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4、フラグを立てたら……

 えっ、なになに、なんなの?

 怖いんですけど。

 ベランダで誰かが狂ったように暴れて、窓を叩いている。俺はなるべくその窓から離れて、部屋の隅で丸まった。


 あああああ、あんなフラグ立てたから……! 

 俺はここで終わるんだッ! 殺されるるううううッ!

 ああ、俺のバカ、バカ! 自分で自分を窮地に陥れるなんて! ばかばかばかばか……。


 ……どれくらい経っただろう。

 部屋の隅で震えていると、いつのまにかベランダの音は消えていた。見ると影も消えている。

 

「はあ……助かった……。なんだったんだろ。こ、殺されるかと思ったわ……」


 ていうか……そういえばあれだな。ずっと夢が続いてるん……だよな。

 いっこうに目覚めないんだけど、これいつになったら終わるんだ?

 

 この世界にきてから、けっこうな時間が経っている……はずだ。現実ではいったい今何時なんだろうか? 寝てから計算すると……そろそろ五時間ほど経っているはずなんだが。朝だとしたら出勤しなきゃ、だけど……どうしよ。起きれねえな。くそっ、夢ェ……。

 

 壁掛け時計もどっかいっちゃってるから確認しようがない。だが、外では蒼白い明かりがどっかでずっと光り続けている。その光の強さもまるっきり変化がない。

 比較する対象がないから完全に俺の体感によるものなんだけど……それも気を失っている時間があったから確実とはいえなかった。


 あれ? そういえば、さっきご近所さんたちがなんか言ってたような気が。

 「こんな時間に」って、「今日はお休みなのか」って。

 え? もしかして昼なの?

 さっき外にいたときは昼間……だったのか?

 俺はてっきり暗いから夜だと思ってたけど、あの人たちにとっては昼だったのか。そっか。たしかにみんな起きてたもんな。普通に考えれば深夜に子供も起きてこないだろうし。そうか。なるほど……。


 って、まあ夢だから何が正しいのかはわからないけど。


 ともかく、いい加減喉が乾くしお腹も空いてきたから、早くどうにかしないとだな……。

 目は覚めねえし。もーなんなんだよ、この夢。

 この世界の飲食物はだいたいゲテモノだし……どうすっかな。


「はあ……詰んだ」


 夢の世界でも詰んでるとか笑えねえ。

 せめて楽しい夢だったら良かったんだけどな……。


 ネット小説でいったら、異世界ってやつだよな。で、そこに行ったらまず、だいたいハーレムだろ? そんで主人公がチートで。成り上がりとか……いい思いいっぱいできるんだよな。なのに俺、真逆ってどういうこと?

 これが誰かが書いた小説なら、ここらで一発神様が出てきたりして説明してくれたりするんだろーけど……。


「おい、この世界の神様よぉ! いるんだったら俺に何か言いに来てくれよ!」


 大声で叫んでみたが、結局なんにも起こらない。

 ははっ、これってやっちゃった系? うわ、これマジでハズいやつだ……夢ん中で中二病炸裂とか、本当死ねる。まあ、でも夢だし。一応もう一度やってみますか。


 そう思ったところで、ものすごい壁ドンされた。


「えっ? ああ、びっくりした……お隣さん、か?」


 正直飛び上がったが、その音がしたのはちょうど202号室の方からだった。

 俺はなんか急に恥ずかしくなって謝り倒す。


「す、すみません、すみません! もう大声で叫びませんから……」


 こんなの一度もなかった。

 そりゃそうだ。いままで俺も向こうも一度も大きな音とか立てたことなかったからな……あ、唯一は引っ越しのときぐらいか。

 でも、お隣さんも壁ドンとかする人だったんだなあ。なんか意外だ……。

 

 壁に耳をやってみたが、カチャカチャという例の音が小さくなっているだけで、もう壁ドンはなさそうだった。

 ふう、ため息をついて、ちょっと落ち着く。

 お隣さん、そういえば……男なのかな、女なのかな?

 それもわからないって、なんだかすげーミステリアスだ。

 もしかして巨乳の美女で、一日中裸で過ごしていたりして……グフフ。


 ドンドンドンドン!

 うわっ!? なになに。また壁ドンですか? すいません、すいません。つい不埒な妄想してしまいました。すみません!

 俺はまた壁に向かって謝り……というか土下座する。

 もう終わったと思ったらまた急に始まったので、今度は心臓がめっちゃ飛び出るかと思うくらい驚いていた。

 あああああ、お、怒らせちゃった……。まずい。まずいよ……。


 ドンドンドンドン!

 あれ? ん? よく聞いたら壁からの音じゃない? っぽいな。玄関からだ。ついに直接クレームか?

 うん? でも、お隣さんじゃなくて違う人かもしれない……。

 一応念のためスコープから覗いてみよう。


「%◇¥&##□○◎※#○#&」


 うわ。

 なんか変なのがいるんですけど。それも二匹。ビッグフットみたいな毛むくじゃらの怪物が……いる。

 何かものすごい剣幕で吠えてる……けど、一向に何を言っているか理解できない。

 複数ってことはお隣さんじゃないな。ていうか、今度はなんだ。

 何がやってきたっていうんだ。


 ってあれ? なんだかやつらの声が小さくなってきてないか? てか、もうほとんど聞こえない。扉に近づいたから怒鳴っているのがわかっただけで、もしかしたらさっきからずっと、そこにいたのかもしれない。


「うわ……歯をむき出しにしてるよ……」


 こいつらからはヤバい臭いしかしてこなかった。

 出ていったら絶対殺されるパターンだ……これ。

 ドンドン叩く力がものすごいし、もしかしたら扉もこのままだったら破壊されるかもしれない。まあ……鉄製だから大丈夫だとは思うけど。


 インターフォンがきかなくなっているのに、しきりと押しまくっていた。もじゃもじゃの手が伸びてきている。

 バカじゃないのか? 電気が通ってなくて壊れているってのがわかんねーのかよ。

 はあ、そういうところは知能がないんだな。


 こいつらが騒いでいるからお隣さんもいっぱい壁ドンしてきたのかもしれない、と俺は思った。

 悪い、お隣さん。

 あとできちんと謝っておこう。まあ、例によって会えないかもしれないけど。


「はあ……まだいる」


 スコープから覗いてため息をつく。

 いったいこいつらは、俺に何の用なんだ。

 ていうか誰なんだ? まだ会ったことのない、ご近所さんのひとりか? それとも全然関係ない奴か。どちらにしろ、誰かがクリーチャー化した姿だろう……原型がまるでないので誰だかさっぱりわからないが。本当のバケモノの可能性もあるので一応出るのはやめておく。


 お隣さんには迷惑をかけることになるが、ビックフットたちがいなくなるまで居留守を使うことにした。


 どれくらい経っただろうか。

 とにかく何度か見に行って、ようやくスコープの先に誰もいなくなったのを確認するとようやくホッとした。

 何にもないフローリングの床に寝転がる。


「はあああ、痛っ。くそ、せめて和室だったらなあ……木の床ってのはツラいぜ。日本人はやっぱ偉大だよな。寝具がなくても横になれる床材を開発したんだから……」


 などと物思いに耽りながら時間を潰す。

 頭がはっきりしているんだが、これ、いったいいつまで続くんだろうか?

 夢の終わりがいっこうに訪れない。

 俺はそうして何もない部屋でさらに数時間を過ごし続けた。



物語をここで終わりますか? はい  → 「永遠に覚めない夢」エンド

              いいえ → 次話へ

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