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リグレット・リコルダンツァ  作者: 柚子大根
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10.歌



目が覚めると、まだ眠りについてから1時間も経っていなかった。


また…涙…


濡れた目元を夜の風がかすめる。


動悸がおさまらず頭が混乱していた。

少し散歩して気持ちを落ち着けようと外へ出た。

外に出るとどこからともなく歌声が聞こえてきた。


少し遠くの大きな岩の上に人影があった。

アリア…?


近づいて見るとアリアだった。


目を閉じ涙を流しながら歌を歌っていた。その光景、その歌が僕の心をかき乱した。


「~♪♪♪」


どこか懐かしい歌を、弱さなど見せたことのないアリアが、泣きながら歌っている。

歌が、アリアの悲痛な叫びが胸を刺すような痛みを伴い伝わってくる。


気づけば僕も泣いていた。

…この歌は…どこかで…


歌い終わるとアリアがこっちに気づいた。


「どうした、ウォルテ…眠れないのか?」


悲しげに微笑むアリアは気丈なアリアとはまるで別人だった。


「夢を見て…目覚めちゃって、気を落ち着けようと外へ出たら歌声が聞こえたから…つい…

この歌どこかで…」


目が涙で光り悲しげな表情のアリア。


何がアリアをここまで悲しくさせるんだ…


「恥ずかしいところを見られたな…

この歌は、リグレット・リコルダンツァって言ってな、後悔の追想曲だ…」


遠くを見つめるアリアの目が涙で光っていた。


「後悔の…追想曲…」


アリアの後悔…懺悔か…?

今まで殺してきたものたちへの後悔なのか…?いや違う。もっと何か別のものへの…?


「私が後悔だなんて笑っちゃうよな。

……許されないことはわかっている…だけどなんで…あの子は私を…」


小さく呟いたその言葉がアリアの過去に深い闇があることを思わせた。


「アリアは…」


言いかけると、アリアが突然岩から下り、笑顔で、


「戻ろうか」


と言った。



何よりもその笑顔がつらかった。





その日はもう夢は見なかった。



次の日アリアはいつも通りだった。

だからこそ昨日の晩の光景が目に焼き付いて離れない。なぜアリアはあんなにも泣いていたのか。何に対する後悔なのか。

後悔の追想曲を聞いた時なぜ僕の心はあんなにも掻き乱されたのか。

思考は堂々めぐり。

訓練の最中だが目の前の手合わせに意識を集中することができず、動きを目で追うことすらできなかった。

そんな僕の様子を見てアリアは今日は訓練は止めにしようと言った。


「集中できてない状態でも何の意味もないからな。

今日は休め。顔色悪いぞ。」


「待ってよ!やります!!集中するから!!お願いだから…」


「ウォルテ」

真剣なアリアの表情に言葉が出てこなくなる。


「すい…ません…頭冷やしてくる…」


けっきょくその日は訓練を再開しなかった。

みんなの気遣いが苦しかった。


迷惑ばかりかけて…それが嫌だからやろうと思ったのに…っ



夜、ベッドに入ってもモヤモヤとした感情が晴れることはなかった。

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