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第11話 潜入するよ!

 


【ノーラ魔法店】から出たわたしたちは、すぐに工業区のとある一角にある、秘密組織リキリアの本拠地の近くにやってきていた。


「こうして見ると普通の鍛冶屋に見えるけど……」


 わたしたちの目の前にある建物からは鉄を叩く音や男の人の掛け声のようなものがひっきりなしに聞こえてきて、屋根の煙突からは煙がもくもくと上がっている。

 一見すると、普通の鍛冶屋さんだ。特筆することといったらかなり大きいことぐらい。


 しかし、リキリアの本拠地はこの鍛冶屋の地下に存在しているらしい。リキリアの本拠地の場所なんて普通の人は知らないけれど、サンドラさんはなぜか知っていた。

 これも昔取った杵柄というやつなのだろう。サンドラさんの過去は謎すぎである。


 と、そこで建物の中から体格の良い禿頭の男性が出てきて、こちらに向かって歩いてきた。

 しかし、わたしたちの存在をまるで無かったもののように、通り過ぎていってそのままどこかに行ってしまった。


「やっぱりすごいね、これ」


 思わず潜めていた息を、ふーっと吐き出す。

 ヒナタが言っている「これ」とはわたしたちが今身に付けているアイテムで【身隠しのマント】といって、これを装備しているモノは他者から声も音も、魔力や生命力のようなオーラ的なものすら認識されなくなる。という効果を持つとんでもない魔法道具なのだ。


 リキリアの本拠地に乗り込むわたしたちを心配したサンドラさんが一時的に貸してくれたもので、今回はこれを使って上手いこと忍び込み、アルマを救出してすぐに脱出する作戦だ。


 ちなみに、わたしとヒナタはちゃんとお互いの姿は確認できている。これも、サンドラさんの魔法道具の【見破りの指輪】というアイテムの効果だ。

【身隠しのマント】は便利な魔法道具だけど、誰にも認識できないのは困る。とのことで同時期に作った魔法道具らしい。


 こんな代物がポンと出てくるのだから、本格的にサンドラさんが何者なのか気になるところだけど、今はこっちに集中だ。


「じゃあ、作戦通りにやるよヒナタ」


「地下に入ったら、一旦別れて別行動。それからアルマちゃんを見つけたらコールで連絡、アルマちゃんを保護して即撤退。だよね」


「うん。それと何かあったらすぐにコールすることと、極力マントは外さず誰にも気づかれないように」


「おっけー! じゃあ行こう!」



 ☆



 建物に入ったわたしたちはすぐに地下にあるリキリアの秘密基地に向かった。鍛冶屋の建物内の地図はサンドラさんが用意してくれた。秘密基地の内部まではさすがのサンドラさんも把握していなかったようだけど、それでも十分すぎる。


 たどり着いたのは鍛冶屋の図書室、軽く見てみると鍛治の製法や指南書、入門書などが多く、他にも小説や児童書など多種多様な本がそれなりの数収まっている。


 サンドラさんが言うには、秘密基地への入り口はこの図書室のどこかにあるそうだ。隠し通路などがあるのだろう。

 こう言うのは少しワクワクする。


 ここで、わたしたちがとった作戦はリキリアの構成員が秘密基地への入り口を開くまで図書室内で待って、入り口が開いたタイミングで構成員の後ろから密かに忍び込む。というシンプルな作戦だ。単純だが【身隠しのマント】を装備しているわたしたちにとっては最高の作戦である。

 昔の人はこういうのをシンプルイズベスト、とか言ってたらしい。多分。


 構成員が現れるまではここでしばらく待たなくてはならない。なにせ、いつ来るか、そもそも来るのかすらわからない。1時間後かもしれないし明日になるかもしれない。そうなったら何度かログアウトする必要もあるだろう。


 それまでただ待っているだけでは退屈だったわたしは、適当にその辺にあった本を読んで時間を潰すことにした。


 そうして手に取ってみた本の内容は、伝説の吸血鬼の王【真祖】が大昔に一つの国を滅ぼして、不死者や魔物の支配する国を築いたが、世界樹から現れた勇者が【真祖】を討伐して世界を救いめでたしめでたし。という良くある勧善懲悪の童話のようなものでなかなか面白かった。


 ヒナタからは呆れたような視線をもらったが、無視する。退屈は人を殺すのだ。警戒はヒナタがしてくれているのだから任せる。



 ☆☆☆☆



「エレーナ、誰か来たよ」


 本に集中していると、いつの間にか誰か来たようだ。ヒナタがわたしに声をかけてきた。ウインドウを出して時間を確認すると本を読み始めてから一時間経過していた。思ったよりも熱中していたようだ。この世界の童話などを中心として読み耽っていたのだが、これが思いの外面白かったのだ。


 その話の中には【不死鳥】の物語もあった。

 大切な人を失った主人公が【不死鳥】の住まう聖域を訪れ、力を示すことで【不死鳥】の力を授かり、大切な人を甦らせる。というハッピーエンドの物語だ。


【不死鳥】が主題の話だったのでヒナタにも見せてみたが、とても熱心に読んでいた。かなり良い話だったから気持ちはわかる。


 この本のタイトルはメモしておいたので後で個人的に買いにいっても良いかな。今回の事件が終わってからだけどね。


 本のことはここまでにして改めて図書室の入り口の方を見てみると、一人の男性が図書室に入って来ていた。


 服装は他のNPCと比較しても特に変な特徴はないが、明らかに鍛冶屋に似合わない細身の男性で、この場所にいること自体に違和感を感じる。


 この工房にいる他の人は悉く筋肉むきむきのマッチョばかりなのだ。そんななかにこのような人がいれば逆に目立つ。

 これは十中八九リキリアの構成員だろう。


 わたしの灰色の脳細胞が一瞬で答えを弾き出した。間違いない。名探偵エレーナの前では全ての謎は解けるのだ。


 やがて、その男性は一つの本棚に近づいて行き……








 ……一冊の本を手に取って図書室を出て行った。







 違ったようだ。



 ☆



 それからしばらくしてまた、この鍛冶屋に似合わない見た目の男性が図書室に入って来た。

 彼がリキリアの構成員だろうか? わたしは注意深く観察することにした。もし、違っていたら彼に失礼だから、変に邪推などしてはならないのだ。


 ヒナタの視線が痛い気がするがきっと気のせいだ。そのジト目をやめてほしい。


 その男は一つの本棚の前で立ち止まり周囲を見回し、その後にとある一冊の本に触れながら合言葉のようなものを口にした。


「『真なる王よ。我らに救いを』」


 すると、男の足元に魔法陣が出現し、一際強く輝いたと思った瞬間、男の姿はすでに影も形もなくなっていた。


 ……まさかの転移魔法である。これは予想外だったけど、少し考えればこの可能性も十分にあったのだと思い至る。


 てっきり、本棚が横に移動したり床板が外れたりなどして隠し通路が現れるものだと思っていたが、ここはファンタジーなゲームの世界なのだ。あまり現実的な理論で考えるのは良くない。


 むしろこれはこれでワクワクする。転移魔法があるのならいつか使えるようになったりするのだろうか?


 だけど、今はこうなると少し困る。

 転移する方法と合言葉はしっかりと覚えたが、転移した先に何があるのかが全くわからないのが問題だ。


 最悪の場合、転移した瞬間敵に囲まれていて気づかれてしまう可能性もある。姿が見られなくとも、この転移魔法が起動したことぐらいはきっと見ればわかってしまう。


「ヒナタ、どうする?」


 どうするもこうするも、アルマの命がかかっているかもしれないのだから、行かない手はない。だからこれは単なる確認だ。


 そもそも、転移した先で囲まれてやられてしまったとしても、復活──リスポーンするだけなのだからまた新しく作戦を考えてからもう一度来ればいい。


「もちろん、行こう!」


 ヒナタならこう言うのはわかっていた。

 いつも通りのヒナタの様子にわたしは安心し、緊張感を少し緩めながら、改めてリキリアの本拠地に突入する覚悟を決める。


 マントをちゃんと装備していることを確認し、いつも通りに【占術】の【運気上昇】を使い、ついでに【金運上昇】も掛ける。サンドラさんから新しく仕入れておいたポーションもチェックした。準備はできている。


「それじゃあ、行くよ」


 わたしは右手でヒナタの左手を握り、左手を本棚に収まっているさっきの男性が触れていた本の背にあてる。ヒナタも自分の右手で同じ本の背に触れたのを確認してから、目で合図を送って同時に合言葉を唱えた。






 ──『真なる王よ。我らに救いを』






 わたしの視界は白く染まった。







お読みいただきありがとうございます!

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