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第3話 戦闘したよ

 


「はあぁッ!!」


 ヒナタの剣が青いゼリー状の姿をした魔物──スライムの身体を切り裂き、スライムは赤いダメージエフェクトを散らしながら青いポリゴンとなり掻き消える。


「【フレイム・バレット】」


 わたしの左手の魔法書がパラパラと開き、魔法陣が浮かび上がる。すると、わたしの目の前にも同じ魔法陣が現れ、ヒナタが攻撃したのとは別のスライムに向かって火の弾が高速で飛び出した。

 それを受けたスライムは、赤いダメージエフェクトとともに先ほどのスライムと同じように青いポリゴンとなる。


【フレイム・バレット】は【本】スキルの初期装備の〈火の書・初〉で使える火属性の攻撃魔法で、高速の炎弾を敵に打ち込んで攻撃すると言うシンプルなものだ。


【本】は【杖】よりも威力で劣るとは言っても、スライムくらいなら【知力強化】のスキルもあるので十分倒せる。


 なにより、本がパラパラと開いて魔法陣が出てくるエフェクトがかっこいい。【杖】ではこうはいかないよね。ふふふ……


「ふぅ、これで十体目かな〜」


 剣を鞘に戻して、腕をぐ〜〜っと伸ばしながらヒナタが言う。その言葉に、没頭しかけていた意識が戻ってきた。


「……なんか、無抵抗の相手を一方的に攻撃するのもちょっと申し訳ない気分になるね」


 取り繕うように適当なことを言ってみた。とはいえ、少し気になっていたことだ。


 スライムは街に隣接した草原にいる魔物というだけあって、極めて危険度が低い魔物で、こちらから攻撃しないと何もしてこないのだ。

 こちらの攻撃はスライムをほぼ一撃で倒せるから、結果として無抵抗の相手をまるで的当てのように倒してるだけになっている。


「それなら、もっと奥の方に行ってみる? たしか、南の草原の奥には大きな森があって、そっちならアクティブの魔物も多いよ!」


「行ってみようかな。スライム倒してるだけじゃ新しいスキルも手に入らないし、スキルが成長してる感じもしないしね」


 LEOではスキルのレベルやキャラの能力値などといったものは、ほとんどマスクデータとして見れない仕様になっている。

 見れるのは基本的にHPとMPだけだ。これは、古参プレイヤーと新参プレイヤーの差が開きにくくなるようにするための措置らしい。


 とはいえ、製作陣のプロデューサーは「自分の能力と相手の能力を比較して、安全だとわかってから挑戦したり、無理だと判断して尻込みしたりするのは冒険じゃない! 無謀な挑戦、未知への探求、大いに結構! それこそが冒険だ!」と、豪語しているので、古参と新参の差などは建前に過ぎないと思われる。


 結果として、このプロデューサーの発言は反響が大きくLEOに対する注目が更に集まり、抽選倍率がとんでもないことになってしまうきっかけの一つとなった。


 同じ理由で、魔物やNPC、プレイヤーの能力を確認するスキルは極僅かにしか存在しないらしい。魔物の名前は注視することでウインドウに表示されるが、NPCやプレイヤーではそれすら表示されない。

 また、それに伴って倒されたときの代償、デスペナルティもかなり低く設定されている。


 LEOは『冒険』を第一のテーマとして作られたゲームなのだ。

 無抵抗のスライムをボコボコにするのは、決して、冒険ではない。


「それじゃあ、行こう! こっちだよ!」



 ☆☆☆☆



 南の草原を真っ直ぐ南下し続けてしばらくすると、正面に大きな木々が見え始めた。


「すごい。まさに森って感じだ」


「南の森は、街の東側にも繋がっていて、NPCの間ではどこかにハイ・エルフの集落や妖精の楽園があるって言い伝えられているらしいよ。付いた名前が【夢幻の森】!」


 ヒナタの説明を聞きながら歩いていると、やがて【夢幻の森】の入り口にたどり着く。

 大きな木々が視界を埋め尽くし日が遮られ、足場は木の根や植物の蔓で歩きにくそうだ。


「ヒナタ、足場悪いけどここで戦えるの?」


「大丈夫! βテストでもここでよく戦ってたから慣れてるんだ〜」


 そう言いながら、ヒナタはひょいひょいと身軽に森を歩く。本当に大丈夫そうだ。

 わたしは、森を歩く経験なんて今まで一度もなかったのもあってかなり歩きづらい。とはいえ、後衛のわたしならそれほど問題にもならないだろう。


「【夢幻の森】の入り口付近にはウサギの魔物とダンゴムシの魔物が主に出てくるよ。ダンゴムシの方はあんまり会いたくないかな〜〜。見た目がね〜〜」


 そう呟くヒナタ。ヒナタは昔から虫が苦手だからダンゴムシの魔物──ローリン・バグは見たくもないのだろう。


「っ! 来たかな」


 突然ヒナタが立ち止まり、ある一点を見つめて腰に佩いていた剣を抜く。

 ヒナタの見ている方向に注意を向けてみると、一本の木の裏から微かに物音がする。

 わたしもヒナタに倣って魔法書を左手に構えて待っていると、黒いネザーランド・ドワーフを大きくしたような姿のウサギの魔物──フール・ラビットが現れた。


「こんなに可愛いとちょっと気が抜けるね……」


「油断しない方がいいよ、こいつ結構早いんだ──来るよ!」


 ヒナタと話しているとフール・ラビットが正面から跳躍し、突進して来る。


「ふっ! 【スラッシュ】!」


 フール・ラビットの突進を余裕を持って躱したヒナタが、翻って首を切るような軌道でスキルを発動する。

 ヒナタの剣がスキル発動のエフェクトで輝き、青い軌跡を描きながらフール・ラビットの首を捉え赤いダメージエフェクトを散らす。


「せいっ!」


 ヒナタはそこにすぐさま背を撫で斬るようにもう一撃剣を放つ。

 すると、フール・ラビットはその場に黒い毛皮の素材を残し、ポリゴンとなって消えていった。


「おーっ! ヒナタすごいね!」


「フフン! まーね!」


 あまりにも鮮やかな戦闘に思わず素直な賞賛が出て来てしまった。それを受けたヒナタは鼻高々に得意げな表情だ。


 そんなヒナタの様子に苦笑しながら、近くの茂みに視線を向ける。茂みからはダンゴムシを大きくしたような魔物、ローリン・バグが出てきていた。たしかにこの見た目だとヒナタが苦手に思うのも無理はない。わたしは虫とか平気だけど、自分が少数派だというのは理解している。


「うげっ! ダンゴムシ!」


「今度はわたしがやってみるよ」


 そう言って、左手の魔法書をローリン・バグに向けて魔法を放つ。


「【フレイム・バレット】!」


 放たれた炎弾がローリン・バグに着弾し、緑のダメージエフェクトが舞い、殻のような素材アイテムを残しローリン・バグはポリゴンとなった。


 ローリン・バグが火属性に弱かったのか、わたしの魔法の威力が高かったのか。ローリン・バグを一撃で倒すことができたのは嬉しい。


「エレーナも、やったね!」


 ヒナタの賞賛に少しむずむずする。

 わたしはヒナタみたいに賞賛されて素直に得意げになったりできるような性格ではない。恥ずかしいから。


「さぁ! この調子でドンドン行こうっ!」


「お、おーっ!」


 やっぱり、ちょっと恥ずかしい。掛け声とか……







お読みいただきありがとうございます。

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