表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

妖精とステータス

「すっげぇなぁ」


 扉がゴツイ。コントロールルームに入ろうとして、まず出てきた感想がそれだった。


 厚さ十センチはある重厚な扉の向こうに通路が続いていて木製の内扉が見えた。通路の左側にはお風呂とトイレがある個室が並んでいる。


 扉を閉めるとガチャリと重い音がした。身体を留守にする為にこれ以上ないほどの厳重なセキュリティだ。


 内扉の奥は広さは四畳ほど。その半分を占めるプレイヤー用のカプセルタイプのベッド。さらに残りの半分程度が妖精や電脳妖精の控室。それ以外の場所はバランサー用の端末や椅子でスペースには全く余裕がない。


 一番広々と感じるのが妖精達用の控室だ。大型の機動人形や動物に乗るプレイヤーの事も考慮して大きめに作られているのだろう。装備確認用の大型の鏡もある。乗った後の自分の姿を確認できるなんて至れり尽くせりだ。


「流石は一日三万円もするレンタルルームね。高いだけのことはあるわ」


「だなぁ」


 シィルのこともあるので、今回からは奮発して一般的なコントロールルームを使用することにした。金銭的に辛いが、ここは我慢。


「はいはい。今日一日レンタルしてるけど時間に余裕があるわけでは無いのよ」


 急かすように手を叩きながらリンが言った。俺が出た後じっくり見る時間があるからか余裕が見える。


 シィルはさっさと控室に入ると、中が見えないようにカーテンを引いてしまった。そこにリンが装備品を箱から出しながら順番に入れていく。残念ながら着替えを見せるつもりはないらしい。


「まずはシィルに装備を着てもらって、その後ステータスチェックね」


 端末を立ち上げながら昨日受け取ったばかりの鈍色のカードを読み取り装置へと差し込む。二枚セットで一枚は通常サイズだが、もう一枚はダンジョン内に持ち込むために十分の一サイズだ。このカードは探索者ランクが上がると材質が変わり灰→銅→銀→金と色が変化するらしい。ちなみに俺とリンのカードはコントロールルームを使うための許可証みたいなもので、黒から変化することはないそうだ。


「終わりましたよー」


 そして「じゃーん」の掛け声とともにカーテンが開けられた。


「おお……」


 そこには天使がいた。


 腰まである長い緑の髪を青いリボンでポニーに結び、額に白いハチマキを巻いていた。上は淡い緑を基調としたジャンバー状の服が金属製の胸当てや肘当てで補強されている。下はスカート。もう一度言おう、スカートだ。膝下丈なのが残念だが上より若干濃い緑のスカートだった。動きやすさを優先したのか補強は余り見られない。足元は白銀のブーツが膝下まで覆っている。手にも同じ素材だろう白銀の小手だ。そしてその手には身長に対して若干長めの片鎌槍。完璧じゃないだろうか。


「どうよ」


 リンが胸を張る。


「いや、完璧だ」


 デザイン等がシィルに合っている。シィルのためにデザインされた服と言っていいだろう。オーダーメイドと言われても信じるかもしれない。足りないのは露出位だ。


「えへへ。この槍もいいですねー」


 えいえいと、どう見ても照れ隠しに槍を振って見せる。


「さて、それじゃステータスチェック、行ってみましょうか」


「おー」


「ステータスチェックでドキドキできるなんて、機動人形の時と違って楽しみがあるな」


 コアの新しい電脳妖精や機動人形はスキルも無いし、パラメーターもパンフレットに載っている基準値通りなのでドキドキしようがない。違う数値だったらクレーム物だ。


「さてさて、何が出るかな、シィルはステータスチェック自体初めてなのよね?」


「そうなんですよー。こんなシステムあるの上の街くらいですからねー」


「鑑定スキルがあればいいけど、あれもレアだからねー」


 さてさて、とリンは端末を操作する。


「行くわよ?」


 首肯で返すとトンッと最後のキーが押された。ステータスが画面に映し出される。


-------------------------------

名前:シルフィリス・ファリア

種族:高位妖精族

職業:巫女

LV:14

HP:160/160

MP:320/320

STR:22

VIT:16

AGI:36

INT:32

MND:17

DEX:15

LUK:1357

スキル:鑑定LV1、飛行LV3、使役LV1、念話LV1、身体強化LV1、魔力増強LV2、MP回復LV3、無詠唱LV2、魔力操作LV4、風魔法LV5、水魔法LV1、光魔法LV1、気配遮断LV3、隠密LV4、再生LV7、獲得経験値増加LV3、復活LVMAX[強制転移]、転移LVMAX[位置固定]

称号:幸運の女神、甘味を愛する者、調停者、世界樹の守り手、深淵を目指す者、好奇心の塊

-------------------------------


「……」


 おう。突っ込みどころ満載だ。とりあえず突っ込みたいところは色々あるが。


「鑑定持ってるじゃねーか!」


「?」


 シィルは理解できないという風に首をこてりと横へ倒した。


 気付かないとかあるのか? いや、鑑定したことが無いから知らなくて試したこともないって事か? ううむ。しかしこのスキルの多さは絶対普通じゃないな。高位妖精族とかそもそも初めて聞いたし。


「私、鑑定持ってるんですか? 鑑定ってどうやって使うんです?」


 控室の中からは画面は見れない。いや、これは見ないほうが良いのではないか。いろいろと。


 復活と転移は世界樹へ戻る物だろうから妖精は全員持ってるのかな? 再生もそれ絡みだと思う。そういえば飛べるんだっけ、飛行があるな羽無いけど。使役スキルは聞いたこともないな。魔法関係は随分充実してるなぁ。職業巫女はよく分からん。称号には絶対突っ込まないぞ。


 シィルはうーん、とかむーんとか唸りながら手を突き出して色々試しているようだ。


「とりあえず、これとこれとこれは非表示ね……この辺も……」


 リンもまずいと思ったのか端末を操作していく。


「あ……」


 スキルに偽装LV1が増えた。スキルってこんな簡単に手に入るもんだっけ? 絶対違うよな。


 リンがどんどん操作を進めていく。


「あ、来ました! わかりましたよ!」


 うんうん唸っていたシィルがやっと出来たと手を振ってアピールしてきた。


「へー、こうなってるんですね。へー、私水魔法とか光魔法とか使えるんだ。知らなかったぁ」


 そこか、そこなのか?


「いや、それ以外にも色々とおかしいところあるだろうが」


「あ、レベルが上がってます!」


「そ、そうだな……」


「?」


「お兄ちゃん待って。シィル、鑑定で見えてる自分の項目言ってみて」


「ええと、名前・種族……あっ。っと、LV・HP・MP・スキルの六つですね」


 鑑定LV1だと見えない項目が多いようだ。種族で一度止まったのにその後頑張って最後まで続けたのは微笑ましかった。ご褒美に突っ込むのはやめてあげよう。どう考えても藪蛇だし。


 リンは頷きながら聞いた後、しばらく端末の操作を続ける。


「これで良いわ」


 もう一度画面を覗き込む。


-------------------------------

名前:シルフィリス・ファリア

種族:妖精族(高位妖精族)

職業:巫女

LV:14

HP:160/160

MP:320/320

STR:22

VIT:16

AGI:36

INT:32

MND:17

DEX:15

LUK:13(1357)

スキル:飛行LV3、身体強化LV1、魔力操作LV1、風魔法LV3、気配遮断LV1、復活LVMAX[強制転移]、転移LVMAX[位置固定]

(鑑定LV1、使役LV1、念話LV1、偽装LV3、魔力増強LV2、MP回復LV3、無詠唱LV2、魔力操作LV4、風魔法LV5、水魔法LV1、光魔法LV1、気配遮断LV3、隠密LV4、再生LV7、獲得経験値増加LV3)

称号:無し

(幸運の女神、甘味を愛する者、調停者、世界樹の守り手、深淵を目指す者、好奇心の塊)

-------------------------------


 括弧の中が偽装中らしい。偽装スキルもうLV3か……。あ、ちゃんと運も偽装してくれている。明らかにおかしいもんな。


「ステータスプレートにはこれで書き込むわね」


 満足げに頷きながら書き込みを始めた。


「こんな簡単に数値変えられるんだな」


「結構やってる人多いんじゃない? ステータスプレートなんて色んな人に見せるんだし、隠すところは隠しとかなきゃ。まぁ、もっと多いのは更新してない人ね。ステータスチェックしても上書きしなければプレートの数値はそのままだからね」


 そっちの方は聞いたことがある。実力を隠す者達。公式には今確認されている到達階層は八十七階層だが、裏ではそういった者達がもっと深くまで潜っているという噂もある。あくまで噂だが。


「念のためにシィルに乗ったらプレート見ながら偽装念じといてね」


「りょーかい」


 さて、ようやく俺の番かと思いつつカプセルベッドを開ける。


 カプセルベッドに入り足を固定した後フルフェイスのリンク装置を被った。その後左手右手の順で筒状の固定装置に突っ込み横たわる。すっげぇ柔らかいわ。


「お兄ちゃんもう良い?」


「ああ、閉じてくれ」


 返事の代わりにカプセルベッドの蓋が閉じる音がした。続いてガスが噴き出す音がして、俺は静かに目を閉じた。

少しでも面白いなと思ったらブクマや評価いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ