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精霊の舞踏譜1  作者: 雨野 鉱
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第一部 ブタイエンゲキ 終劇

僕の花が一輪欲しいというのなら、

一つと言わず千の花、全部をさしあげます。

              (メーリケ)


四、友語リ


七日経った。

たった七日で、瞬時に移動するブラックマリアの姿が目で追えるようになり、彼が放つ斬撃をきちんと鎧で防げるようになり、剣術と蹴術を駆使してなんとかブラックマリアを倒せるようにまでなった。

覚悟さえあれば人間に上限なんてないと思い知った。

臼井と初めて闘ってから七日目の晩、僕はジャージを着こみ、ドラムバッグを背負い電車を使い学校に行った。

雨はこの一週間一度として降らず、月を雲が隠すこともなかった。その月が、今雲で隠れ始めている。

「行くか」

走り出す。

中西の靴底に見たザクロ石のような赤い光とは異なる、どこかで以前見た覚えのある、かんらん石のような、光る青リンゴのような黄緑色の光が靴底を漂う。

その光を踏みながら風のように夜の街を走る。あっという間に学校へ着く。

中西の足がそうだったように、自分の足も舞踏譜のせいで不思議な力を持つようになっていた。

だから当然のように校門を駆け上がって飛び越え、新体操部の地下練習場に忍びこむことができるようになっていた。

「よし」

まだ、中西は来ていなかった。中西が来るまでに僕は準備運動と素振りを済ませ、それが終わると隠れて彼女を待った。

雨が降り出し、時計が十二時を回ったころ、中西が現れた。練習場全体の電気がついたので僕は驚いた。中西がつけたようだった。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

中西は制服を着ていた。

そして呼吸は荒い。髪は乱れ、背筋を曲げ、手の血管は浮き上がり、目つきは尋常じゃないほど鋭くなっていた。

どう見ても、普通じゃない。

「ユリカ……はぁ、はぁ、はぁ、ごめんね……今、やるから」

中西が踊りだす。しかし複雑なステップに体がついていかず、途中で失敗して倒れる。

「はぁ、はぁ……誰?あなたは」

いつの間にか僕は隠れるのをやめて彼女と同じ練習場の鏡の前に立っていた。

中西の眼が普通の人間のように戻る。

眼の下のクマが、いかにも憔悴しきった彼女を象徴していた。

「金井」

告白した時と同じやり取りが始まる。ただしあの時は、苗字しか言わなかった。

「金井智宏」

だから今度は名前も含めて全部言った。自分を全てぶつける覚悟ができたから。

「そう……誰だっていいわ……私の邪魔をしないで」

「うん。邪魔しない。でも気を付けて踊って」

中西は頬をゆがめるようにしてほほ笑み、もう一度立ち上がると、今度はさっきよりもゆっくりと踊り始めた。

それはちょうど僕が普段踊るのと同じくらいの速度だった。

中西は一週間前僕がここで初めて彼女が踊っているのを目撃したのと同じように目をつむってステップを踏んでいる。ただ違うのは、電気がついていることと、

ゴトッ、カチャ。

隠しておいた赤い鎧と日本刀を装備している同級生がいることぐらいだろう。

ブラックマリアの〈僕〉を倒したときから、僕の体にくっついていた左半身を覆う赤い鎧と日本刀(鞘付き)が、ある程度時間がたっても消えなくなった。

だからそれを、持ってきたバッグから僕は取り出し、さっさと体に取り付けた。

「す~、は~」

軽く目を瞑る。脱力する。

精神を集中させ、張り詰めた空気を鼻からゆっくりと吸い、そっと息を吐く。

足先から頭の先まで温かい何かが流れ、充填するのを感じて僕は目を開く。

中西の舞踏が終わるまであとわずか。

中西の目的を邪魔する僕は、彼女が召喚する臼井に急襲される可能性が大いにある。

しかし僕はそこに勝機を見出したかった。

一撃で終わらせたい。そのためにブラックマリアの技の中で唯一待機時間が長く、そのかわりに相手に与えるダメージの大きいスパイクキャンドル(居合切り)を選んだ。

「盲目の死者よ。ここに最後の陽を掲げる」

スパイクキャンドルの発動を告げるブラックマリアの台詞を思い出し、口だけを動かして言ってみる。

「我が剣に宿りし閃光を標とし黄泉に沈め」

ただし言葉にはしない。絶対に。音を立てたくないからじゃない。

相手は、中西は死者じゃない。「盲目」かもしれないけれど、死者じゃない。

まだ死んでいないし、絶対に死なせない。「黄泉」に沈めたりなんかしない。

だから言葉にはしない。

「ふう」

でも、これだけは伝えたい。

「夢は自分を失うために見るものじゃない」

そう。

「自分を信じるために見るんだ」

鞘に左手をかけ、右手で柄をしっかりと握る。

自分の足先で光っていた黄緑色の光が漂うようにして体の上へと昇ってきて、両腕を伝い、そのまま剣に流れ込む。

足にかわって剣が黄緑色に光り出す。

「はあ、はあ、はあ……」

中西の舞踏が、終わる。

肩で息をする彼女は前回僕が見たときよりも鏡に近い場所で舞っていた。

そのため、踊り終わり鏡に向かって倒れ込んだ際、そのまま鏡の中に音もなく呑み込まれた。

ヒュンッ。

ガシャガシャガシャガシャンッ!!

予想通り、中西を呑み込んだ鏡が同時に獣を解き放つ。

獣はけれど僕には向かって来ず、練習場の壁へ高速で移動し、そのまま壁を駆け上り照明という照明を全て破壊した。

蛍光灯の破片が宙を舞う中、ようやく進路を変え、獣はこっちに突進してきた。

照明がなくなってもそれがはっきりとわかるのは獣に生えた角二本と、両手の斧がザクロ石のような赤い光を放ちこちらに迫ってきているためだった。

獣は臼井であると確信した僕は、これから放つ一撃のために歯を思い切り食いしばる。

シュパッ!! 

ガキンッ!

臼井が間合いに入った瞬間に僕は鞘から剣を一気に引き抜く。

その抜き身の刃を臼井の右手の斧が受ける。

閃光が苦無のように飛び散り、床や天井や壁を突き刺す。衝突の衝撃があまりに重かったのか、臼井が僕から見て左に吹き飛ぶ。

轟音を立てて臼井が壁に突っ込む。衝突箇所で煙があがり、束の間臼井の赤い光が見えなくなる。

――それでね、いつもみたいにフォアでボール打ったらさ、ガットがピョンッて切れちゃって。

「?」

部屋の中。どこかから聞き覚えのある声がした。

考えてみればそれは中西の声だった。

僕に「ウザイ」と告げた時とは違う、明るいトーンの、かつての中西の声だった。

――そうなの。

もう一つ、聞いたことのない、女の子の声がある。

――ありえないでしょ、こんなのふつ~。別にそんなに乱暴に使ってるわけじゃないのにさ。

声のする方を見る。

鏡の方から声は聞こえる。夜明け前の空のような、弱々しい水色の光が二つ、鏡の中で飛んでいた。

――でしょ、ね?ふざけてるよね。張り替えたばかりなのにさ。でね、頭に来たから店に文句言いに行ったんだよね。

――それ、前も聞いたよ。

――そうだっけ?でもいいでしょ。それとも私と一緒にいるのって退屈?

――そんなことはないよ。だけど

――だけど、何?

――なんでもない。

ブオンッ!!

「!?」

完全によそ見をしていた。そう、まだ臼井はいなくなったわけではなかった。

煙の中から加速し、右手の斧を振りかぶり、僕に襲いかかる。

僕はそれをギリギリでかわしたけれど、臼井はそれすらも読んでいたのか、

振り下ろした斧の反動を利用して宙返りをした。

結果として彼女のかかとが僕の右肩に落ちる。鎧で覆われていない方の骨に激痛がほとばしる。砕けたんじゃないかと思うほどの痛みに目から火花が出た。

「ロトッ!アゼプス!!」

臼井の一声と共に、左の斧が突如伸びる。形状を変え、それはあっという間に両刃刀に変わる!

ガキンッ!

重たい一撃を右肩の激痛に耐えつつ、両手で握る日本刀で僕は受け止める。剣圧に圧し潰されそうになった僕は、奥の手を披露せざるをえなかった。

「はあああああっ!」

格好良く見せるために華麗な技を比較的多く持つブラックマリアの中でただ一つ、見てくれを気にしない荒技。

斬道儀式其の参、通称フレイムノック(狂打)。

ドゴッ!

頭突きで臼井の顎に前頭部をぶち込んだ後、固めた右拳で腹部をアッパー。彼女が態勢を立て直す前に腰にさした鞘を逆手で引き抜きそれで彼女の顔面を殴打する。

よろめいた彼女を右手の剣で袈裟切りにし、最後左ひじをぶちかまし、吹き飛ばす。

「はあ、はあ、はあ」

袈裟切りが失敗した。骨を断つ気配はなく、セーラー服とその内側の肉を軽く斬っただけだった。けれど代わりに左ひじはもろに入った。

そのせいで臼井はかなり吹き飛んだ。

「はあ、はあ、はあ、はあ……」

鞘を腰にさし直し、剣を握り直す。汗をぬぐい、呼吸を整える。酸欠で頭がクラクラする。

「ノ、ノイザル……エル」

はじき飛んで倒れていた臼井は置き上がる。

相変わらず何を言っているのか意味不明だが、とにかく何かをつぶやいたあと、角の下でニヤリと笑い、剣と斧を構えてこちらに突っ込んできた。

僕が赤い鎧を防御に使うように、臼井は右の腕先斧を防御に使い、左の腕先剣で攻撃を仕掛けるようになった。

ガキンッ! シュンッ! シュシュンッ! ガキンッ! キシンッ!

有難かったのは、黄緑色の光が足に灯り続けたこと。

この不思議な魔法のおかげで僕は練習場の壁や天井へ縦横無尽に移動する臼井を追跡したり、逆に彼女の変幻自在な攻撃から何とか逃げ切ることができた。

たぶんブラックマリアの〈僕〉や臼井と互角に戦えるのはこの光のおかげだろう。僕自身はたいしたことなんてない。

けれど、たいしたことがあろうとなかろうと、僕は僕のやれることをやる。

一分でも一秒でもいい。少しでも長く、自分にできることをする。それだけだ。

「ウォロッ!」

臼井の目から生える角の光が輝きを増す。毒々しい血色の輝きが部屋を染め直す。

ビュッ……ドゴンッ!!

腕先剣まで赤く輝くや否や、地面を蹴り砕き臼井は高速で移動し、壁際にいた僕に「突き」を放つ。僕は横に跳ねて辛うじてかわす。

切れ味の鈍そうな赤い輝剣は練習場の壁に衝突し、クレーターのような大穴をあける。臼井の剣はもう、かすっただけで致命傷になる規模のものになっている。

「せあっ!」

体力も限界に近づき、僕の心臓は爆発しそうだった。だけど、諦めるわけにはいかない。

――でね、グリップを巻きなおしたんだ。そしたら一本で三千円だよ?グリップだけで。専門店だからってどこの店もふざけてるよね。

こんな学生が金持ってるわけないじゃん。お陰でお小遣い全部なくなっちゃってさ。

――そう。大変だったね。……ねえ、

――あ、そうそう。今度の数学のテストさ、対数不等式出るんだよ。ロガ何とかってやつ。授業でやったばかりのあれ。意味分かんないよ、ほんと。

ギリギリの死線とは不釣り合いな会話が、赤い闇の傍で悲しく響く。

中西の声とは別の声の主が臼井であることにようやく気付き、

その臼井の声がどことなくこの会話を終わらせねばならないと僕に告げているような気がしていた。

早く、中西を夢の外へ連れ出してくれと、僕は訴えているような気がした。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

だから、絶対に闘いを諦めるわけにはいかなかった。

スキュンッ!

中西を救い出したいって気持ちは、僕も一緒だ。

ガキンッ!

「大切な人が死ぬ。こんなこと、簡単に受け入れることなんてできない。冷静でいるなんて、そう簡単にできない」

「エタ・セルパ……」

――ねえ。

――なぁに?

――この間、話してくれたでしょ、ユミを好きだって言ってきた男子のこと。

――ああ、いたね。そう言えば。うん、でもどうだっていいよ、あんなの。

私にはユリカさえいれば後は何も要らないからさ。

 シュパッ、

 ガガガガガガガッ!!

「くっ!」

 止むことのない攻撃の連続。ブラックマリア以上に強烈で、圧倒的で、重い。

 わずかにでも気を抜けば、わずかにでも集中を乱せば、五体はバラバラに吹き飛ばされそうだ。

「ノイタルエ。ルトゥア!」

――ねえユミ。私、もういないんだよ?

――そんなことないよ。ここにいるでしょ、今だってさ。大丈夫だよ。私がついているから。ユリカはいつまでもここにいていいんだよ。私が保証するよ。永遠にさ。

 ブワッ!

 シュンッ!!

 ドドーンッ!!!

ガキンッ!

「ノイタルエ……」

「舞踏譜をもらって、踊って、一生懸命闘いを覚えている間、正直怖かった。

僕は、七日間で本当に、中西を助けられるのかって……正直自分を信じられなかった。

僕みたいな弱い奴が……でも、闘って、闘って、自分と闘って……中西のことひたすら思って、思い続けて……」

 ガキンッ!

 シュンッ!

 シュカンッ!

 ドスンッ!

「ゲャッ!」

「変えられるって信じられるようになった。僕は僕を変えられるって」

「……ウィレズィーム」

――ユミ。私はもうここに長くは居られない。

――そんなことないって……そんなことないって言ってるでしょっ!!

――私は、死んだの。それは変わらない。だから、分かって。あなたの傍にいる私は、私じゃない。

私の面影……あなたの幻なの。分かって。

――分かって何になるのっ!?それで私はどうすればいいの!

ユリカのいない世界なんて私には何の意味もないんだって、どうして分かってくれないの?

こんなに、ユリカを思っているのに。

「せあああああっ!」

「ゼッ!ソポエッ!!」

ドガンッ!! キキンッ!

――うれしい。自分を思ってくれている人が、傍にいてくれて。

――だったら、居なくなるなんて言わないでよ……うっ、うっ……。

――うれしいけど、私のせいでユミが立ち止まってしまうのは、悲しい。

――……

「ゾヴレーヌ……」

――ねえユミ。身勝手と思うかもしれないけど、聞いて。私を思ってくれるのはとってもうれしい。

けれど、私は死んで、私の時間は止まってしまったの。これは変わらない。

けれどね、なんていうのかな……ユミ。

私をこんなにも思ってくれているユミが、私の……死を受け入れて、前以上に、人にやさしくなったり、

困っている誰かのために涙を流したり、汗を流したりできるようになったら、それは、私にとってとてもうれしいことなの。

だって、それは私の死が、あなたの中で生きているみたいでしょ?

私の存在が、この世にあって無駄にならなかった証しに、私には思えるから。

そしたら私はきっと……そのときそこに私はいないけど、私の時間は別の形でしっかりと流れる気がする。

そう思うと、ユミが私の死を受け入れられないのは、悲しい。

――うっ、うう……うっ……

――生きて。冷静になれなんて言わない。勇気を持てなんて言わない。だけど……生きて。

――無理だよ……うっ、うう……ユリカがいなかったら、私……ううっ、う……

――生きるって、独りぼっちってことじゃないよ。誰かと一緒ってこと。それが、生きることだと思う。

あなたの傍には、ちゃんとその人がいる。あなたを、あんなにも強く思っている人が。

――……。

――生きて。彼と一緒に、私の分まで。

 ガシャンッ。

闇の底で響いた会話が途切れた直後。僕の剣がそのとき防御に回っていた臼井の剣に激突する。

今までと同じようにはじかれるかと思った。けれど、臼井の剣は粉々に砕け飛んだ。

「ワカッテクレタミタイ……アトハ……オネガイ」

叫び声とは違う、優しい同級生の声が目の前でした。

 ドンッ。

 臼井の膝が地につく。

眼窩から突き出るようにして伸びていた二本の赤い角も、片腕の斧も剣と同じように粉々に砕けた。

 ドサッ。

 臼井が倒れる。

 赤い闇が、月明かりと淡い黄緑色だけの闇に戻る。

「臼井!おい、臼井!」

 それが鏡から飛び出してきた幻影であることも忘れ、闇の中で僕はうつ伏せになった臼井を仰向けにしてその頭を抱え、声をかけ続けた。

僕の声以外、聞こえるのは雨音だけだった。

外は少し曇っているけれど、雨は降っていない。なのに雨音が部屋に響く。

耳を澄ませば、その音は室内の鏡の方から聞こえていた。時雨のような雨音だった。

その音が徐々に小さくなり、やがて微かに聞こえるほどになり、とうとう聞こえなくなった。

それとほとんどタイミングを同じくして、僕の足先の弱い黄緑光も消えた。月明かりは弱く、辺りは文字通り闇となった。

「ねえ」

 雨音が去った後、暗い僕の足元から声がした。臼井の声じゃなかった。

「あなたは誰?」

「……」

「この間会って、名前を聞いたけれど、忘れちゃった」

「……金井」

「カナイ……下の名は、トモヒロだった?」

「うん」

「そう……この間はごめんなさい。失礼なことを言った気がする」

「別にいいよ。僕も君の気持も知らず突然告白なんかしたりして、ゴメン」

 雲間からのぞいた月が光の脚をそっと下ろす。

僕の腕の中にいたのは臼井ではなく、目も両手もある中西だった。彼女の静かな笑みを青白い光が幽かに浮かび上がらせる。

「好きかどうかうまく言えないけど、一緒にいたい。あなたと」

「……僕も」

 僕は、答えた。

「うれしい」

 中西が僕の背中に手を回してきた。だから僕も、中西を抱きしめた。

「あったかい」

「大丈夫?」

 色々な意味で大丈夫かと尋ねると、

「平気……大丈夫」

 耳元でそう優しく言葉が返ってきた。


――大丈夫なものか。


「「?」」

汗だくの僕の背中を冷たい風が舐めるようにして吹きすぎていく。僕に抱き締められていた中西は僕の耳元であっと小さく声を漏らした。

中西から身を離し、僕は背後に目を向ける。

「!」

革の手袋をし、黒い服に身を包んだ銀髪の広田さんがいた。黒曜石のナイフのように鋭い視線が、僕らを射抜く。

「舞踏譜の歌恨に終止符を打ったか……」

ゆがませた口元から白い吐息が小さく、けれど不気味に立ち上る。

「何をしに、来たんですか」

笑みを見て、助けに来たわけじゃないとすぐに感じた。

嫌な予感がした。だからそれを確かめるために質問をした。

「麻薬に溺れ金を落としていた常連客を、ある男が治療する。その男の前に、麻薬をさばく売人が現れる。治療した男は『何しに来た』とその売人に尋ねる。売人は何と答える?邪魔をするなと言うにきまっているだろう」

分かり切ったことを尋ねるなとでも言わんばかりに、広田さんは首を左右に振りつつ笑う。

「広田さん」

「誰だそれは?」

 へ?

「俺の名はフェナカイト(裏切り者)。世の理法を外れた者」

入祭唱。

「?」

音?空気?風?何の声?気のせい?怖い……

「それで……目の前で自分の得分を無駄にしてくれる間抜けがいるなら当然打ち砕くわけだが」

入祭唱。旋律支配。

「え……でも」

「君を思って俺が舞踏譜を渡したと?本気でそう考えているのか。間抜け」

晃階唱。旋律散逸。

「俺は最初から君たち二人が舞踏譜によってどこまでも堕ちていくと思ってそれを提供しただけだ」

アレルヤ唱。旋律悔悟。

「若い体ゆえ魂の衰えを肉体がすぐに補う。結果的に老いた絶望者よりも長期間にわたって魂を提供してもらえる。ところがそうならなかった」

奉献唱。旋律壊廃。

「提供してもらったが、結果的に逃げられた。ならば君たちに用はない。他の、もっと見込みのある絶望者をカモにするだけだ。だがその前に……」

聖体拝領唱……

広田さん、いや……フェナカイトが拳を固める。室内をいつの間にかこだまし共鳴する男女の歌声。祈ってるか、呪ってるのか、叫んでるのか、わめいているのか、喜んでいるのか、悲しんでいるのか、分からない。分からなくてただ、怖い……。

「絶対守秘。すなわち……」

旋律逝餐。

ハァーと吐きだした息が白煙から赤煙にかわる。眼球が一瞬にして真っ黒に濁っている。

「舞踏譜の克服者は、この時空から永久に追放する」

バッとその時中西が僕の前で両手を伸ばし、僕を守ろうとした。

その動作で今、この悪魔だが吸血鬼だか魔王だか分からない何者か(フェナカイト)とさらに闘わなければならないのだと覚悟した。

立ち上がる。一旦消えた靴底の光は再び黄緑色に光る。

「戯れに虚ろとして舞い歌うか……」

共鳴する歌が空気の流れのようになって渦を巻く。その渦の中心で不気味に笑むフェナカイトが何かを言う。

ダッ。

そのフェナカイトめがけて僕は一気に加速する。

右手の剣も鍔から剣身、そして剣先へ黄緑の輝きが走り出す。頭で思い描いた通り、プリズムショットガンの準備に入る。

「地階に鎮座する死した雑音よ、地上を蠢く異端の冷肉を灼け。骨が無に帰すまで」

フェナカイトは冗談でも言うかのように微笑しつつ、素早くその言葉を口にする。

「……?」

ブラックマリアの〈ヘルクラック(炎獄送り)〉がすかさず発動する……って、なんで?

地面に亀裂のような赤い光が走り、そこから血の匂いのする熱い炎が一気に天井まで噴き上がる。

亀裂の上をまたごうものならたちまち火だるまになるだろう。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

斬道儀式その伍、即ちブラックマリア唯一の遠距離攻撃を発動されて、僕は前に進めなくなる。

「ぐっ……!」

鼻が曲がりそうなほど強烈な血の臭い。

そしてむせ返るような激しい熱気が室内を瞬時に包む。ぶわっと汗が浮く。

なんでフェナカイトがブラックマリアの技を発動できるのか?分からない。

分からないけれど、一つだけはっきり分かることがある。

それは、技を食らえば間違いなく命にかかわるということだ。冗談抜きで。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

こうなったら火が収まるのを待ってカウンターを仕掛けるしかない。

炎が、徐々に収まっていく……よしっ!

 ダンッ!!

「それで、俺がまともに斬り合うと本気で考えているのか?」

フェナカイトがバッと拳を開く。

練習場の鏡全体に不規則な亀裂が一挙に走る。音に驚いて思わず目を瞑ってしまう。

「最初からお前はお前を相手に踊っているに過ぎない」

え?

亀裂の音に一瞬気を取られて誰かが何かを言ったのを聞きそびれた。

「!?」

再び目を開く。

そこにはブラックマリアの格好をしたもう一人の〈僕〉がいた。

「大骸骨の裏窓より世界時計は瞬く間に落ちる。死者の愛撫のもと、永久の闇に眠れ」

 ブラックマリアの〈僕〉は聞き覚えのある、けれど不気味に響く僕の声で呪文めいた言葉を吐いた。

呪文。

どこかで聞いた記憶……なぜ聞いた?まるでヘルクラックの時のような……あっ!!

「斬道儀式……其の末」

 ブラックマリア(昏き安らぎ)――。

 思い出した時、ブラックマリアの格好をしたもう一人の〈僕〉を、僕は恐怖のあまり斬ってしまっていた。

〈僕〉は切られた勢いで倒れる。

 ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウウ―――ッ!!!

 途端、斬ったところから重く黒い液体がすさまじい勢いで噴水のように噴き出し、練習場全体に飛び散っていく。

液の付着した所は完全な闇となり、遠近も色彩も濃淡も寒暖も上下も消してしまう。

 ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ……

「そんな……」

 ゲームの中でCPUがブラックマリアを使用するときのみ発動する裏技がある。

それが通称ブラックマリア(昏き安らぎ)という、本人の名前を冠した技だった。

敵の技を受けることでこれは発動する。

すると画面全体が暗くなり、CPUブラックマリアのあらゆる技の攻撃力のみが四倍となって、いともたやすく相手のパワーゲージを削ることができる。

分かりやすく言えば、都合よく相手をぶちのめすための技が〈ブラックマリア〉という秘技だった。

 ズズッ!

 ズズズズズズズズッ!!

 ズズズズズズズズズズズズズズズッ!!

「はあ、はあ、はあ」

 プリズムショットガンも、フレイムノックも、全部実際にやることができた。

ならきっと、この〈ブラックマリア〉も……そうか……ありなんだろう。

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 ヘルクラックを目の当たりにした時とは比べ物にならない恐怖が僕を呑みこんでいく。

「舞踏譜によって堕落できなかったこと、痛みと恐怖の災禍で後悔しろ。

限りなく、絶え間なく、そして途方も無く」

 もう何も見えなかった。

 どこが地面でどこが天井だか分からなかった。

 ただフェナカイトの発する言葉だけが耳の中をこだまする。

 その言葉に震えあがり、僕の心臓は破裂するほどに高鳴り続けた。



舞胎怨劇(肆)


シャルダンの起こした悪夢のような火災のために、皮肉にもカリロエは拷問から解放されることになりました。

カリロエ以外にも地下牢に閉じ込められている者は数多くいましたが、その多くは充満した煙のせいで息ができず、死んでしまいました。

生き延びたのは不死の呪いを背負ったカリロエと、

濡れ衣を着せられたけれどいつか領主の前で身の潔白を証明してやろうという気概を持って拷問の責め苦に耐えてきた屈強な元兵隊や領民ばかりでした。

火事の翌日の夜のことです。

その囚人の一人が何とか牢を壊しました。

囚人は一人だけで逃げず、カリロエを含めた囚人たちを外へ連れ出しました。

寒い夜でした。

城のほとんどは燃え尽き、消し炭のようになっていました。

黒煙はだいぶ薄まり、カリロエたちが外に出てきた時には、星が冴え冴えと夜空に光っていました。

けれどカリロエはもう、手も足も目もありませんし、耳も聞こえないようにされていましたから、昼なのか夜なのかもわかりませんでした。

けれどとにかく、何か事件のようなものがおきたということだけは、彼にも分かりました。

囚人たちはお城の地下から出た後、どうするか考えました。

彼らは冷静でしたので、今領民の家に行っても兵隊たちが彼らの家を

何がしかの理由を並べて占拠していると考えましたし――実際のところ領民の家に逃げ込んだ兵隊たちは領民によって

殺されてしまっていましたけれど――森に逃げ込んでもこんな夜だと盗賊などに殺されてしまうのではないかと考えました。

さらに、しばらくして囚人たちはお城の外の森が焼け尽くされ、無くなっていることを知りました。

ですから、地下牢から脱出したものの、彼らは途方に暮れ、とりあえずお城にとどまることにしました。

みな、それが最善だとは思いませんでしたけれど、みなで逃げるとなるとどこへ逃げていいのか分からなかったので、結局お城にとどまることに決めたのです。

さて、お城には、宝物庫と呼ばれる蔵のようなものがいくつかありました。

それは領主マティスが異国の地を旅して手に入れた、もしくは友人の貴族からもらった貴重な財宝が所狭しとおさめられている頑丈な建物でした。

ほとんどの宝物庫は火事のどさくさにまぎれて兵隊たちが勝手に開け放ち、中にあった物を盗んでいきましたので、今では火事で燃えずとも、中はほとんど空っぽでした。

囚人たちはその宝物庫の一つを選んで、寒い夜を何とか明かすことにしました。

宝物庫の中、囚人たちは肌を寄せ合うことで、身を切るような冷たい夜風からとりあえず逃れることができました。

そして明日からどうするかをみなでもう一度相談し始めました。

口を利くことができなくされた囚人は、肌を寄せ合いつつ、弱っている囚人の介抱を始めました。

ここは、いま国中で一番温かな場所でした。

なぜなら、お城の外は、みなが互いを信じられず、互いの肉に食らい合うような、狂気で満ちていましたから。

けれどこの宝物庫の中は違います。

誰もが痛みというものを知り、不自由を経験し、とりわけ誰かを恨んだり憎んだりすることがどれだけ自分の心を不自由にするかを知り尽くした人々だったので、

お互いに体を寄せ合い、可能な限り傷を癒し温め合おうとしていました。

ですからこの宝物庫の中は、どこよりも温かな場所でした。

ところで、その囚人たちの中に、カリロエの同僚がいました。彼は人形使いでした。

糸で人形を操り、それを小さな舞台の中で音楽に合わせて動かす仕事をお城の中でしていました。

「かわいそうに。大丈夫か、カリロエ」

カリロエの美しい旋律に併せて人形劇を取り仕切ったことのあるこの年老いた人形使いは、カリロエの変わり果てた姿に涙し、せめて音だけでも聞こえるようにと、

耳を縫い合わせていた糸を切り、癒着していた耳の皮膚を裂いて音が聞こえるようにしてあげました。

「ありがとう。どこのどなたか知らないですけれど、本当にありがとう」

と言ったつもりでしたが、カリロエは舌を引き抜かれていたので、喋ることができませんでした。

けれど、人形使いはカリロエの言いたいことが分かりましたから、

「気にするな。わしはお前の作った曲に合わせて人形たちに踊りを躍らせたことのあるヴァトーだ」

と告げ、今のお城の状態を話して聞かせました。

人形使いはお城の状態については分かりましたけれど、なぜお城が燃えることになったのかはわかりませんでしたし、

お城の外の森という森がどうして丸坊主になっているのかもわかりませんでした。

「まるで戦争が起きたようだ。

戦争がどこかからやってきて、破壊するために破壊し、殺すために殺し、気が済んでどこかへ去ったようだ。

……まったく、何もかもひどいものだ」

夜が明けて、日が昇り、また夜になりました。

この日、領民たちがお城にやってきました。

彼らはお城から生活の役に立つものを手に入れるためにみなでやってきたのです。

やがて領民たちは囚人たちのいる宝物庫にやってきました。

ほかの宝物庫はどれもこれもからっぽでしたから、ここにくるのも時間の問題だったというわけです。

「おい、見ろ!中に兵隊がいるぞ!」

領民たちは宝物庫の扉を開けるなり口々にそう叫びました。

不幸にも、囚人たちの中に元兵隊がいて、彼は鎧こそ身に着けていませんでしたが、

この国の兵隊が身に着けることを義務付けられた制服を着ていました。

それは薄汚れてボロ雑巾のようになっていましたが、領民からすればボロ雑巾だろうと制服に違いはありませんでした。

そしてその制服を見た途端、領民たちは、また昨晩までのように、狂気の女神に取りつかれてしまったのです。

「こいつらは逃げ遅れたんだ!

こんな奴ら焼き殺してしまえ!」

領民たちは囚人たちの素性を確かめることなく、宝物庫の扉を閉ざし、釘を打ちつけました。

中ではせっかく地下牢を脱出してきた囚人のうち、まだ動けて、話すことのできる者が必死に扉の内側から領民の説得にかかりました。

けれど、狂気の女神に取りつかれた領民たちは、何も聞き入れてはくれませんでした。

もう、制服を見ただけで何も信じられなくなってしまう、そんな恐ろしい、けれど誰もがかかり得る悲痛な病に侵されていました。

「お願いだ!助けてくれ!

私たちはマティスやシャルダンの兵隊じゃない!

何年も城の地下で拷問を受けていただけだ!助けてくれ!頼む」

「うるさい!嘘つきめ、お前らのせいでどれだけ俺たち百姓が苦しんだと思うんだ!

お前らのせいで森が消えた!

森が消えたせいで獣が消え、水が枯れた!

水が枯れたせいで作物が育たなくなった!

どうしてくれるんだ!俺たちの宝を奪ったんだ!

お前らにこの気持ちが分かるか!おい、みんな、火をかけろ!

こいつらを蒸し殺して、肉を畑にばらまこう!そうすりゃ畑が少しは肥えるさ!」

 狂気の沙汰でした。カリロエを含む囚人たちのいる宝物庫にくぎが打たれ、その周りに薪がくべられました。

そしてそこに、火が放たれました。

火は瞬く間に薪を食べ、その勢いを大きくしていきました。

宝物庫は頑丈な建物でした。

火にも、それなりに耐えることはできました。

けれど、宝物庫の中の温度はどんどん上昇していきましたので、せっかく生き残って星を何十年ぶりに拝んだ囚人たちも、みな、高熱に耐えかねて、死んでいきました。

生きているのは、たった一人だけでした。

それは手足を失い、目を失い、けれど音だけは取り戻した、カリロエでした。

カリロエは高熱の室内で一人、うなされつづけました。

その時、空気が恐ろしく揺らいだ宝物庫の中に、月の精が現れました。

月の精は夜がやってきて宝物庫の天窓に月光が差し込んだその時から、実は室内にいました。

何か面白いことはないかと思っていたところへ、領民たちがやってきて、彼らが月の精もろとも閉じ込めたわけです。

領民たちは天窓から最初に塞いでしまったから、月の精は空へ帰ることができなくなってしまいました。

精霊の癖に油断していたというわけです。しかも宝物庫の唯一の扉も領民たちによってふさがれてしまったわけですから、月の精はたまったものではありませんでした。

月の精は迷った末、森の妖精の呪いのかかったカリロエに声を掛けました。

どうせ蒸し殺されるのなら、せめて妖精にかかわりのある者の一部にでもなろうという考えが月の精の中にあったわけです。

でも、そのままカリロエの体の一部になるつもりはありませんでした。

月の精にも自尊心というものはあります。

森の妖精なぞに劣るまいという気持ちでした。

それが、カリロエに対して一世一代の大魔法をお披露目する決心を月の精にさせました。

ちなみに月の精は、森の妖精がコレシュスにかけた月の精の呪いを半分だけ解いたことを知っていました。

あれはあれで、月の精にはショックだったのです。

だから森の妖精に親しいカリロエの様子を見に来ていたというわけでもあります。

結局、月の精が閉じ込められたのも、運命だったというわけです。

運命の女神には誰もかないません。

「やあ、人間君」

本当は急いでいたのですが、すこぶる余裕ぶって月の精は手足のないカリロエに話しかけました。

カリロエは、目も見えませんでしたが音を頼りに、月の精の方に顔を向けました。

「手短に要件を言うよ。実はね、今、少しだけ困っているんだ。君と同じで、僕もこの建物から出られなくなってしまったというわけさ。でも、僕が誰かなんて気にしてはいけないよ。そんなことはこの際どうだっていいことだ。問題は、このままだとお互いつまらないことになるってことさ」

本当は、つまらないことになるのは月の精だけでしたが、月の精は強がって嘘を言いました。

「僕が力を貸してあげよう。それは君が森の妖精たちにかけられた呪いを解く助けになるはずさ。奴らは君の魂が君の肉体から絶対に出られないようにしたわけだけど、あんな奴らのつまらない呪いくらい、何とかして見せよう。だから、力を貸してあげよう。今の君は体がいくつか足りないね。だからさ、もう一度、揃えてあげる。しかも、もっと丈夫で、長持ちする奴をさ」

宝物庫の奥の方に、兵隊たちの略奪を逃れた品がいくつかありました。

それは、楽師が残した楽器であり、詩人が書き残した楽譜であり、人形使いが劇で用いた人形でした。

その中の人形に、月の精は目をつけました。

「頼むから暴れないでくれよ。これは結構面倒なんだ」

手足のないカリロエが暴れるはずもありませんでしたが、月の精はそういうと、例の、一世一代の大魔法を始めました。

それは、カリロエの一番中身、つまり魂を肉体から切り離し、それを人形に移植するという途方もない魔法でした。

そのためにとらねばならない手続きがあまりにも複雑で、しかもそのためにかけねばならない労力があまりにも膨大であるため、

大抵の妖精も精霊もやりたがりませんでしたが、月の精にとって、四の五の言っていられませんでした。

月の精は自分の長い生涯を思いだしながら、大魔法に必要な呪文を唱えました。

唱えながら、運命の女神には逆らえないのだと悟りました。

悟りながら、せめて自分の力が森の妖精の力に勝ればうれしいなと考えました。

あれこれ考えているうちに、月の精の体は透けていき、その身は黄金の粉となって、一体の人形とカリロエの体を結ぶ架け橋となりました。

今、その黄金の架け橋を、白くて小さな、丸い光がゆっくりと移動していきます。

それはカリロエの体からフワリと立ち上り、橋をゆっくりと渡り、一体の人形の中にそっと入っていきました。

でも、その白くて小さな、丸い光の後ろを、緑色の、蛇のような光がシュルシュルと追いかけていきました。

それは森の妖精たちのカリロエにかけた呪いでした。

月の精は黄金の架け橋から突き落としてやりたいとは思いましたが、そこまでの力はもう、月の精には残されていませんでした。

実際、周りが灼熱の炎に囲まれてなくて、何でもないときなら月の精は簡単に森の妖精たちの呪いなんて外せましたが、

今はにっちもさっちもいかない状態だったので、これはこれで仕方のないことでした。

さて、地獄の業火に巻かれたような熱さの宝物庫の中で、黄金の架け橋が白と緑の光を人形の中に渡し終えました。

すると黄金の架け橋はカリロエの体から離れ、再び黄金の粉となって、そのすべてが一体の人形の中に溶け込んでいきました。

もちろん、白と緑の光も人形の中に溶け込んでいきました。



五、愛舞


……。

……。

……。

もう、気づいているだろう?

“これ”が、俺だ。

お前が七日七晩虚ろな硝子の中に見てきたのは、俺が〈私〉だったころの過去だ。

まるでおとぎ話のような、俺の過去だ。

……。

俺は月の精によって新たな肉体を手に入れた。

それはもはや人の血の流れている代物ではなかったが、とにもかくにも俺は新しい体を手に入れた。

狂気にかられた人間たちは宝物庫に火をかけた翌日、城に戻ってきて、俺たちを閉じ込めた宝物庫の扉を開けた。

そして俺を見た。

奴らは当然、体の動く俺に驚いていた。

それは別にかまわない。

そんなことより、俺は月の精によって記憶を奪われていた。

だから突然宝物庫の中に入ってきて農具や耕具を振り回して襲ってくる奴らを敵としか認識できなかった。

だから、殺した。

殺すというよりは、屠った。

どれほどの力が自分に秘められているか知らなかったから、加減というものが分からなかった。

だから宝物庫もろとも、千切れるだけ千切り、壊せるだけ壊した。

宝物庫を逃げ出し、気が済むまで走り、俺はいつの間にか国の外へ逃れていた。

国の外には森があった。

当然だ。

その森の一つに隠れ、俺は湖で喉を潤した。

本当は喉など乾いていなかったが、人間だった頃の名残で、潤してみた。

湖面に映る自分の姿を見て、俺は、何か大切なことを忘れていることに思い当たった。

誰かを失った時に見た、星のような輝きの舞踏を、その時体が思い出した。

俺は、水面に映る自分を相手に、踊りを踊った。

踊りながら、どうして自分はこんな舞踏を知っているのか、知りたいと願った。

踊りを終えた時、俺は全てを思い出した。

そう、願いがかなった。

俺の中に、俺の知らない、けれど俺と少なからず関係を持った人間や妖精たちや精霊の過去や思惑が流れ込んでこんで、俺自身の記憶もすぐさま甦った。

そして思い知った。

世の中とはなんと不条理で、浅ましく、美しく、惨く、貪欲で、恐ろしい舞台なのかと。

だが俺は、そんな醜くろくでもない舞台から都合よく降りることになった。

少なくとも、俺はそんな舞台で妖精や精霊や人間と三文芝居を興じる必要からは解放された。

奴ら演者からすればさしずめ俺は、奈落に立つことを赦された裏切りフェナカイト

恨まれようと憎まれようと構わない。

そんなことは、どうだっていい。

俺のこれからは、俺の求めるものを見いだすこと。

俺は奈落の住人。

永遠の裏切り者だ。

俺の〈後半戦〉はこうして始まった。

目的は、「足りない何か」を手に入れること。

一度手に入れ損なった気がした、それを手に入れること。

だが、それは容易でなかった。

少なくとも俺が一人で踊ったのではそれが手に入らないらしいことには気づいていた。

だから、俺は舞台の演者たちにその答えを求めるしかなかった。

舞台を降り、奈落に移った俺は生死の境からは解放された。

しかし、「感情」というものから何者よりも遠ざかってしまった。

情熱、欲情、意志、勇気、

「足りない何か」を捜すために必要な時間は飽きるほど手に入れたが、「足りない何か」を見極める人間的な「勘」が完全になくなってしまった。

だから、舞台の演者たちに任せざるを得なくなった。

奴らに踊りを教え、歌を教え、操る。

そうして〈果実〉が実るのを待ち、それが俺の心を震わせる「足りない何か」なのかどうか試す日々を、俺は送ることにした。

〈前半戦〉が終わってから幾世紀も過ぎた。

気づけば多くの人間を、街を、国を破滅に追い込んでいた。

気づけば俺は、妖精と同じようなことをしていた。

妖精を憎む俺が妖精となる。

これが本当の、あのキノコ狂いどもの呪いなのかもしれない。だとすれば皮肉だ。笑える。

……。

弱みを見せるのは嫌いだ。

きっとこれは月の精に似たんだろう。

思えばアイツも魔法という力だけしか持たない哀れな奴だった。

……。

弱みを見せるのは嫌いだ。

しかし、見せた。

何のために……。

「足りない何か」を証明させるために。

――弱イ自分ヲ変エヨウトスルソノ勇気デ。

「足りない何か」を示させるために。

――友ヲ悼ミ、友ノ言葉ニ耳ヲ傾ケラレル優シサデ。

「足りない何か」でこの俺を、私を震わせるために。

――想イ人ノタメニ全テヲ投ゲ出セルソノ覚悟デ。

「足りない何か」を……お願い……。

――全テヲ失ッテモナオ絶対ニ残ルトオ君タチガ信ジテイルソレヲ。

それはもう……




「大丈夫?」

耳元の声に驚いて意識を向ける。

すぐ近くに、スマホのライトを向ける中西の姿があった。その距離がものすごく近い。すぐに僕は中西の腕の中に頭があることに気づく。

「ご、ごめん」

あわてて頭をあげて離れる。

「待って!」

中西の声で振り返った直後、上も下も右も左も分からない闇に呑みこまれる。そして何となく自分が回転した状態でどこかに弾き飛ばされているような感覚に襲われる。

「うわあああああああああああ!!」

中西!どこ!?

周囲は月光も鏡も空も地面も何もない闇。まるで宇宙空間に投げ出されたかのような闇。

ただ宇宙ときっと違うのは、たくさんの人間のうめく声、あえぐ声、叫ぶ声が遠くの方から無数に聞こえていること。

「はあ、はあ、はあ」

冷静に思い出してみる。

……。

起動している暇なんてないはずの『ペシュメルガ』が脳裏を一瞬よぎった。それで、それでその前は確か、確かフェナカイトの……

「ブラックマリア……」

キャラクターの名を冠した必殺技を食らった自分……。

「はあ、はあ、はあ、はあ……」

どうしていいのか分からなかった。

〈ブラックマリア〉が発動した。この状態のCPUに勝ったことなんて僕は一度もない。

ゲームですら勝てないんだから、現実にこんな目にあったらきっと、きっと死ぬ。

「くそ、くそっ、くそっ!!」

中西を守るために闘って死ぬのならどうしようもないと、思える。

せめて闘えるなら……。

けれど闘うことすらできず、きっとこのまま死ぬ。勝ち目とかそういうもの一切を手繰り寄せられず、ただ闇の中で、闇の一部になって消えていく……。

「なんで……」

しかもこんな、独りぼっちで。

「ちくしょう……」

死ぬために死ぬしかない。どうする?どうしよう。どうしたらよかったんだ……。

「ねぇ」

「!」

手に違和感を覚える。咄嗟に見ると僕の手はスマホを握っていた。

「早く出よう」

闇の中で唯一光を挙げるスマホから中西の声があがる。

 ピシリッ!!

スマホの画面に亀裂が走る。光が砂のように漏れ溢れる。溢れた光の砂は海を泳ぐイワシの大群のように一つの大きなうねりとなって闇を泳ぐ。光の群れは泳ぎながら楽師の姿を取り、妖精の姿を取り、腕を切り落とそうとする兵士の姿を取り、狼の姿をとる。狼となった光はそのまま僕へ突進し、額をぶつけて砕け散る。背後に爆ぜ散る光が一瞬翼のような形を取ったかと思うと、それは足元に散り敷かれた。地面が、できた。

「ね、早く」

背後を振り返っていた頭を戻す。中西が砂金散る闇の上に立っている。

「大丈夫?」

「はあ、はあ、はあ……どこに」

「最初からここにいるよ。私は」

最初から知っていたかのように、僕の質問に中西は言った。

「さ、出よ」

「ど、どうやって」

「どうやってって」

中西は僕の手を取った。

「踊ればいいんじゃない?」

「……踊る?」

「私たちは願いを叶える踊りを知ってる。そして何度も踊った。だから今度も踊ろう。そして出ようよ」

「……」

言われてみればその通り、僕らは舞踏譜を知っている。だけど、

「鏡がない、よ」

「それがどうしたの?」

「だって」

「言ってなかった?あの人」

「何を」

「同じ思いを持つ者同士が譜面どおりに踊ればいい。ただし人間が同じ思いを抱いて踊ることはできない。だから鏡を使えって」

ドクン。

これは生命力を代償に本人の望むものを見せる力がある――。

ドクン。

信じようと信じまいとこの譜面にある通り、二人が同じ思いで……は人間である以上無理だな――。

ドクン。

君を二人用意できる場所、つまり大きな鏡のある空間で、譜面にある通り足を動かし、踊ればいい――。

ドクン。

描かれている通りに踊ることができたならば望むものが姿を見せる――。

「……あ!」

あの時店の中で、フェナカイトが言った言葉を僕は思い出した。

何かを言いかけて、寂しそうに笑みを浮かべ、訂正した一瞬。人間である以上無理と言って訂正した瞬間。

「できるって、今は思えるな」

中西の、僕の手を握っていない方の手に、スマホがある。

「私はペシュメルガであなたのブトウフを、ずっと見ていた」

ピシリッ!

「私は私のはずなのに、王女で、泣いていて、信じていて、裏切られて、狼になって、死んで、蛍のようになっていた」

割れたスマホの画面から蛍火のような、けれど青い光が立ち上る。

「百合花を失った時のように自分じゃ何も変えられないんだって思いながら、あなたを見ていた」

青い光が空でつながり、曲線を描く。見覚えのある、あまりに見覚えのある大事な曲線。

「あと私に残されていたのは、心を開くこと。ありのままのあなたを見つめること」

青い光の曲線が、空から降ってくる。

「うっ!」

それは強い風を巻き起こし、怨嗟やうめき声や唸り声の一切を消し去った。

目を開く。

「あなたの舞踏譜……あなたの透き通るような思い……私は確かに、あなたに重なれた」

いつの間にか僕の両手をそっととる中西がいた。まるで、踊りを踊る前のように。

「中西」

「準備はいい?」

「うん。ここから出よう」

青い曲線に金色の光子が吸い寄せられていく。曲線の色が淡く白い光へと変じていく。

「一緒にこの闇を出て、一緒に生きる。ユリカの分もあなたと一緒に生きていきたい。だから絶対に出られる。私はそう信じてる。今は。絶対」

「……うん」

鳥肌が立ち、目が熱くなった。うれしくて、中西の姿がにじんだ。

「いくよ」

「うん」

思いを一つに、僕らは舞った。

心対称――。

軌跡を進むにつれて、足元の光が体に流れ込む。

真対称――。

流れ込んだ白い光によって、自分自身が温かく、淡く光り出す。

「見える――っ!?」

手が離れ、軌道を一人で進む。けれど独りじゃない。反対側に、白く光る中西の姿がある。

今度は見える!

「見えるよ!中西のこと!!」

「私も!ねえ大好きだから!!」

 バウンッ!

 中西から白い光が衝撃波のようになって放射状に広がる。いつか妖精たちと見た草原の景色が白い光だけで描かれ、それが闇の果てでぶつかる。ぶつかった途端、永遠に続きそうだった闇に亀裂が走る。

「私のことっ!好き――っ!?」

血管系のような舞踏譜で、ようやく互いの手を取り合うところに戻ってくる。

「好きに……」

恥ずかしさとか、後ろめたさとか、諦めとか、後悔とか一切含まれない感情が、胸の中で溢れ出す。

「決まってるだろ――っ!!!」

「きゃっ!」

中西の手に取った瞬間、中西が見えなくなるくらい白い大きな光が自分から上がる。きっとこれがフェナカイトのいう……



――いろいろと……悪かった。



「……」

光が収まる。

周囲に濃淡が生じ、世界は少しずつ、色彩を取り戻す。

「ここ……」

「戻、れたの?」

気づけば僕と中西は月光の明りが差す、大鏡の割れた学区の地下練習場に立っていた。

「長い、夢だった」

「「……」」

木製の茶色いマネキンのような人形が一体、パーツがばらばらになってガラス破片の散る床に転がっていた。

そしてそのそばに、革の手袋や革靴、背広にコートがあった。それに二つのスマホも。

「長い」

「長いあがきだった」

マネキンの首パーツの茶色い目が天井を見たまま、マリオネットのような口元を開き、音を漏らした。フェナカイトの声だった。

「何でも、叶えられるはずなのに、一番大切なものは叶えられない。それが、舞踏譜だ。一番大切なもの。……それがあればあらゆる争いは止み、殺される者も飢える者も虐げられる者もいなくなるというのに」

「……愛」

「そうだ。鏡の前で踊ったところで剣は出せても、鏡を前にして愛はつくれない。つくったと思ったそれはただの幻影にすぎない」

割れた鏡の破片を、中西が見つめる。……臼井。

「愛だけは、人が、他者が必ず要るのだ。それもただの人ではなく、思いの重なる人。自らにとって完全な人」

 手が闇を泳ぐ。ふっと中西の手が重なる。握りしめる。

「待った。探した。求めた。願った。けれどそれは、そのような者たちに巡り合うことはついぞなかった。残されたのは、無責任な願いによって荒廃してしまった世界だった」

「……」

「俺はやがて気づいた。待つのでも探すのでも求めるのでも願うのでもなく、生むしかないのだと」

人形の口がカタンッと閉じて開く。ボロボロのスマホの画面にさらに亀裂が走る。

「自らの記憶を匣に閉じ込め、舞踏譜を求める者たちの魂を匣に閉じ込める」

……。

頭の中で風が吹く。ずっと自分のものだと思っていたスマホが遠のく。ダウンロード?バーのカウンター?……全て、フェナカイトの……

「ペシュメルガ」

「匣の記憶につけたその名は〈死と向き合う者〉。死とは俺のこと……俺の死……」

スマホの画面が点灯し、明滅して再び消えた。

「心を重ねようとする意思。それがない者は、匣から生きて出すつもりなどない。みな虚ろなまま肉体だけで舞踏譜を舞い、結果、命を吸わせて儚くした。それを悪いことだと思ったことはない。舞踏譜を扱う代償だ。願いには代償がつく。……たくさんの、本当にたくさんの命を舞踏譜はそうして吸ってきた」

愛を調べるために拵えた、あまりにも重く切ない、条件装置。

「君たちはしかし……」

「乗り越えたわ」

中西が言う。小さく、でも力強く。

「大切な者の死に接して、誰よりも素直になれた。それは時の翼。死者の時を前に進めるための確かな翼」

「……」

「翼を手にした者が、一途な心の持ち主に共鳴した。共鳴が、ようやく生んだのだ」

それは、足りない何か。

「然り。……愛を」

人形はそっと、目を閉じる。

「ペシュメルガは俺の心……満たされた時、俺は死と向き合える」

「フェナカイト……」

「俺の戯言は……これで終いだ。君たちに与えた舞踏譜の記憶も、力も、俺の過去も終いだ。……今度こそ、文字通り俺は、死ねる」

「……ありがとう」

思いがただ、口をついて出た。壮大な装置に、魔法に掛けられたのに。感謝の言葉しか浮かんでこなかった。

「俺に、感謝するな。俺は俺の答えのために多くの人間を堕落と死に追いやってきた。

ようやく奈落の底の地獄で彼らのために、償える。感謝するのはむしろ…………」

スマホの画面がもう一度光る。

「私の方、です。……さようなら」

懐かしい、楽師の声が闇に小さく響き、消えた。

いつか見た金色の粒子となって、鏡へ流れて行く。

人形もスマホも幻のように薄れていく。ひび割れ、ところどころ欠けていた鏡も薄れ、気づけば元どおりになっていた。

キーン……。

「うっ」

かき氷を慌てて口に流し入れた時のような鋭い頭痛が頭に走る。もしかしてと思って踊りのステップを頭の中で思い出そうとしたが、全く出てこなかった。

「踊りが思い出せない」

「……」

ふと横を見ると、中西は胸の前で手を合わせ、目を閉じている。祈りをささげているように見えた。

僕も目を瞑り、祈りをささげる。

脳裏に、夢で見たはずの幾多の光景が流れて次から次へ消えていく。

そして最後、何もかも映像が消えて闇色に戻った瞼の中で、手にしたグラスの中の琥珀色の液体をそっと喉に流し込む憂い顔の精霊が鮮やかな遠くに浮かんで、消えていった。

「鏡が治せるんならついでに照明とかも元通りにしてくれればいいのに。壁も床も穴だらけだし」

しばらくして、中西が冗談めいてそんなことを言った。

「踊りは思い出せなくなったみたいだけど……でも私はフェナカイトのことは、忘れない」

その顔も、その姿も浮かばない。

「うん、そうだね」

けれど、その名前だけは僕の心にも残っていた。

臼井が僕たちの心の中で生きるように、フェナカイトも、僕たちの中で生きられる。

そう僕らが信じるから、きっと僕らの中に残ったんだろう。だから絶対に忘れない。

「こんなにしちゃって……見つかる前にここから出よう」

「そうね。警報器ならないといいけど」

空が白み始める中、僕と中西は学校を出る。

「ねえ、歩いて帰るの?」

「この時間だと電車は無理だよ。まだ始発は出てない」

「この間みたいにタクシー使えば?」

「えっ!タクシー使ったって、どうして知ってるの!?」

「さあ?別に気を失っている女にキスした男のことなんて知らないけど」

「あれはその……ご、ごめん」

「うふ。まあいいや。歩いて帰ろう。その方が一緒にいられる時間、長いし」

「そうだね」

「そんなことより、ちょっとジャージの上、貸してくれない。私の服ボロボロなんだけど」

「ほんとだ」

「どこ見てんの?」

「え、胸なんて見てないって!」

「胸とか私、言ってないし」

「えっと、とにかく今上脱ぐから、これ着なよ、ほら!」

歩きながら、僕は中西の顔を見る。中西も僕を見る。

柔らかな表情の中に、くっきりとした二つの目。その透き通る瞳の中に僕の姿がある。

「どうしたの?」

「え……寒くないかなって」

「大丈夫。もう寒くないから」

優しく言って、中西の右手が僕の左手に触れる。しっとりと柔らかい指先に僕は自分の指を絡めた。

二人で歩く。

僕は吹き渡る冷気を胸いっぱいにゆっくりと吸い込む。闇から太陽が顔を出したばかりの空気はすがすがしく、どこか厳かで、それでいて今までで一番愛おしく感じられた。

       (第一途 了)

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