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7.勇者の立場

まだトリーニアのターンなのですが……

なんか説明っぽい部分が長くなってしまいました

すみません

 俺がファンヌとミア、ついでにゲルダを後でどうしてやろうか考えているうちに、トリーニアはさらに語り出した。


「アキート・ニータの話を聞くにつれ、わたくしは感じ入ったのです。魔王討伐での活躍はもちろんですが、彼女たちのあつかいに感動いたしましたわ」


 トリーニアは語りに熱が入ってきたのか、頬を染めながらうっとりとしてきた。


「この国に限ったことではありませんが、世間での女性のあつかいは男性と比べてひどくぞんざいなものですわ。もちろん男性、女性でできることの違いはありますが、同じ社会的立場に立とうとすると女性ばかりが不利であることが現実ですの」


「そのようですね。まあ、魔物と戦うのはほとんどが男ですから、勘違いする者もいるんでしょう」


 現代の日本に比べてだが、俺はこの異世界は男尊女卑が過ぎると思う。

 男は魔物と戦う事が多いし、そのせいで女性よりずっと死亡率が高いらしい。

 そういう背景があるからこの国では一夫多妻制が採用されている。

 だが、だからといって女性を虐げて良い理由にはならない。


「ええ、残念ながらその通りですわ。ファンヌやミアは女性ながら優れた力を持っていますが、実力に見合った活躍をしていませんでした。わたくしは魔王討伐という大事に彼女たちの力が活用されないことを憂慮して、彼女たちを勇者の供に推薦したんですの。そして、それをアキート・ニータが正しく拾い上げてくださいましたわ」


 そこまで話すとトリーニアは一息入れて、お茶を口に含み満足そうに微笑む。


「しかし、勇者とはいえ男性の供として長い旅に出る以上、彼女たちはやはり自分が女性であることを知らしめられるだろうとも思っておりました。そのあたりは事前に彼女たちに言い含めておいたのですが、やっと自分たちの力が評価されたのだからそれでも良いと言って受け入れたのですわ」


「……」


 俺はなんと返したらいいのかわからなかった。


 ものすごく持って回った言い方をしているが、つまりは旅の間に俺があいつらに偉そうにして虐げたり、手を出したりすると思ってたって事だよな?

 失礼だな。


「それが、アキート・ニータが凱旋した後で話を聞いてみれば、そのようなあつかいは一切受けなかったと言うではありませんか。それどころかすっかり虜になって、せっかく実力に見合った職を自由に選べるようになったというのに、アキート・ニータに一生ついて行くというのです。これで私が興味を持たない方がおかしいでしょう?」


「……はあ、まあ興味を持ってもらったことは光栄ですが、それがなんで婿とかそういう話になるんですか?」


 もういろいろと面倒くさくなってきて俺がそう言うと、トリーニアは驚いたような顔をして、その後怒ったような拗ねたような表情を見せた。

 王族や貴族っていうのはもっと表情を取り繕うものだと思っていたんだが、そういえば王も王太子も公の場以外ではこんな感じだったっけか。


「わたくしがあなたの元へ嫁ぐ意思のあることはミアたちから聞いたのですね? わたくしは王族ではありますが、一人の人間なのです。同じ嫁ぐのであれば、わたくしを単に政略の道具として世継ぎを産むことのみを求める者より、対等の者としてあつかい愛しんでくださる者の元へと行きたいと思うのが自然でありましょう? ミアたちの話からわたくしはあなたこそがその相手であると確信したんですわ」


 いやっ、ちょっと待って欲しい。

 そこに俺の意思は微塵も関与していないではないか。

 王族になることにまったく魅力を感じないし、そもそもミルファさん、キャロリン、ファンヌ、ミア、ゲルダと違って、トリーニアのことはさっき知ったばかりで別に好きではない。

 それに−−


「俺は貴族ではないですよ。トリーニアと結婚するなんて不可能でしょう?」


 そう、俺は別に貴族ではないただの平民だ。

 魔王を倒した後も別に叙爵されなかった。

 王女様と釣り合うような身分ではないのだ。


 そう思ったのだが、俺の言葉にトリーニアは今度こそ本当にびっくりしたようだった。


「何をおっしゃるのです、アキート・ニータ。あなたは国が正式に認めた勇者ですわ。しかも既に魔王討伐を成し遂げているのですよ。その立場はどんな爵位の貴族よりも上になります。この国でアキート・ニータより立場が上なのは王陛下のみですわ」


 …………?

 えーっ!?

 聞いてないよ!?

 なにその無駄に高そうな身分?

 俺、勇者になってからも魔王を倒してからもめっちゃ自由に振る舞ってたけど、誰もなにも言わなかったのに……。


「初耳です。勇者なんてちょっと優れた冒険者の称号だとばっかり……」


「あいつ勇者のことそんな風に考えてたんだ。やっぱりバカね」


「いつも自分が平民だって言ってるのは冗談じゃなかったんですね。あらあら愉快なヒットさんです」


「まあアキートが勇者について詳しく知っていたとしても、今の彼と変わらなかったとボクは思うけどね」


 唖然として言った俺の言葉を聞いて、ミア、ファンヌ、ゲルダが3人でボソボソと俺のことを論評しだした。

 クッ、ミアとファンヌは言い方は違っても同じく俺をバカにしていて、やっぱり姉妹だな。

 ミルファさんは驚いた様子で、心配そうにこちらを見ている。

 キャロリンは……、あっ、ちょっとおねむだな。

 さっきいっぱい泣いたし、話長くて退屈だもんな。


 ……ふぅ、今こそ俺は悟ったぞ。

 勇者になった後で一番長く身近にいたファンヌ、ミア、ゲルダ。

 勇者について教えてくれなかったお前らこそが諸悪の根源だ。

 情報漏洩どころかトリーニアに素通しで全部伝えてるし。


「勇者には領地こそ与えられませんが、その地位には強力な特権が付与されていますわ。それ故に、勇者の認定は慎重にも慎重を期しておこなわれるのですが……。冒険者ギルドを通じて予備的に、その後王陛下から直接、勇者であるかどうかを認定するための数々の試練が与えられませんでしたか?」


「……そういえば、そんなようなこともしましたね」


「その試練をすべて乗り越えた時点で、あなたは勇者としてこの国にとって欠かさざる存在と認められたのですわ」


「……」


 勇者に認定される直前に、王が変な依頼をたくさんしてくるなーとは思っていたが……、あれか。


 ……、えーと、もしかするとだが。

 国内だから自由に泳がされていただけで、俺は王女と結婚するとか関係なく既にこの国での自由な生活とか終わってた?


 ……そうか、それで。

 最近街の娘さんだけでなく、パーティーなんかに呼ばれて貴族のご令嬢からもやけにちやほやされると思ったら、魔王を倒して強いとか優しそうとか評価されたわけでなくて、勇者の地位が狙いだったのか。

 トリーニアが俺の元に嫁ぎたいってのは、自分がそうしたいってだけじゃなくて俺を国外に逃がさないって理由もあるな、さては。

 まあ、そうだよなぁ、わかってるけどなんかヘコむわー。


「……知りませんでした。勇者の制度や権利については、ここで詳しく訊くのもなんなので、別の機会に勉強しておきます。そうだ、ミルファさん、お嫌でなかったら今度その辺りのこと教えてもらえますか?」


 もはやパーティーメンバーの3人は信用できん。


「っ!! はいっ! 喜んでっ! 詳しくお教えしますね! もしかしたらと思ってましたけど、アキートさん、本当に勇者の制度を良くご存じでなかったんですね。私やっぱりもうギルドをやめてアキートさんの専属になりますから!」


「ははっ、よろしくお願いします……」


 ミルファさん、なんかテンションが上がって居酒屋の店員みたいになってますよ。

 勇者は貴族より立場が上という衝撃の事実にヤケになってしまい、あっさりミルファさんのことを受け入れてしまった。

 もうお腹いっぱいなのだが、やっぱり賭けについても聞いておかないとまずいよなぁ。

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