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第5話 お金ないよ

 


 ヒナタに相談した結果、スキルスクロールで新しい魔法を使えるようになったほうがいいという結論になったので、ヒナタがβテストで利用していたNPCの魔法店に行くことになった。


「こっちの方だよ」


 ヒナタの案内に従って歩いて行くと、少しずつ喧騒な表通りから離れていき、やがて商業区の裏通りの方の人気がない路地裏に近づいていた。


「ちょっと、この辺本当に大丈夫なの?」


 周囲の不気味さと静寂さに、さすがに心配になって来たわたしは、思わずヒナタに尋ねてしまう。

 辺りは明らかに普通じゃない雰囲気だ。ガラの悪い人がいるわけではないけど、それ以前に人が全くいない。それが逆に不気味さを助長させる。

 こんなところに本当にお店があるのか疑問でしかない。


「大丈夫だよ。この辺は人払いの魔法で、ほとんど人が近づいてこないようにしてるらしいよ。これから行く店の店主のおばあちゃんが言ってたんだ〜〜」


「えぇ……それって、商売になるの?」




「商売にならなくて悪かったの」




「っひゃあ!!」


 ヒナタと話していたら突然、後ろから話しかけられて思わず声をあげて驚いてしまった。

 咄嗟に振り返って見てみると杖を突いたおばあさんがいて、目が合った。すると、今度はおばあさんが一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに素の表情に戻ってヒナタの方に視線を向けながら尋ねて来た。


「そっちの嬢ちゃんはいつだったかウチの店に来た見習いの魔法使いじゃな……剣士に転向したのかの?」


 ヒナタの腰に下げてある剣に気づいたのだろう、ヒナタはβテストで魔法職だったのだけど、正式版で近接職に変えようと剣を選んだのだ。


 そんなことよりも、おばあさん──NPCにβテストのときの記憶があることにわたしは驚いた。見ると、ヒナタも同じことに気がついたのか目を点にして驚いていた。


「うん、そうなんだ、近接主体にしようと思って……よく、覚えてたね」


「数ヶ月前のことじゃが、簡単に忘れるほど耄碌しているわけではないわい。失礼な娘じゃな」


 ヒナタの控えめに言って失礼な発言にも、おばあさんはカカッと笑いながらまるで気にしていない風に答える。


 この受け答えでハッキリ分かったが、どうやらβテストのときのログは消えているわけではなく、この世界の時間はβテストの時期から現実と同じように流れているらしい。だからどう、ということはないのだけど新しい発見だった。


「それで、今日はそっちの嬢ちゃんがウチの店に用があるってことで良いのかの?」


「あ、はい。ヒナタの友人のエレーナと申します」


「こっちは礼儀正しい嬢ちゃんじゃの。ワシはサンドラじゃ。とりあえず、話は店の中で聞こうかの」


 そう言って、サンドラさんは歩き出す。お店に案内してくれる、ということなのだろう。全く身に覚えはないけど、何故かサンドラさんからはわたしに対して好意的な雰囲気を感じる。


 隣で、「名前あったんだ」とか言って固まっている無礼認定された残念な親友をせっついてサンドラさんの後に続いた。



 ☆



 サンドラさんのお店は薄暗い裏通りに似合わない──と言っては失礼かもだけど、少し場違いな感じの綺麗なお店だった。

 看板には【ノーラ魔法店】と書いてある。


 お店の中には、試験管やビーカー、何に使うのか疑問に思うほどに大きな釜のようなものがあり、他にも売り物と思われる瓶に入った回復薬ポーションや巻物などいろいろなものが陳列されていた。


「それで、何が欲しいんじゃ?」


 興味が惹かれ、お店の中をしげしげと観察していたわたしに、いつの間にかカウンターの向こう側に座っていたサンドラさんが尋ねてくる。

 ヒナタは何故か大きな釜の中を覗いていた。何やってるのかな? ヒナタはときどきよくわからない。


「えっと、攻撃用の魔法のスキルスクロールが欲しいんです」


「攻撃魔法のスクロールか、それならこんなところじゃの」


 そう言ってサンドラさんはカウンターの下からいくつかの巻物を取り出した。初めて見るが、これがスキルスクロールなのだろう。読んで使うのかな?


「火、水、風、土、まぁこれは基本じゃな。少し珍しいのだと光、闇。攻撃魔法と言うとこんなもんじゃな」


「闇属性くださいっ!!」


 思わず、反射的に叫んでしまった……

 わたしはもともと、闇属性の魔法を使いたかったのだけど、キャラメイクで選択できる攻撃魔法のスキルは火、水、風、土の四種類だけだったのだ。

 思わず反応してしまっても許して欲しい。闇属性を使いたかった理由はもちろん、かっこいいからである。


 案の定、サンドラさんはわたしのあまりの豹変に面食らった様子である。

 それを見て、わたしは少し冷静になったけど、今度は羞恥心が込み上げてきた。


「す、すみません。……闇属性魔法はもともと欲しかったものでして……」


「あはは! エレーナは最初、闇属性魔法が選べないって聞いて落ち込んでたもんね〜〜」


 ヒナタにまで言われて、更に恥ずかしくなってくる。多分側から見たらわたしの顔は今、真っ赤になっているだろう。


「あ、あぁ。まぁ少し驚いただけさ。それで、闇だけでいいのかい?」


 サンドラさんにそう言われて少し考え込む。

 魔法を含む、能動的スキル──アクティブスキルには基本的にクールタイムというものがある。

 クールタイムとは、あるアクティブスキルを使用した後に、再度同じスキルを使うにはある程度時間が経ってからでないと使用できない。という制限だ。


 一つの魔法属性しか持っていない場合、クールタイム中に強力な魔法が使えず、何もできない状況に陥る。ということになる可能性もある。

 それを考慮すれば、ここで他の属性の魔法も使えるようになっておくべきだと思う。とはいえ、わたしの武器である【本】で他の魔法属性の代用が可能な点を鑑みると、絶対に必要だというわけではない。悩む。


 ちなみに、【本】カテゴリの武器、魔法書の付随スキルによる魔法の使用にはクールタイムが存在しない。【杖】に比べて威力が下がり、近接攻撃もできないという欠点がありながら、わたしが【本】を選んだ理由の一つだ。MPの兼ね合いがあるため、無制限というわけではないけど、同じ魔法を連発できるのは【本】の利点だ。


 わたしが【本】を選んだ一番の理由はかっこいいからだけど。


「ヒナタはどう思う?」


 こういうときは、素直に人に聞くのが一番だ。わたしだけで判断するよりも、LEOについてわたしより詳しいヒナタに聞いた方が絶対良い。


「そうだなぁ。あたしは他の属性も持っておいた方が良いと思うな。どうせ、スキルの枠もまだ全然埋まってないんだし、とりあえず取ってから考えれば良いと思うよ!」


 言われてみれば全くもってその通りだった。

 取るか取らないかで悩む以前に、悩む必要もない話だ。なんでこんなに悩んだのかわからない。

 さっきとは違った羞恥心が込み上げてくる。恥ずかしい……


「ええっと、じゃあ……闇と水で、お願いします」


「あいよ、闇が一万ジュエルで水が三千ジュエル。合計一万三千ジュエルじゃな」


 ジュエルというのはLEOのお金の単位だ。初期から所持しているジュエルは五千ジュエルで……









 ……って








「お金ないよっ!!」


 悩む以前の問題でした。







お読みいただきありがとうございます。

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