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【中】

 


 そうと決まれば話は早い。

 俺はこの主人公で憂さを晴らすことに決めた。

 場面は丁度と言うべきか、町人の声援にヴァーミリオンが手を上げたところで止まっている。


 マイクのスイッチをカチリと鳴らす。

 最初は軽くジャブからいこう。



『皆からの声援を受けるヴァーミリオン。彼は住民達のその声に、右手中指を立てて応えた』



 町の英雄から突如ファッ○される住民達。

 硬直する者、見間違いかと目を擦る者、バツが悪そうに目を逸らす者。その反応はまちまちだ。


「な、何をやってるんだヴァーミリオン?」


「え! あ、いや……何でしょう? はは」


 父親の問いと自分自身の行動に、イケメンも首を傾げるばかり。

 やった本人も訳が分からないと言った表情だ。 


 俺は目論見が成功したことにほくそ笑む。

 次は場所を変えるか。



『町の住人達と幼馴染に見送られ。ヴァーミリオンと父親は国王の元へと足を運んだ』



 暗転した後に現れたのは、荘厳そうごんな雰囲気が溢れんばかりの謁見の間。

 豪華な玉座に座る立派な髭を蓄えた老人が恐らく国王で、その隣のハゲが大臣だろう。王の正面に控えるのは、ヴァーミリオンとその父親だ。


 父と息子は片膝をつき、国王に忠誠の挨拶をしている最中で固まっている。

 今回は最初から時間が止まっているらしい。これは願ってもない場面チャンスの到来だ。俺はスイッチをONにする。


 

『場面は変わり謁見の間。ヴァーミリオン改め“てんで・ダメ太郎”は、自己紹介を踏まえながら国王に挨拶をした』



「ヴァーミリオン改め、『てんで・ダメ太郎』です。本日はご機嫌麗しく――」


「うおーい!? ヴァーミリオン! 私が寝る間も惜しみ考えた名をなに勝手に改名しているんだ!! しかもそれ家名も変わっとるじゃないか!!」


 目を丸くしながらツッコミを入れるヴァーミリオンの父を見て、存在を認識されない俺は人目もはばからず笑い転げた。


 コレは……コレは実に楽しい!!


「う、うむ。ではダメ太郎。今日はお前に頼みたい事があるのだが……」


「何なりと仰って下さい」


 少し引き気味に要件を話そうとする王に、話を聞く前から受け入れるつもりのダメ太郎。そこでふと俺の脳内に、二つの疑問が浮かび上がった。


 今までは止まっている時にナレーションを入れていたが、会話の途中でナレーションを挟む事も可能なのか? という点。もう一つは、ダメ太郎以外にも効果があるのか? という点だ。


 思い立ったが吉日。

 同時に試してみることにした。



『王は男同士に言葉は要らぬと服を脱ぎ、その肉体美を披露した。そして始まる、王の肉体言語を使った対話は苛烈を極めた』



「漢同士に言葉など不要!! ふん!!!!」


「お、王!?」


 服は脱げたというより、膨張する筋肉の勢いで弾け飛んだ。

 素っ頓狂な声を上げる大臣の狼狽が見てて楽しい。実験はどちらも成功したらしい。


「はああぁぁぁ!! 王都炸裂拳!!!!」


「行きます!! 前途多難拳!!」


 二人の戦いは、俺の想像を遥かに超えた凄まじさを見せる。

 壁は裂け、柱は折れ。止めに入った衛兵は軽々宙を舞った。

 瞬く間に、謁見の間は廃墟の様に姿を変えていく。


 大迫力の戦闘は見てて楽しい。

 だがこのままでは埒が明かないので、取り敢えずストーリーの筋を戻す事にした。



『両者の闘いに決着はつかず。仕方なく王は、言葉を用いて要件を伝えた』



「ではダメ太郎。話を戻すが、最近魔物が凶暴化しているのはお前も知っているだろう? それは実は、“奴”の力が全世界の魔物に影響を与えていると言うことが分かったのだ。それをお前に止めて欲しい」


「国王様。“奴”というのはまさか!?」


 ダメ太郎の父がハッと驚きの表情を見せた。

 RPGの一場面を見ているようで、俺は少しの感動を覚える。


「そうだ。奴の名は大魔王――――――ホニャラララ」


 なんか大事な場面で、王が変なことを言った気がする。

 首を傾げるオレの前で、世界は今までとは違う反応アクションを起こした。


 キュルキュルという音と共に、場面を巻き戻し始めたのだ!

 まるでリモコンの『巻き戻し』を押したかのようである。


 それは直ぐに止まり、再生される。


「ではダメ太郎。話を戻すが、最近魔物が凶暴化しているのはお前も知っているだろう? それは実は、“奴”の力が全世界の魔物に影響を与えていると言う事が分かったのだ。それをお前に止めて欲しい」


「国王様。“奴”というのはまさか!?」


「そうだ。奴の名は大魔王――――――ホニャラララ」


 そしてまたキュルキュル。

 そこで俺は、巻き戻しの意味に気が付いた。


『なるほどな。設定も任されていると言うことか!』


 話が先に進まないのは、魔王の名前が設定されていないからのようだ。

 ならば、俺が設定をしてやろうじゃあないか!


「国王様。“奴”というのはまさか!?」


「そうだ。奴の名は大魔王――――――」


 そこで俺はマイクのスイッチを入れ、たった三文字の言葉を継ぎ足す。



『マリア』



「そうだ。奴の名は大魔王マリア!」


「マリアか……くそぅ大魔王め! 憎き大魔王マリア………………マリアッ!?」


 今度はダメ太郎が素っ頓狂な声を上げる。

 幼馴染の正体が大魔王と知って、動揺が隠せないらしい。


「うむ。実はそうらしいのだ」


「マリアちゃんが大魔王だったなんて……」


 俺の設定そのままに進む物語ストーリー

 大分王道から逸れてきた気がする。 


「ではダメ太郎。大魔王マリアを倒す為に、このホニャララを授けよう」


 王のセリフが終わるとキュルキュル。

 今度は王から何かを貰うシーンのようだ。


 『さぁ~て、何にしようかな?』


 普通だと金や武器防具。

 旅に必要な物や人だが…………それでは芸も面白みも無い。

 頭を捻り、悩んだ俺が出した結論こたえは――――。



『王は魔王討伐に必要な物として、ダメ太郎にぽっかぽかカイロを授けた』



「ほら……寒い地域とかあるではないか? その時なんかこう……役に立つだろうと思う」


 しどろもどろになった王は、ぽっかぽかカイロをダメ太郎に手渡す。

 ダメ太郎はというと、「ど、どうも」と口の端を引き攣らせながら受け取っていた。


 腹を抱えて一頻り笑った後で、俺は物語を進める。



『大魔王の正体を遂に掴んだダメ太郎。彼はその正体を暴くべく、ぽっかぽかカイロ片手に幼馴染の下へと走った』



「どうしたのヴァーミリオン? 血相を変えて?」


「見つけたぞマリア! あとその名は捨てた。今はダメ太郎だ」


 畑仕事に勤しむマリアに、ダメ太郎が詰め寄るシーンらしい。


「君が大魔王だったんだな? ずっと僕を偽っていたのか!!」


 声を大にして幼馴染を糾弾するダメ太郎。

 その言葉に一瞬驚愕の表情を浮かべた少女だったが、それは直ぐに不敵な笑みへと変わる。


「フフフ! ようやく気付いたのね? そう、私が大魔王マリア!!」


 少女の背中から巨大な悪魔の翼が生え、怪しい紋様が肌に浮かぶ。

 髪の色は血のように赤く染まり、その瞳はまるで爬虫類そのものだ。


 黒い雷を全身からほとばしらせながら、マリアは上空にその身を縫い付けた。

 その姿を見た住人達は恐怖の形相を浮かべ、我先にと逃げ惑う。


 俺の一言でエラいことになっている。


「何故だ! 何故なんだ!? 君は本物のマリアなのか?」


「ええそうよ。私の正体を見破った貴方は、その目的まで看破しているのかしら?」


「目的だと?」



 邪悪な笑みを浮かべる大魔王マリア。

 

 彼女はその驚愕の理由を言い放たんと、ゆっくりと口を開ける。


 そして――――――時が止まった。



『良い場面ところでコレかよ!?』


 俺は地団駄を踏んだ。

 どうやらその理由も俺が考えないとダメらしい。時間は腐るほどあるので地面に横になり、色々と思考を巡らしてみる。


 そして十分後。「コレで行くか!」と立ち上がった俺は、思い付いたアイデアを言葉に変え、マイクへ向けて言い放った。



『遂にダメ太郎の前に顕現した大魔王マリア! 今まで正体を隠し、ダメ太郎の幼馴染として過ごしてきた大魔王。その驚愕の目的とは!!』




 

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