視なくなる話
そこは闇だった。全てを拒み、全てを飲み込むようなそんな闇。
「ここはどこだ」
そう言ってはみたが当たり前のように返事はなく、ただ僕の声が反響するだけだった。反響するという事は壁があるということだ。ここがどこかも分からない以上、唯一分かってる壁に向かうことにした。途中リクの事を考えた。リクに刺されたはずの傷はなく、当然血もついていない。あの時の事を冷静に考えてみるがすぐに考えるのを辞めることにした。今更どうでもいいからだ。もう終わったこと、それにもう関係ないのだから。そんなことを考えているうちに壁に着いた。壁にはトビラがあった。いかにも怪しいトビラだったけれど開けることにした。開けることに抵抗は少なからずあったけれどそれを選ぶ以外になかった。ドアノブに手をかけて回す。トビラは簡単にあいたので躊躇なく足を踏み出した。
そこは外とはまったく正反対の白い部屋だった。
「怖い」
それが僕の感想だった。
外の闇も怖かったがここは段違いに怖い。見えない恐怖があるように見える恐怖もあるのだとその時に知った。白は清潔感のある色だと思う。だが、ここまで白いと自分という人間を汚いものとして拒絶されてる気になってくる。そこを出ようとも考えたが目の前にあるナニカを知りたいという好奇心だか知識欲に負けて出るという選択肢を頭の中から消した。そのナニカはアルバムだった。アルバムを手にとろうとすると、目の前に顔が黒い何かで見えない人が現れた。
「君は感情が欲しいかい?」
そんなことを聞いてくる。愚問だと思う。答えは決まっている。
「いらない。そんなもの必要ない」
続けて僕は言った。
「そんなものがあるから、僕は裏切られた。人の心も見たくない」
「そうか、じゃあ僕が捨てといてあげるよ♪心も見えなくしてあげる」
それは子どものような無邪気な声だった。悪意は全くなく、純粋にそう言ってるのだ。
「頼む。僕を人の心が視えない、感情がない人間にしてくれ!」
「うん!分かった♪」
そう言って僕の目に手をかざした。