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非日常系  作者: 我楽太一
1/12

序 パラレルワールド

「ユウは、パラレルワールドって知ってる?」


 唐突にそんなことを聞かれた。


 少し考えて、こう答える。


「要するに、今こことは違う、別世界のことでしょ? ボクが別の高校に進学してたり、アイちゃんとは別の子と幼馴染になってたり。もっと大袈裟に言えば、宇宙人がこの星に来てたり、恐竜が絶滅してなかったり、魔法が使えたり……」


「そうそう、そんな感じそんな感じ」


 ユウの回答に、アイはそう相槌を打った。


 ユウとアイの家は互いに隣同士で、その上二人は小中高とずっと同じ学校に通うような間柄だった。だから、こうしておしゃべりしながら一緒に登校するのは、何度も繰り返したようなありふれた日常の一コマである。


 しかし、それにしても今日の話題は少し変わっている。


「で、パラレルワールドがどうかしたの?」


「昨日晩御飯食べてた時に、ふと気になってさぁ。もし今とは全然違う世界に生まれてたら、一体どうなってただろうって」


 別世界の自分を空想しているのだろう。普段は好奇心に爛々と瞳を輝かせているアイが、珍しく遠い目をする。


 かと思えば、彼女は突然こちらの方を振り向いた。


「ユウはもっと別の世界に生まれたかったとか思わない?」


「そうだね……」


 たとえば、一生かかっても使い切れないような莫大な財産。たとえば、あらゆる分野で成功を収められるような才能。たとえば、誰もが一目で恋に落ちてしまうような容姿。もし仮に、自分がそういったものを持って生まれてくる世界があったとしたら……


「でも、今よりずっと不幸な人生を送る世界もありえるわけでしょ? それは嫌だなぁ」


「アンタは何でそんなネガティブなのよ」


 ユウの返答を聞いて、アイは呆れ顔をした。


 そんな二人の会話に、三人目が加わる。


「おはよう」


「おはようございます」


 エルの挨拶に対して、二人は敬語で答える。同じ文芸部のメンバーだが、彼女は一つ年上の高三で、また部長でもあった。


 そのエルが尋ねてくる。


「何の話をしてたの?」


「もしパラレルワールドがあったらって話ですよ。アイちゃんのいつもの思いつきの与太話です」


 ユウの説明に、横でアイがムッとした表情を浮かべる。


 一方、エルは微笑を浮かべていた。


「パラレルワールドは案外与太話とも言えないけどね」


「えっ」


 驚くユウに、今度はエルが説明する番になった。


「エヴェレットの多世界解釈を始め、パラレルワールドが存在するという仮説はいくつもあるわ。以前は仮に存在しても干渉できないから存在しないのと同じだと考える向きもあったけど、最近は干渉できるんじゃないかという仮説も出てきてるみたいだし。だから、もしかしたら、いつかはパラレルワールドに行く方法が見つかるかもしれないわね」


「へー」


 そんな話は知らなかったから、ユウは感心の声を漏らす。


「それで、エル先輩は理想の世界とか、理想の自分とかはないですか?」


 エルの説明に我が意を得たりと、アイはうきうきした様子で質問する。


 だが、当のエルの反応は鈍かった。


「うーん、私は今の自分に結構満足しちゃってるから」


「まぁ、先輩はそうでしょうね」


 やっかみ半分という口調でアイは言った。もっとも、エルは家が裕福で本人も多才、その上スタイルのいい、大人びた美人ときている。だから、アイの気持ちはユウにもよく分かるのだった。


 そんな三人の会話に、更に四人目が加わる。


「おはようございます」


「おはよう」


 シーが敬語で挨拶したのに対して、三人はそう答える。彼女はこの四月に入部したばかりの、新一年生だった。


 そのシーが尋ねてくる。


「何の話をされてたんですか?」


「エル先輩が勝ち組でムカつくって話」


 アイの滅茶苦茶な説明に、エルは「してない、してない」とツッコミを入れる。それから、本当の話題について話した。


「パラレルワールド、ですか……」


「ええ、そうよ」


 復唱するシーに、エルはそう頷く。


 そうして説明が終わると、案の定アイは彼女にも質問した。


「シーは何かない?」


「急に言われても、ちょっと思いつきませんね」


 シーがそう答えたにもかかわらず、アイは続けて尋ねる。


「日頃から一つくらいは、そういう妄想したりしない?」


「あまり非現実的なことを考えても仕方ないですから」


「えぇー」


 どうしても何か言わせたいらしく、不服そうな顔をするアイ。大抵のことでは無表情を崩さない冷静沈着なシーも、これには困っている様子だった。


 そこで、ユウは助け舟を出すことにした。


「たとえば、朝っぱらから面倒な先輩に絡まれずに済む世界とか」


「ノーコメントで」


 ユウに対しても、シーは困った様子で答えた。


「全く、みんな欲がないというか、想像力がないというか……」


 三人の回答に、アイは呆れるような、不満に思うような調子で呟く。


 これを聞いて、今度はユウが尋ねる。


「そういうアイちゃんは、どういう世界がお望みなわけ?」


 すると、アイは自信満々にこう答えた。


「カニの殻がめっちゃ剥きやすい世界」


「わりとどうでもいいな」

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