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エレーナ、ネクロマンサーになる 前編



「まさに洞窟って感じだね〜」


「なぜか明るいけどね」


 七月二六日。

 アルマの事件の翌日、わたしとヒナタはエルセーヌの世界樹の麓、大神殿にある【世界樹の地下迷宮】というダンジョンに来ていた。


 このダンジョンはプレイヤーだけが入ることが可能で、ゲームの進行状況に合わせて階層が追加されるという仕様になっている。


 現在の階層はまだ一層だけであり、難易度がそれほど高くなく手に入るアイテムも大した価値がないので、βテストを経験したプレイヤーなどからは【初心者ダンジョン】と呼ばれているらしい。


 また、ダンジョン内はパーティごとに別のサーバーに別れるようになっていて、新しいスキルや装備を更新したときなどに、それを試すのに適している。

 メタ的に言えば、運営の用意したプレイヤー育成機関のようなものだ。


 今回、わたしとヒナタは新しく入手したスキルと新しい装備を試すためにこのダンジョンを訪れていた。

 わたしはミラージュ・ラビットと不死鳥ソル・ミラとの戦いで二つ、リキリアの本拠地で一つのスキルを獲得した。

 前者では、待機中のMP回復量を上昇させる常時発動スキル──パッシブスキルの【集中】と、MPと知力に補正がかかるパッシブスキルの【奇策】。そして後者では……


「【死霊召喚ネクロコール:スケルトン】!」


死霊術ネクロマンシー】である。

 わたしがスキルで召喚したのはゲームやアニメ、漫画などいろんな話で雑魚キャラとして現れるお馴染みのスケルトン。

 骨格標本のような姿にボロボロの剣と盾を持った魔物だ。


 リキリアの本拠地で幹部さんからもらったスキルスクロールがまさかの【死霊術】だった。このスクロールはリキリアの秘宝だったはずだけど、幹部さんはこれをわたしに渡して良かったのだろうか?

 もしかしたら、幹部さんはわたしをリキリアの真なる王として見出したのかもしれない。


 それはそれとして、【死霊術】を使えるのはわたしとしても嬉しい。アンデッドを操るというのはかなりかっこいい。

 思想はともかく、あそこは多分善良な組織だし真なる王としてより良くリキリアを導くというのも吝かではない。ぶっちゃけ王とかかっこいい。


「うわぁ……」


 ヒナタがわたしの召喚したスケルトンをしげしげと観察しながら呟く。

 失礼な反応だ。こんなにかっこいいのに。

 とはいえ、わたしは自分の感性が普通と違うことは重々承知している。普通の人は骨格標本が出て来たらかっこいいと思うよりも、怖がったり不気味がったりするのだ。


「これってどこから骨が出てくるの?」


 一通り観察し終えたヒナタが、素朴な疑問といった風に聞いて来た。


「LEOのアンデッドは基本的に魔法生物らしいよ。たぶん、魔力でできてるの」


 これは、【死霊召喚ネクロコール】のスキル説明に『MPを消費して特定の魔法生物を召喚する』と書いてあったことからの推察だ。


 そうこうしていると、進行方向からフール・ラビットが現れた。

 このダンジョンの第一層にいる魔物は、エルセーヌの付近に棲息している弱めの魔物の中から選ばれている。

 フール・ラビットもその内の一体だ。


「やっちゃえ! スケルトン!」


 わたしがそう言って指示を出すとスケルトンはカタカタと震えながら走り出し、フール・ラビットを剣で攻撃した。

 その一撃でフール・ラビットは呆気なく倒され、ポリゴンとなって消え去った。


「あれ? 思ったより強いね」


 ヒナタが意外そうにそう呟く。これはわたしも少し意外だった。少なくとも二回くらいは攻撃が必要だと思っていたのだ。


「【死霊召喚ネクロコール】で召喚されたアンデッドは召喚者の魔法攻撃力によって変わるらしいけど……【奇策】とこの装備のおかげかな」


 そう言ってわたしは自分の着ている新しいローブを見下ろす。

 黒を基調としたゆったり目なローブで、袖は腕を伸ばして指先が少し出る程度の長さで、丈は膝下ぐらい。

 このローブは生産職のクルネに作製を依頼していた防具で、今朝ヒナタと共に受け取りに行ったものだ。


 ヒナタの方は白を基調とした動きやすさを重視した軽鎧を装備している。こちらもクルネの作品で、わたしの黒とヒナタの白で対になるようにしたらしい。


 このローブは防御力はそれほど高くないが、代わりに魔法攻撃力に補正が掛かるようになっている。

 これが要因でスケルトンの能力が強化されているのだろう。クルネには感謝だ。


 何よりこのローブがまさに魔法使い! って感じがしてわたし好みだ。かっこいい。

 裏地に使われている赤色がところどころ見え隠れするのがわたしの一番のお気に入り。

 昔の人はこういうことを、チラリズムと言っていたらしい。多分。


「それじゃあ、どんどん進もう!」


「お、おー!」


 ヒナタの掛け声にわたしも掛け声で返し、さらに先に進む。

 すでに掛け声の恥ずかしさは少し慣れてきていた。







お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価などもありがとうございます。

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