉妬により肋骨が二、三本イカれてる状態だ。
「えー、このままだとおにーさんがジェラ死ーしちゃうので、お二人には退場していただきます」
「はっや!! まだ俺たち何もしてないよ!? 機関車みたいな声聞いて軽く鼓膜にダメージ受けただけなんだけど!!」
「お帰りはあちらになります! 本日はありがとうございましたー!」
「なんだよこれ! ここまで雑に扱われたゲストは俺達が初めてだよ!! すごい不名誉な形で歴史に名を残すことになりそうだわ!! あーもう、しょうがないな。帰るぞアズ」
ニーヴェがアズの手を取るが、アズは石化したかのように微動だにしない。
「どしたアズ? まさかまだこんな所に居たいとか言うんじゃ……」
心配して顔を覗き込むニーヴェに対し、アズは頬に汗を滑らせながら話し始める。
「あのねニーヴェ……私、ここに来るまですごい長旅でお腹がペコペコだったから……この町に着いてすぐに見付けた定食屋で、ご飯を食べたじゃない?」
「そうだな。俺はそこまで腹が減ってなかったから外で適当にブラブラしてたけど……そこで何かあったの?」
「そこのお店はお客さんは少なかったけど、店主の女の人がすごくいい人でね? 私がこの町に慣れてないって言ったら、オススメのメニューを三つ、教えてくれたんだ」
あっ。
「へえ、優しい人もいるもんだな。それで?」
「『一つあたりの量は少ないから、女性のアンタが三品頼んでも充分に食べられる』って、店主さんは優しい笑顔で言ってくれた」
もしかしてこの子。
「そのメニューは…………『シナレア鳥のゴールデンカツサンド』と『ナザナザの刺身』そして『ハレバ山の五種キノコの特製バターライス』って言うんだけど……」
ぼったくられたあああああああああ!!!
店の高級料理トップ3を頼まされたああああああああああ!!!
この子、よりにもよってビナさんの店に入ったんだ!!
あそこの女店主のビナさんなら、何も知らない余所者をカモにしてお金を吸い尽くす光景なんて容易に想像できる!!
ましてや今、あの店はとある事情で閑古鳥が大合唱している!! 切羽詰まった状態で大金欲しさに悪魔に心を売ったんだ、あの女店主は!!
その三つは材料が豪華すぎるんだから注文したらアカンよ!! 余程の金持ちじゃない限り頼んだらお仕舞いよ!!
「シナレア……ハレバ……? なんかよく分かんないけど、美味しくなかったのか?」
かわいそうなニーヴェくん。これから数秒後に残酷な現実を突き付けられるとも知らずに。
「あのね…………その三品で所持金ぜんぶ、使っちゃった」
ニーヴェは泡を吹いて倒れた。カニみたいね。
カニーヴェなんてどうだろう。なんかフランスのお洒落なお菓子でありそう。
********
「つ……つまり、アズはその女店主さんに騙されて、お金を全部毟り取られたってこと……?」
「うん…………」
「帰りの馬車代も?」
「ぐすん、ごめんニーヴェ……」
気絶から目覚めたニーヴェは、頭を抱えながらアズに状況確認を行っている。てか馬車で来たんだ。
「このダガーヒという町はな…………余所者だろうと容赦しない、極悪非道のクソ野郎どもで溢れてるんだよ」
俺も最初にこの町に来たときは、それはそれは酷い扱いを受けたものだ。
例のビナさんにだって顔を蹴られたり刃物で追いかけ回されたり、トラウマをズブズブと植え付けられた。
「あたしはこの町けっこう好きだけどね! 血の気の多い野蛮人が多くて退屈しないし!」
真顔でこういうこと言えちゃうメリカちゃん怖いよね。
「くそっ……こうなったらその女店主さんの所に言って力ずくでお金を返してもらうしかない!!」
「やめとけニーヴェ。ビナさんの旦那…………カタギの人じゃねえから」
「…………地道にコツコツ働いて稼ぐしかないな」
引き際が分かってるニーヴェくん偉い。
「働くなんて面白くない! こうして戦える人同士が巡り合ったなら、お金を稼ぐ方法は一つ! 皆で協力して魔物退治でしょ!!」
「さんせいさんせーい! 手っ取り早くお金を稼ぐにはやっぱりそれしかないよニーヴェ! なんか楽しそうだし!」
メリカの提案にアズはすっかり乗り気の様子。この二人は何だか馬が合っている。
協力して魔物退治……か。
「俺はゴメンだね!! 俺にメリットないし、こんなリア充どもと一緒に戦うぐらいなら死んだ方がマシだもーん!!」
「リア充リア充って言ってるけど、俺ら別にそういうのじゃなくて……」
「え? ニーヴェは私のことキライなの? ショック……」
「そういう発言されるとまたこの人がジェラ死ーしちゃうから黙っといてくれるかなアズさん!?」
「うんうん、みんなすっかり仲良くなってくれてあたしも嬉しいよ!」
メリカは腕を組んで俺達の様子を見守っている。視力が負の値なのか?
「そんじゃ早速、ニーヴェさんとアズさんの馬車代を稼ぐためにぃぃぃ…………レッツゴー!! あっ、あたしメリカ=テレット。よろしくね」
「サカギリ ヨシハル。今日はお前らのあの世への切符代を稼ぐためにバリバリ働くんで夜露死苦」
「自己紹介で殺害予告してきたヤツ初めて見たんだけど。てか紹介のタイミングもおかしくない?」
********
「さあさあメリカ先生! 今回はいったい何を討伐するんです?」
「今日はですねアズさん! お金をたくさん持っている、とある魔物を倒しに行きたいと思います!」
舞台は移りまして、だだっ広い草原エリア。
料理番組のようなテンションのまま、軽快なステップで前を歩く女子二人組。打ち解けるの早いわね。
「なあ……ヨシハルだっけ? お前のその額の模様、一体なんなんだ?」
大アクビをしながら歩いていると、隣にいたニーヴェが俺の顔をまじまじと見ながら話し掛けてくる。
「ああ、これか? まあ呪いの一種だよ。あんまり気にすんな。お前の方こそ何だよ、石鹸のコスプレなんかして」
「誰が石鹸のコスプレだ!! これは白ローブ!! さっきも言ったろ? 白魔導士なんだよ俺は」
「どういう意味なんだ、その白魔導士って? 魔導士とどう違うんだよ?」
「……戦いが始まりゃ分かるよ」
ニーヴェは小さな声でそう告げた。
なんだかよく分からんが、この男も俺と同じくワケあり冒険者らしい。
「てか、そろそろ教えろよメリカ。お前は俺達をどの魔物と戦わせようってんだ? さっきから同じところをグルグル歩き回ってる気がするんだが」
「せっかちだなぁおにーさんは! そんなんだからモテないんだよ! ねーアズさん?」
「そうそう、男ならもっとどっしり構えなさいよ! ねーメリカちゃん?」
なにこいつら、何かクラスのウザい女子みたいで血管が爆発しちゃいそうなんだけど。
大体なんで俺が出会ったばかりの奴等のためにこんなことを…………。
「あ、いたいた!!」
メリカがピョンピョコ跳び跳ねながら指差した先には。
「ナッ……何者ヤオ前ラ、デンネン! ナニシニ来タッチュウンヤ、マンネン!」
コッテコテでヘッタクソな関西弁を放つ、バランスボールぐらいの巨大さを持つ一つ目のスライム。
ウニャアと曲がった口はどこか楽しそうだ。
バインバインと意味もなく跳ね続けている全身は金色の強い光を放ち続けており、思わず目を背けそうになる。
あれはキンピカスライム。
滅多にお目にかかれないが、その分ドロップする金額やアイテムが多く、お得なモンスター。
てか名前が安直すぎだろ。頭の眩しい男に『ハゲニンゲン』って名付けるようなものじゃん。
「ワシヲ倒シニ来タンカ、デンネン! オ前ラナンカニ負ケヘンゾ、マンネン!」
「……この町は人間だけじゃなくてモンスターも変なのかよ……」
ニーヴェが俺をチラリと見た後で溜め息混じりに言う。
何で俺をチラリと見た後で溜め息混じりに言ったんだろう。
「あのキンピカスライムを倒せば、あたしたちで四等分したとしても馬車代どころか当分は遊んで暮らせるお金が手に入るよ!」
「それホント、メリカちゃん!? じゃあみんなにお土産買って帰ろうよニーヴェ! そうだなぁ…………山盛りのバナナとか!」
「スピーテコじゃねえか!! 何で『みんな』の代表があのおサル共なんだよ!? てかアイツらが好きなのはプノだろ!?」
スピーテコとかプノとか内輪ネタはよく分からんが、とりあえずニーヴェたちのいる世界にはおサルさんがたくさん住んでいるのだろうか。
「まさかお前ら……動物園の飼育員なのか……?」
「白魔導士だっつってんだろうが!! どこの世界に白いローブ着て動物にエサやる青年がいるんだよ!? TPOガン無視ファッション過ぎて動物より注目浴びるわ!!」
どうやら違ったらしい。飼育員さんだったらサインもらおうと思ったのに。
「さあさあ、お喋りはここまで! キンピカスライムさんはやる気満々だよ! あたしは実況解説役を務めさせてもらうんで、残りのみんなで頑張ってねー!」
メリカはそこら辺にペタンと座って俺たちに手を振っている。
コイツいっつも戦闘とか面倒事が始まったら上手に離脱するよな。憎たらしい。
なんかバナナ食ってるし。なに、お前もスピーテコなの?
「頑張ってねニーヴェ……もぐもぐ…………」
「アズさん? 何で当たり前のようにメリカにバナナご馳走になってんの? いつの間に観客席のチケット予約してたの?」
「まあキンピカって言っても、所詮はスライムに毛が生えた程度の戦闘力しかない雑魚だ。女どもの手を煩わせるまでもなく、俺とニーヴェで何とかなんだろ」
「あー…………そのことなんだがな、ヨシハル」
ニーヴェが言いづらそうに視線をあちらこちらにやっている。
「俺…………戦えねえんだわ」
はん?
「…………いや、まあそういう冗談はいいから。魔導士なんだから早く最強魔法をバンバン放ってくれやニーヴェっち」
「いや、だから最強どころか魔法バンバンができねえんだよ、そもそも」
「……どういうことか説明してもらおうか」
拳をバキバキと鳴らしながらニーヴェに近付く。
「白魔導士ってのは強化魔法に特化した役職だ。人、武器、魔法…………ありとあらゆるものの力を増強させる。だから俺は……攻撃も防御も、治癒もできない」
「はああああああん!!? ワッケわかんねえんだけど!! ワッケわかんねえんだけどぉ!!? だいたい人の強化ができるなら、お前が自分を強化して戦えばそれで済む話だろうが!!」
「普通の白魔導士ならそれで解決だろうな。だけど俺は…………自強化ができなヴァックス!!!」
渾身のドヤ顔を放ったニーヴェに闘牛のような体当たりをお見舞いする。
「っっっんなんだよテメエは!! そんな大事なことを何で事前に話さねえの!? 何が『……戦いが始まりゃ分かるよ』だよ、このおたんこトマト!!」
「なすで良くない? とにかく俺はサポートしかできないから、お前一人で頑張ってくれ」
「クソがッ……おいそこの女二人!! お前らも戦闘に参加しろ!!」
「あっははは! えー、でもやっぱりそこはアイアンメイデンの方が良いよメリカちゃん~!」
「いやいやアズさん! そういう時こそギロチンでサクッといく方がストレス発散に……」
「すっげえ恐ろしいガールズトークしてる!! おい無視すんなよ!! 処刑器具の名前出しながらキャピキャピすんなやサイコ共!!」
なはははは、とてつもないポンコツパーティーである。
「何ゴチャゴチャ話シトルンヤ、デンネン!! ワシモソロソロ待チクタビレタワ、マンネン!!」
キンピカスライムが頭に青筋を立てて俺たちに叫んでいる。
俺たちの戦いでは、相手の魔物が放ったらかしにされて泣いたり怒ったりすることが頻繁にあります。
「クソが!! こうなりゃ俺だけで倒してやる!! そんで金もアイテムも全部一人占めじゃああああい!!」
剣を引き抜きキンピカスライムへと猪突猛進。
「あっ、おにーさん危ない!!」
メリカの叫び声。
はっ、どうせまたしょうもねえことに違いねえ! 無視だ無視!
「まずは一太刀…………もらっ」
ツルリン。
と、体が美しく宙を舞う。
「ゴゲァッッ…………」
背中から地面に不時着。父親の浮気現場を目撃したカエルみたいな声が喉から出ていく。
「いてててて…………なんだよ今の…………」
強打した背中をさすりながら体を起こすと、俺の目の前に落ちていたのは……。
BANANA NO KAWA.
「ご、ごめんおにーさん……ヒマだったからアズさんと皮投げごっこしてたの…………まさかそんな綺麗に転ぶとは……」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ストレスがピークに達した俺の咆哮で大地が揺れる。
「いい加減にしろやああ!! こちとら余所者のテメエらに力貸してやろうと頑張ってんのに、やれ戦えねえとか言うわ、やれバナナの皮で遊ぶわ…………舐めてんのかクソボケが!! てか皮投げごっこって何だよ面白くなさそうだなゴラァ!! 潰すぞ馬鹿野郎この野郎どもが!!」
「お、おにーさん落ち着いて! 分かったから! あたしたちもちゃんと戦うから!!」
「うんうん、みんなで頑張りましょ! 協力してアイツを倒…………きゃあああああ!!」
俺のブチギレを見て急いで立ち上がるメリカとアズ。
だが、何か悲鳴的なものが聞こえたと思うと、突然アズの姿が見えなくなってしまった。
「グヒヒヒヒ…………捕マエタゾ、デンネン!! モウ逃ガサヘンデ、マンネン!!」
見ると、スライムさんが体を思い切り伸ばしてアズちゃんを絡め取り、グイグイと自分の方へ引き寄せているではありませんか。
「アズさんっ!! あわわわわ……どうしようどうしよう、アズさんが大変だぁ!!」
「アズはよくモンスターに狙われたり捕まったりするからな……早く助けないと!」
「うわーん!! ネバネバして気持ち悪い! 助けて~!!」
……………ふむ、なんかちょっとエロくないですか?
「ヨシハル!! あなたまた私に対して失礼なことを考え…………ひゃうっ……!」
ヤバいヤバい、このままじゃ色んな意味でアウトな感じになる!!
ゲストをこんなエッチッチな目に遭わせたらアカン!!
ニーヴェもメリカも戦えねえとなると、ここは俺が…………
俺が……………
「…………あれ?」
それは、突然の出来事だった。
「何だこれ…………全身が痺れて……動かねえ…………」
今まで問題なく動かせていた体が、急にピクリともしなくなった。
俺の様子を見てメリカがギョッと目を丸くする。
「ま、まさか……さっきバナナの皮で滑って転ぶなんて『ベタ』なことをしたから…………呪いが発動しちゃったの!?」
ベタノロ。
ベタの呪い。
ベタなことをしたら呪われる。
つまり。
「その呪いが…………これってワケかよ…………!? 」
全身に精一杯の力を込めるが、1ミリも動いてくれない。
「おいおい勘弁しろよ……よりによってこんな時に……!!」
「グヘヘヘヘヘ!! ナンヤヨウ分カランケドモ、コレデオ前ラモ終ワリヤ、デンネン! 諦メルコッチャナ、マンネン!」
キンピカスライムは勝ちを確信したように一つ目を細めてニンマリと笑った。
そして、アズを拘束したままで自らの体から無数の腕を伸ばし、ニーヴェとメリカに襲いかかる。
「オ前ラモ捕マエタルワ、デンネン! 大人シクセエヨ、マンネン!!」
「ひゃああああ無理無理無理!! あんなキモいのに取り込まれたくないよぉ!!」
「チッ…………どうすりゃいいんだよ!!」
二人は必死に体をのけ反らせて回避を続けている。
だが時間の問題だ。特にメリカはもうバテてる。後期高齢者みてえなスタミナしてんなアイツ。
何か良い作戦はねえのか…………くそっ…………!!
「ハアハア………往生際ノ悪イ奴ラヤナァ、デンネン! サッサト……降参シロヤ、マンネン!」
スライムはゼエゼエと息を切らしている。
戦闘力が低いためか、一度攻撃すると次の攻撃までに時間が必要らしい。
畳み掛けるなら今のうちだが…………。
「…………そうだ」
ニーヴェがポンと手を叩いた。頭上に電球マークが見える。
「ニーヴェ、お前なにか閃いたのか!?」
「ああ、一か八かの……とっておきの作戦がな」
さすが頼りになるぜニーヴェ様!!
「ただ、これを実行するためにはここにいる全員の力が必要なんだけど……まだ力は残ってるか、メリカ?」
「ハヒ……ハヒ……………大丈夫だよ、ニーヴェさん……」
「俺は今から君に強化魔法を掛ける。だから君はヨシハルを…………」
ニーヴェがヘトヘトのメリカに耳打ちする。
なんか俺の名前が聞こえたんだけど。
すげえ嫌な予感がするんだけど。
ニーヴェが目を閉じて詠唱を始める。
ねえ、何で俺には何も説明してくれないの?
「確かに俺は自分では戦えず、仲間の補助しかできない。言い換えれば……サポートなら、お任せあれってこと」
ニーヴェがそう言うと、満身創痍だったメリカの背筋がシャキンと伸びる。
「ふぇ? 何これ、力が漲ってくる……!!」
「これが俺の強化魔法だ。さっきも言ったけど、俺は自分以外ならば基本的に何でも強化できる。それがたとえ人間でもな」
「すごいすごい!! 体がウソみたいに軽いよ!!」
「そりゃ良かった。今の君は人並み外れた腕力と脚力を持っているはず。あとは…………」
ニーヴェが直立不動の俺に視線を移し、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。
「『武器の強化』を、しないとな」
ほぅら、嫌な予感が見事的中しちゃったぞ♪
「待って待って落ち着いてよニーヴェちゅわん? そんな、大事な仲間のことを武器呼ばわりなんてしちゃダメだよ? お母さんはニーヴェちゅわんをそんな風に育てた覚えは」
必死の説得も虚しく、俺の体が強い光に包まれる。
「これで完成。あとはメリカに任せるけど……いけるよな?」
「オッケー、ありがとニーヴェさん! よっしゃ、行くよおにーさん…………いや」
メリカが俺の両足を掴み、キンピカスライムに向けて人並外れた速度で走っていく。
逆風で顔が痛いんですけど。
ていうかホントに俺が武器になる流れなの?
いやいや、何だかんだでメリカとも付き合いが長いし、この子は根は優しい娘なんだから俺を武器にしたりだなんてそんな残酷な行為をするはずがな
「ヨシハルハンマーーーーーー!!!!」
「「ゴギャアアアアアアアアアアア!!!」」
メリカがキンピカスライムに向けて、おにーさんを容赦なく振り下ろした。
俺とキンピカスライムの断末魔が穏やかな草原に響き渡る。
仲間って…………なんなんだろうね。
********
「みんな、助けてくれてありがと! ベトベトして気持ち悪かった~!!」
というわけでゴールデンスライムを倒した俺たちは、無事にアズを救出してお金もアイテムもガッポガッポ。
だったのだが。
「なぁぁぁんで四等分なんだよ!? どう考えても割りに合わねえだろ俺!!」
「まあまあいいじゃんいいじゃん! お疲れさま、ヨシハルハンマー!」
「お前がいてくれて助かったよ、ヨシハルハンマー!」
「大活躍で良かったわね、ヨシハルハンマー!」
しばきまわしたろかコイツら。
「やかましいわいっ!! ほれ、もう馬車代も集まっただろ! とっとと帰れ帰れ!!」
「相変わらず雑な扱いだな…………そんじゃ、帰るとするか。なあアズ?」
「えー! もっとメリカちゃんとお話したいのにー!」
「あたしもだよ! アズさんとお別れするの寂しいよぉ、うえーん!! さて…………ではお帰りはあちらになります!」
プライベートと仕事きっちり分けんのやめろ。
「じゃあなヨシハル。なかなか楽しかったぜ……お前のサポート」
「……………けっ、そいつはどーも」
ニーヴェとアズは馬車に揺られて去っていった。
本当に何だったんだアイツら。
「いやあ……面白い人たちだったね、おにーさん!」
まあ、メチャクチャな奴等だが…………。
確かに、退屈はしなかったな。
「じゃあ今日という一日の締めくくりとして、メリカちゃんがとっておきの謎かけを披露したいと思いまーす!!」
「え、なになに? そんなことできんのお前?」
助かるわ、上手いこと落とせなくて困ってたんだよね。
「『ニーヴェさんとアズさん』と掛けまして『絵の具の白と青』と解きます!」
「……………その心は?」
「どちらも…………白と青でしょう」
………………くたばれ…………
以上、ベタノロとヴァイスのコラボ作品でした!
氷華青さま、この度は素敵なコラボをありがとうございました!
今作を気に入っていただけた方は、ぜひ本編の方もお読みいただけると嬉しいです!心よりお待ちしております!
「ベタノロ!〜ベタなことしたら呪われる異世界物語〜」
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「ヴァイス 自強化できない白魔導士は一人で魔獣を倒したい」
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