16.繋がる光
次の日。目がさめると左にアリア、右にアラベスク、その隣にカルテットがいた。
「あれ…?」
「おはよ!起きたか。」
アリアが笑う。
僕はガバッと体を起こし、目を伏せ、拳を握り締める。
「迷惑かけてすみませんでした!!!」
カルテットが僕の肩をたたく。
「ほら、顔上げて?ウォルテは笑顔がいいの。」
「昨日まで生きながら死んでたような顔だったけど、すっきりしたみたいでよかったよ。アリアの拳が効いたか?」
アラベスクが笑う。
アリアが僕を引っ張って無理やり立たせた。
「ほら。いつまでそうしてんの!今日は行くところがあるんだから!気晴らしに、ね♪」
「行くところって…?」
恐る恐る尋ねると、3人が声を揃えて満面の笑みで言った。
「「「お祭り!!」」」
「ほら、ぐずぐずしてると置いてくぞ!」
え、お、お祭りだって?!
「えっ、ちょっと待ってよ!お祭りって人間のお祭りに行くの!?大騒ぎになっちゃうよ!!もしかして帝國軍が関係してるの?仕事?」
慌てて尋ねる僕を見てカルテットが、
「あはは…違う違う!行けばわかるって!この近くでやるのよ!」
カルテットに手を引かれてよくわからないまま家を出た。
遠くにお祭りのような賑やかな音が聞こえる。
「ね、ねえ!お祭りって…?」
「いいからいいから!!」
聞いても教えてくれないようだからおとなしくついていくことにした。家を出て15分ほど歩いた通りは人で賑わっていた。
屋台がたくさん出ていて、太鼓の音も聞こえる。
そしてよく見ると普通の人だと思っていたが、それは全員、ライドゥンや、アバ・オブリビオン達だった。
「こ、これは…」
僕は目の前の光景が信じられなかった。
ど、どういうことだ…?僕が見てきたアバ・オブリビオン達はみんな虐げられ、絶望し、目が死んでいた!!活力などなかった…お祭りなんて無縁のはずじゃ…
「驚いたか?」
アリアが満面の笑みを浮かべる。
「ア、アリア!これはいったい…」
「つまり私たちが今までやってきたことは無駄じゃないってことだ!」
「私たちが弾圧されていたオブリビオン達を助けてまわっていたでしょ?
そしたらオブリビオン達も生気…活力を取り戻して言ったのよ…!!
それを記念して、お祭りを開いてるの!
ほんとに…こんなに…嬉しいことはないわ……」
カルテットが目に涙を浮かべ、微笑む。
「で、でも、アリア…僕は…ここに来る資格は…」
「ウォルテ。今は何も考えるな。そんな暗い顔してたら失礼だぞ。今日くらい思いっきり遊んだっていいじゃないか。」
「そう…かな…。うん…ありがとう…」
「ウォルテ!わたあめ食べたことあるか?俺食べたことないんだよなぁ〜食べに行こうぜ!!」
僕はアラベスクのあとを追う。
うん…今は、今だけは、楽しもう。この一瞬を。聞きたいことも知りたいこともたくさんあるけど、それは後にしよう…今だけでも…今だけでいいから…
「カルテット見てよ!!この射的の景品可愛くないか!?」
アリアが射的の景品を見て瞳を輝かせる。
「ふふっ…アリアはほんとに可愛いもの好きね?射的なんだから取れるんじゃない??」
「よし!!これ絶対取るぞ!」
3発連続で外したアリアはバツが悪そうに目をそらして呟いた。
「わ、私はリボルバー派なんだよな。」
そんなアリアを見て大笑いしたアラベスクが、アリアに殴られる。
「ウォルテー!!小っちゃいリンゴが飴になってるぞ!!おいしそうだからこれも食べよう!!」
「ちょ、ちょっとアラベスク!さっきから食べ物ばっかなんだけど…」
左手にはわたあめ、右手には焼きそばを持ってるのに…
「こんなに美味しいんだからいいだろ〜!
ほら!あっちにカキ氷もあるぞ!行こうぜ!俺はイチゴだ!」
「あっ、待って!僕はメロン!」
「ウォルテ!ヨーヨーだって!これは何?ヨーヨーをたくさん壊せばいいの?」
「違うよアリア!ヨーヨーをひっかけてとるんだって!
壊したらダメだよ!」
手当たり次第に物を壊そうとするアリア。
「あ!!見て!!レベリオンがいる!!英雄だよ!!」
遊びまわっている僕たちを見て周囲の人たちが騒ぎ出す。
「英雄がいらっしゃってるぞ!」
「アリア様〜〜!!!」
「この街を救ってくれて、私たちを救ってくれてありがとうございます!!」
「この焼きそば食べてってください!」
「たこ焼きも是非!!」
そして僕たちは人々に歓迎され、お祭りはさらに盛り上がっていく。
笑い声、楽しそうな声、笑顔で満たされている。
オブリビオン達のキラキラした笑顔、アリア達の輝くような笑顔、それが僕の心も満たしていく。
あんなに死にながら生きていたのに…すごいな…よかった……償いにならなくてもいい。それでも…僕も少しでも…他のオブリビオン達を…助けたい…
僕がやるべきことだと、そう思った。
お祭りは夜が更けるまで続いた。
喧騒は止まない。虐げられてきた年月を埋めるかのように。
この世界は今、僕たちだけのような感覚でいた…いや、この時は確かに僕たちだけだった。僕たちの幸福感で世界は満たされていたんだ。
「あなたたちの世界では、ね」
そう呟いた誰かの声は僕たちの耳まで届かない。