なんやてー?
「なんやぁ~なんやぁ~」
彼はまだ目は閉じたままで今自分が置かれている状況が把握できていないようだ、ようやく雰囲気が違うことに気づいたようで、カッと目を開いた。
「何しとんや!!」
上体を起こそうとするがベルトでベットにしばりつけてあるために起き上がることができずもがいている。
一度つぶれて目が覚めてもまだ酔いは覚めないようだ。
「なんやこれ、何さらしとんねん、外せこれっ!!外さんかいっ、動けんやないかい!!」
隊員たちにこれでもかとばかりに怒気のこもった汚い関西弁で彼は罵った。
「お前なんで救急車なんかよんどんねん」
ベルトを外して第一声。
隊員の一人がことの一部始終を説明しようやく合点がいったようだ。ドライバーを含め隊員3人に俺は謝った。
甲本さんは救急車から下車すると同時に胃に溜まったお酒や一軒目の料理の残骸が混ざった胃液をアスファルトに勢いよく垂れ流した
「ごるうえっぇーうぉーうおろろろろろろろろーぅ」
胃から逆流する食べ物達が喉を駆け巡る際に発せられる悲痛なおえつが秋も終わりを告げる11月末の夜空に響きわたり、
冷えたアスファルトには36.5度の水溜りいや、ゲロ溜まりができそこから、ほんのり湯気がたっていた。
俺は絶対その湯気にあたりたくなかった。
湯気にあたらないように気をつけながら後ろを振り向くと
救急車の中から心配そうに彼を見守る隊員達の視線があった。
「もう後は僕が面倒見るんで大丈夫ですよ、ご迷惑おかけしてすみませんでした」
ようやく救急車もその場を去っていった。俺は呆れ帰るのも通り越してなんだかどうでもよくなってきた、ただ病院に行かずに済んだことは幸いだった。
彼の背中をさすると
「重ぇごめんなぁごめんなぁ」と泣きそうな声で何度も言った
「甲本さん明日七時から仕事でしょう?今日は会社に泊まるんですよね?タクシーで会社戻りましょう」
「重ぇホンマごめんなぁ」
タクシーの中で甲本さんはずっと謝っていた。
会社に着いてタクシーを降りると受付の前の道路で彼はまたもやぶちまけた、受付が気づいていないのをいいことに仮眠室まで俺はようやく彼を送り届け寝かしつけた。
週明けの月曜日甲本さんと再会したとき彼は一軒目までの記憶しかなく勿論救急車に乗ったことなど覚えているはずもなかった。
救急車に乗ったことは、自分の胸の中にだけしまっておくことにした。
あれからもうすぐ3ヶ月が経とうとしている。
美進に行った甲本さんは3月1日つけで会社を去る
俺は甲本さんからおいてけぼりをくらった。
俺はまだ自分の夢を彼に話したことがない。