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序章 エピローグ ──────に花束を

この話だけ三人称となっております。

三人称を書くのは初めてなので、拙いところがあると思いますがご了承ください。

 


 中央神聖都市エルセーヌ。

 その南西の田園区の一角にある小高い丘には石碑が居並ぶ地帯がある。ここは、エルセーヌの住民が亡くなった者を埋葬する墓地だ。


 そこに、一人の老婆──サンドラが訪れていた。


「馬鹿弟子が。ワシより先に逝きおって」


 一つの墓石の前で立ち止まったサンドラは、吐き捨てるようにそう言った。サンドラの表情はどこか自嘲的である。


「ワシではアルマに何もしてやれん。お主に何もかも任せていたツケじゃな」


 サンドラは弟子の娘──アルマが誕生したその日から、自らの弟子と一定の距離を取るようになっていた。

 原因は弟子との意見の相違や個人的な感情など、様々なものがあったが最終的には弟子の選んだ道であれば背中を押すべきだと、一歩引いた立場から見ていようと。そうして距離を取った。


 サンドラも弟子とその娘を大切に思っていたことに変わりはないが、それでも距離を取る道を選んでしまった。


 サンドラはいつまでも師匠である自分と共にいるだけでは、弟子が成長できないと判断したのだ。サンドラの弟子は【錬金術】において、才能に溢れており、いずれは己を超える錬金術士になるという確信もあった。だから、距離を置いたのだ。


「全く。自分が嫌になるの。この歳になっても後悔ばかりじゃ」


 その結果、アルマとは本当の意味で家族のような関係を築くことはなかった。アルマには弟子がいるから問題はないと、それが弟子の選んだ道であると、サンドラはそう自分に言い聞かせた。思えばそれは、滑稽なものだった。


「はぁ、後悔しても仕方ないの。これからはアルマのことをもっと気にかけてやらねばならん」


 ──せっかく嬢ちゃんたちが機会を作ってくれたのじゃからな。

 サンドラはそう言って、小さく笑みを浮かべ墓前に花束を供えた。


「あの〜……師匠……?」


 サンドラは自らの背後から聞こえたその声に耳を疑った。何せ、一月前に自らが最期を看取った馬鹿弟子の声だったのだ。

「ついに、歳か」そう呟いてその場を去ろうとしたが、そこに待ったがかかる。


「ちょっと! 師匠! 無視するなんてヒドイわ!」


 サンドラは今度こそ本当に自分の頭がおかしくなったのだと思った。ここまでハッキリと幻聴が聞こえるのはおかしい。

 ようやく、これからアルマとの関係を良くしようと決意した直後だ、このタイミングでボケが来るとは。思わずサンドラは自らの運命を呪った。


「もしかして、師匠はわたくしのことを嫌いになってしまったのかしら? 悲しいわ……」


 サンドラはここにきて、やっと背後を振り返った。

 サンドラの背後にいた女性は、銀色の髪を腰ほどまでに長く伸ばし、金色の瞳を持った女性。

 その女性は、腰に手を当てて如何にも怒っています。といった様子で目を細めてサンドラを見ているが、その表情には喜びが隠しきれていない。


 サンドラはその女性に胡散臭そうな視線を送る。何せ、女性の身体は何故か全体的に透けていて、脚などふくらはぎから下はほとんど見えない。更に宙に浮いているのだ。


「お主の錬金術は外道、邪道の類だと何度も忠告したが、遂に化けて出おったか」


 やはり、女性はサンドラのよく知る人物だった。とある場所で引き取り、娘のように育ててきた弟子だ。しかし、弟子はすでに死んだ。これはどういうことか。とサンドラは思った。


「違うわ。エレーナちゃんがわたくしを甦らせてくれたのよ。なぜか霊体なのだけれど」


 ──【不死鳥の羽根】を使ってくれたのよ。

 そう続けた、弟子の言葉にサンドラはまたも耳を疑った。


 それもそのはずである。【不死鳥の羽根】はとんでもなく稀少なモノで、世界を見渡しても所持している人物などほぼいないだろうと確信できるほどの代物だ。


 それを持っているだけでもありえないのに、剰え知り合ったばかりの少女の母親を甦らせるために使ったのだ。サンドラは驚くなんて言葉では到底足りないほどに驚愕した。


 だが、それと同時に感謝もした。これほどに貴重なモノを使って弟子を甦らせてくれたのだ。嬉しくないわけがない。


 特に、サンドラは錬金術士であるために、【不死鳥の羽根】の価値は他の者よりもよく知っていた。これが一つあればどれだけの伝説級の魔法道具が作れるか…………


「わたくしも驚いたわ。気がついたらアルマちゃん達の前にいて、身体が霊体で……おまけに話を聞いてみると【不死鳥の羽根】を使ったなんていうの。驚きすぎて腰が抜けそうになったわ」


 弟子の驚きは、ともすればサンドラ以上のモノだった。何せ、確かに死んだはずなのに甦ったのだ。驚くなんて言葉では効かない体験だった。むしろ、この程度の驚きで済んでいるのは弟子の生来のおっとりした性質が原因である。


「でも、とても嬉しいわ。また師匠やアルマちゃんと会えて、エレーナちゃんやヒナタちゃんにも出会えたのだもの」


 そう言って手を合わせて、ニコニコとした笑顔を浮かべる弟子の姿にサンドラはゴチャゴチャと考えるのが馬鹿らしくなった。

 やがて、諦めたようにため息を吐いたサンドラはゆっくりと歩き出した。


「帰るぞ、アデルリーナ。そろそろ日が暮れる」


 その言葉に弟子──アデルリーナは苦笑を浮かべサンドラの横を浮いて移動する。


「今夜のご飯はフール・ラビットのお肉が食べたいわ。久しぶりに師匠の手料理が食べたいの」


「お主、その身体で食べられるのか?」


「わからないわ! 試してみるために作ってほしいわ!」


 はあ、この馬鹿弟子は……そう呟いたサンドラの表情には確かな笑みが浮かんでいた。


 サンドラは目を細めて空を見上げ、ゆっくりと地平線の向こうに沈んでいく太陽を見つめた。

 サンドラはアデルリーナを亡くしてから止まっていたように感じていた自らの時間が、ようやくゆっくりと動き出したように思った。










 墓前に供えたピンク色の花束が風に揺れ、甘く優しい花の香りが夕焼けの空に溶けて消えていった。











 ♢



 あの事件から数日、エレーナとヒナタは商業区にある本屋を訪ねていた。


 店内は理路整然とジャンル分けされた本が所狭しと並び、カウンターでは店番の少年が船を漕いでいる。


「えーっと、あっちの方かな」


 エレーナは本棚の本を確認しながら目的の本があるであろう、場所を探す。


「指南書……歴史……小説……童話。この辺だね」


 ヒナタがそう言い、二人は1つの本棚の前で立ち止まった。


「あたしは本のタイトルとか覚えてないんだけど、エレーナはわかってるんだよね?」


 その言葉に、ハッとするエレーナ。

 冷や汗がダラダラと流れる。例の本を買いに来ようと意気揚々と本屋に来たのに、欲しい本のタイトルを忘れてしまったのだ。

 エレーナのその様子に気づいたヒナタは思わずジト目になりながらエレーナを見つめた。


「あー……えー……っと。そうだ! メモってたはず!」


 エレーナは慌ててウインドウを開きメモ欄を確認する。ウインドウをスライドし、下に流れていくメモを目で追い…………見つけた。


「あったの?」


「うん、ちゃんとメモしてたよ。さすがわたし」


 その言葉にヒナタのジト目が更に細くなるが、エレーナは気にせず。本棚に指を沿わせ目的の本を探し始めた。

 そしてしばらく、やがてエレーナの指が一冊の本の前で止まる。


「この本?」


「うん、これだ。不死鳥の童話」


 エレーナはもう一度、ウインドウからメモを出し改めて確認する。間違いはない。


 その本を手に取り表紙を見る。表紙には一人の少女と一人の女性が手を繋ぎ、笑みを浮かべている様子が描かれていた。

 周りにはスイートピーの花が咲いていて、二人を優しく彩っている。





「タイトルは────





















 序章 アデルリーナに花束を。 fin

お読みいただきありがとうございます。


この話で序章は完結となります。

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