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時子の奔走  作者: チビ助
8/9

8(:D)┓ペコリンチョ

ちょっと暗いです(´>ω∂`)

白い無機質な狭い部屋の中。

簡易ベッドと机とイスが2つ。


ドアに近い方の椅子に座ったわたしの後ろにはスーツを着た男が2人不機嫌そうに立ち。

目の前の椅子に座っている白衣を羽織った男の後ろには看護士の格好をした女が1人控えるように立っていた。

格好から見て目の前の男は医師で後ろの女は看護士で間違えないのだろうけど、わたしの後ろのスーツ男は誰だか分からない。


そんな、よく分からない状況なのに、わたしは笑いながら口を開いた。

それはこの状況を訪ねるような言葉ではなく、


「楽しい夢をみたんです」


と、ただ単に友人や家族に他愛のないことを報告するような、そんな言葉だ。

後ろからは舌打ちが聞こえたけど、医師は楽しそうにわたしの話に耳を傾けている。


「へー、どんな夢だったのですか?」

「楽しくて、だけど大変だったわ」


わたしが夢の続きを話そうとすると今度は大きな咳払いをする。

何か急かされている、それは分かっている。

だけど、わたしにはそれが何かは分からない。

わたしはどこか狂っているんだろうと思う。

そう最愛のあの子の命を奪われたと同時にわたしは壊れたのだ。

だからわたしは後ろなんて気にせず目の前の医師に意識を集中させた。


「ふふふ、猫がねしゃべるの」

「猫が?それはなんともファンタジーな夢ですね」


医師は狂ったわたしに嫌な顔ひとつ浮かべず、にこやかに相槌を打ってくれる。


「ファンタジーもファンタジーですよ。なんと時間を遡ったりして…大変だったけど、楽しかったです」

「時間を?それはすごい」


医師が驚いて見せたところで、再び後ろから咳払いが聞こえた。

さっきからどうしで邪魔をするんだろう?

不思議には思うけど、後ろの人にはわたし興味無いし、今は目の前の人と話したい。

だから、気にせずに口を開く。


「でも、どうして彼がアイラの声を操ってたたのかだけは…分からずじまいなんです」

「気になりますか?」

「そりやぁあ、まぁ」

「僕知ってますよ」

「…え、わたしの夢なのに?」


驚いて目を丸くするわたしに男性がフフフと笑った所で、痺れを切らしたのか後ろから

「先生!早く終わらせてください!こっちも暇じゃねぇんすわ!!」

怒鳴り声が飛んできた。

あまりの声の大きさにわたしはビクリと反応してしまったけど、先生と呼ばれた目の前の医師は怒鳴り声なんて聞こえていないようにわたしに笑みを向けている。

わたしの後ろに一瞬だって視線をやらない。完璧無視だ。


そして、医師は静かにそして優しく話を続ける。


「音助は早く1人前になって時子と結婚したかっただけなんですよ」

「…え?」


…わたしは夢の中の登場人物の話までしただろうか?

いや…していない。

なのにどうして、時子と音助のこと…?


「精霊界では1人でも人間を幸せにすると1人前と認められるんです」

「…え、何を言って…」


あぁ、コレも夢の続きなのかな?

だって精霊とか…そんな非現実的なこと…。


「音助は必死に頑張っていましたが…頑張る方向を間違えてしまっていました」

「先生…、こいつに話を合わせないで真面目に鑑定してくださいよ!!」


後ろからまた怒声が…、

鑑定……あぁそうか、今日は精神鑑定の日か。

わたしに責任能力があるのかないのかって…。

……わたしが殺した訳じゃないのに。


わたしの大切なあの子の命を奪ったのは、あの男なのに。

そっか、後ろには立ってる2人は警察の人間か…ろくに調べもせずにあいつらの言うことだけ鵜呑みにして、あの男を野放した…無能な警察か。


「…助けてやろうか?」


不意にフワフワと心地良い声が耳に届いた。

先程まで話していた声と同じなのに…全く違って聞こえる。


「…え?」

「僕の力を遣うと君を助けることなんて楽勝だよ」

「嘘…でしょ?」


だって、あれは夢だったはず…。


「人間の君は知らないかもしれないけど、精霊ってのは基本嘘が付けないんだよ」


後ろの警察が大人しくなったのは…音助の力か。

声を聞くだけ幸福感が満たされるようなそんな気分になる。

そんなの…信じざるを得ないじゃないか。


だけど、だけど…、


「ダメだよ…音助。音助の力がどんなに凄くたって…無意味なんだよ」


どんだけ人を魅了できても…あの子は戻って来ないんだよ、音助。

わたしに向けるあの子の無邪気な笑みを思い出した途端に視界が滲み頬に涙が伝っていった。


そんなわたしの耳に


「あら」


と、どこかで聞いた事あるような、どこか高飛車な声が届いた。


「旦那が来てるのに、わたしがいない訳ないでしょ?」


「とき…こ?」


声のする方へ顔を向けると、白銀の髪をひとつに結い上げている少しつり上がった大きな目をした可愛らしい女の子が居た。


看護士と思っていたのは時子だったのか。


「…猫じゃない」

「え、そこ?」


クスクス笑う時子にわたしも釣られて笑ってしまう。


「さて、どうする?」


音助がわたしの顔を覗き込むみ、時子は


「どれくらい時を戻せばいいかしら?」


と首を傾げた。


……戻れるなら、戻れることならば…。


「あの子があの男に殺される前まで戻して!」


あの日あの時に戻れたなら、すぐにあの子の手を取ってあの家を出よう。

あの男が心を入れ替えるかもなんて期待やあの男を助長させる義両親なんてものは捨てて、あの子と2人で生きていくんだ。


「分かったわ。じゃあいくわよ」


時子の声と共に視界が歪み、意識が遠のいていく。

ー大丈夫。今度こそ大丈夫。

その思いを胸にわたしは目を閉じた。


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