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第13話 帰るよ

 


 執務室を出たわたしは、アルマを助けられそうだということをヒナタに連絡し、すぐにアルマを助けに行くことにした。


「右手側に三番目…………ここかな」


 扉自体は鍵が掛かっていること以外は転移魔法の部屋や執務室の扉とほとんど同じ。このリキリアの本拠地には牢獄のような場所はないのだろう。


 幹部さんはアルマを閉じ込めている。と言っていたが、その通りの意味で、盗人として捕らえているというよりも扱いに困って軟禁しているような印象を受ける。


 いよいよ、リキリアが割と善良な組織説が真実味を帯びてきた。思えば、サンドラさんもリキリアが悪い組織だとは一言も言っていない。

 少々厄介な思想を持った宗教組織だが、それだけなのだ。むしろ、犯罪行為は行なっていないと太鼓判を押していたくらいだ。


 ……これ、もしかして潜入とかしなくても普通に交渉すればアルマを解放してくれていたのでは?


 まぁ今はその辺のことは置いておいてもいいだろう。事実はどうなのかわからないのだから考えても仕方ない。

 今やることをやるのだ。早くアルマを助けよう。


 がちゃり、と鍵を開け扉を開いて中を覗き込む。こちらも執務室と同様明るい。部屋の中にはベッド、テーブル、ソファー、クローゼットなどあらかたの家具が揃っていて、普通にわたし室や客室として使えそうな部屋だった。


 肝心のアルマはベッドで眠っていて、わたしが入ってきたことに気付く様子はない。一先ず、ぐっすり眠れる程度には落ち着ける環境のようだ。


 わたしは【身隠しのマント】を一旦外して、アルマの元に行く。


「アルマ、起きて」


 アルマを起こそうと揺すってみるが、起きない。


「んぅ……おかあさん……」


 寝言で母親を呼ぶアルマの姿に心が痛む。昨日出会ったときは彼女の事情を知らなかったが、今は違う。


 できれば、わたしがアルマに何かしてあげたいけど亡くなったアルマの母親を甦らせるようなことはわたしにはできない。

 死んだ人が生き返らないのはLEOでも現実でも一緒だ。プレイヤーは例外だけど、わたしたちはLEOで倒されても現実で死ぬわけではないのだから根本的には同じことだと思う。


 暗くなってしまう考えを首を振って払う。今はアルマを助けることに集中するのだ。

 とはいえ、あまり大きな声は出せないし、このままアルマが起きるまで悠長に待つわけにもいかない。


 ここは仕方ないのでアルマを起こすのを諦めて、背負って行くことにする。現実のわたしで同じことができるとは思えないが、LEOの中でなら多分できる。魔法使いとはいえ、筋力が全く育たないわけではないのだ。当然ヒナタには負けるけど。


「よいしょっ……思ったよりも軽いかな。これなら大丈夫そう」


 アルマを背負い、改めて【身隠しのマント】をアルマにもかかるように装備し直す。眠っているアルマになら、ブランケットの代わりとして丁度良さそうだ。

 規則正しく呼吸をするアルマの体温を背中に感じながら、ヒナタに帰ることを告げ、わたしは転移魔法の部屋への道を戻った。



 ☆



 ヒナタは少し遅れるかも、とのことでわたしは転移魔法の部屋でしばらく待つことになった。

 アルマはまだ眠っていて、しばらく起きる様子はなさそうだ。もしかしたら、昨夜ちゃんと眠ることができなかったのかもしれない。今しっかりと眠れているのならこのまま寝かせてあげたい。


 アルマをずっと背負っていて少し疲れたが、床に寝かせるわけにもいかないし、何よりこうしているとわたしがアルマの力になれている気がして嬉しいのだ。アルマの安心したような顔を見ると頬が緩む。


 しばらくそうして待っていると、扉が開いた。一瞬身構えたが、それがヒナタだったのですぐに警戒を解く。


「ヒナタ、遅かったけど何かあったの?」


「うん、ちょっとね。……それより、その子がアルマちゃん?」


 何か話をはぐらかされたような気がするが、悪いことがあったわけではなさそうだ。ヒナタの顔には小さく笑みが浮かんでいる。

 このことについては後でキッチリ話を聞くとして、今はヒナタの質問に答えよう。


「そうだよ、なかなか起きなくて」


「ぐっすりだね〜〜」


 そう言ってヒナタは安堵したような表情でアルマの頭を軽く撫でる。

 ヒナタもずっと心配していたのだ。こうして無事な姿を見られて安心したのだろう。


「じゃあ、ヒナタも来たことだし帰ろっか」


 わたしはそう言って部屋の中央に向かう。

 アルマを助け、ヒナタと合流できたのだからいつまでもここにいる理由はない。早く帰ってサンドラさんとアルマを合わせて安心させたい。


「エレーナ、ずっと背負ってるの? あたしが代わろうか?」


「ううん、大丈夫だよ」


 ヒナタがわたしを気遣って申し出てくれるけど、首を横に振って遠慮する。

 わたしがこうしていたいのだ。


「おかあ……さん」


 今はこのままで。おやすみ、アルマ。



 ☆



 リキリアの本拠地から脱出したわたしたちは、そのまま何事も無く鍛冶屋を出て、【ノーラ魔法店】への帰り道を歩いていた。


【身隠しのマント】は念のためまだ身につけたままだ。リキリアの追っ手が付くかもしれないし、そもそもアルマを唆した何者かがまだ近くにいて接触してくる可能性がある。

 お店に帰るまでは外さない方がだろう。


 そんななか、気になっていたのでヒナタの遅れた理由を聞くことにした。


「実は武器庫みたいな場所を見つけてね。宝物庫ってほど良いものがあったわけじゃないんだけど、今の武器に比べるとね〜〜」


「それで物色してきたってこと?」


 もしそうなら、大変申し訳ないことだ。

 現状、わたしの考察ではリキリアは善良な組織の可能性がかなり高い。そんな組織から物資を盗んできたのだとしたら罪悪感がある。


 わたしはちゃんと幹部さんに許可を得て、スクロールと魔法のティーポットをもらってきた。言葉にして許可を得たわけではないが、状況証拠的に考えてそうなのだ。

 ヒナタとは違うのだ。


「いや〜〜……全部もらってきちゃった!」


「なっ!?」


 思わず変な声が出てしまった。

 全部って……ダメでしょ。1つくらいならなんとなく許されるかな? とか思っていたけどさすがに全部は許してくれないと思う。

 いくらリキリアや幹部さんが優しくても限度がある。


「まぁ、悪い組織から武器を没収したと考えれば、むしろ良いことだよね!」


 そんなことを言いながらスキップしそうなくらい元気に歩き出すヒナタ。

 なるほど、合点がいった。ヒナタはリキリアを悪い組織だと思っているのだ。

 サンドラさんの話だけでは、リキリアは良い組織なのか悪い組織なのかハッキリしない。


 わたしの場合は幹部さんの優しさを知ったからこそ、リキリアが善良な組織である可能性に気づいたが、ヒナタは幹部さんと出会ってもすぐ別れた。

 ならば、ヒナタに教えてあげるべきだろうか?


 いや、それは良くないと首を振る。

 ヒナタは幹部さんと同じかそれ以上に善良な性格なのだ。もし、知らぬこととはいえ自らが悪いことをしたとわかったら落ち込んでしまう。

 世の中には知らない方が幸せになれる事実が多いのだ。

 うん、そうしよう。わたしはこの真実を自らの胸の内に秘めておくことにした。


「……あれ? おかあさん……じゃない。エレーナさん? あれ、どうして?」


 ヒナタと話していたら背中のアルマが起きてしまった。

 どうやら、わたしのことはちゃんと覚えていたようだ。その事実に少し安心した。

 アルマは起きたらなぜかわたしの背に背負われていた、ということに困惑した様子だ。だから、わたしはアルマを安心させるように言った。


「事情は後で話すから、今は寝てて良いよ。サンドラさんのところに着いたら起こすから」


「……うん」


 そう言って、アルマは再び眠りに就いた。

 もうすぐ、【ノーラ魔法店】だ。







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