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リグレット・リコルダンツァ  作者: 柚子大根
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17.少女

その日はどことなく、誰かにつけられている。そんな気がした。



あのお祭りから数日後、僕たちはいつもの場所で話し合っていた。

「ウォルテ。確認するが、お前は全てを思い出したわけではないのか?」

アリアが真剣な顔で尋ねる。

「うん…すごく断片的で、それでも僕が、トロイメライだってことは思い出せたけど、あの時会ったあの女が誰なのかとかは全く思い出せないんだ…

思い出そうとすると頭痛がして…」

あの女の狂ったような笑い声が頭の中に響く。

ズキズキと痛む頭を抱える。

「無理はしなくていい。」

アリアが苦しそうに笑う。

「…アリアは僕のこといろいろ知ってるみたいだけどどうしてなの?」

「そうだな…私は昔のお前を知っている。だけどそのことは、これはただの私の思いなんだけど、ウォルテ自身が思い出してほしい。

口から言うのは簡単だけどそればっかりは思い出してほしいんだ…悪いな。」

僕はアリアの気持ちを察してうなずいた。

「あの接触してきた黒髪の女と青い髪の男は一体…」

去り際に黒髪の女は微かに笑っていた。次の日には僕たちがいた家に大勢の軍警が集結していた。僕たちはすぐに移動したから難を逃れたものの、危ないところだった。

「あぁ、黒髪の女はレイカ、青い髪の男はロアといってな、帝國軍最高司令官のツートップの2人だ。」

ツートップに狙われた…?

謎は深まるばかりだ。

「…ここを離れた方がいいんじゃないかしら…」

カルテットが深刻そうに言う。

「このスカバナリア区は帝都のシュレインに近いし今は彼らとの接触はまずいんじゃないかしら…」

アラベスクもカルテットの意見に賛成する。

「そうだな…ここは俺も慎重になるべきだと思う。」

「私もそれを考えていた。行きたいところがあるんだ。ウォルテの武器を買わないと。アテがあるからそこに行こう。数日歩くことになる。いいか?」

僕の…武器…

「うん…行こう。みんなありがとう。」

僕たちは笑い合い、暗い思いから逃げるようにスカバナリア区を離れた。





街から少し離れた時から違和感は感じていた。

今通っているところは所謂無法地帯。

法が行き届いておらず、闇の組織が多々渦巻いている。

僕たちは争いごとを起こさないようひっそりと、迅速に進み、移動していた。

違和感は何かに、誰かにつけられているような、誰かに見られているような、そんな感覚だった。

アリアやカルテット、アラベスクは何も感じていないようだった。うまく気配を消している。

敵襲か?とも思ったが、姿をあらわす様子がない。

とりあえずこの無法地帯で争いごとは起こしたくなかったので放っておくことにした。

しばらく歩くと無法地帯を抜け、荒野に出た。


ずっと黙っていた僕を不思議に思ったのか、カルテットが声をかけてきた。

「ウォルテ、疲れたの??どうかした?」

僕は振り返らず、前を向いたまま話した。

「多分、つけられてる。スカバナリア区からずっと」

「嘘!…あれ、近づいてくるみたいだけど…あの子…」

アリアやアラベスクも異変に気付き、後ろをさっと振り向く。

近づいてきたのは小さな女の子だった。

ピンクの髪で所々に水色が入っていて、目はピンク色、そしてピンクのワンピースを着ていて、とても可愛らしい女の子だった。

この子が…?

「君、名前は?ついてきたのか?」

アリアが尋ねる。

コクリと頷き、

「…アリシア…」

と答える。

僕はすぐにおかしいと思った。普通なら1日はかかる道を数時間で歩いてきた僕たちに小さな女の子がついてこれるはずがないのだ。

アリアはひどく怯えた顔でアリシアを凝視した。

「その目…アリシアの目の色…私は見たことないぞこんな目の色…」

「俺も見たことないな…君…アリシアと言ったな、なぜついてきたんだ?

お母さんはどこだ??」

アラベスクがアリシアに尋ねるも、首を振るばかりで何も答えない。

「アリシア?家に帰らないと…送って行ってあげるよ。」

カルテットが微笑みかける。

アリシアはいやいやと言うように激しく首を横に振る。

「困ったなぁ…どうする?アリア」

家にも帰りたくないとなるとどうしようもない。

「よし。連れてくしかねえな!」

「「「ええええ!?!?本気!?!?」」」

「ちょっとアリア!そんなことしていいと思ってるの!ちゃんと両親のところにかえしてあげないと…」

「でも嫌だって言ってるんだからしかたねーだろー!

もうグズグズしてる暇はねえんだよ!ほら行くぞ!

アリシア!ウォルテに面倒見てもらえ!」

「えっ!僕!?!?」

アリシアが僕の服の裾を引っ張る。

「ちょ、ちょっと…子供の面倒なんて見たことないよ…」

「ほらほらさっさと行くぞー!」

各々がため息をつき、さっさと歩き始めたアリアに続く。

アリシアはどことなく嬉しそうだ。

「ウォルテ、私も手伝うから、大丈夫よ…」

カルテットが苦笑いをし、アリシアの反対側の手を握る。

「おーおー!まるで親子だな!」

アラベスクがからかう。

「いいじゃんいいじゃん!仲良くしとけ!」

アリアが笑う。

荒野に4人の笑い声が響く。


この時、僕はもっとこの少女と向き合うべきだったんだ。最初に抱いた疑問を突き詰めて行くべきだった。

そのことをとても後悔することになるとは、この時の僕たちはまだ知らない。


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