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第12話 勘違いだよ

 


 視界が開けると石で囲まれた小さな部屋だった。周囲はかなり暗く、ぽつぽつと淡く光る小さな明かりが点々と灯っていて、部屋の中を軽く照らしている。

 四方が石で囲まれていて、正面だけに大きな扉が設置されている。


 いかにも不気味な雰囲気であったが、右手に感じる熱を頼りに隣を見ると、ヒナタも無事に転移できていたようで一先ず安心することができた。


「かなり暗いね。真っ暗ってわけじゃ無いけど……」


 ヒナタが呟く。その声は普段よりかなり抑えられている。

【身隠しのマント】の効果で声が漏れないとはいえ、この場所であまり大きな声を出したくないのだろう。気持ちはわかる。


「この部屋は、正面に扉があるだけかな? 開けてみる?」


 わたしがそう言うと、ヒナタが小さく頷く。

 意を決してわたしは扉を開こうと手を伸ばすが、その手は途中で止まることになった。


「エレーナっ! 誰か来る!」


 ヒナタが慌てた様子でわたしの手を引き、部屋の隅の方に引っ張られた。

 わたしはすぐに意識を切り替え、扉の向こう側に注意を向ける。すると、コツコツという足音が聞こえてきた。ヒナタはこれを聞いて咄嗟にわたしを止めたのだろう。ファインプレイーだ。


 もし、気づかず扉を開けていたら、ひとりでに扉が開く怪奇現象をリキリアの構成員に目撃されていたかもしれない。危なかったね。


 やがて、部屋の外から誰かが扉を開き部屋の中に入ってきた。暗くてハッキリとは見えないが、小太りの男性だ。


 エルセーヌの神殿の神官が着ていた白い神官服と似たようなデザインの服だが、向こうは胸元に金糸で十字が縫われていたのに対してこちらの服にはそれがない。真っ白の無地だ。

 おそらく、神はいない、必要ない。ということを表しているのだろう。間違いなく彼はリキリアの幹部だ。


「変ですね。転移魔法が起動していたようですが……誤作動ですか。高いのですから丁寧な仕事をしてもらいたいものです」


 幹部は、そう言ってやれやれと首を振る。どうやら、わたしたちのことには一切気づいていないらしい。改めてすごい魔法道具だ。

 部屋の中を一通り見回した男は、踵を返し扉から出て行こうとする。


「ヒナタ! わたしたちも出よう!」


 せっかく彼が扉を開けてくれたのだから、ここは便乗して一緒に出て行くべきだ。ひとりでに扉が開く怪奇現象を見られる可能性は可能な限りゼロにしておきたい。


 わたしたちは、慌てて彼の後を追いなんとか扉が閉められる前に部屋の外に出ることに成功した。部屋の外は左右に道が別れていて、まるで通路のような場所だった。ここも部屋の中同様、明かりは所々に小さく灯されている程度だ。むしろ部屋の中よりも暗い。


 ここから先は、作戦通りに二手に分かれてアルマを探しに行く。誰がどちらの道に進むかなどは悩んでいる時間はない。せっかく、幹部が道案内をしてくれるのだから、付いていかない手はない。


「ヒナタ、わたしは幹部の方に行く。ヒナタはあっちの方をお願い」


「わかった! 気をつけてね」


 そう言ってヒナタと別れたわたしは幹部の後に続いた。



 ☆



 幹部の後を追ってしばらくすると、彼は一つの部屋の扉の前で立ち止まる。そして、幹部は扉を開け中に入って行く。わたしも慌てて後に続き、部屋の中に入るがそこで自分のミスに気づいた。一度入ったら出られなくなるのでは?


 …………とりあえず、それは忘れて部屋の中を探索することにする。この部屋は転移魔法の部屋や通路と違って明るい。おそらく執務室のような場所なのだろう、たくさんの書類や本が山のように積まれている。幹部は部屋に入るなり、不思議な模様のポットからティーカップに紅茶を淹れ、ソファーに座り込んだ。

 あのポットは魔法道具なのかな。使用者のMPを吸い取って紅茶を出す、みたいなやつ。欲しいな。


 わたしはまずこの執務室の中からアルマの手がかりを探すことにした。とはいえ、書類や本を勝手に漁って読むことはできない。そんなことをしたらひとりでに本や書類が動く怪奇現象を目撃されてしまう。

 せいぜい、動かさなくても読めるような位置にある書類を見ることぐらいしかできない。

 さぁ、手始めにこの書類から……


「それにしても、あの侵入者の少女の世話を私一人に任せるなんて、面倒な仕事を振られたものですね。適当な部屋に閉じ込めておきましたが、後で確認に行かねばなりません。先ほど会いに行ったときは随分と泣かれたものです。今度は甘いお菓子でも持っていけば少しは落ち着いてくれるでしょうか。たしか、この部屋を出て右手側に3つ目の部屋でしたか。今のうちに食事担当にお菓子を注文に行きますかね。部屋の鍵はここに置いておけば大丈夫でしょう。ふふ、子どもというのはやはり可愛いものです」


 そう言って、幹部は立ち上がり扉から出て行った。

 わたしはそれを黙って見送るしかなかった。



 ☆



 なぜかわたしの知りたいことをすべて話してくれた幹部……いや敬意を払って幹部さんと呼ぶことにしよう。

 幹部さんは親切にもアルマが閉じ込められている部屋の鍵まで置いて行ってくれた。ここまで見事にわたしの味方をされると罠ではないのか、と勘ぐってしまうがすぐにその考えを否定する。


 彼はきっと優しい人だ。アルマのことを捕らえているのは事実だが、それでも何かと気にかけていて大事にしている様子だった。

 そもそも、今回の件は客観的に見ると、他人の家に不法侵入して【死霊術】のスクロールという家宝を盗もうとしたアルマが全面的に悪いようにも思える。

 最も悪いのはアルマを唆した何者かだけど、ハッキリ言ってリキリアは被害者でしかない。


 そこまで考えてハッとする。もしや、これはすべてあの幹部さんの策略なのではないだろうか?

 思えば、わざわざ声に出してアルマのことを独り言で呟く意味なんて何もない。もしかしたら、最初からわたしたちが侵入していたことに何らかの手段で気づいていたのでは?


 彼の立場を考えるとアルマをみすみす見逃すわけにはいかない。しかし、心優しい彼は何とかしてアルマを助けてあげたかった。

 そんなときにノコノコと現れたのがわたしたちだ。彼はわたしたちを利用してアルマを助けることにしたのだ。だから、わたしの欲しかった情報をすべて独り言という程で話し、鍵を置いていったのだ。


 さらに彼は最後になんと言った?

「ふふ、子どもというのはやはり可愛いものです」と言ったのだ。


 彼はあの言葉をアルマに向けて言ったのではない! わたしに向けて放ったのだ!

 ──お前たちの策略などわたしには通用しない。ふふ、かわいいものだな。やはり子供か。

 そういうことか!

 思わず、拳を固く握りしめる。最初から何もかも幹部さんの掌の上だった! 悔しい!

 不死鳥すら手玉に取ったこのLEOの諸葛亮孔明をこうも手玉に取るとは!


 やはりリキリアの幹部は尋常ではないのだろう、こうまでもまざまざと智略を見せつけられれば嫌でもわかる。わかってしまう。わたしがLEOの諸葛亮ならば彼はリキリアの司馬懿なのだ。


 だけどわたしも、このまま負けるつもりは毛頭ない。いつかこの借りは必ず返す。

 わたしは幹部さんの置いて行った鍵を回収し、ついでに欲しかった魔法のティーポットももらうことにした。


 あと、なんか近くに置いてあったスキルスクロールも回収した。スクロールは見た目では何のスキルかわからず、専用のスキルを持っていないと詳細も見れないのだけど、それは後でサンドラさんに確認してもらえばいい。


 きっと、これも幹部さんの餞別だ。これを使用して更に強くなってから挑め、という意図だ。少し悔しいが、ここはありがたくもらっていく。これで強くなってもう一度幹部さんと戦うのだ。


 わたしはもう用はない、とばかりに執務室を後にした。次に来るときは決着を着けるときだ。


「また来るよ」


 その言葉は、静かな執務室の影に吸い込まれて消えていった。




















 後でこのことをヒナタに話したら深読みしすぎだとバカにされ、冷静になったわたしは恥ずかしさで紅茶を沸かせるのではないかというほどに真っ赤になり、即ログアウトしてふて寝した。







お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 利用されたと思い、悔しさを覚えても「幹部さん」へのさん付けをやめない辺りがとてもエレーナちゃん。
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