表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リグレット・リコルダンツァ  作者: 柚子大根
12/43

11.始まりの日、そして聞こえる。

夜、眠ることができず外に出てみるとやはり岩のところにアリアが、いた。

かすかに聞こえる歌声、よく見えないが恐らく泣いているのだろう。

いつの間にか隣にはアラベスクが立っていた。


「アリアはああして毎日後悔の追想曲を歌っては泣いてるんだ。」

「アリアは何に対して後悔して泣いてるの?

反逆行為についてじゃない気がするんだけど。。」

アラベスクの表情が曇る。

「それは…少し聞いてくれるか?俺たちとアリアが出会った時のこと。」

少ししてアラベスクが話し始める。始まりの日について。




俺はカルテットといわゆる幼馴染だったんだ。

幼馴染って言ってもよ、俺たちはストリートチルドレンだった。

いやカルテットはもともとはそうじゃなかったんだけどな…とにかく、俺たちは出会ったんだ。

強化人間に対する弾圧が始まった頃、俺たちはライドゥンだったこともあり他よりかなり酷い扱いを受けてて、俺たちはお互いに支え合って血反吐を吐きながら生きていた。いや、生きているのか死んでいるのかわからないくらい苦しみながらただ存在していた。


ある時帝國軍が10人くらいでやってきて俺たちを殺そうとしたんだ。

死を覚悟したよそん時は。

だけどな、そこにアリアが来たんだ。

赤い髪の少女が帝國軍10人をあっという間に惨殺したんだ。圧巻だったよ。それを俺たちは美しいと思ったんだ。

俺たちは助かった。

その時アリアが言ったんだ。


「お前ら何で生きてんだ?

いや違うな。どのツラ下げて生きてんだ?

弾圧され踏み躙られて血まみれにされても抵抗すらしない。ライドゥンの面汚しだな。

そんなに死にてえのか。

それならその命……私にくれよ。

私がこの國を滅ぼす。こんな國いらねえよ私たちにはな。

あいつらが私たちを怪物呼ばわりするんだから怪物らしく悪役になってこの國を滅ぼそうぜ。」



それまで生きながら死んでいた俺たちにアリアの言葉が突き刺さったんだ。

俺たちは苦しいほどにボロボロだった。

アリアもボロボロだった。それでも明確な違いがあった。

ボロボロになりながらも弾圧され踏み躙られて壊されてもそれでもアリアは生きていた。誰よりも強く生きていた。


その日俺たちは怪物になった。


その日がレベリオンができた日だ。



「アリアが俺たちの恩人なんだ。出会った当初からアリアは誰よりも強くそしてボロボロだった。

その頃からずっと毎晩後悔の追想曲を歌いながら泣いているんだ。

俺たちの役目はアリアを過去から解放することだ。

カルテットも俺もそれを願ってる…」


遠くのアリアを見つめる目は月明かりに照らされ光り、とても儚く今にもこぼれてしまいそうだった。


レベリオン結成の日…みんなが怪物になった日…


「アラベスク…僕は…何で……」


アラベスクが笑ってわしゃっと僕の頭を撫でる。その手が熱く感じた。


「ウォルテはただ笑っててくれ。俺たちの希望だから。それだけで俺たちは幸せなんだ…」

僕は涙をこらえることができずうつむく。

「ちょっと…散歩…してきます…」

「あぁ…ありがとな、ウォルテ」

そのお礼を聞いてまた涙がこみ上げてきた。





昨日の晩のアリアの様子とアラベスクとの会話が思考を混乱させた。気分の赴くままに家から離れ歩いてみた。

アリアの涙…レベリオン結成…強化人間…特級…弾圧…帝國軍…みんなが怪物になった日…アラベスクがありがとうって…

「…っ!!」

イライラして混乱してぐちゃぐちゃで足元にあった石を蹴飛ばした。

なんで…ただ強化人間ってだけで…みんなは傷ついているんだ…?

ふと耳をすませてみるとかすかに歌声が聞こえた。

アリアのものかと思ったがどうやら違うらしい。

そして何となく…危険な気がしたが、歌声の方に進む足を止めることはできなかった。

進んでいく足、ドキドキと鼓動が早くなり、聞こえてくる歌声もだんだんと大きく、近づいてくる。

いや、近づいているのは僕の方か……

このまま進んでいったらダメだ…そう思うのに僕は…


そしてその日僕は、悪と出会った。

正真正銘の悪。僕らにとっての悪だ。そいつが名乗ったわけでもない。直感的に敵だと感じた。

僕らにとっての悪ということはこの世界においての絶対的な正義。


たどり着いた先は路地の行き止まりのこじんまりとしたスペース。

そこにある土管に座り、後悔の追想曲と似ているがどこか違う歌を歌っている女。

アリアに似ているが何かが決定的に違う。大切なものが欠落している危うさをもち、なおかつ本能が拒否するほどの雰囲気を醸し出していた。

「久しぶりね…って言ってももうあなたは覚えてないんでしょう?酷いなぁ忘れちゃうなんて。

あ、そうだよね、忘れたんじゃなくて忘れさせられたんだったね」

妙なことを言いながら笑うその女。不気味。

逃げようと思ったが足がすくんで動かない。

「あんた…誰だ…?僕の記憶を消したのが誰なのか知ってるのか?何で僕のことを知ってるんだ?」

突然女が笑い出す。

「アハハハハッ帝國最強が呆れるわねぇ !!!

……寄り集まって1つになってまた分かれて進んでいって。それぞれが混じり合い分裂し流れていく。

それがまた時を紡いで人と人を繋げてまた流れていく。」

寄り集まって…これは夢の中で…女の子が言ってた…

なんだ…?こいつは何が目的なんだ…?

「お前は何を言ってるんだ…?アリアとどんな関係があるんだ?」

そして女はゆっくりとこっちに近づいてくる。

「今ウォルテって呼ばれてるんだっけ?無言歌。語らない。騙らない。ぴったりねえ?

昔とは正反対だけど。。

帝國最強…トロイメライ」

「……っ!?!?」

全身の毛が逆立つ。怒りが憎しみがふつふつと沸き起こる。手から血が出るほど拳を握り締める。

怒りで全身が震え、鳥肌が立つ。

なんだ……?この全身を駆け抜ける憎しみはなんだ…?

トロイ…メライ…嫌だ…イヤダ…この名は…キライ…ダ…やめろ…やめロ…ソノ名で…俺を………

「お前、俺の、何を知っていル!!!!!!!!

ふざけルナ!!!!殺してヤル!!!!!!その名デ俺ヲ呼ぶナァァァァァァァ!!!!!!!!」

目がカッと開き赤く光るのを感じる。

女は笑い続けている。

飛び出して女に掴みかかろうとする。

「トロイメライ。あんたは所詮こっち側の人間よ。

それを、忘れるな」

女はそう言うと俺に触れた。


その瞬間、意識が途切れる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ