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プロローグ
「あの男とは別れて正解やったんよ。光の良い所をわかってくれる人は絶対いるから」
その時母は徐々に進行する病気にかかっており、病状が一気に悪化して現実と幻覚の狭間にいた。だからまともな話を出来るのはとても貴重だった。
ただ医者からは『季節の変わり目で病状が悪化して見えるだけ』と説明をうけていたので、
その言葉が母から私へ向けた最後の言葉になるなんて、私はこれっぽちも考えていなかった。
「もうあの人に未練はないよ。また婚活するから大丈夫。」
その時すでに私は30を過ぎていて振られたばかりの元彼とよりを戻す事しか考えていなかった。
でも呼吸すら苦しそうな母の言葉を否定できず、母に嘘をついた。
その嘘の言葉に母は満足そうに笑ったのを覚えている。