収斂
私は扉の前に立っていた。無論それは自宅ではなく、私が迎えに行くべき相手――西川結羽の待つ家の扉だ。
罪悪感や躊躇、戸惑いを全部振り切ってここまでやってきた。行先不明な全力疾走の果て、辿り着いたのがこの家だった。
追ってきた結羽を拒絶して、泣きじゃくって、七海に散々激励された昨日の今日だけど、不思議と息は整っていた。脳裏に、七海の言葉が残響する。
――結羽は私のことを嫌ってなんかいない。
その一言が、お守りのように心強かった。その想いが、私を前に動かす力となった。もはや私を止めるものは存在しない。私は無敵だ。
私は深く息を吸い込んだ。ここから始まる逆転劇に胸を膨らませる。
そして吐き出す。目を閉じ、頭を空っぽにして――開く。
「……よし」
自分の頬をぴしゃり、と叩いて、インターホンに手を掛けた。
心地のいい電子音が閑静な住宅街に響く。あまりにも空気がしんとしているので、自分の心臓の音まで聴こえてきそうになる。
テンポを早める胸を手で抑えつけ、結羽の登場をひたすら待つ。実際のところどれだけ経ったかは知る由もないが、チャイムを押してから既に十分は経っている気がした。
しばらく――あくまで私の感覚上でだが――待っていると、ドアの開く音が静寂を破った。いよいよ対面だ。緊張の糸が張り詰め、口の中が乾燥する。
おずおずと申し訳なさそうに扉が開き、私が待ち侘びていた、結羽の姿が半分覗いた。
「結羽ちゃん!」
「ひゃぁ!?」
一歩踏み込んだ私に驚いて、結羽が扉の向こうへ引っ込む。すかさず私も内側へ入り込むと、彼女は濡れそぼった子犬のように震えていた。
何も言わず、その潤んだ双眸を視線で捉える。怯えているにもかかわらず、彼女もこちらを見据えて目を逸らそうとはしない。
「会いに来たよ」
「……うん」
示し合わせたかのような、二人の言葉。きっとそれはお互いが望んだ展開なのだった。
* * *
懐かしい匂いがする。いつぶりかの結羽の部屋。図書館じみた巨大な本棚の側には、いつかにプレゼントした猫耳トートがもたれ掛かっている。
ずっと嗅いでいなかった懐かしい匂いに包まれて、私は否応なしに鼓動が早まるのを実感する。舞台に上がる前の役者みたいな、追い込まれた緊張感が張り詰める。
特にやましいことがあるわけでもないけれど、結羽と対峙していると言葉に詰まってしまう。落ち着け、落ち着け私――!
「……あの、千紘ちゃん」
切羽詰まった私の中で、何かが弾ける音が聞こえた。
「――っ、昨日はごめん!」
言えた――!
ここで言わなきゃ後がない、という切迫した思いが私の胸を衝いたのだ。言い切ってしまうしかない。すかさず二の句を継ぐ。
「私、結羽ちゃんに酷いことしちゃった……! 嫌われたかもって、思った……!」
結羽の言葉を起爆剤に、一気に台詞が飛び出した。向こうの発言を遮るかたちになったが、彼女の意図も同じだったらしい。呆気にとられた顔を元に戻して、照れくさそうにしている。
「いいんよ。元はと言えば、うちが紛らわしいことしたんがあかんかったんやし……」
「そんなっ、私だって昨日あれだけ探し回ってくれたのに断っちゃって……」
「うちだって……!」
「私も……!」
空気が滞ってしまった。私には私で罪の意識があるし、結羽も優しすぎるせいで、お互いに責任の背負い合いになってしまう。それが彼女の良いところでもあるのだが、今に関してはそれが逆に足枷になりかねない。
このまま延々と無意味なキャッチボールをしていても仕方がないので、質問に転じることにした。彼女の行動にはまだわかっていない部分も多いので、辻褄を合わせたかった。
「そういえば、休んでた間って何してたの?」
警戒させないように、なるべく穏やかな口調で話す。まさか私が『アレ』を見たことでショックを受けて寝込んでたわけじゃあるまいし、何か話してくれるだろう。
「んっと……その、気持ち、落ち着けるために……本、読んでた」
目が泳いでいる。バレバレだ。
有島先生からも声を掛けてもらってるはずだし、絶対に何らかの動きがあるはずなのだ。咎めるような目で見つめる。
「嘘でしょ」
「……嘘ちゃうもん……」
対抗して不満そうな表情で向こうも見つめ返す。頬を膨らませた結羽の表情は、拗ねているようにも見えた。
あまりの愛らしさに、思わず頬を突っつく。彼女は抗議の声を立てた。
「もうっ、やめてえな……」
「うりうり、結羽ちゃんはやっぱ可愛いなあ」
さっきまでの距離感はどこへやら、いつもの二人のやり取り。その瞬間だけは、場の空気が緩んだかのように見えた。
しかし、儚くもそれは一瞬で破綻することとなる。
「うぅ……千紘ちゃん! うちの話ちゃんと聞いて!」
「えっ、あっ、ごめんなさい……」
強い口調で突っぱねられ手を退ける。照れたような声色ではなくいつになく真剣なそれに、私はすごすごと引き下がることしかできなかった。
今までに経験がないくらい切実に訴えるような瞳を見て、思わずこちらも姿勢を正してしまう。それほどまでに、彼女の態度はまっすぐだった。
からかっている場合ではない。私の意識がそう告げていた。同時に本来の目的も思い出した。そうだ。ここで自分の気持ちを清算して、結羽に本当の想いを伝えなければいけないのだ。
改めて小さく息を吐く。前座はおしまい。東井千紘、勝負の時だ!
「あのさ、結羽ちゃん」
警戒させないよう、なるべく穏やかに本題に切り込む。
「……その、ね。私、ずっと悩んでたの。結羽ちゃんが私のことどう思ってるかとか、結羽ちゃんにとって私はどんな存在なのかとか」
こうして彼女と向かい合って真面目な話をしていると、あれだけ落ち着いていた心が再び鳴り始めた。その鼓動の四分のリズムに合わせるようにまくし立てる。
「でもね、気付いたの」
内に抱えた焦りを悟られたくなくて、静かに立ち上がる。何という事はない、ただ私の感情を直接ぶつけるだけだ。たったそれだけの、簡単な話だ。
「結羽ちゃんがどう思ってようと、結局私の気持ちは変わらないんだって。ウジウジしてたって何も変わらないって、そう思ったんだ」
振り返って、結羽の顔を覗き込んだ。水晶のような瞳が揺れている。当惑、あるいは期待にも似た色を持って、私の姿を映している。
私はその両眼をはっきりと捉えた。いくら隠そうとしても、どうしてもどこからか熱が込み上げてくる。でも今はそれでいい。この溢れ返る熱を、一気に叩きつけるのだ。
「私は、――」
「結羽ちゃんのことが大好きなの! この世で一番、誰にも負けないくらい!」
「だから、だから……っ! 私と、恋人になってほしいの……っ!」
頭に血が上る感覚がした。限界まで達し切った緊張感と、ちゃんと言えた、という安心感。
二つの感情が混ざり合って、一瞬目の前が白に染まるものの、ふらつく足を支えてしっかと彼女の紅潮した頬を視界に留める。
彼女の表情がみるみるうちに様子を変えていく。困惑から驚倒へ、そして恥じらいに。紅葉の色が移るようなその仕草に、また心を奪われる。
「えっ、ちょっ、千紘、ちゃん……」
どもる結羽を見届けて、へなへなとへたり込む。先の告白ですっかりエネルギーを使い切ってしまい、もはや直立を継続する気力すら残っていない。
しかし一息つく暇もなく、動転した結羽が私の肩を突き飛ばす。そのまま縁まで押し戻され、やはり動転しながら言い放たれた。
「ちょ、ちょびっとだけ待っててっ……!」
とだけ残し、ドアが勢いよく閉められてしまった。あまりに急すぎて呆然として廊下に佇む。仕方がないので、リビングにお邪魔してしばし待つことにした。
部屋が静寂で充満する。耳を澄ませても結羽の部屋からは何も聞こえない。一体何をしているというのか。
まさか、私の告白にショックを受けているんじゃ……。そんな疑念がふとよぎったが、即座にそれを振り払う。こんなところで弱気になってどうするんだ、もっと自信を持て!
やきもきしながら結羽が現れるのを待っていると、しばらくしてからようやく申し訳なさそうな表情で彼女が顔を覗かせた。後ろ手に何かを隠しながらこちらまでやって来て、不意にそれを前に差し出した。
「こ、これ……受け取って!」
何であるかも確認させてもらえないまま、強引にそれを握らされる。見た目はA5の紙束だが、果たして何が書いてあるのか。
感触はずしりと重たく、折りたためばそれなりのページはあるだろうか。
「中身、何?」
「う、うちの気持ち……!」
「読んでいい?」
「そっ、それは……うん」
彼女がおどおどと首肯するのに合わせて、『君の声を聴かせて』と記された一ページ目を捲る。内容はどうやら小説らしい。多分暇を見つけてはちまちまと書いていたものの正体だろうけれど、「結羽の気持ち」というのは一体……?
わざわざ勿体ぶって、前口上まで付けて渡してきただけに、否応無しに緊張が高まる。
心の中で合図を唱えてから、本編を読み始めた。
* * *
主人公はこの春に転校してきた高校生・千里。彼女はひょんなことから寡黙なクラスメイト・結花と関わることになった。
テストの答案を届けに行く、たったそんな小さい繋がりから、千里と結花は次第に仲良くなっていく。二人で遊びに出かけたり、買い物したり。その仲の良さと言えば、普段笑わないと噂される結花が笑顔を見せるほどだった。
そんなある日、千里は結花が声優の道を志しているということを聞く。話によると、幼い頃に見たアニメのキャラクターに惹かれて、いつしか自分もあんなキャラクターを演じたいと思うようになったのだという。千里は彼女の夢を応援するため、演技の練習相手を引き受けることにした。
それから三か月ほど。彼女の情熱、あるいは吸収力には目を見張るものがあり、独学だけでみるみるうちに技術を身に着けていった。放送部主宰の校内ラジオのゲストで紹介されたのをきっかけに、その演技力や滑舌の良さを買われ帰宅部ながら準レギュラーに抜擢。出演する度にクラス中で話題になり、瞬く間に生徒の注目を集める存在になったのだった。
これ以降、千里と結花は「ただの仲のいい友達」とみなされるようになった。千里に話しかけようとした瞬間、目の前で結花がクラスメイトに掻っ攫われることもしばしばあった。これに対して千里は笑って対応していたが、内心はあまり穏やかではなかった。彼女が輝ける場所はここではない、放送部やクラスメイトの輪の中だと自分を納得させようとしたこともあったが、それでも千里の内の葛藤がそれを許さなかった。
若干疎遠気味になっていた二人だったが、ある日千里のもとに一通のメールが届く。それは、「今から自分の家に来て欲しい」という結花からのメッセージだった。
断る理由もない千里は、約束の日時に結花の家に向かう。そこには結花と、さらには放送部の部員が何人か――特に結花と仲の良かった面々が――揃っていた。
彼女が千里を迎え入れると同時に、部員が聞き慣れた口調で話し始めた。どこから出してきたやら机を並べて、さながらそれはいつもやっている校内ラジオのようだった。
特別版と題して語り始めたその内容は、いつもお世話になっている人に感謝の気持ちを伝えようというものだった。
ゲスト役として座する結花の出番が回ってくる。彼女は他のメンバーと違い、やたら緊張した面持ちでここまで沈黙を貫いていた。そんな彼女からどんな言葉が発せられるのか、千里は息を呑んで見つめていた。
ゆっくりと彼女が唇を動かす。震えた声が紡がれるようとするたび、千里の鼓動が早くなる。周囲の視線が一点に集まる。そして、結花の言葉が封を切って一度に噴き出した。
それは、自分と仲良くなってくれたことへの感謝、ここまで一緒にいてくれたことへの感謝、そして、誰よりも千里のことが大好きだという、精一杯の愛の告白だった。このシチュエーションも、この舞台も、すべては引っ込み思案な結花の告白をお膳立てするための画策だったのだ。
千里は言葉を失い、今にも泣きだしそうな表情をした。結花も全エネルギーを使い切った顔で涙を浮かべた。
そして千里がゆっくりと頷くと、放送部員たちの歓声と共に、結花をその胸の中に受け入れたのだった。
* * *
――大まかに言って、こういう作品だった。だいたい三十分くらいで読了。
その内容を反芻して、私は軽く噴き出した。
「ぷっ……ふふっ、あははっ」
「えっ……? なんかおかしかったかな……!?」
「いやいや、そういうわけじゃないんだけど――」
作品に登場するこの二人、あからさまに私と結羽がモチーフになっている。おまけにお互い美化されすぎていて、まるで王子様とお姫様のようだ。特に結花――もとい結羽は、黒髪ロングはそのままに、身長も言動も、ついでに胸のサイズも「大人の女性」として描写されている。目の前の彼女がそれを全部コンプレックスにしていたのだと思うと……余計に笑えてくる。
「うぅっ……千紘ちゃんのあほ……笑わんといてえな……」
自分の作品を見られたという羞恥からか、彼女は目を潤ませ顔を真っ赤にしている。
「千紘ちゃんに気持ち伝えるの、恥ずかしかったから……有島先生に聞いたら……こうするといいって……」
急に小説を書き始めるなんてどうしたのかと思ったけれど、裏で有島先生が手を引いていたのか。あの作家は何ということをしでかしてくれたのか。
……ん? ということは、『あの本』もそのためのものだったのか?
気になってしまい、それとなく、できるだけ警戒されないように問うてみる。
「あっ……あれはその……有島先生が……参考にするといいかもねって……言ってはったから……」
またあの作家か。本当にロクなことしない人だ。今度会ったら抗議してやる。
聞いちゃってごめんね、と宥めつつ、思考を巡らせる。
結羽が託してくれた「自分の気持ち」。たしかに、彼女の気持ちはここにあった。作中の結花と同じ手順を踏むことによって、しっかりとそれを示してくれた。
そう思うと、このラブレター代わりの小説が宝物のように思えてきた。
「ほんとは、あの時サプライズとして渡そうと思ってたんやけど……千紘ちゃんが……」
「……ごめんね。私も、あの時はどうかしてたと思う」
今更後悔してもどうにもならない話だが、こうして浄化されかかっている今でもなお、あの時の結羽の表情が鮮明に蘇る。そのことだけは覆しようのない、紛れもない事実だ。
「……やから、改めて言う。うちは――」
やおら立ち上がり、ちょうど私と同じように振り返って、私の瞳を真っ直ぐ見据えて。
柔らかな唇の奥から、彼女の想いが今か今かと出番を待ち構えている。そして、それらの封が今まさに切られようとしている。まるで炭酸が噴き出すみたいに、それは勢いを持って飛び出してきた。
「――うちは、千紘ちゃんのことが好き! 世界で一番、誰にも負けへんくらい!」
一瞬、彼女の周囲に風の吹いたような錯覚を起こした。まるでそれは、今まで秘められていた恋慕の情が、自由を得て舞い上がったかのようだった。
その瞬間だけは、結羽が誰よりも大きく見えた。堂々と自分の想いを伝えきった彼女は、何かが吹っ切れたような顔をしていた。
「うちの方こそ、付き合ってほしい! こ、恋人に……なってほしいっ!」
そう言うと、やはり私と同じようにへなへなと床にへたり込んだ。その華奢な体躯を柔らかに抱き締めて、うん、と小さく呟いた。
「……!」
彼女もゆっくりと細腕を背中に回し、静かに身を寄せた。温かな感覚が、全身を通って伝わってくる。お互いの熱が混ざり合って、境界線なんてわからなくなってしまうような、そんな感覚に襲われる。
抱き合う行為なんて今まで何回でもしてきたはずなのに、なぜだろう、鼓動の高鳴りが収まってくれない。必死で抱きついてくる結羽が愛おしくて、胸の奥、そのもっと下の方がきゅっと締め付けられる。今更になって、誰にも渡したくないというわがままな感情が頭をもたげ始めた。
「千紘ちゃん……好き……っ!」
結羽が私の胸に頬ずりしてくるたびに、私の熱がより一層大きくなる。理性なんてタガはもうとっくの昔に焼き切れてしまって、今はただ好きだ、好きとうわごとのように呟くほかなかった。
貪るような欲望が臨界点を超え、ついにそれはひとつの形として表れた。
「ね、結羽ちゃん。キス……してもいい?」
「えっ……?」
結羽の表情が凍る。わかりやすく困惑している。目を回す結羽をゆっくりと押し倒し、顔にかかった髪をかき上げる。
視線がぶつかり、もはや逸らす先などなくなる。今こうして思うと、こんなに長い間見つめ合っていることなんてなかったかもしれない。それを自覚して若干羞恥心が湧いてきたが、そんなことを表出させている余裕などないのだ。
今度は強引に詰め寄り、彼女の首筋に手を添えて、優しく唇を重ねる。しっとり濡れた感触が伝わって、吸い付いたように離れてくれない。初めての感覚が脳髄まで支配しつくしてしまい、もう結羽のこと以外考えられない。
何時間にも思えるような長いキスを終えて再び向かい合うと、これ以上ないくらい真っ赤に顔を染めた彼女の姿があった。
「うぅ……千紘ちゃん……」
焦点の合わない瞳を潤ませて覗き込むのが愛らしくて、再び抱き寄せる。ゆっくりと撫でてやると、喉を鳴らして頬を寄せてくれた。
火照った体同士が重なりあい、お互い若干汗ばむのも今は心地よい。それがさらに私の意識を曖昧にし、あらゆる思考を融かしていく。この世の万物が敵わないであろう多幸感に包まれながら、永遠とも思えるひと時を過ごした。
* * *
並んでベッドに腰掛けて、ラブレターもとい原稿を捲りながらしばし語らう。ここ面白いねとか、ここ笑えるだとか、そんなくだらない会話を交わしつつ、甘い時間が流れてゆく。
急に結羽の方から体を寄せ合わせてきてどうしたのかと思うと、彼女はぽつりと消え入りそうな声を漏らした。
「……うちな、千紘ちゃんと会えてほんまによかったって思ってる……」
「ど、どうしたの急に」
まるでネコのような仕草で擦り寄る結羽を撫でてあしらいつつ、面食らって問いかけてみる。
「千紘ちゃんに会えへんかったら、うちはずっとクラスで独りぼっちのまんまやった……やから、千紘ちゃんのことは神様やと思ってる……」
「か、神様!?」
そんな大仰な。むしろ私の心はあの邂逅から今に至るまでずっと邪な感情に蝕まれ続けていたんだけれど。自制し続けて私の理性は崩壊寸前まで来ていたというのに。
「えへへ、神様やで……」
甘えた様子の結羽に困惑しつつも、こういうのも悪くないかとどこかで納得してしまう自分がいた。これから先、結羽の甘えん坊っぷりには逆らえなさそうだ。……でも、そういうのもやっぱり悪くないのかもしれない。
まだまだ長い二人の道、その地平線の先を、あれこれ勝手に想像していた。
「……ずっと、うちと一緒にいてくれるやんな?」
思い出したかのように不安げな声で問う結羽の髪を指で梳き、優しい声で語り掛ける。
「大丈夫だよ。私は絶対離れたりなんかしない」
ずっとこの先、永遠に、私の心は変わったりしない――。この想いが途絶えることがあるならば、それはきっと墓場に入るときだろう。
私は西川結羽という少女が心から大好きだ。その仕草、声、一挙手一投足に心奪われ、こんなところまでやってきた。ここからは引き返せない。でも後悔はしていない。
私のかねてからの願いが、ようやく成就したのだから。私は、世界一の幸せ者だ。
きみこえ、完結――してません。エピローグも読んでね。
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