第4話 サルだよ
ザクロに乗って西に進むことしばらく。わたしたちは木が生い茂る森を前にして立ち止まった。
「ここから先は歩かないとダメっぽいね」
ザクロは身体が大きく、足も速いのでここまで来るのに普通に歩くよりもずっと早くて楽だった。途中で何人もプレイヤーを追い抜いてきて、道中で現れた魔物も鎧袖一触にした頼もしいザクロ。
だけど、森の中ではその巨体が災いしてまともに身動きが取れなくなるだろう。
「ありがとう、ザクロ」
ここまで大活躍してくれたザクロにお疲れさま、と感謝を込めて骨の頭を軽く撫でる。
「ありがとね!」
「ありがとうございます」
すると、ヒナタとクルネもわたしに続いてザクロにお礼を言って撫で始めた。
わたしたちに撫でられたザクロは骨をカラカラと鳴らして嬉しそうにされるがままにしている。見た目はかっこいいけど、やっぱりこの子の内面は人懐っこくてかわいい。
「【死霊送還:ザクロ】」
ひとしきり撫でた後、名残惜しいけどザクロを一度送還する。
紫色の魔法陣に飲み込まれて消えていくザクロを見て、ヒナタとクルネが寂しそうな表情をした。どうやら、この短時間でザクロは、ご近所さんのペットのワンちゃんみたいな扱いになったようだった。
「それじゃあ、行こう」
気を取り直すようにそう言って、森の方を指差す。二人は頷いてわたしの後に続いた。
☆
森の中は空気が澄んでいて、さわさわと風に揺れる葉の音とさらさらとどこからか聞こえる水流の音が聞こえてくる。キラキラとした木漏れ日は綺麗で暖かくて心地いい。足元の木の根にさえ気を付ければとても快適な環境だった。
「こういうのは、なんだっけ。デラックス?」
「デトックスですか?」
「そう! それ!」
夢幻の森は鬱蒼としたジャングルみたいな森だったけど、こっちはお散歩コースになりそうなくらいにのどかで心安らぐ雰囲気だ。
二人が話していた通りデトックス効果を感じる。デトックスって何なのかあまり詳しくないけど。毒素が何たらみたいな。クルネなら知ってるのかな?
道は踏み固められたような茶色の地面が続いていて、ところどころ木の根が出てるくらいでとても歩きやすい。わたしは夢幻の森以外の森というものを知らなかったので、こんな森もあるんだなぁ、と森に対する認識が少し変わった。
「キキーッ!」
そうしてしばらく歩いていると、わたしの背丈の半分くらいの大きさのサルのような魔物が、六体の群れで現れた。
「【アーミー・モンキー】、軍隊サル?」
ウインドウに【アーミー・モンキー】と表示されたその魔物は、キーキーと鳴きながら木を足場にしてわたしたちを囲むように展開し始める。
それを見たわたしは慌てて魔法書を左手に持ち、戦う準備を整える。ヒナタはアーミー・モンキーの姿が見えてすぐ剣を抜いていたようで、油断なく構えていた。クルネも投げナイフをいつでも投げられるようにしている。
「【死霊召還】!」
召還したのは、ゾンビとスケルトンが一体ずつ。六体までまとめて召喚することはできたけど、パーティを組んでいるときにそれをやるとあまり楽しくないので、とりあえず前衛としてこの二体を召喚することにした。
ゾンビにはわたしの周りに待機するように指示を出し、スケルトンにはクルネの護衛をしてもらう。
わたしがアンデッドを召喚してすぐにアーミー・モンキーが動き出した。
「よっ、と」
アーミー・モンキーの内一体がヒナタに飛びかかるけど、ヒナタはそれを危なげなく躱した。
しかし、それを皮切りに他のアーミー・モンキーたちも一斉に攻勢に転じてくる。
「キイィィ!」
わたしの方にも一体のアーミー・モンキーが突撃してくるが、ゾンビがその身体を盾にして防いでくれる。
「【ダーク・マインド】」
【ダーク・マインド】は【闇魔法】のひとつで、相手の動きを鈍くさせる状態異常【衰弱】を発生させる魔法だ。これをかけられたアーミー・モンキーは抵抗することができなかったようで、目に見えてノロノロとした動きになった。
「【アクア・インパクト】!」
その隙を逃さず、【水魔法】の高威力魔法である【アクア・インパクト】を放つ。水の塊が【衰弱】にかかったアーミー・モンキーに迫り、顔に着弾すると同時に弾ける。
その一撃で、アーミー・モンキーはポリゴンとなって消えていった。
【ダーク・マインド】は初めて使った魔法だけど、かなり効果的で使いやすそうな魔法だ。【死霊術】のゴリ押しではなかなか使う場面がなかったので、やっと日の目を見ることになった魔法だけどこれなら今後も積極的に使っていきたい。
ひとまずわたしの方は落ち着いたので、ヒナタやクルネの方に視線を向ける。ヒナタは二体のアーミー・モンキーを相手にしているけど、それほど苦戦しているようには見えない。
クルネの方はスケルトンがクルネを守りつつ、二体のアーミー・モンキーを攻撃し、隙を見つけてはクルネが投げナイフで牽制している。
それぞれ、二体ずつだけど残りの一体はどこに行ったのだろうか。ヒナタがすでに倒したのかな?
その後は、手の空いたわたしがクルネの方に加勢して二体のアーミー・モンキーをすぐに倒した。それが終わってからヒナタを手伝おうとしていたけど、ヒナタの方はすでに一対一の状態に持ち込んでいて、問題なく勝てそうだったので手を出さず終わるのを待つことにした。
「終わりっ!」
やがて、ヒナタが最後のアーミー・モンキーを倒した。
「お疲れ様」
ふーっ、と息を吐いて剣をしまうヒナタにそう声を掛ける。するとヒナタは笑顔で「おつかれー!」と返してくれる。
「お疲れ様でした」
「クルネもお疲れ!」
それにしても、ヒナタが三体もまとめて倒すとは。アーミー・モンキーがそれほど強い魔物ではなかったとはいえ、結構すごいことだ。
戦い方が洗練されていて見ていて感心しっぱなしだった。わたしとは別行動をしている間に随分とPSを上げていたらしい。
クルネも生産職だと言うのに、投げナイフで戦う姿は様になっていた。専門の戦闘職にはさすがに劣るとはいえ、アーミー・モンキーと戦っている限りでは全く問題はなかった。
これは、【死霊術】で数のゴリ押しをしている場合ではないかもしれない。ちゃんとPSを磨かなきゃダメかも。
それでも、【死霊術】を使った戦法はやめる気は無いけど、このイベント期間中にできるだけ他のPSを伸ばしたいな。わたしはそう決意を新たにしてこのイベントに臨むことにした。
「問題なく勝てたから、少し休憩したら探索を続けよう」
「おっけー!」
「はい!」
二人のやる気に満ちた返事に自然と頬が緩む。
わたしたちは、少し休んでから探索を再開した。この森にはどんなモノがあるのか、楽しみだ!
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