妖精とスキル
四階に上がると、初心者向けのスキルボードコーナーでリンを見つけた。
コアやパーツが必要無いので後はスキルボードで一通り揃う。
これがもし電脳妖精だったらコアや特殊パーツ等悩みだして一日では終わらないんだろうな。まぁ、金銭的な問題は置いといて。
スキルボードは最初は一マス、十一レベルから四マス、二十一レベルからは九マスといった感じで十レベルごとに上位ボードが使えるようになり、それにチップをはめて使用する。チップは様々だ。
ちなみに機動人形の時はレベルも一だったので一マスボードをわざわざ買うのは勿体無いと除外した。パーツも既に換装済みの中古だったので悩む必要すらなかった。
二人に近づくと、リンより早くシィルがこちらに気付いたようでリンの肩の上から手を振ってきた。そのご機嫌な様子を見ると、気に入る衣装があったようだ。
「遅い!」
遅れて気が付いたリンが開口一番苦情を口にした。
「私たちより遅いってどういう事よ。どうせ槍買ったんでしょ? 悩む要素ってあるの?」
失礼な奴だ。槍にだって色々あるんだからな。
「悪い悪い。せっかくだから色々見てたんだ」
当然言い返したりなんかしない。大変なことになるからな。主に晩飯が。
「槍なんですか?」
シィルは買い物袋の中身の方に興味津々なようだ。自分で使う武器になるんだしな。
個人的な考え方だが、ソロを視野に入れると槍が一番良い。もちろんサブ武器として剣も持つが、やはり槍のリーチは魅力的だ。
「槍だ。そっちは良い防具買えたのか?」
提げている買い物袋を見る。武器もそうだったけど防具も高いんだろうなぁ。
「完璧よ。お披露目は明日だけどね。シィルちゃんにバッチリ似合う衣装にしたから楽しみにしてていいわよ」
似合うかどうかより動きやすさとか優先してくれてるといいなぁ。あと露出。いや、でも乗ってる間は見れないから露出はどうでも良いのか?
「楽しみにしておくよ」
リンの肩でブイサインをしているシィルの頭を一撫でして答えた。
「で、スキルチップはどうするんだ?」
ボードの方はチップに合わせるしかないだろう。
チップに表裏がある為、四マスのボードは七パターン存在する。
九マス以上のボードは基本的に正方形型で特殊な形は特注となる事が多い。チップがダンジョン産の為、スキルボードを無駄なく埋めるのは運要素が必要になる。
縦長四マスのチップはデフォルトの九マスボードに填める事が出来ないため人気が薄かったりする。
「それがね、シィルちゃん優秀だから選択肢ほとんどないのよ。風属性だけど初級の攻撃魔法もヒールもエンチャントも出来るらしいの。だから選ぶのはステータスアップのチップでどれにするかくらいね」
「凄いな」
かなり凄いんじゃないだろうか。機動人形や電脳妖精を使ってる人は三マス使っても初級のどれか一つしか覚えられないのに。
そう考えると妖精はかなりチートだな。
「でも、ステータス系か。何が良いんだろうね。力・体力・素早さ・魔力・器用さ・運の六種類だっけ?」
「精神力忘れちゃだめよ。まぁ、選択肢からは最初に除外したけど」
「やっぱ力か魔力の四マスチップにするのか?」
僅かとはいえ効果が実感できると人気が高く、その分高価な二種類である。
「本当はそれが良いんだけど……」
リンがうーんと悩む。
「何か問題が?」
「実は三階で思ったより使っちゃってね。まだ余裕はあるんだけど少し節約して運の四マスチップもありかなと。シィルちゃんの話聞く前は初級の回復魔法チップ買うつもりだったしね」
なるほど。回復魔法チップならボードを買い替えてもずっと使うが、ステータスアップ系四マスはコスパが悪い。
ちなみに回復魔法チップは長く使えるだけあって人気ナンバーワンでかなり良いお値段がする。恩恵も大きい為、パーティーに一人は必須のチップである。
「レベル二十一か三十一でスキルボード更新するまでだから確かに運でもいいかもな」
「ねぇねぇ、運のステータスって何が上がるの?」
シィルがリンを見上げた。
「詳しくは分かってないらしいわ。良い事が起こりやすいとかドロップ運がよくなるとか色々言われているわ」
「他にも状態異常になる確率が下がるとか、レアなモンスターに出会いやすいとか、色々な噂があったよな」
確か、と付け加えた。
「んー……じゃあ、それがいいです」
シィルは人差し指を唇に当てて少しだけ考えた後、そう主張した。
「いいの?」
「はい」
「お兄ちゃんもそれでいい?」
「まぁ、シィルがそういうならそれでいいんじゃないか?」
本人が言うなら一番だ。
「それじゃ、一番お買い得な形の運の四マスチップとそれが填まるスキルボード買ってくるね」
恐らく縦長の四マスチップになるだろう。
リンは買い物袋を俺に渡した後シィルをひょいと摘まんで俺の肩に乗せ、すいませーんと店員の方へ行ってしまった。
俺の左肩へと居場所を移したシィルはそれでも足をパタパタとご機嫌だった。少しくすぐったい。
買い物袋を持ち上げて中身を見ると、服が入っているであろう箱が三つ入っている。
「駄目です。明日までのお楽しみですよ」
ニコニコと笑顔で見上げてくる。
「分かってるよ」
袋を下げ、人差し指で頭を撫でた。
気持ちよさそうに目を細める仕草は、恐ろしいまでに破壊力抜群だった。
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