異世界に転生したけど、家庭の事情でグレたので家出する。
私の名前は日向奏。
享年16歳。朝学校に行こうとして、前方不注意の車に撥ねられて死んだ。
せめてもの救いは、即死だったようであまり痛みを感じなかったことだ。体から俗にいう魂が抜け出て、私の意識も少しづつ薄れていく。ああ、これから私は死後の世界というところに行くんだな、って思った。
完全に意識が途切れる前、
『あ~、こんなことろにいい魂発見♪これなら強そうだし、界と界を渡っても壊れなさそう。君君、これはありがたいことだよ、僕(神様)に選ばれるなんて!今はやりの異世界トリップてやつを体験させてあげるね!だ・か・ら・君は僕を楽しませるんだよ♪じゃぁ、行ってらっしゃーい♪♪♪』
というふざけた声が聞こえた気がした。
で、所変わりましてここは、ティルナローグという異世界。剣と魔法と冒険の世界だ。
人間は、魔族という闇の生き物の脅威にさらされ、剣の腕が立つもの、魔力が強いものは、全ての闇をすべるモノ「魔王」を倒すべく旅に出る。そうでなくても、魔族の僕である魔獣が村に出没するので、この世界に生きる人間は、自分の身を守るすべがないと生きていけない。
平和な地球で暮らしてきた私にとって、驚きの連続だ。
でも、あれ以上の驚きは後にも先にもないだろう、と断言する。
自分が死んだ、ということは認識できてたし、意識がなくなる寸前に聞こえたような気がした~転生がうんぬんかんぬんは気のせいだったんだろうと思った。次の瞬間、自分の身を襲った激痛を感じるまでは。なんか、体を万力の力で締め付けられてるっていうか息も出来ない。死んだ上に、また死ぬのか?!って思った。頭は割れそうだし、体は雑巾みたいに引き絞られている。そんな、死の瞬間に無痛だったのに、天国に行く時だけ痛いとか(泣)二重の苦しみじゃん!本当に死にそう、もうダメ。と思ったら、まるで栓が抜けたように体が外に出た。うああ、痛いイタイ息が出来る苦しいよう光り眩しい、と呻いていたら自分から出てる声は、赤ちゃんの泣き声でした。えっ、これって私、転生した?
誰かが私の体を抱き上げた。なんか、ママにしては硬いような。あ、胸が洗濯板の方が新しいママ?と思って馴れてきた目を開けて見上げて、絶句した。息が止まった。これは比喩じゃなくて、本当に呼吸が停止した。
なんと、見上げた先にいたのは男。その男を労わるように抱いているのも、男。
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え”、エ”エ”エ”エ”エ”ェェェェェエエエェェェエェェェェェッッッッッ!!!!!!
も、もしかして、もしかして、もしかしなくてもこの人(男)が私を産んだ?まさか、まさか、えっ??う、ウソ~~~~~~~~~~~~~~???じゃ、じゃあ私が今通ってきた穴って………………穴って…………
いきなりさっきまで元気よく泣いていた私が、呼吸も止まって引き付けを起こしかけれるのを見て、助産師(男)が慌てた様子で私を逆さ刷りにしてお尻を叩きまくってくる。そんな痛みなんて、今の衝撃に比べたら微風ほどにも感じないよ……死んだ衝撃も、生まれ変わった衝撃も、どこかに飛んで行った。変わりに、なんとも言えない虚しさと切なさとやり切れなさ、とにかく言葉では表せない衝動が来て、大泣きしました。
助産師が明らかにほっとしれるし、元気な赤ちゃんでよかった、と微笑み合っている両親(両方とも男)に殺意が湧いた。私、これからどうしていけばいいわけ?教えて神様~~~~~~~~~~~
そんな衝撃的な転生から15年。私はこの世界でも名前はカナデ。女性でした。というか、どっちでもいいよ。最初の衝撃で、かなりヤサグレたので無気力に生きている。この世界では、男性が9割を占めていて普通に同性同士で結婚できるし、出産出来る。寧ろこっちの方がティルナローグの人類では普通みたい。だから、隣近所の夫婦(男同士)がイチャイチャしていても、もう慣れた。これが慣れずにいられるかってんだぃ!
女性が少ないため、女性であるだけで希少価値がついて誘拐が頻繁に行われている。また貴族は女性と結婚して子供を産ませることが一種のステイタスだとか。腐ってやがるな!ゲスの極み!!
私は、シミ一つなく透明感溢れる肌、美しい銀糸のような波打つ髪、同じ銀色で神秘的だと言われている瞳(果てしなくどうでもいい)、均整のとれた肢体(略)とまあ人がうらやむほどの美少女に成長しました。前世であれば男を手玉に取る悪女になっただろうけど、この世界じゃなんの価値もなし!というか、誘拐される要素満載!!
私は、産んでくれたことには感謝してるけど、どうしても両親を受け入れることが出来なくて、もやもやした気持ちを剣にぶつけた。隣に住んでいる夫婦(くどいようだけど、二人とも男)の旦那さんの方グリードさんが、その昔騎士だったようで私は小さい頃から剣を教えてもらっていた。だからまあ、この周辺で私に敵う人間も、魔獣も存在しない。努力したからね!今では村の用心棒みたいになってるよ。
だけど、もう限界。両親には罪はない。本当によく育ててもらった。愛情も、前世に負けないくらい注いでもらった。けどもう無理。昼夜関係なくイチャついている両親を見るのは、私の精神衛生上この上なく問題だ!ごめん、私は旅に出るよ。村の用心棒をして稼いだ金と、魔獣の毛皮やら消える時残していったアイテムを持って、私は理想の彼氏ゲットの旅に出るのさ。あ、慰謝料として村に代々伝わる伝説の勇者の剣?貰って行くね。じゃあまたね~~~~
まさかこの剣が本当に、魔王を倒す勇者しか抜けない設定があるなんて、その時の私は知りもしない。そして、私の失踪と時を同じくして伝説の剣が抜かれているのを発見した村長が慌てて、見なかったことにしたのも知る由もない。1年後、帝都から魔王討伐隊が村にやってきて剣が何者かに抜かれたことが発覚して、私を追ってくることなんて思いもしなかった。その時私は、山で山賊相手に呑気に斬り合いをしていたのだった。お終い。