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4.発覚と自覚

 ミルファさんが部屋に入ってきたのを見て俺は椅子から飛び上がった。

 キャロリンはともかく、ミルファさんがなんでいきなり部屋まで来たんだ?


「えっ? ミルファさん? なんで?」


「アキートさん、後でうかがいますって言ったじゃないですか」


 そうだっけか?

 それにしても、普通は部屋の中にまで来る前に宿の誰かが呼びに来ると思うんだが。

 ミルファさんはさっきの冷たい微笑とは違って、いたずらが成功した子供のような笑みを浮かべている。


「あたしがミルファお姉ちゃんを連れて一緒に来たんだよ、アキートお兄ちゃん。また後でって言ったでしょ」


 今度はキャロリンがニコニコしながら話しかけてきた。

 確かにさっき後でとは言ってたけど、夕飯に呼びに来るって意味じゃなかったのか?

 それに、なんでキャロリンがミルファさんと仲良くしてるんだ?


 俺が心の中で数々の疑問を浮かべつつも唖然として口をきけないうちに、ミルファさんとキャロリンは他の3人と同じようにベッドに腰掛けた。

 俺がひとり部屋に備え付けの椅子に座り、残りの5人全員がベッドに座って俺と向かい合っている形だ。

 魔王討伐から戻ってからはボノボノ亭の一人部屋の中では一番広くて良い部屋に泊まらせてもらっているが、さすがに6人も入ると狭い。

 さらに言うと、日本ではお目にかかることのないレベルの西洋風美人、美少女が5人も俺の部屋にひしめいていて、かなりシュールだ。


 ……などと、割とどうでもいいことを考えながら現実逃避していて再起動できなかった俺に、ミルファさんが話しかけてきた。

 今度は冷たい微笑でもいたずらっ子の笑みでもない、真剣な顔をして俺を見つめながら。


「本当はアキートさんが話してくれるのを待ってたんです。話して欲しかったんです。そのためにはもっとがんばらないといけないのはわかってます。でも……、その前にアキートさんがいなくなってしまったら私……」


 そう言うとミルファさんの目からぽろりと涙がこぼれ落ちた。


「アキートさんが今日ギルドに来たのは、東の島国に行くために地図や風土記を探しにきたんですよね。王女殿下と結婚しないために、遠くへ……」


 ミルファさんはそのままうつむいてしまう。


「ミルファさん!! あ、あの、す、すみません!!」


 ど、どうすればいいんだ。

 ミルファさんを泣かせてしまった。


 確かにしばらくこの街を離れようと思っていたが、ほとぼりが冷めるまでで、ずっとだなんて思ってなかった。

 そりゃ、東の島国はなんとなく日本っぽい名前なのでもしかしたら日本人風の人がいたり日本に近い食文化が存在するのではと期待していた。

 それでもあくまでも目的は、急な用事でこの国を離れれたことにして晩餐会に出られない状況にして、ギルド経由で王宮に断りを入れることだったんだ。

 決して彼女を悲しませようなんて思ってなかった。

 ミルファさんを泣かせてしまうなんて、なんでこうなったんだ……。


「お、俺は−−」


 立ち上がってミルファさんに近寄ろうとした俺に、弾かれたようにベッドから跳んできたキャロリンが抱きついた。


「おに、おにいぢゃん、ど、どっがいっぢゃ、や、やだぁー。あ、あだじのどご、がえっでぐるっでやぐぞぐ、じだのにー、やだあ、やだあああああぁぁぁっ、ぅあああああああああぁぁぁぁぁっ」


 さっきまでニコニコしていたはずのキャロリンは、俺の腹にギューッと抱きつくと頭をイヤイヤと振りながら火がついたように泣き出した。

 俺の思いつきの計画は、ミルファさんだけでなくキャロリンもこんなにも傷つけている。

 もしなにも言わずに旅立ってしまっていたら、キャロリンはどうなってしまったんだろう。

 俺はどうして良いのかわからず、キャロリンを抱いて、彼女の頭をなでながら立ち尽くした。


 ……俺は今と同じ状況を憶えている。

 魔王討伐に向かうために一度この街を離れたときと、同じだ。

 あの時もキャロリンは俺に抱きついて泣きじゃくり、離れようとしなかった。

 出発直前にギルドに会いに行ったとき、ミルファさんは「無事のお帰りをお待ちしています」と言ったきり、今と同じようにうつむいてしまった。


 あの時はまだちゃんとした目的が、魔王討伐という避けられない理由があった。

 でも今は……、自由に生きたいとか、恋愛がどうとか、そんな自分勝手なことを言って、大切な人達を悲しませてしまった。


 ……そうだ、彼女たちはもう俺にとって大切な人達なんだ。

 異世界に来て泣きそうだったときに、優しくして怒ってくれて、兄と慕ってくれて、それで確かに俺は救われた思いだった。

 それなのに、俺は一時だけとはいえ何も言わずに街を離れ、彼女たちを置いていこうと……。

 その俺の行動が、彼女たちの笑顔をかき消し、泣かせている。


 あまりの自分の情けなさに、俺は砕けそうなほどに奥歯を噛みしめてキャロリンを抱いたまま固く目をつぶった。


 しばらくするとキャロリンは泣き止んだが、俺に抱きついたまま離れようとしなかったので、そのまま椅子に座って膝の上に乗せた。

 ミルファさんは「ごめんなさい」と言いながらハンカチで涙をぬぐい、顔を上げて微笑んでくれた。


 パーティーメンバーに目をやると……

 ファンヌはいつも通りに笑っていて、ミアは不機嫌そうに口をとがらせ、ゲルダは仕方のない奴だと言わんばかりに苦笑していた。

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