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妖精と自己紹介

「あ、あの、とりあえずイア・クェイトと言います。さっきのリンの兄です、年は十五プレイヤー志望です。よろしくお願いします」


「え、えと、私はシィルって言います。リンさんにだま……拾われました。チョコレートは週に三回です。お手柔らかにお願いします」


 お互い頭を下げあったが、どこの見合いだこれは。あと、だまされたって言いかけたよね、微妙に視線逸らされるし。


「でも、本当に良いのか? 妖精の中でも潜るのに興味ある派と無い派とかあるんだよね?」


「あ、そこは大丈夫です。私は興味ある派なので。ただ、痛いのは苦手ですが」


 そう言って小さく笑った。


 近くで見るとかなり可愛い。腰まである緑の髪も綺麗で艶々とした光沢を放ってるし、小さい顔にタレ目つり眉なのも小動物みたいで庇護欲を誘う。こんなに可愛い容姿は初めて見た。あ、少し耳が尖ってるな。人間なら確実にモデルかアイドルだな。それもトップクラスの。


 全体的に小さいのにバランスが絶妙というか、理想のフィギュアが動き出したらこんな感じというか。その手の趣味の人間となら一晩は軽く語り明かせるだろう。


「あんまりじっと見られると、その……」


 シィルが身をよじる。


 恥じらう姿も良い。先日友人から最高の電脳妖精だと長々と語られた桜花七式だったかより全然好みだ。タイプがかなり違うが。


 緑のワンピースから慎ましい膨らみが女性を主張しているし、ウエストはしっかりくびれている。丸みを帯びた腰もグッとくる。


 少し持ちあげてみた。角度が変わり膝上のワンピースから僅かに太ももが覗く。そうか、ニーソックスだったのか。そんな大事なことに今まで気が付かないとは。


「……ありだ」


『ガンッ』


 頭に衝撃を受けると同時にシィルを奪い取られた。確実にグーだった。


「何やってんのよ!」


 いつの間にか戻ってきたリンはシィルを守るように胸元へと抱き寄せていた。


「信じらんない。逃げられたらどうするのよ!」


「う、うぅ……」


 シィルはその胸へ顔を埋める。


「変態!」


「違う! 乗った時の違和感を減らすために、まずは少しでも外見を把握しようとだな」


「そんな目じゃなかった」


 攻めるようなジト目がこちらを向いていた。


「ぐっ」


「ねー、怖かったねー」


 人差し指で撫でて慰めていた。


「気を付けてよね、電脳妖精とかと違って妖精は生きてるの。特別保護種族の妖精がセクハラされましたーってギルドに泣きついたら大変なことになるんだからね」


「ごもっともです」


 昔、金銭目的でダンジョンの先住民を捕獲しようとした国があったらしいが、その国のダンジョンへの入り口が内部から封鎖されてしまいあっという間に国自体が寂れてしまったそうだ。


 なんでもダンジョン資源目当ての企業やシーカーが一斉に国外へ出て行ってしまった結果らしい。


 それ以来、協力的なダンジョン先住民たちは特別保護種族として扱われている。


「お兄ちゃんのセクハラが理由でこの国のダンジョンが閉ざされましたとか笑えないから!」


「あ、大丈夫ですよ。そんなことしませんから」


 小さいことを自覚しているからか、パタパタと両手を大きく振ってアピールしていた。


「シィルちゃんはいい子ねー。ほら、謝って!」


「悪かったよ、妖精を初めて見たからちょっと舞い上がっちゃったんだよ」


 ここは大人しく謝っておく。


「ふふ、おっけーです。次から気を付けてくださいね」


 天使かこの子は……


「シィルちゃんは甘いなー。あ、そうだ」


 リンが爪楊枝の半分位の長さの何かを取り出した。


「なんだそれ?」


「妖精用ストロー。仲直りの印にジュースでもあげてみてよ」


 リンはシィルを木製の机の上に置くと、二人分のグラスと一緒に親指の先程の容器を取り出して来た。どこにあったんだそれ。


 その後、冷蔵庫から取り出したリンゴジュースを二つのグラスに注ぐと一つはストロー付きで俺の前に置き、もう一つに軽く口を付ける。そのままリンゴジュースは冷蔵庫へと片付けてしまった。シィル用の容器は依然空である。


 シィル用の容器を親指と人差し指の先で軽く持ち上げてみるが、壊しそうですぐにテーブルの上に戻した。


「ほら、分けてあげて」


「……」


 何かを期待している目がテーブルの上からこちらを見上げていた。


 コップから移す段階で確実に溢す自信があるんだが……


「何のためにストロー付けたと思ってるのよ。上の口塞いで少しだけ注げばいいでしょ」


「お、おう。頭いいな、お前」


 躊躇していたらアドバイスが飛んできた。助かる。


「一般常識よ。一般常識」


 難易度高いなぁ、こいつの一般常識。


 何にしてもグラスに張り付いてこちらを見上げている期待の眼差しに答えないとな。


 ストローの四分の一程度に含んだところで口を塞ぎ、小さな容器へと注ぐ。シィルがグラスから容器へ移すストローを追いかける姿に思わずいたずらを仕掛けたくなったが、流石に自重した。いや、だって、超可愛かったんだよ。危なかった。


「どうぞ」


「ありがとう!」


 満面の笑み。やばい、可愛い。


 美味しい美味しいと言いながら飲む姿は録画して保存しておきたいほどだった。


「ほら、飲食してる姿を凝視しない!」


 対面のソファーに腰を下ろしたリンに注意されるまで堪能した。

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