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エレーナ、ネクロマンサーになる 後編

 


 その後もダンジョンを順調に進んでいき、やがて大きな扉の前にたどり着いた。

 スケルトンも大いに活躍してくれている。この階層に出現する魔物ではまったく敵にならない。


「ボスだよね?」


 わたしがそう確認するとヒナタは頷いた。


「ミラージュ・ラビットくらい強いといいなぁ」


 そう言ってヒナタは右手に持った槍をくるくると回す。

 ヒナタはリキリアの本拠地で武器庫からもらってきた、たくさんの武器を無作為に使いまわして戦っていた。これは、せっかくいろんな武器を手に入れたのに、剣しか使わないのは勿体無いとかいう謎理論を展開したヒナタの新しい戦い方らしい。


 わたしは非効率では? とヒナタに言ってみたが、いろんな武器を使うのは楽しい。という理由で、この戦い方を続けることにしたらしい。

 ゲームは楽しむものだから、ヒナタが楽しいのならわたしから言うことは特にない。


「そうだね。あの頃より強くなってるし、もっと強くてもいいくらい」


 ヒナタの言葉にそう返しながらわたしも左手に魔法書を構える。

 不死鳥との戦いを通じて、スキルが成長したのもあるが【死霊術】を得たことでわたしは格段と強くなっている。

 このスケルトンはまだ【死霊術】の強さの一端でしかないのだ。さすがはリキリアの秘宝だ。


「準備はいいみたいだし、開けるよ!」


 わたしはヒナタに頷きで返し、緊張感を高める。

 扉の中を覗くと、奥の方に一体の緑色をした巨人が佇んでいる。

 ウインドウを確認すると、その魔物は【グレート・ゴブリン】という名前らしい。


 ゴブリンはこの迷宮でも出現していた魔物で、ヒナタが言うにはエルセーヌの東側の方の【夢幻の森】に棲息しているとのことだ。緑色の小さな人型の魔物で、それほど強い魔物ではなかった。

 そのゴブリンの上位種、ということだろう。他のゴブリンとは比較にならないほど強そうだ。


 わたしたちがボス部屋に踏み込むとグレート・ゴブリンは灰色の瞳をこちらに向け、睨みつけてきた。


「手始めに、【アクア・シュート】!」


 わたしの放った魔法がグレート・ゴブリンのお腹に直撃して、赤いダメージが派手に迸ほとばしった。


「はあッ!」


 グレート・ゴブリンが怯んだ瞬間にヒナタが近づき、お腹に追撃の槍を繰り出す。


「グオオオオオオオッッ!!!!」


 わたしたちの先制攻撃を受けたグレート・ゴブリンが怒ったように叫び、両手で持った巨大な斧を自らを中心として薙ぎ払った。


「っくうぅぅ」


 ヒナタはその攻撃を槍を両手で支え、槍の中心で受け止めることでガードに成功するが表情は辛そうだ。

 それを見たわたしは、一度ヒナタが後ろに下がる時間を稼ぐためにスケルトンに指示を出した。


「スケルトン! グレート・ゴブリンを抑えてっ!」


 わたしがそう言うと、スケルトンはカタカタと震えながらグレート・ゴブリンの元に駆けて行った。それを見て、ヒナタはわたしの意図を察したの即座にわたしの元に戻ってきた。


「ヒナタ、どうだった?」


「かなり攻撃力が高いよ。ちゃんとガードしたのに少しダメージ受けた」


 ウインドウからヒナタのHPを確認してみると少しだけ減少していた。

 少なくはあるが、完璧にガードしてこのダメージならその攻撃力は相当なものだと推察できる。


「それなら、壁役を召喚するね。【死霊召喚ネクロコール:ゾンビ】!」


 新しく召喚したのはゾンビ。スケルトンほど攻撃力は高くないけど、火属性に弱い以外は耐久力に優れたアンデッドだ。


 それを一度に三体召喚した。【死霊召喚ネクロコール】は一度使うと長いクールタイムが必要だが、同時に六体まで召喚することができる。

 さっきのスケルトンは確認のために召喚しただけだったので単体で召喚したが、今後は基本的には三体ぐらいでまとめて召喚することが多くなりそうだ。

 その分MPは消費するけど、三体なら全然問題ない。


「うわぁ……」


「まぁ、今回はその気持ちもわかるよ」


 ゾンビの見た目は腐った死体といった感じで、さすがのわたしもこれはかっこいいとは思わない。


「ゾンビは耐久力が高いからこの子たちに耐えてもらって、わたしたちで攻撃するよ」


 そこで、カラカラという音が聞こえてきてスケルトンとグレート・ゴブリンの戦いに視線を戻すと、スケルトンが崩れ落ちてポリゴンとなっていた。

 お疲れ様。ありがとう。


「ゾンビたち、行って!」


 わたしの指示にゾンビたちはノロノロとした動きでグレート・ゴブリンの元に向かって行く。

 ゾンビは遅いが、グレート・ゴブリンも遅いので問題はない。


「【ダーク・ニードル】!」


 念のため牽制に魔法を放つ。この攻撃でグレート・ゴブリンの動きが止まり、その隙にゾンビたちは距離を詰める。


「グロオオオオッッ!!」


 ゾンビたちを鬱陶しく思ったのかグレート・ゴブリンが先ほどヒナタに放った攻撃と同じものを放つが、ゾンビたちはそれを意に返さず受け止めた。


「あれをあんなに余裕で耐えるんだ……」


 ヒナタが思わずといった風に呟くが、わたしもこれには驚いた。思ったよりゾンビの耐久力が高い。


 ただ、その代わりとしてゾンビの攻撃力はかなり低いらしく、グレート・ゴブリンにひっかき攻撃を繰り出しているが、グレート・ゴブリンは一顧だにしていない。


「感心してないでヒナタも戦ってよ」


 わたしがそう言うと、ヒナタは槍をインベントリに仕舞い、剣を二本取り出した。それをそれぞれの手に構えグレート・ゴブリンに突撃する。


「【スラッシュ】!」


 ヒナタの左手の剣が青く輝きスキルを発動する。グレート・ゴブリンの左脚をすれ違いざまに斬り裂き剣き、赤いダメージエフェクトが散る。


「【スラスト】!」


 さらに、後ろに回ったヒナタは右手の剣でもスキルを発動し、黄色く輝く剣でグレート・ゴブリンの左脚の膝裏を貫く。

 二刀流でそれぞれの剣でスキルを発動するなんて、随分と器用なものだ。両利きのヒナタならではだと思う。わたしには絶対にできない。


 グレート・ゴブリンはこれに堪らず膝をついて体勢を崩す。


「ガアアアアアアアッッ!!!!」


 体勢を崩しながらも、グレート・ゴブリンは片手で斧を振りヒナタを退けようとする。ヒナタはその動きを読んでいたのか、即座に反応し一番近くにいたゾンビを盾にして回避した。


 体勢を崩したグレート・ゴブリンが立て直すのには時間がかかる。特にヒナタに斬られた左脚はもうまともに機能しないだろう。

 大きな隙を晒すグレート・ゴブリン。それを逃すわたしでもなく、即座に魔法を放った。


「【アクア・シュート】!」


 わたしの魔法は、グレート・ゴブリンの右目に命中し、赤いダメージエフェクトが激しく舞う。これでしばらくは右目が見えなくなるだろう。


 それを見て、ヒナタは即座にグレート・ゴブリンの右側に回り込み、剣を一本インベントリに戻し残りの剣を両手で持つと、新しい【剣】のスキルを発動した。


「【スラッシュ・ラッシュ】!!」


 スキルの光で赤く輝く剣で、今度はグレート・ゴブリンの右脚に連撃を繰り出す。【スラッシュ・ラッシュ】は隙はかなり大きいが、ヒナタが持つスキルで一番の火力を持つスキルだ。

 右目が見えていないグレート・ゴブリンに対してならかなり有効な攻撃だろう。


 これで両脚に大きなダメージを負ったグレート・ゴブリンは、傷付いた脚では身体を支えることができず倒れ込んだ。


「ナイス、ヒナタっ! ゾンビ! 今の内にグレート・ゴブリンに張り付いて動きを止めて!」


 こうしてしまえば、両脚を動かせないグレート・ゴブリンはもう詰みである。

 ゾンビにのしかかられたグレート・ゴブリンは完全に動きを封じられる。それでも、まだ健在な両腕を使ってゾンビを払いのけようとするが、それで何とかなるほどゾンビは甘くない。


 両脚を斬られ、ゾンビにのしかかられ、為すすべないグレート・ゴブリンにわたしは容赦なく魔法を放つ。


「【フレイム・バレット】! 【フレイム・バレット】! 【フレイム・バレット】!」


 魔法の連発。【本】は杖と違ってこれができるから強いのだ。MPが切れるまでわたしはひたすら魔法を連発する。


 わたしの魔法により、グレート・ゴブリンはゾンビ諸共炎上した。ゾンビは火属性に弱いので良く燃える。フレンドリーファイアが存在するLEOならではの戦法だ。

 激しく燃え盛るゾンビに張り付かれた状態のグレート・ゴブリンのダメージはいったいどれほどのものか。やがてゾンビのHPがなくなり、炎が収まったころには、グレート・ゴブリンは断末魔を上げながらポリゴンとなって消えていった。


 グレート・ゴブリンが消えた後には宝箱だけが残された。


「相変わらず、ヒドイ作戦考えるなあ」


 勝てばよかろうなのだよ。ヒナタ。

 それにしてもこの作戦は今後もかなり使えると思う。【死霊術】はスケルトンやゾンビを召喚するだけでも十分強いスキルだけど、どうせならもっといろいろと有効活用していきたい。


「そんなことより、宝箱の確認しようよ」


「まぁ、そうだね」


 苦笑を浮かべながらそういったヒナタは宝箱を開ける。その中に入っていたのは二枚の巻物だった。


「スキルスクロールかな? 今は確認できないから後でサンドラさんかリーナさんに見てもらおう」


 わたしがそう言うとヒナタは頷き、スキルスクロールをインベントリに入れた。


「じゃあ、帰ろっか!」


 ヒナタがそう言って部屋の奥に進んでいく。その先には魔法陣が床に描かれている。リキリアの本拠地にあったものとはまた別の転移魔法なのだろう。

 わたしもヒナタの後を追いかけ、ヒナタと一緒に転移魔法を起動させる。


「今回の冒険も楽しかったね」


 ヒナタにそう言って笑いかけると、満面の笑みを持って返してくれる。


「うん! 今回も楽しかった!」


 ヒナタのその言葉を最後にわたしの視界は白く染まった。







お読みいただきありがとうございます。

ブクマなどもありがとうございます。とても嬉しいです。

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