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第7話 強敵だよ!!



「なにあれ、かなり強そうなんだけどヒナタ知ってる?」


「見たことも聞いたこともないよ!」


 ヒナタも知らない魔物。βテストにはいなかった徘徊型の特殊ボスモンスターといったところだろうか。

そんな魔物と遭遇してしまうなんて運がいいのか悪いのか。【運気上昇】はちゃんと使用しているのに。


 極彩色の巨鳥は動く様子はなく、空から悠然とわたしたちを睥睨している。先手は譲ってやるという意思表示にも思える。強者の余裕というやつだ。


「どうする? 戦う?」


 ポーションもまだ残っているし、ミラージュ・ラビット戦が終わってから充分休憩したから疲労もない。新しいスキルも手に入ったし、他のスキルも成長した。やってやれないことはない。……多分。


「当然! 戦おう!」


 ヒナタならそう言うと思った。

 予想通りの言葉に苦笑を漏らし、緊張を少し緩めて改めて巨鳥を睨む。巨鳥は注視しても名前のウインドウが出てこない。

それだけ、特別な魔物だということなのだろう。


「やろう、エレーナ!」


「うん! 【アクア・シュート】!」


 ヒナタの声を合図に戦闘が始まる。

 手始めにわたしは、さっきまでと変わらず大きく翼を広げ滞空したまま動かない巨鳥にミラージュ・ラビットとの戦いで成長した【水魔法】の新しい魔法を放つ。


【アクア・バレット】が銃弾だとしたらこっちは砲弾だ。弾速は劣るけど、威力はこっちの方が高い。

その分、MPの消費は増えるけど、せっかく相手が親切に待っていてくれるのだから現状のわたしの一番強い魔法を撃つ事にした。


【アクア・シュート】は巨鳥の腹部に向けて真っ直ぐに突き進み、巨鳥は躱すそぶりも見せずに命中する。

 しかし、【アクア・シュート】を正面から受け止めた巨鳥の腹部には小さくダメージエフェクトが散っている程度で、その身体にはほとんどダメージが通っていないことがわかる。


 わたしの一番威力の高い攻撃を受けて、ほぼ無傷の巨鳥の姿に早くも挫けそうになるが、そんなときにヒナタが叫ぶ。


「ちゃんとダメージは通っているみたいだね、無敵とかじゃなくて良かったよ!」


 その言葉にハッとする。確かにそうだ、ダメージは少なくとも、ゼロでないなら勝ちの目はちゃんとある。諦めちゃダメだ。そんなのは冒険ではない。


「クアアアア!!


 ここで、巨鳥が動いた。

 今度はこっちの番だ、と言わんばかりに大きく翼をはためかせ、わたしに向けて爪撃を放ってくる。


「エレーナ!」


 ヒナタの声に反応してすぐに後ろに後退する。すると、わたしが居た場所にヒナタが飛び込んで巨鳥の爪撃を回転するようにギリギリで躱しながら青く輝く剣を一閃した。


「【スラッシュ】!」


 ヒナタの剣によって、片足を攻撃された巨鳥は仕切り直すように再び上空に飛翔した。

 実際に近づいてみてわかったけど、巨鳥はかなり大きい。ヒナタと比べてみても胴体だけで数倍、翼も含めれば一〇倍以上だ。


 あれだけの巨体に自ら飛び込んでいったヒナタの勇気には脱帽である。わたしにはできない。後衛だからやる必要がないけど。


「大丈夫?」


「うん、平気だけど、ちょっと掠った」


 巨鳥の爪撃を完全に躱したように見えたヒナタだったが、左腕から赤いダメージエフェクトが発生している。ヒナタのHPを見ると、その数値は半分にまで落ち込んでいた。

それだけで巨鳥の攻撃の威力が高さがわかり、戦慄する。


「ヒナタ、森に入ろう。正面から戦うのは多分よくない」


 幸い、蔓の檻は発生していないので、無理にこのエリアボス戦用の広場で戦う必要はない。空から攻撃してくる相手にここで戦うよりは森の中で戦った方がよっぽど良いはずだ。

森の中でならあの大きな身体は自由に動くことができなくなるので、むしろ不利になる。


「そうだね、まともに攻撃を受けたら一撃でやられそう」


 ヒナタも森で戦うのは賛成のようで、話は纏まった。わたしたちはすぐさま反転し森の中に突入した。



 ☆



 思った通り、森の中に入ったわたしたちには巨鳥もなかなか手を出せないようで、樹上を旋回しながらたまに爪撃を放ってくることしかしてこない。


 それでも、こちらの攻撃がなかなかダメージにならない現状は変わらず、お互いに有効打が無い拮抗状態が続いている。

しかし、より消耗しているのはわたしたちの方で、わたしのMPポーションとヒナタのHPポーションが有限である以上、このままではこちらが何もできなくなってしまう。


 ここは、一か八かの勝負に打って出ないといけない場面だ。

 幸いわたしにはその手段があった。後はうまくいくかどうかだけどそれはやってみないとわからない!


「ヒナタ! 巨鳥の気を引くことはできる?」


「やってみる!」


 突然のわたしの指示に何の疑問もなく答えようとしてくれるヒナタの姿に、嬉しさが込み上げてくる。

 この親友の信頼に応えるためにも、作戦を成功させなければならない、と気を引き締め直す。


 ヒナタは、巨鳥の気を引くために急に立ち止まる。それを不審に思ったのか巨鳥は視線をヒナタに固定し観察に回る。

 狙い通りのその巨鳥の姿に、ヒナタは笑みを漏らし、剣を緑に輝かせながらスキルを発動する。


「【エアー・エッジ】!」


 その場で振るった剣から、空気の斬撃が現れ巨鳥の翼に命中する。

【エアー・エッジ】は【スラッシュ】、【スラスト】に続く【剣】のアクティブ・スキルで、飛ぶ斬撃を放つというシンプルながらも強力なスキルだ。


 この戦いの最中に使えるようになったのだろう、わたしも聞いていなかったので驚いた。

 しかしそれ以上に衝撃を受けたのは巨鳥で、自慢の翼がここにきて初めて傷つけられたからか、さっきまでの余裕が消え去りヒナタを鋭く睨んでいる。

おそらく、その眼中にはすでにわたしの姿は無いだろう。ヒナタは最高の仕事をしてくれた。


 巨鳥の注意がヒナタに集中している隙に、わたしは近くの木の裏に隠れ、作戦を実行するまで待機する。


「クワァァアアアアア!!」


 やがて、巨鳥はヒナタに向かって爪撃を繰り出そうと動き出した。その速度は、今までで一番で、このままだとヒナタはこの攻撃を躱せずにまともに受けてしまうかもしれない。


 だけど、これでいい。怒りで巨鳥の注意が散漫になっているからこそ、この作戦は実行できる!


「そこ! 【アクア・シュート】!!」


 わたしは、巨鳥の攻撃を尻目に、巨鳥の進行を妨害するように聳える木に向かって魔法を放った。

 この魔法で木の幹は大きく抉れ、やがて巨鳥の身体を押しつぶすように倒れ込む。

 ヒナタに集中していた巨鳥はこの木に反応できずに為す術もなく木の下敷きとなってしまった。


「やった! 作戦成功!!」


「ひどいこと考えるなあ……」


 これがわたしの作戦!

 取得してから一切日の目を見ることがなかったスキル【環境破壊】を使った起死回生の一撃だ!


 ヒナタが巨鳥の気を引いていてくれなければ巨鳥はこんな作戦に引っかかるとは思えなかったし、運となによりもヒナタの協力が必要だったけど無事成功できた!


 ヒナタが何か言ってるけど無視だ無視。昔の人が言ったらしい──


「──勝てばよかろうなのだっ!!」


「……いいのかな?」


 良いのだよ!

 とはいえ、このまま一方的に攻撃し続けたとしても、多分倒しきることはできない。単純にこの巨鳥のHPが高すぎるのだ。

おそらく、サービス開始一日目で戦うような敵では絶対にない。

 だからここは──


「──羽根を毟って帰ろう!」


「……大丈夫かな、この親友」


 勝てない! でも、負けたくないし逃げたくない!

 なら、勝っても負けてもいない第三の選択肢。「素材だけ取って帰れば、実質的勝利」理論だ!

 昔の人はこういうことを戦略的敗北、戦術的勝利と呼ぶのだとか。多分。


 ということで早速、木に押し潰されて動けない巨鳥の翼から羽根を二枚毟り取り、すぐに撤退する。

 本当はもっと欲しかったけど結構大きいし、毟るのが大変だし、巨鳥のモノ言いたげな眼が気になるしで、二枚で妥協することにした。


 振り返って見るとヒナタはちゃんとわたしの後ろに着いて来ていた。その手にはわたしと同じくしっかりと、羽根が二枚握られている。あれだけわたしに文句言ってたくせにちゃっかりしてるなぁ。


「やったね! ヒナタ!」


 わたしのその言葉に複雑そうな表情から一転、満面な笑顔になってヒナタは応える。


「うん! やったね、エレーナ!」


 そのまま、わたしは右手を、ヒナタは左手を掲げ、思いっきりハイタッチした。

 静かな日暮れの森の中にわたしたちのハイタッチの音が響いた。


 わたしとヒナタの腕には色違いのお揃いの腕輪が輝き、わたしたちの勝利を祝福しているようだった。







お読みいただきありがとうございます!

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