内心リアライズ
恋愛の形は様々といえど、それが受け入れられるにはまだ時間を要するご時世。
そんな最中で抱いてしまったこの感情。それは私には持て余すほどの熱と勢いを持っていて。
どう向き合うべきかも、どう発散するべきかもわからない。
仮に伝えたとして、受け止めてくれるのか。理解してくれるのか。
想像の海、思考の沼へと沈んでゆく。
万が一、いや億が一、この出会いを手放すことになったら――。
考えるだけで恐ろしかった。
「――ちゃ、――千紘ちゃんっ!」
「あいたっ!?」
背中に走る電気のような痛みで我に返った。
感覚が飛んだ皮膚を擦りながら、僅か数秒の間に脳神経をフル稼働させる。
こんな野蛮なことをする人間は知る限りひとりしかいない。その『彼女』に精一杯の悪意をもって振り返った。
「……七海ちゃん」
「お、よーやく気ぃついたか」
ようやくとかじゃないんですけど。こっちはめちゃくちゃ背中痛いんですけど。
「千紘ちゃん話しかけても全く何も言わへんもん。せやったらもう最終手段は物理攻撃しかないやろ」
「荒療治は願い下げたいところなんですが」
きっとゴリラの遺伝子とか混ざってるんじゃないだろうか。
ふう、と息を取り直して、目の前の類人猿に話を振る。
「で、何の用?」
「いやさ、今日は結羽ちゃんと一緒ちゃうんかなーって」
「ああ……」
買いたいものがあるとかで、足早に教室を飛び出したんだっけ。
本屋に向かったんだろうけれど、追いかける気力はない。本人が言わないようなことを追求するのも野暮だしね。
「なるほどね。じゃあさ、今日はあたしの用事に付き合ってくれへん?」
「んー……まあ、いいけど」
「ほんま? よし、んじゃあ早速出発や!」
そのまま半ば引きずられるようにして学校を出る。
「いたたた、そんな腕引っ張ったら抜けるって」
「大丈夫大丈夫、これくらいやったらまだ抜けへん!」
やっぱ救いようのない脳筋だわこの娘。
手はちゃんと離してもらい、駅の方へ歩き出す。
どこへ向かうかも聞かされていない道中、七海に目的を問うてみる。
「で、何するつもりなの?」
「実はさ、今使ってる鞄がボロボロになっちゃってさ。ほら」
くるりと彼女が背中を向けると、なるほど確かにその鞄はところどころほつれていた。
「ほんで、新しいのを買いに行こうってわけ。どうせやったら千紘ちゃんにも見てもらおっかな」
はあ。なるほど。
ということは、目的地は駅前にあるショッピングモールか。こっち方面で鞄を取り揃えているのはそこの専門店ぐらいしか思いつかない――いや、もちろん私が知らないだけという可能性もなくはないけど。
「そやなー、千紘ちゃんべっぴんさんやからなー。いろんな鞄が似合いそうやなぁ」
「親父かあんたは!」
べっぴんさんなんて単語がこの世代から出てくるとは思わなかったよ!
「お、千紘ちゃんもツッコミ冴えてきたなあ。朱も交われば何とやら、ってやつ?」
「違うからね!?」
やだなあ。そんなことになったらアイデンティティ埋もれちゃう。
それに関西弁極めても結羽とコントはできそうにもないしね。
「さてと、見えてきたで」
そんなこんなしているうちに、到着予定地が近づいていたようだ。
予想的中。視界にはよく見知った量販店チェーンの看板が。
「千紘ちゃんはここ知ってた?」
「うーん、こっちのはまだ入ったことないなー。引っ越す前はちょくちょく行ってたけど」
そっかそっか、と返して彼女はずんずんと先へ進む。私はそれを追いかけるので精一杯だった。
なにしろ一歩一歩にかける歩幅が大きい。おまけに足を下ろしてから抜くまでの一連の動作も素早い。こういうところは流石関西人といったところか。
「ほい、着いたで」
彼女の背中に縋り付いて自動ドアをくぐると、清潔感のある空間が奥に広がっていた。
平日だというのに店内は多くの人で賑わっている。中にはうちのものと思われる制服を着た人たちもいる。
「おー、結構人いるなー」
「いつもこんな感じ?」
「まあなー、おっきい店はここくらいやからねー」
さらに歩調を早めて突き進む彼女。最早ゴーイングマイウェイとでも形容したほうが良いレベルだ。頼むから振り返ってくれ。
生粋の関西人相手に並んで歩くのはちょっと無理そうだ、なんて思いつつ人混みに奮戦。動体視力に自信がなければ無数の頭の中に彼女を見失いそうだ。多分結羽なら見失ってた――小さすぎて。
何回かエスカレーターを登って、ようやく目的の店に辿り着く。
「ここやここ。はー、やっと着いたわ」
「人多かったもんね……」
一息つく。ここに来るまでですでに疲労困憊だ。
「ま、こっからが本番やけどね。さあさあ、中入るで」
「あーもう、ちょっと待ってよー」
店内に進むと、ちょっと小洒落た鞄がずらりと並んでいる棚がさらにずらり。
リュックサック、トートバッグ、ポーチなど。自分には縁のない世界に思わず感嘆の声が漏れる。
「高くないの?」
「言うほど高くないで!」
値札を見ると、たしかに私でも手が届く範囲ではある。
そんな私を他所目に、七海は商品を手に取って吟味している。
私もちょっと見てみようかな。
「これどうかな……」
可愛らしい感じのリュックを手に取ってみる。ちょっと背負ってみたり、くるくると翻ってみたり。
……なんか違うなあ。私には可愛らしすぎるか。
元の位置に戻し、他のものを手に取る。今度は白くてふかふかのリュックだ。
……手に取ってから初めて思う。汚したらヤバそう。
というわけで却下。そっと戻しておく。
私がそうこうしているうちに、七海が目星を付けて戻ってきた。
「なあ千紘ちゃん! これなんかどうやろ?」
彼女が持ってきたのはカラフルな色使いのファンシーなリュック。その色味は、態度も表情も色彩豊かな彼女にはぴったりだと思った。
「うん。似合うと思うよ」
「おー、千紘ちゃんがそう言うんやったらほんまなんやろな! よし、じゃあこれはキープでっと……」
そのまま何やらぶつぶつと呟きながらフェードアウトしていった。
仕方がないので、再び売り場に視線を下ろす。
店内を歩き回りながら思ったのだが、何となくここに私の思うような鞄はない気がする。どちらかと言うとさっきから結羽に似合うような鞄のことばかり思い浮かんで……。
雑念を振り払おうとしているのにもかかわらず、そこで目に入るひとつのトートバッグ。黒い生地に猫をあしらった刺繍がしてあり、ご丁寧に猫耳までくっついている。
ああ、ダメだ。これ絶対結羽に似合うだろうなあ……。
これを提げた結羽の姿を想像して、思わず目を覆った。可愛くない訳がない。普段無口であまり喋らない彼女のイメージは黒猫そのもの。あまりにも見事にマッチしていて、オーダーメイドかと思ってしまうほどだ。
はあ、絶対可愛いだろうなあ……。渡したら『あ、ありがとう、千紘ちゃん……』とか照れながら言ってくれたりして。『よく似合ってるよ!』って返したら『そ、そうかな……うぅ、恥ずかしいわ……』とか言ったり。むしろ可愛すぎて私のほうが恥ずかしくなるよ。
それでちょっとだけ仲が進展して、いい感じになっちゃったりして……。ああいけないいけない、それ以上は越えちゃいけないラインだ……ああでももっと進んでみたい気がしなくもないけど……。
ともかくこれはただでさえ可愛い結羽の魅力を更に引き出してくれる素敵なアイテムに違いない。よし買いだ、いくら高かろうと借金してでも買ってやる。私の意志は折れないぞ――。
「千紘ちゃんっ!」
「っわぁっ!?」
耳元に轟音を浴びて我に戻った。しまった、また思考の海に……。
「もー、最近の千紘ちゃんぼーっとしすぎやで! おまけにさっきはめっちゃニヤニヤしてたし。いいことでもあったん?」
「ああいや、そういう訳じゃないけど……これいいなーって、ね?」
「これ? なんやろ、えらい千紘ちゃんのイメージとはちゃうなーって思うけど」
「あぁ、それは……」
思わず視線が泳ぐ。彼女がその挙動を見逃してくれるはずもなく。
「プレゼントってとこかいな? 相手は……まあ、結羽ちゃんやろな」
「うっ」
クリティカルヒット。そうだよ、お見事だよ……。なんで心の中を読まれてるんだ……!
「千紘ちゃんわかりやすいもん。顔に書いてあるようなもんやで」
そんなに顔に出てたか……できるだけ気をつけないと。
「で、それ買うん?」
「まあ、ね……やっぱ、めちゃくちゃ似合うと思うんだよね」
「あー、わかるー。この猫耳、結羽ちゃんにピッタリやね」
初めて意見が合った。
お互いに顔を見合わせて、クスクスと笑う。
「……結羽ちゃんってさ、放っとけないよね」
「わかるわー」
「ご来店ありがとうございましたー」
戦利品を片手に意気揚々と退出する。
それにしても、いい買い物をしたものだ。結羽が喜んでくれるなら、値段の五千倍は価値があるというものだ。
「結羽ちゃん、受け取ってくれるとええなあ」
「うん。あー、今から楽しみだなあ」
「ふふ、千紘ちゃんってばせっかちやなあ」
そのまま駆けるように帰宅し、トートを後生大事に抱えて眠ること数時間。ついに希望の朝がやってきたのだ。
目覚ましより三十分も早く飛び起きて、鼻歌なんか歌いながら朝食の準備をして。歯を磨いたら支度をしていざレッツゴーだ!
普段より長く感じる通学路も、走ってしまえばあっという間だ。肩で風切り、コンクリートを蹴りつけてローファーを鳴らす。
あともうちょっと。額に汗が滲む。胸の鼓動が高まる。校舎に飛び込んで、教室そっちのけで中庭へ向かう。
見えてくるいつもの青い雨避けのシート。その中で、彼女はよく見知った顔をして待っていた。
「あ……千紘ちゃん、おはよ……」
「はあはあ、おはよ、結羽ちゃん……っ!」
全身で呼吸をしつつも、何とか彼女に挨拶をした。
「千紘ちゃん……息切れてるけど……何かあったん……?」
汗を拭い、息を整えて対面する。
後ろ手に隠したトートを握り締めて決心する。イメージトレーニングはバッチリだ。これを渡してもっと仲良くなるチャンス……コケにするわけにはいかない!
「……えっ……えっと……!」
なのに。それなのに。言葉が――出ない。
心臓が早鐘を打って、心の波が穏やかではいられない。
なんで今更になって私の心は怖気づいてるの? まるで喋ることを忘れたかのように、唇は固く動かなくて。焼き切れそうな脳は文字を紡ぐことを諦めてしまって。
お願い、動いて……!
いくら願ったって、縛られた心はそれを許さない。そして、私は心を縛るこの『感情』を真正面から理解する。
……ずっと目を背けてたのに。消えてしまわないように言わないでいたのに。こんなところで足を引っ張るだなんて。
「……ごめん、やっぱ何でもない」
駄目だった。言えなかった……。
その言葉を言い放ってしまった瞬間に、絶望と後悔が込み上げてくる。
尻込みしてしまった理由は、多分自分が一番よく理解している。
結羽のことをはっきりと「”そういう”対象」として意識してしまった。自分の意思がどうとかじゃなくて、私の潜在意識が彼女をそういう風に認識してしまったんだ。
私、最低だ。彼女に隠し事をしてしまい、あまつさえそれが友達を超えた目で彼女を見てしまったことだなんて。これじゃ下心剥き出しじゃないか。
「……どうしたん?」
「何でもないよ。……うん、大丈夫」
心配そうに目を向ける結羽の瞳を直視することもできず、ただ俯いて答えることしかできなかった。
それからの授業といえば、陰鬱以外の何物でもなかった。
何も知らず淡々と授業を受ける結羽の隣で、深い失意に陥る自分が愚かで滑稽で仕方がなくて。
おまけに泣きっ面に蜂と言うやつで、こんな時に限って教師には当てられるし、小テストの結果はボロボロで。
なんかもう、泣きたい気分だ。
気持ちに整理がつかないまま昼休みを迎えてしまい、私の感情はさらに泥沼に嵌っていくのだった。
いつまでも俯きっぱなしの私の顔を結羽が覗き込む。
「……ほんとに、大丈夫なん……? 保健室行く……?」
「大丈夫、だけど……そうだね、保健室行こうかな……」
そう告げると、彼女は頷いて心配そうな、あるいは悲しそうな表情をした。
去っていく後ろ姿に悪いことをしたと思って立ち上がろうとした瞬間、陽気な声がそれを遮った。
「ちーひーろーちゃんっ! 元気してるかー?」
「…………」
空気の読めないゴリラを相手に、精一杯冷ややかな視線を送る。
「あれま、もう全然覇気がないって感じやな」
見ての通りだ。効果音付きのオーラを放つ彼女との対比が、さらに現状を惨めに感じさせる。
「何かあったん……って、聞くまでもないか」
そしてそれは彼女にはいとも簡単に見破られてしまうのだった。
「よーし千紘ちゃん、着いてき! あたしが話聞いたる!」
「わ、わわっ!?」
私の腕を掴んだかと思うと、そのまま強引に体を引き上げて連れて行こうとする七海。
相も変わらずどこからそんな力が発揮されるのか理解に苦しむ。兎にも角にも、弁当の包みを引っ提げて彼女に着いていくのだった。
手首が抜けるかのごとき力に耐えつつ歩いていくと、いつぞやの屋上に辿り着いた。
前と同じ位置に彼女は弁当を広げ、私もそれに倣う。
「いつもここで食べてるの?」
「そーやね。ここがうちの根城ってわけや」
根城――、もはや結羽の『アレ』を見た後ではあんまり衝撃的な言葉ではないが。いや、比べるラインが違いすぎるか。
「普段は人も来おへんし、こうやってあたしが占拠してるってわけ。だからここに千紘ちゃんを入れるんは、相当信頼してるってことなんやで。感謝しいやー」
やたら厚かましい言葉をのたまう七海。もはやそういうキャラなんだろう。
……しかし、『信頼』か。結羽も七海と同じように、私のことを信頼してくれているのだろうか。それは私には知るべくもない。
けれど、今日この日まで彼女が私に見せてくれた笑顔は本物だった。嘘なんて吐けないほどに純真で、素直な彼女だから。
私はそれを信じていたかった。なのに、あそこで踏み切ることができなかったのは、きっと私が彼女の好意を信用しきれていなかったからなんだろう。
結羽のことを好きだと想うたび、「嫌われるのではないか」という不安が鎌首をもたげる。彼女からの想いを信じたいという気持ちと、心からは信じられないという気持ちが、せめぎ合って自己矛盾を起こすのが私にもはっきりと認識できた。
「……で、結局鞄は渡せへんかったんやな」
「……うん」
弁当の中身を半分ほど片付けた頃、七海がおもむろに本題に入った。
「千紘ちゃんって意外とヘタレなんやなあ。もっとグイグイ行くタイプやと思ったんやけども」
「うぐ」
返す言葉もない。というか自分もそう思っていたんだけど、実際は直前ですぼんでしまったわけで。
「渡す前まではそんなこと思ってなかったんだけど、なんていうか、急に嫌われるんじゃないかって思っちゃって……」
「いいですなー。青春ですなあ」
「もー、茶化さないでよ! こっちは真剣に悩んでるんだから」
「えへへ、ごめんごめん」
だけど、その笑顔が私に元気をくれているのも確かだった。
……というか、女の子同士のそういうことも『青春』に含まれるのか?
「そやなあ、やっぱあたしは当たって砕けろー! って思うけどね」
「そんな無責任な」
砕けてしまっては元も子もない。いや、砕けることはないのかもしれないけれど。
「渡す前から止まってたら意味ないがな。大切なのは伝える気持ちやで!」
「気持ちねぇ……」
たしかに彼女の言う通りだ。こんなところで立ち止まっていたって何も変わらない。ましてやそれが『大いに勝算がある』場合なら尚更だ。
「……うん、そうだよね。やっぱ進まなきゃいけないんだよね」
「そりゃそーよ。あたしは千紘ちゃんの恋路を応援してるで」
「恋……っ……そっか……」
改めてその言葉を前にすると、本当に照れくさい。それこそ、全力で否定したいくらいに。
今はそれを真っ向から受け止めるしかないのが現実だが。
「……よし。私、目が覚めたよ。ありがとね」
「んーん。友達として当然のことをしたまでや」
七海は綻ぶような笑顔を見せた。
「よーっし、頑張るぞー!」
「その意気や! ファイトやで!」
私の新たな門出を、昼休みの鐘が祝福していた。
そして舞台は変わり、放課後の中庭。
仄暗い夕暮れの中、青いカーテンの隙間から光が漏れている。私はその光景を遠くから見つめている。
――不思議と落ち着いた気分だった。胸の奥が熱いのに、それに惑わされることもなく。憑き物が落ちた、というのが適切な表現なんだろうか。
いずれにせよ、私の心は平静以外の何物でもなかった。この心をもって私はリベンジするのだ。今朝の一連のやり取りに、怖気付いていた過去の私自身に。
「結羽ちゃん、いる?」
「あ……千紘、ちゃん」
結羽が本から視線を上げてこちらを見る。
勝負はなるべく早い方がいい。すかさず後ろ手に隠した鞄を取り出して――。
「千紘ちゃん、今日ずっと変やから、心配してて――」
「……あのさっ! これ……」
彼女の言葉が終わらないうちに差し出す。
それは一瞬の出来事で。あっけないほど容易に腕は持ち上がって、唇は言葉を紡いだ。
「……結羽ちゃんに似合うと思って、選んだの。その、よかったら……受け取って!」
それでもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。受け取ったのを確認すると、茹で上がった顔を悟られないようにすぐさま目を背けた。
そこからは直視できなかったけれど、「わぁ……!」という感嘆の声が聞こえた。
次に視線を戻した時、そこにはかつてないほど満面の笑みを浮かべた結羽の姿があった。
「ありがとう、千紘ちゃん……! うち、すごい嬉しい……!」
「…………!」
ひとかけらの文彩もない彼女の言葉は、強く私の胸の内を打
った。
あーあ、と心の中で呟く。どうして私、あんなところでためらってたんだろう。ただ『ありがとう』って、その一言が聞きたいだけだったんだ。
「どう……? うちに似合ってる……?」
なんというか、『仲良くなる』ってこんなに単純な話だったんだ。今までみたいに回りくどいやり方じゃなくても、これだけで、ずっと――。
「……うん。すごく、似合ってる」
あの時妄想した言葉じゃなくて。自然と言葉が、想いが本心から溢れ出してくる。
結羽との距離が縮まってよかった。結羽の笑顔が見られてよかった。自分の気持ちに素直になれて……本当に、よかった。
子猫のように目を輝かせる結羽を感情のままに抱き締めて、鼓動が高鳴るのを感じていた。
身も浮くような高揚感の中、自宅のソファに身体を投げる。ひんやりとしたリビングでは、油断したら心臓の音まで聞こえてしまいそうだ。
今日の出来事を反芻して気持ちが落ち着いた頃、机の携帯が着信音を鳴らした。画面を見ると『七海ちゃん』とある。
「はい、もしもし」
『おー千紘ちゃん! 上手く行ったかいな?』
「うん。バッチリだよ」
『おっ、それはよかった! じゃ、明日アイス奢ってな』
「金取んの!?」
強かな奴め……! 油断も隙もない性格をしている。どこかの天使を見習うべきだと思うんだ。
『まーまー、冗談やってばー。今回ばっかりはあたしの善意やからね』
「善意じゃなきゃ金取るんだ……」
『ま、そこんとこは要相談やね』
恐るべし相談ビジネス……いや、儲かるのか、それ。
『それにしても、ちゃんと渡せたんやなー。これなら付き合うのも時間の問題やな!』
「付き……合う?」
『うん。千紘ちゃんは結羽ちゃんのこと好きなんやろ? だったらさ――』
ああ、そっか。目の前に夢中で考えもしなかった。
私は結羽に恋をしていて、そうすれば仲が進展していくにつれ必然的に恋人という関係があって。あるとするならば、その先には――。
きっと私の心はそれを望んでいるはずなのに、ここまで一度もそれが懸念に上がらなかったのは、多分私が彼女との関係に余りにも夢を見すぎていたからで。
改めて、この感情の代償の重さを思い知った。
通話を終えた後も、私の胸中はその問題ではち切れそうになっていた。
I am the bone of my letter.
―――体は文字で出来ている
Period is my body, and plot is my blood.
血潮は伏線で、心は段落
I have created over a thousand stories.
幾たびの修羅場を越えて無勝
Unknown to Complete.
ただの一度も完成はなく
Nor known to Soul.
ただの一度も読了されない
Have withstood pain to create many monsters.
彼の者は常に独り本の丘で創作に酔う
Yet, those hands will never hold anything.
故に、その粗筋に意味はなく
So as I pray, UNLIMITED COPY WORKS.
その体は、きっと原稿で出来ていた
どうも。洛葉みかんです。生きてます。
2ヶ月以上空きました。ほんとすんません……。
情けない連載状況ですがよろしくお願いします……。
生存確認はこちら→@mikan_leafeon @lac_bas




