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6.第3王女 (トリーニア)

 いくら何でも宿の一人部屋に俺と女性陣5名、さらに王女とお付きの侍女たちは入りきらない。

 だからと言って、他の冒険者がうろうろしている宿のロビーや食堂で王女と話すわけにもいかない。

 困っていると「大好き」宣言で機嫌を良くしたキャロリンが宿屋の親父に話をつけて、従業員や兄弟たちを使って空いている6人部屋の家具を外に出し、そこにロビーのでかいテーブルと椅子を入れてくれた。

 ありがとう、キャロリン。

 小さくても頼りになるな。


 今は侍女を除いた全員がテーブルのまわりに座っている。

 キャロリンは当然のように俺の膝に座ろうとしたが、王女の前でイチャイチャするわけにもいかないので隣の椅子で我慢してもらっている。

 ファンヌはこちらも当然のように全員にお茶の用意をしようとしたが、話が進まないので侍女たちに任せるように言って座らせている。

 どちらもものすごく不満そうだ。

 キャロリンはともかく、ファンヌは少しはわきまえてくれ。


 なんとなく勢いが失われて、全員お茶を飲むばかりで口を開かない。

 時々響く茶器を置く音だけがやけに際立つ。

 き、気まずい。

 仕方がないので、俺が口火を切った。


「えーっと、それで、第3王女殿下におかれましてはどのようなご用件でこのような場所においでくださったのですか?」


 一応王族に対してなので、怪しいながらも敬語で質問してみた。


「そのようにかしこまった言葉遣いは不要ですわ、アキート・ニータ。王である父や王太子の兄にはもっと砕けた物言いなのでしょう? わたくしにもぜひそういった言葉遣いでお願いいたします」


 確かに何度か王城に招かれているうちに、気さくな王や魔王討伐に同行こそしなかったが作戦参謀的立ち位置の王太子とは親しく話をするようになったが、初対面の王女に馴れ馴れしい口をきくほど肝が据わっていない。

 そもそも、顔を合わせたこともない第3王女がなぜ俺を婿に迎えようと思ったのかがまったく理解できない。

 おかげで浅はかな逃亡計画を立てて、ミルファさんとキャロリンを泣かせることになってしまった。


「では、遠慮なくそうさせてもらいます。あなたとは初対面のはずですが、なんで晩餐会に招こうなんて思ったんですか? それと、さっきミアが言ってた賭けとは何ですか? 王女殿下も関わっているんですか?」


 不敬にはならなさそうだから、多少言葉遣いを崩して質問攻めにしてみる。

 王女の登場のタイミングから見て、ミアの言っていた賭けとやらに関わっているのも間違いないだろう。


「トリーニアとお呼びください、アキート・ニータ」


「では、トリーニア様」


「いえ、トリーニアだけでお呼びください」


「はあ……」


 なんでそんなところにこだわるんだ?


「あなたのことはファンヌやミアからずっとうかがっていました。賭けは、……どちらが勝っても負けてもあなたに損はない些細なものですわ」


 トリーニアはそう言うと若干気まずそうに視線を逸らした。


「だいたい、あんたがいつまでもはっきりしないからトリーニア様につけ込まれて賭けをする羽目になったんだからね」


「あら、つけ込むだなんて失礼な物言いですわね、ミア。あなたたちがもたもたしているからわたくしが腰を上げたのです。それに先程のアキート・ニータの言い様では必ずしもあなたたちが勝ったとは言えないのではありませんか?」


「どうしてそうなるのよ? そもそもトリーニア様が今日やってくるなんておかしいじゃない」


「あなたたちが経過報告をよこさないからですわ」


 横からミアが俺に向かって口を出したかと思うと、トリーニアはミアに対して挑発的に言った。

 ミアもそれに応じている。

 なんか仲がいいな、知り合いだったのか、こいつら。

 それに、どうやら先程の俺の大好き宣言に至るやり取りはトリーニアには筒抜けで聞かれていたらしい。

 ものすごく恥ずかしいが、今は我慢しよう。


「……つまり、トリーニアは以前からファンヌやミアを通じて俺やパーティーの内情を聞いていた。口幅ったいことを言うと、それでトリーニアは俺を気に入って今度の晩餐会に呼んだ。それに関連してトリーニアとミアの間で俺に関して何らかの賭け事をしていた。それで合っていますか?」


 俺の目つきがやや剣呑なものになったのに気づいたのか、今度はミアが気まずげに視線を逸らし、トリーニアは逆に嬉しそうに頷いた。


「はいっ。わたくしとファンヌ、ミアは10年来の友人なのです。既に引退した彼女たちの父上は王宮詰めの法衣貴族でしたから、同年代の令嬢として知り合う機会があったのですわ」


 ……まったく知らなかった。

 ファンヌが教会で聖女として、ミアはゲルダと一緒にギルドで冒険者として、それぞれ苦労していた話は聞いたが、貴族の令嬢で王女と友人だとは知らされていなかった。

 俺からは家族構成から幼稚園時代以降の交友関係、懐いていた女の先生の話まで根掘り葉掘りと聞き出したくせに、こいつら……。

 ミアは既にそっぽを向いていて、ファンヌも顔色を悪くしていた。


「アキート・ニータが勇者として王宮に招かれたときに、供のものにと彼女たちを推薦したのはわたくしですわ。もちろん相応の実力があってこそですが。あなた方が魔王を倒して凱旋された後には、アキート・ニータの人となりやご活躍を彼女たちから余すところなく聞かせていただきましたわ」


 いつの間に……。

 ということは、いろいろな意味で今俺が苦境に立たされているのはこいつらのせいじゃないか!

 なんで会ったこともない王女が俺を婿にしたがっているのか不思議だったが、ファンヌとミアがなんか良い感じで宣伝してしまったせいらしい。


 思わずファンヌとミアをねめつけ、文句を言いそうになったがグッとこらえた。

 見るとミルファさんとキャロリンもジトッとした目で彼女らを見ている。

 ゲルダだけは自分は関係ないと思っているのか春風駘蕩としてお茶を飲んでいるが、トリーニアとミアたちの関係は知っていたはずだから黙っていたお前も同罪だ、後で覚えてろよ!


 ミルファさんやキャロリンとこっそり通じていたことといい、俺はパーティーのみんなにあまり信頼されていなかったんだろうか?

 いやっ、そんなことはないと信じたい。

 そんな浅いつながりでは魔王討伐の旅を乗り越えられなかったはずだ。


 ……そう強がってはみても、ギルドで危惧した通りにがっつりと情報漏洩していたみたいだし、さらに彼女たちの間でおこなわれていた「賭け」の事まで考えると、こめかみがズキズキと痛んできた。

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