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第14話 泣いてもいいんだよ

 


【ノーラ魔法店】に戻ったわたしとヒナタは、【身隠しのマント】と【見破りの指輪】を外して、サンドラさんの案内の元、二階にあるアルマの部屋に入り、アルマをベッドに寝かせた。


 それを見てサンドラさんは心底安心した、という表情でわたしたちにお礼を言った。


「アルマを連れ戻してくれて感謝する。この恩は必ず返すぞ」


「あたしたちも、アルマちゃんを助けてあげたかっただけだから」


 ヒナタはそう言い、わたしに視線を向ける。わたしはその視線に頷いて答える。

 とはいえ、何もお礼をもらわないというのもサンドラさんに気を使わせてしまうだろう。


「それなら、これからここで買い物するときに少し安く買わせてください」


「お安い御用じゃ。今後も良いものを安く売ってやろう」


 わたしのその言葉に、サンドラさんは笑みを浮かべ揚々と頷いた。今でもかなり割り引いてもらっている気がするが、これからもこのお店をたくさん利用するつもりだからちょうど良い。


「……ん、おばあちゃん?」


 そうこうしていると、アルマが目覚めたようだ。わたしはヒナタに視線を送り、一度外に出ることをサンドラさんに告げてからヒナタを伴って一階に降りることにした。

 ここは、しばらく二人にした方がいいだろう。積もる話があるはずだ。



 ☆



 お店の一階でしばらく待っていると、話が終わったのかサンドラさんが二階から降りてきた。肩の荷が下りたのだろう、その表情は先ほどまでとは違って穏やかで、今朝のような焦燥していた雰囲気は霧散していた。


「おばあちゃん、話はおわったの?」


「あぁ、ワシは少し用があるのでな、しばらく外に出てくる。その間アルマに会いに行ってやってくれ、今のアルマには嬢ちゃんたちが必要じゃ」


 特にそっちの嬢ちゃんはな。とわたしの方を見るサンドラさん。

 もともと、わたしたちもアルマと話したかったので願ってもいない申し出だ。


 それではの。と言ってお店を出て行くサンドラさんを見送ってから、わたしたちは二階のアルマの部屋を訪れた。


「アルマ、入って平気?」


「はい! どうぞ!」


 思った以上のアルマの元気の良さに面食らう。サンドラさんはアルマとどんな話をしたのだろうか?


 部屋の中に入るとアルマがベッドから身を起こして丁寧にお辞儀した。


「おばあちゃんからお話は聞きました。今回はわざわざわたしのために本当にありがとうございます。ヒナタさん、エレーナ……お姉ちゃん」


「ううん、アルマが無事でよかったよ」


 そう言ってわたしはアルマの白い髪を撫でる。

 さらさらで手入れが行き届いた綺麗な髪だ。とても撫で心地がいい。アルマは特に何も言わずに受け入れてくれている。


 それにしても、お姉ちゃん呼びとは。それだけわたしに心を許してくれたということなのだろう。とても嬉しい。自然と頬が緩むのを感じる。

 妹がいるとこんな感じなのかなぁ、なんて思う。わたしは姉さんはいても妹はいなかったのだ。


「それで、お母さんのことなんですけど……」


 アルマはそう言って、意を決したように話し始めた。


「わたしのお母さんは、今から一ヶ月くらい前に魔物に襲われて死んでしまったんです」


 アルマは小さく拳を握る。その手は微かに震えていた。


「とんでもなく強い魔物で、お母さんもおばあちゃんも倒すことはできないって」


 サンドラさんにして、倒せないと言わせるほどの魔物……

 アルマのお母さんがどのような人だったのかはわからないけど、サンドラさんの凄さは人払いの魔法や【身隠しのマント】を通して十分知っている。


「なんとかして、封じ込めることはできたらしいですけど、そのときの戦いの怪我が原因でお母さんが…………」


 辛そうな表情でそう言うアルマ。その表情を見るとこっちも辛くなるけど、アルマはそれ以上に辛いのだ。それなのに、アルマは気丈に続ける。


「本当はわかっているんです。死んじゃった人は甦ったりしないって……おばあちゃんも【死霊術】はそんな便利な魔法じゃないって、わかってたんです……私も最初から」


 アルマは目に涙を溜めながら、話を続ける。


「おばあちゃんは、お姉ちゃんやヒナタさんみたいに私を思ってくれる人は他にもたくさんいる。……だから……辛いことにだけ、目を向けてないで、もっと……って」


 最初の元気は、どうやらカラ元気だったようだ。

 話しているうちにだんだん涙ぐみながら、しどろもどろになっていく。それでも一生懸命に話すアルマの姿に、やがて耐えきれなくなったわたしは思わずアルマを抱きしめた。


「……辛かったら泣いていいんだよ。いっぱい泣いて。わたしも、ヒナタも、もちろんサンドラさんもいる。アルマは一人じゃないよ」


 わたしがそう言うと、アルマはわたしの背中に腕を回し力を込めた。アルマの身体は震えていて、とても弱々しく思えた。それでも、わたしの背中に回された腕には確かな力がこもっていた。


「おねえ……ちゃん……ううぅ、ひぐっ、うぐっ……」


 わたしは必死に声をあげて泣くのを我慢して、嗚咽を漏らすアルマの頭と背を壊れ物を扱うように優しく撫で続けた。泣いてもいいんだよ。我慢しなくていいんだよ。わたしが受け止めるよ。


 言外にそう伝えるように、この小さな少女に、新しいわたしの妹に元気になってもらいたい一心でひたすらそれを続けた。


「ああぁ……おかあ、さん……うわああぁぁぁぁあああああああっ!!」


 やがて、わたしの思いが通じたのかアルマは声をあげて泣きだした。

 わたしも小さい頃は辛いことがあったらよく、お母さんはや姉さんにこうしてもらっていたのだ。これをされると思いっきり泣ける。

 そして、散々泣いたら気分がいくぶん晴れて楽になるのだ。

 だから、今はたくさん泣いてほしい。



 ☆



 それからしばらくアルマは泣き続けていたがそれも収まり、腕にこもっていた力が抜けた。


「あの……ありがとう、お姉ちゃん」


 アルマは赤い目を擦って恥ずかしげにお礼を言ってくれる。さっきまでの敬語も抜けている。これがアルマの素なのかもしれない。

 思えば、リキリアの本拠地からの帰り道に一度だけ起きたアルマは敬語を使っていなかった。

 こうして素を見せてくれると距離がグッと縮まったみたいで嬉しい。


「もう平気?」


「うん、お姉ちゃんのおかげ」


 そう言ってまた抱きついてくるアルマ。

 かわいい。妹っていいなあ。


「そっか」


 頭を撫でると嬉しそうな顔をして頭をグリグリと押し付けてきた。小動物みたいだ。好き。


「……あの〜」


 と、ここでさっきからずっと存在感を消していたヒナタがおずおずと声をあげた。

 ヒナタはアルマが話し始めたときからだんまりと何かを考えている様子だったのだ、その考えがまとまったのだろうか?


「どうしたの、ヒナタ?」


 わたしがそう尋ねるとヒナタはとんでもないことを言い出した。


「えっと、アルマちゃんのお母さんを生き返らせられるかもしれないよ」


「っ! どういうこと?!」


 思わず、ヒナタの肩を掴んで揺すってしまう。

 アルマは目を見開いて驚いた表情をしている。わたしも似たような表情をしていることだろう。


 ヒナタは「かも」と言っているけど、きっと確信があるのだろう。その表情には自信が窺える笑みが浮かんでいる。

 ヒナタは冗談でもこういうことは言わない。それぐらいは親友としての長い付き合いで良くわかっている。それなら……


「エレーナ落ち着いて、ちゃんと話すから」


 その言葉にハッとして、ヒナタの肩から手を離す。

 あまりわたしが取り乱したりするとアルマが不安を感じてしまうかもしれない。一度、深呼吸をして心を落ち着かせながら視線でヒナタに続きを促す。


「えっと、今のこの状況、なんか既視感あるなって思って──」


 それからヒナタが話したのは、わたしたちが鍛冶屋の図書室で読んだ一冊の童話の話だった。

 大切な人を亡くした主人公が、不死鳥に力を借りて大切な人を甦らせるという……


 そこまで聞いてようやく気づいた。

 わたしたちはソル・ミラとの戦いで何を成したのか。


 最終的にはわたしの奇策で勝ったが、そもそもソル・ミラはあの程度の奇策など正面から破る力を持っていた。それでも甘んじてわたしの奇策を受けたのだ。


 あれは、ソル・ミラに何の意図があったのか。童話では不死鳥は主人公の力を認め、自らの力を授けていた。

 同じだ。ソル・ミラはわたしたちを試していたのだ。なぜ、数多くのプレイヤーの中からわたしたちを選んだのか理由はわからない。

 だけど結果としてわたしたちは、力を示しソル・ミラに認められた。


「……これ」


 わたしはインベントリから1つのアイテムを取り出した。【不死鳥の羽根】その効果は──


「──死者の魂を呼び戻す力……」


 これで、アルマの母親を……わたしがそう考えた瞬間、【不死鳥の羽根】から激しい炎が噴き出した。

 しかし、その炎は暖かく、優しい炎だった。

 どこか懐かしさすら感じる。

 慈愛に満ちた、まるでお母さんのような…………















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