序章*
進行は遅いですがまた書いてはあげていこうかと思います。長々となりそうですが宜しくお願いします。
夜。暗闇。いつもと変わらない真夜中。そう思っていた。あの出来事が起こるまでは。
その日は珍しく眠れない夜だった。侍女のベネジッタに付き添ってもらい温かいミルクをメイドから受け取った。手のひらから伝わるそのぬくもりにほっこりしつつ、早く戻りましょうと急かされ部屋に戻ろうとしたときだった。
給仕室から少し離れた、広間のほうから物音が聞えてふと足を止める。まだ両親たちは起きているのだろうか。なら、一緒にミルクでも飲んで少しの談笑を終えてから眠ろうか。幼い少女にしてもまだまだ両親と違うベットで眠るというのは淋しいものでもある。ベネジッタは少女の願いを叶えるように広間へと繋がるドアへと手を伸ばすが、ぴたりと動きを止める。侍女の行動に首をかしげて中を覗き込もうとするが次には囁く声で口を押さえられ声を出せなくなる。なに?なんなの?とすでに開いていた扉のむこうを動ける範囲で覗き込んでは、全身が動けなくなった。
そこには煙突へとつながる暖炉のなかでぱちぱちと薪をもやして炎がゆらめいている。そこまではいい。その前には、倒れた両親がいてその目の前に見知らぬ男がいた。
(…誰?お客様?でもこんな時間に…)
そしてその男の手には暗闇には眩しい、チラリと光るものをもっていた。あまり見る機会はなかったが、それは見間違えることない剣であることだった。そして両親から吹き出ている液体のようなもの。しばし考えてひゅっ、と息を飲み込んでは声が出る。
「お、とう、さま……?」
それを聞いた男は眩しいほどのぎらついた目線を少女に向ける。それに気づいた侍女は声をだした少女を扉の前から離してはひたすらに走りだす。
「まだだ、まだいるぞ!マルガレッタ一族を根絶やしにしろッ!!女、子供も殺せぇッ!!」
男の声だろうそれに反応してはやっと少女は理解する。
――殺される。
侍女に手をひかれていた体勢からやっと自力で走り出すようにして、次にある騎士が向こう側から向かってくる。
「ティアーナ姫、ベネジッタ!無事でしたか!!さぁ、こちらへっ!!」
少年の割には適度に鍛えられた腕力。軍服の上からでもよく分かるほどの肉体。活発な性格の人物の顔は、流石に状況が状況であってか、大声で叫んで少女達を手招きながら駆け寄る。
「…ウィ、ウィー!!」
馴染んだ騎士の愛称を叫べば目の前の騎士は泣きそうな嬉しそうな顔になって少女を抱きしめた。
「もう大丈夫です、さぁ今すぐ安全な場所まで……」
案内します、そう言う騎士の言葉はどこからか放たれた爆発音に消された。文字通り爆発のような大きさの音に3人は慌てた。次に廊下のどこからか煙が充満してきた。
「くっそ…、ついには邸までも消すつもりか…ッ!!」
「ウィー……?」
舌打ちをした騎士に少女は戸惑う。弱いものには優しく手を差し伸べ、悪には怒りの裁きをおとす。そんな彼が今まで以上に焦った姿を少女は見たことがなかったからだ。そんな少女に騎士は安心させるように微笑む。
「大丈夫ですよ姫、自分が道を作ります。その間にベネジッタとお逃げください」
早口で言う騎士は言葉通り肩マントを器用につかって煙を振り払う。一瞬の隙ができる廊下を全力で走る。次には騎士たちをまとめる騎士団長が少女を迎える。
「姫様!!こちらです、さあ早く!!」
「じい!お父様が…、お母様が!!知らない人に……っ!」
焦る少女を落ち着かせるように抱きしめ、次には落ち着いて話す。
「姫様、ここはもう駄目です。お辛いでしょうが、旦那様たちとはお別れです」
「…そんなッ!!いやっ!いやよそんな…」
来た道をふり返り、もはや室内とはいえないほどの無残な光景が、炎が、少女の瞳に焼きつく。
「姫!!」
逃げ道の手助けをしてくれた騎士が戻ってきては容易く抱きすくめられる。騎士の左目には見慣れない大きな傷があり、血が流れている。尚のこと少女は声を荒げる。
「ウィー!お父様を…、お母様を助けなくちゃ…!!あの向こうにいるのに…っ!!」
少女の声に騎士は黙って首を横に振る。もう駄目なんだと、頭のどこかで理解してしまった少女は抑えきれない涙をぼろぼろとながしてただ目の前の光景から目を離す事が出来なかった。
その国では知らない者はいない、ある家系。
次期国を治めるはずだったマルガレッタ家の破壊が、ガラガラと勢いよく崩れ落ちた日であった。