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3.パーティーメンバー (ファンヌ、ミア、ゲルダ)

 自分の部屋の扉を開けるとキャロリンの言う通り、あいつらが集まっていた。


「あ、お帰りなさい、ヒットさん」


「アキート、もう帰ってきたんだ」


「やあ、ずいぶん早かったんだね。何かあったのかい?」


 いくら俺のパーティーメンバーで共に魔王討伐の死線をくぐり抜けた頼もしい仲間だとしても、人の部屋には勝手に入るなと言いたいし、ボノボノ亭にはもう少しセキュリティーとかプライバシーに気を遣って欲しい。


「ヒットさん、お疲れ様です。剣と荷物をお預かりしますね。さ、ここにおかけになってください。お茶のご用意をしますから」


 唯ひとり俺のことをヒットさんと呼ぶパーティーの回復役で聖女のファンヌが、いつものように頼みもしないのに俺の世話を焼こうとしてくる。

 なんで俺の部屋なのにファンヌがもてなす側みたいになってるんだ?


 いつも白いローブを着ている彼女は、真っ白い肌の色だけでなく全体的に色素が薄く、折れそうに華奢な体つきと相まって妖精のように見える。

 いつもニコニコと微笑んでいて、なにかと俺を甘やかそうと構ってくるのでもう慣れてしまったが、最初の頃は彼女の姿を神々しく感じた程だ。

 初めて会った時になによりファンヌに驚いたのは、髪の色がピンクで瞳の色が薄い紫なことだった。

 アニメならともかく、地球の現実世界ではまずお目にかかれない色合いだろう。


「いや、お前らなんで俺の部屋に集まってるんだ?」


「どこに集まっていようが勝手でしょ。あんたの帰りを待っててあげたんだからね」


 ファンヌの双子の妹で魔法使いのミアが、生意気そうにふんぞり返りつつ黒いローブの下で薄い胸を反らした。

 だから、なんで俺の部屋でなんだと聞いてるんだが?

 勝手に入るなよ!


 ファンヌに顔は似ているが、目つきが鋭い分ミアは勝ち気そうに見え、実際きっつい性格をしている。

 パーティーメンバーになった直後は丁寧に接してきたが、俺が仲間なんだから普通にして欲しいと頼んで以降、ミアはいつも俺に突っかかってくるようになった。

 俺のことが相当気に入らないのだろうなと、旅のはじめの頃は正直鬱陶しかったのだが、だんだんツンツンしているのは照れ隠しのようなものだとわかってきた。

 今では二人きりになると甘えてくることもあるのを知っているので、ミアの言葉がトゲトゲしていてもまったく気にならない。

 特筆すべきはファンヌと双子なのにミアは髪は緑色で瞳は金色というファンヌとは別方向のカラフルさで、ふたり並ぶと目がちかちかする。


 そんなことより、今は情報漏洩の件についてだ。


「待ってたって、何かあったか? それよりお前らにちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 そう言ってミルファさんの件を切り出そうとしたとき、横から逞しい腕が俺の首に巻きついて引っ張り寄せた。

 やばい、油断した。


「まあまあ、そんなに慌てなくてもいいじゃないか。まずはファンヌの入れてくれたお茶でも飲んで落ち着こう。その間、魔王の四天王との戦闘についてボクとおさらいでもしようじゃないか」


「ちょっ、ゲルダ、痛い痛い! 絞まってるから! ぐ、苦しい! 落ちちゃうから!」


 パーティの戦士ゲルダが本人曰く親愛の情を示すためにと肩を組んで、ぎゅうぎゅう首を締め付けて俺を落とそうとしてくる。

 パーティーで一番の年長だけあって常識人だし、性格もさっぱりしていてつき合いやすいのだが、この肩組みと称する絞首刑だけは勘弁して欲しい。


 ゲルダは砂みたいな色の髪を短く刈りそろえていて体つきも俺よりもムキムキで、鷹のような鳶色の鋭い瞳と相まって冒険者というより軍人さんって感じに見える。

 なので首を締め付けられると暑苦しいし、息苦しい。

 ゲルダも美人には違いないので、顔に当たる胸の感触だけはちょっとだけ嬉しいが。


 なんとか意識を手放す前にゲルダの腕をタップして外してもらい、ファンヌがいつの間にか机に置いたお茶を飲んでとりあえず一息入れた。


「ふぅ、死ぬかと思った。それでさ、聞ききたいことだけど−−」


「はいはーい。おうかがいしますわ、ヒットさん。あ、でもその前にお茶菓子をご用意しましょうか?」


「なによ、アキートのくせに偉そうね」


「死ぬなんて大袈裟だね。無敵の勇者アキートにボクなんかが致命の一撃を放てるはずもないよ。あ、でもちょっと試してみようか?」


 なぜか俺が話し出す前に、3人ともが遮るように口を開く。


「お前らなあ……」


 彼女たちは、俺がはじめて勇者として王宮へ招聘されたときに、魔王討伐の供として王宮側が紹介してきた人員の中から選んだパーティーメンバーだ。


 この国では女性の地位が男性よりかなり低いらしく、それは冒険者や聖職者でも同じだそうだ。

 それなのに彼女たちが供の候補としての人員の中に選抜されていたのはそれだけの理由があったということで、実際彼女たちの実力は他から飛び抜けていた。

 大臣たちからはしきりと立派な鎧を着けた騎士や高位の宮廷魔術師を薦められたが、こちらも命がかかっている以上実力本位で選んだ結果、彼女たちが残ったのだ。


 後から聞いたところによると、教会でも王都の冒険者ギルドでも女だてらに高い能力を持つ彼女たちはまわりから疎まれる存在で、冷や飯を食わされていたそうだ。

 きちんと実力を評価して採用したことを彼女たちから大げさに感謝され、最初は全員がそれこそ従者のようにへりくだった態度を取ろうとしたのだが、仲間になるんだからやめてくれと頼んで普通に接してもらっている。


 ちなみに、この世界で彼女たち3人だけが俺が異世界から転移してきたことを知っている。

 魔王討伐の旅の途中でそれぞれの生い立ちを話したりしているうちに、仲間なんだからと洗いざらい話した。

 はじめは異世界の存在をなかなか理解してくれなかったが、日本の文化や社会体制、学校での生活なんかを話しているうちに、この世界には存在しないということをわかってくれた。

 しかし今になってよく考えると、普通に頭のおかしい人だと思われなくて本当に良かった。


 おっと、今度こそ情報漏洩の件について聞かなければ。

 俺は3人の仲間に昼の件を問いただすことにした。


「それで、今日ギルドにあれを探しに行くって話しておいただろ」


「はーい」「知ってるわ」「もちろんだよ」


「ギルドでお世話になってる受付嬢さんと話をしたんだけど……、なんでか彼女は俺が王宮晩餐会に招待されてるのを知ってたぞ。しかも第3王女の事までほのめかしてた。お前らミルファさんにしゃべったな!? あの計画のどこまでしゃべったんだ!?」


 一息にそう言って3人に詰め寄ろうとしたとき、突然部屋の扉が開いた。


「あら、どの計画ですか、アキートさん」


「あたしもお兄ちゃんからそのお話聞いてないよー」


 そう言いながら部屋に入ってきたのはミルファさんとキャロリンだった。

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