エレーナ、1人でダンジョンに挑む 後編
「ゾンビ、前に出て攻撃を防いで! ゴースト、魔法で攻撃して! 【アクア・シュート】!」
ゾンビに盾になるように指示を出し、ゴーストには魔法で攻撃するように指示を出して、わたしも魔法を放つ。
わたしの放った魔法と、ゴーストの放った魔法がスケルトン・ドラゴンに命中し、赤いダメージエフェクトが散る。
「よし、ちゃんとダメージは通るね」
ヒナタが不死鳥との戦いの時に言っていたことだけど、ダメージが通るなら勝てない通りはないのだ。
それにこのスケルトン・ドラゴンは不死鳥とは違ってしっかりとこちらの攻撃が効いているように見える。
ドラゴンという名前とその見た目の威圧感につい竦んでしまったけど、なんてことはない。これなら、ミラージュ・ラビットやグレート・ゴブリンと変わらない。普通に勝てる相手だ。
「っ! ゾンビ、受け止めて!」
カラカラと音を立てながらスケルトン・ドラゴンが動きだし、長い尻尾で薙ぎ払うように攻撃してくる。
それをゾンビのうち一体が真正面から受け止めた。そのゾンビのHPは今の一撃で半分近くまで削られてしまう。
「【死霊修復】!」
わたしはすぐにゾンビのHPを回復させる。【死霊修復】は【死霊術】のスキルの一つで、召喚したアンデッドのHPを回復させるという効果だ。
MPの消費も少なく使いやすいスキルで、ゾンビの耐久力にこれを合わせるととんでもない壁役が完成する。これの理不尽さにはヒナタも唸っていた。
閑話休題。改めて、戦闘の方に意識を戻す。
「防御力が低い代わりに攻撃力が高いタイプなのかな?」
わたしのゾンビのHPを一撃で半分も削り取ったことを鑑みるに、間違いなくグレート・ゴブリンよりも攻撃力は高い。
攻撃力が高く防御力が低いのなら、短期決戦で一気に決めてしまう方がいいと思う。
「【死霊送還:スケルトン】、【死霊召喚:ゴースト】!」
わたしは即座にこの戦闘で必要なさそうなスケルトンを送還し、新しくゴーストを追加で召喚した。ゴーストをまとめて四体。元々いたゴーストも合わせて六体だ。
【死霊召喚】では、新しくアンデッドを召喚するときに消費するMPの量が、すでに召喚されているアンデッドの量と比例して上昇する。
つまり、一体目のゾンビで5MPの消費だとしても二体目のゾンビには10MPが必要になる。と言った感じだ。
なので、MPポーションを飲み続けて無限に召喚する、なんてことはできない仕様になっている。一体あたりのMP消費量が、MPの最大値を越えたらそこまでだ。
これで合計八体のアンデッドを召喚した。わたしのMP量ではこのくらいが限界だ。これでも多い方である。おかげでMPは空になったけど、これでいい。
わたしはすぐにMPポーションを飲んでMPを回復させ、さらに新しいスキルを使用する。
「【魔法攻撃上昇】!」
【占術】の新しいスキルで、文字通り味方の魔法攻撃力を上昇させる効果がある。これの他にも物理攻撃力、物理防御力、魔法防御力のバリエーションもある。
わたしが【占術】を獲得した目的であるバフスキルだ。最近になってやっと使えるようになった。
しばらく【運気上昇】と【金運上昇】しか使えなかったけど、これで【占術】の本領発揮だ。
「やって、ゴースト!」
わたしのその言葉に、ゴーストたちはわたしの前にふよふよと整列して一斉に魔法を放つ。
火と闇の魔法の波状攻撃がスケルトン・ドラゴンに襲いかかる。
「すご……」
指示を出したのはわたしだけど、あまりの凄まじさに唖然としてしまった。
6体のゴーストによる魔法の一斉掃射が雨あられとスケルトン・ドラゴンに直撃して、轟音と風圧とダメージエフェクトが凄まじいことになっている。
これは本当にいいのだろうか? 運営さん、絶対【死霊術】の調整ミスってますよ!
わたしは思わず心の中でそう呟いた。
☆
その後もゴーストの波状攻撃は続き、スケルトン・ドラゴンの攻撃はゾンビと【死霊修復】で耐え続け、やがてスケルトン・ドラゴンはHPが尽き宝箱を残してポリゴンとなって消えていった。
「ふぅー……終わってみると今までのボスで一番楽だったかも」
スケルトン・ドラゴンはグレート・ゴブリンと同じで完全に物理攻撃に特化したボスだった。終始、ミラージュ・ラビットのようなスキルや魔法は使ってこなかったのだ。
それに加えて、身体が大きかったためゾンビへのフレンドリーファイアを気にする必要がなかったのも大きい。
こういう敵は今のわたしにとっては一番相性がいい。もし、スケルトン・ドラゴンに遠距離攻撃や火属性の攻撃手段があったなら、こんな簡単にはいかなかったと思う。
少なくとも、不死鳥にはこの戦法は通じないだろう。今回がたまたま上手くいきすぎただけだ。
【死霊術】の強さにかまけていると、どこかで手痛いしっぺ返しをもらうかもしれない。
油断はしないようにしないと。肝に銘じておこう。
気を取り直して、宝箱を開けて何が入っているのか確認する。
宝箱の中には、さっきのスケルトン・ドラゴンの頭部と同じ見た目のアイテムが入っていた。ウインドウを見てみると、アイテム名は【スケルトン・ドラゴンの亡骸】というらしい。亡骸と言う割には頭だけだけど。
「スケルトン・ドラゴンの亡骸、【死霊術】の触媒として使用できる……かぁ」
【死霊術】の触媒というのが何なのかわからない。わたしが【死霊術】を使用するときには特に触媒というアイテムが必要になったことはない。
「うーん……今はわからないかな」
【死霊術】のスキルが成長していけばその内わかる。そう判断してとりあえず納得し、わたしは【スケルトン・ドラゴンの亡骸】をインベントリにしまいこんだ。
「さぁ、次はこれだね」
そう言ってわたしは、部屋の奥に鎮座している赤い玉に目を向ける。
血のように濁った赤色で、なかなか不気味だ。
「〈死霊の宝珠〉、装備アイテムなんだ……効果は、【死霊術】のMP消費が半分になる!」
これはすごく嬉しい!
【死霊術】のMP消費が半分になるのはとんでもなく有用な効果だ。【死霊召喚】の消費が半分になるだけでもやれることが格段に増える。【死霊術】の代名詞的なスキルは【死霊召喚】だけどそのMP消費量がとにかく多い。それでも強いのだけど。
これはその問題をある程度解決してくれるアイテムだ。なぜ、よりにもよってこのアイテムをわたしが手に入れることになったのかは少し疑問だけど。
このアイテムは【死霊術】を持ってない人が手に入れても何の価値もない。それが、偶然にもわたしの元に転がり込んできたと思うと運命的なモノを越えて、作為的なモノを感じる。
だけど、悪いものではないしもらえるものはもらっておく。
もしかしたら、【死霊術】を所持していることがこの部屋に入るための条件だった可能性もある。わたしもスケルトンが壁の亀裂を見つけない限りはこの部屋に気づくことはなかったと思うし。
それはさておき〈死霊の宝珠〉は装備アイテムらしいので、とりあえずすぐに装備した。
不気味な見た目だけど強いのでもう二度と外すことはないだろう。
ヒナタとお揃いの〈夢幻兎の腕輪〉の次にお気に入りの装備になった。今この瞬間。
「あれ? どこに装備されたのかな……」
〈死霊の宝珠〉を装備したのに見た目に変化が一切ない。身体中を確認してみるけど、やはり見当たらない。
わたしは慌てて、ウインドウの装備アイテム欄を表示させ〈死霊の宝珠〉を探す。すると、〈夢幻兎の腕輪〉の下の欄。アクセサリの枠が一つ〈死霊の宝珠〉で埋まっていた。
それを確認したわたしはひとまずホッと安堵の息を漏らし、アクセサリ欄の〈死霊の宝珠〉が身体のどこに装備されているのか知るために詳細を見ようとして、気づく。
「えっ……【装備解除不可】……?」
燦然と輝いているようにすら見える【装備解除不可】の文字。
呪いの装備だったよ……
しかも、どこに装備されているのか何も書いていない。ハッキリ言ってすごく不気味だ。
もう二度と外すことはないだろう。なんて考えてたけど、実際にもう二度と簡単には外すことができないらしい。
わたしは一抹の不安を感じながらも、装備していてデメリットになることはないし、と一応の納得をしてウインドウを閉じた。
「さて、もうログアウトしちゃおっかな」
閉じる前に時計をチラッと確認したら、すでにこのダンジョンに潜ってから3時間も経っていた。
さすがに、わたしも疲れてきたので今日はこれでゲームを終わりにしてもいいだろう。
「その前に……【死霊送還】。みんなありがとね」
わたしは、召喚したアンデッドたちにお礼を言って送還した。【死霊術】で召喚されるアンデッドに意思は無いと思うけど、なんとなくいつもお礼を言ってしまうなぁ。
わたしはそんな他愛もないことを考えながらログアウトした。
なんだかんだあったけど、今日も楽しかった!
お読みいただきありがとうございます。
ブクマ、評価などもありがとうございます。