表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LR  作者: 闇戸
六章
97/112

市ヶ谷戦(Ⅱ中B)

 龍也は全身レッグガードのマスクマンと防御なしの殴り合いを展開中であった。

 冷気で一寸先がほとんど視認出来ない状況のため、周囲の目を気にする必要もないと服の下は完全に龍人化している。服から出ている部分は念のため変えていない。そのせいか、防御なしで攻撃を受けても回復が早くなっている。

「意外に頑丈じゃな。どうじゃね? わしらの仲間にならんか」

「冗談。過去の経験上、俺はお前らが嫌いでね」

「わしら、個別の人格があるでの。一緒くたにせんでほしいわ」

「わー初耳。じゃ個別で全員破裂しろ。クソがっ」

「一体、誰に怒りを燃やしておるのか気になるがの」

「あー、ごちゃごちゃうるせえなあ」

 視界が閉ざされている。周囲からの視認を受けないということは、龍也自身も香奈の状況を視認することが出来ない状況でもある。感知をしようにも、どうにもこの周囲を覆う冷気は並のものではないらしく、感知系魔法が狂ってしまう。しかも、水気として活用することも出来ない。よって、その機嫌はめちゃくちゃ悪い。

 ガントレットを弾き流しながら雷気を流すが。

「はっ。さっきの奴の方がビリッときたぞ。ぬるいぬるい。さっきのをもう一発でもいいぞ」

「ぬかせっ」

 龍也の拳とガントレットの拳がガツンガツンとぶつかり合う。

(この手甲、中身ねえな。魔構か)

 ネコ・バーグシュタインが装着しているガントレットみたいなものかと。

「てめえら、NBなんぞ神州まで持ってきて何やる気だ!?」

「……? あぁ、ギアの鎧人形のことか。お前さんらのコードで言われたとて分かるわけなかろうよ」

 もっともである。

「ギアだ?」

 しばらく前にセイジに渡した情報であったなと思い至る。確か、ReHumanProjectという資料にあったはずだ。

「わしが持ってきたわけでもないしの」

「使ってんじゃねえか」

「阿呆。トイレで紙がなけりゃ新聞紙を使うのと同じで、あるから使っておるだけじゃわい」

「現実味ありすぎて嫌な例えを出すんじゃねえ」

 龍也の右拳がマスクの左顔面にめり込み、マスクの右ガントレットが龍也の腹にめり込み、互いに距離を取る。

(調子の狂う奴だ。こいつらホントに変な連中ばかりだ)

 対話の成立する存在がどれだけいるのか甚だ謎である。ただ、対話が成立するからと言っても、必ずしもそいつが正気であるとも限らないのだが。ワケの分からない連中だから、それも仕方のないことだろう。

(こいつ、多分、今の俺よりつええな。間違いなく手を抜かれてるのがな。剣も抜きやがらねえし。

 むしろ、オロチなしだと能力も半減つうか、そうならないようさっさと親父の名跡を正式に継がねえといけねえのにな。ったく、時間が……)

 龍也は龍也で悩みもあるらしい。色々と出来ないにはそれなりに理由もある。種として色々出来ない代わりに、これまで修めたものや経験によって色々出来たりもするが、バランスが取れているとも言えない。ままならないものである。

 とはいえ、だ。

(こいつを抜けないことにはどうもならん。躱していくでもいいが)

 その隙がない。なくとも窺いはする。

(さて、どうする――か……? なんだあれ)

 隙を窺った視界で変な物が入ってきた。

 マスクマンの足下から人の物と思われる手首が生えたのである。両手分。そいつはおもむろにマスクマンの両足首をムンズと掴んだ。

「なんじ……なんじゃこりゃっ!?」

 マスクマンは驚いて下を向く。その瞬間、バチン……いやバコンという感じで両側から突如せり上がった地面に挟まれた。

 地面は合掌のような隙間のない巨岩となって龍也の前に鎮座した。


「あ駄目だな。これで潰れないとか、さすがは奴らってところですかね」


 声は龍也の背後。冷気の白煙に覆われた空間からのものだ。聞いたことのある声だ。それでこういう芸当が出来るといえば。

「御崎令――か?」

「うーっす。ちゃんと挨拶をしたことはなかったんで今します。九曜・御崎の末っ子やってる御崎令です、今後ともよろっす」

 なんともユルい感じで顔を出した令の肩には小さくなったコン助が登っている。

 ゴゴゴと巨岩が震える。

 令がグッと右手を握れば、巨岩をさらに多めの土が覆い岩と化し、地面からビュビュッと生えた蔦が巨岩を雁字搦めに縛り付けた。

「うーん。玉違い」

「何の話だ」

 令としてはここにあった鉄の玉が岩の玉に変わったなーくらいの感想だが、龍也には何のことか分からない。

「助かったが、なんでお前がここにいるんだ?」

「うちの姉ちゃんのおつかいですね。相手は神薙さんですけど」

 はいこれ、と預かったメモを渡す。

 龍也は渡された物に目を通して眉間に皺を寄せる。

「お前の姉というのは高音先生の方か?」

「んにゃ、御崎流嶺」

「あぁ、アノ」

(御崎流嶺……ね。妙なところにいるもんだな。俺も立場が微妙だから、財団時代からうちの神州勢とは会ったことがなかったとはいえ。大将もあんまり頭数に入れないしな。活動内容もよく分からないんだよな)

 メモにはこうあった。


――N20CよりN4Aに要請する。

  お台場に防衛部隊を配置し、都心を混乱させる原因を排除されたし。

  追加戦力として御崎令を預けると共に、現在都内で活動中のN14Wの助力を仰ぐことを提案する。居場所は御崎令が感知可能である。


(N14W……、セレスんとこの瀬田も来てんのか。するってえと、今の神州には炉心が……いやこれ、考えるのよそう)

 龍也はメモをヒラヒラさせて令に示す。

「至急?」

「内容は知らないけど、至急じゃないですかね? 急げみたいなこと言われたし」

「よし。じゃあ、ここをなんやかんやしてなるはやでやるか。お前の力は使っていいらしいぞ」

「なんか腰が砕けそうな呪文ですけど、うっす、がんばります。じゃ、手始めにアレですか」

 令が巨岩を指差すが、龍也は首を振る。

「いや、あっちの方で知り合いが襲われてる。それを助けたい」

「あっち?」

 龍也の示す方は、龍也が魔法をぶっ放そうというかぶっ放した方である。

「あぁ、女の子を守って女の人が変なのと戦ってた……、いやでも、あっちはあっちで俺以外の誰かが向かったっぽいですよ?」

「誰かって誰だよ。女の子と女の人の部分は知り合いだが」

「見たことある気もするんだけど誰だったかなって奴ですね。いつどこでとか考えると……帰国後? 肉眼、ではないような気がするから、テレビとか。あ、有名人って奴ですかね!?」

「今の市ヶ谷にいるのはほぼ全員が何かで有名人な気がする」

「市ヶ谷半端ねえ」

「お前が半端ねえよ」

 実際、今回の一件で招待されていた者の大半は政府関係者なのだから半端ないといえば半端ないのかもしれない。

「何はともあれ、この煙をどうにかしないことにはな。つうか、これ、なんなんだ?」

 視野を阻む冷気の白煙。どう視ても龍也の記憶にはない魔力で生成され、源理の技をもって加工可能とも思えない。存在として不明。

 令は「ん~?」と白煙をバッサバッサと手で払いつつ首を傾げる。

「なんかアレに似てるような?」

「アレ?」

「うーん。しばらく前のことですけど、シュバルツバルト奥地で人が行方不明になることが多いってんで、調査に出ていたどっかの部隊がまるごと消失しちゃって、で、師匠のとこの連隊にお鉢が回ってきたんですよ。英雄様の知恵を貸してくれーって」

「調査していた連中、アルフレッド・ブラウの政敵だろ」

「Genau――あ、いや、その通りですよ。ヴェンツェルのおっさん、裏で何やってるのか、ホントに分からなくて困る。でなんかあれば、師匠とかエル姐とか若手の出世株に押しつけてきて出世の足を引っ張ろうとするんすよねー」

 いるいるそういう奴、と龍也は激しく頷いた。

「そんで、師匠のとこなんで俺も連れていかれたんですけど、事が起きてる場所は昼間でも暗い場所というのは聞いてたんですが、暗いというより闇でしたね。こお、闇に覆われてるというのもなんか違う」

「アステカに闇と月を司るのがいたな」

「あぁ、そういう二元的な闇じゃないんですよ。果たしてこれは"闇"なんだろうか? って感じの奇妙さがあって。

 闇に覆われた場所に入るとそれだけで体調を崩す人がいて、なのでそこから離れようとするとですね、闇が追ってくるんですよ、生き物みたいに」

「き、気持ち悪いな」

「ええ。で、正体を探るために調査するじゃないですか。分かったのは、構想によって魔力を見通すことが出来ないことと触れていると心の平衡を保てなくなること。心の平衡、つまりは徐々に不安感が強くなっていき精神を病んでいく。言葉を選ばずに言えば、狂う。

 師匠とかレーションを貪り食いだしたんで何事かと思いましたね」

 それがアルフレッド・ブラウの栄養管理兼食事管理に繋がったのだとか。

「お前は無事だったの?」

「御守りを持ってたんで」

「御守りねぇ。案外、バーグシュタインのお姫様の生写真だったりしてな」

 ちょろっと冗談交じりで言ってみたところ、令が「え?!」と硬直したのを見て「……ほお」と応じてみる龍也。

「生写真なんかじゃ……あ、いや、べ、べつになんでもいいじゃないですか!?

 要はですね? 不安というマイナス要素を打ち消せる奴を持ってた奴だけが平気だったっていうお話なんですよ。百人中十人しかいなかったけどっ。

 調査中に発見した祠の中で姿鏡っぽいものを破壊したら、いつの間にか気持ち悪い闇はいなくなったんですけど、結局闇の正体も鏡の正体も全部謎のままっていうなんとも不気味な結果に終わったんですよね。消失した調査隊も帰ってこなかったし。

 ま、桜子ばあちゃんの話じゃ、合わせ鏡がどうとか言ってたけど、その場にいる人誰も分からなかったっていう」

 ともあれ、と。

「顛末はそんなもんだとしても、あそこで遭遇した闇と今回のこの周囲を覆う奴が同種の気持ち悪さと不明さを持っているんだなと」

「聞く限りだと、周囲をこのままにしとくのが非常にまずいんじゃねえかと思うんだが。なにぶん、避難済とはいえ非戦闘員がいるのは間違いなくここの敷地内なわけだし、実験部隊の連中もどうなるか分かったもんじゃない」

「神薙さん、ベヘ戦で竜巻呼んだって話聞きましたけど?」

「龍人化しないと無理だ」

「しないんですか?」

「オロチなしでやると色々と問題がだな」

「あー、そういや」

 令は改まって龍也を視る。確かに、龍也一人分で、降神器の反応がない。

(帝国の方で聞いたことあったな。使い手との関係性次第では器から抜け出ることも可能な降神器があるって。相当レアなケースらしいけど)

 この人ってレアなんだなー、と珍獣を見たような気になって龍也を眺めてしまった。

「しかし困ったな。初見の通りあの鎧とか相手にするなら、俺もやることいっぱいあったはずなのに、到着してみたらやれることがほとんどないとか。風系とか専門外だしなー」

 チラッと龍也に顔を向ける。対して龍也は首を横に振った。

「五理は制御が出来るというだけで、俺の専門は水と火、龍化で風と雷がプラス、と」

 心底困った、と揃って腕を組み天を仰ぐ。


「かくして、専門家ならぬ専門外家の二人は天を仰ぐのであった――まる」


 唐突にそんな言葉を投げかけられる。

 令は「ごふっ」と吐血っぽいジェスチャーをやった後、「だ、誰だ!」と慌てて周囲を見回し、龍也は一瞬眉を顰める。聞いたことのある声のような気がしたからだ。


「ええっと、確か次は――――あ、そうそう、高いところに行くんだった。とおっ」


 龍也と令がマスクマンを封じ込めた岩石の上を見れば、そこにどこからともなく飛んできた影がいた。

 影は岩石の突端に着地――否、着地しようとして足を滑らせた。


「あれっ?!」

「「あ」」


 悲鳴。そして、それに重なるように龍也と令が声を漏らす。

 影は足を滑らせ縦回転。滑らせた足が勢い余って膝が顔面に吸い込まれ「ぶにゃっ!」と変な声が響き、更に勢いを増した回転のまま後頭部を岩石の突端に打ち付けた。


 ズガンッ。


 なにやら物凄い音が響いた。

 影はしばらく硬直。そして、重力に逆らえなかったのか岩石の横へと転がり落ちた。

 正直なところ、見なかったフリをしたい。それでも岩石から目を離せない理由がある。影が後頭部を打ち付けた位置から縦にヒビが大きくなりだしたからだ。端的に言えば、割れだしている。

「まさかそんなコメディで封じに裂け目が……」

 令、唖然。

「見たことのある……いや、経験したことのある理不尽だな、おい」

 龍也が嫌そうな顔をしている。

 裂け目が入ってから令が手を伸ばすまでの時間はさほどなかったが、童話の桃が割れるかのようにバカンッと音を立てて岩石が割れた。断じて状況のコメディさに合わせたパカッではない。


「まったく、酷い目に――なんじゃこいつ」


 岩から生まれたマスクマンが傍らで蹲ってプルプル小刻みに震える存在を見下ろした。そいつは、所々が破けたジーパンを履き、猫のプリントが入ったピンクのパーカーを着た娘、の姿をした怪人である。顔には黒マント達が身につけているものと同様のベネチアンマスクが張り付いているのだから、言ってしまえば、マスクマンやジャックの同僚であろう。故に、怪人である。

 マスクマンが首を捻る原因は相手の格好である。記憶になかった。そして、こいつのマスクは左上部分が損壊し、下が見えていた。だが、残るマスクの形状と紋様から、ある者と気付いて声を挙げた。

「なんじゃ、銀閃か。なあにをしとるんじゃ、おまえさん」

「……そ」

 マスクマンに応じようとしたのか"銀閃"は何かをモゴモゴと発したようだが、よほど自分の膝が痛かったのか満足に言葉が出ない様子である。そして、ゴロゴロゴロと龍也達の方へと転がっていき、震えながら立ち上がり、右人差し指をマスクマンに突きつけた。

「そ……その、変な名前で呼ぶなぁぁっ!!

 こっちには、パラス・ゲネイアというちゃんとした名前があるんだっ! 学生やるための偽名ちょっと入ってるけど」

 右足でダンダンと地団駄踏みつつ、物凄い怒った感じでそう口走った。

 仲間割れかな、と令が首を捻る横で、龍也が完全に動きを止めていた。

(ナニイッテンダ、コイツ)

 龍也はパラス・ゲネイアと名乗ったソイツの後ろ姿を呆然と見つめる。

 その名前はよく知っている。それもそうだ。否、知ってはいても、そう名乗る存在で、龍也もよく知る音の声で、こういう子供みたいに地団駄を踏む奴が今この場にいるわけがないことも知っている。知っているというか、過去にそういうのがいたのである。

 そう、過去にいたのであって、今いるわけがない。

 ソイツの最期をリチャードから聞いている。ソイツの遺体は現世に持ち出せなかったから、リチャード自身の手で葬られたことも、だ。

 ソイツは、左手を龍也に向けて手繰るように手を振った。

「ほらっ、ほらっ、タツからもなんか言ってやって!」

 龍也はその腕を掴んだ。

「痛っ?! ちょ、なにすんの」

「誰なんだ、お前? なんぼなんでもその姿は……」

「だーかーらー」

 グルッとソイツは振り返って龍也の正面に立つ。背格好はまんま龍也の記憶にある元学友のものである。

「パラスさんだっつってんでしょうがっ!」

 ビシッとマスクマンに向けていた指を今度は龍也に突きつけ「アンタと」、自分を指し「私と」次いで令を指差そうとして「この子じゃなくて」と否定し龍也の左胸に拳を当てる。

「りっくんの三人でチーム組んでたこの私を忘れたのかっ! ていう話よ!!」

「俺とリチャードの仲間はとっくに死んでいる。てめえ、戯れてんじゃねえぞ?」

「ああ、もう! さっきまでなんか分かってたのにっ、今になったらわっけわかんないわ!」

 龍也は不機嫌MAXだし、自分をパラスと名乗る怪人は頭抱えるわで、場が相当に混沌としている。

 令は「なんだこれー」と現実逃避をしたくなるが、マスクマンの独り言が耳に入る。


「ああ、なんじゃ。記憶が戻っとんのかい。じゃ、敵じゃな」


(記憶っ?!)

 令も状況は分からない。だが、行動は即決だった。

 マスクマンが真っ二つになっている岩石の半分を掴んだ時点で、龍也に食ってかかるソイツとマスクマンの魔力を視比べる。結果は違う存在であることを示すもの。怪人達特有の波長がない。

(この人は違う。だったら)

 相手は既に岩石を放り投げている。

 令は龍也達の先にある地面を引っ張り上げ壁を作る。岩石は壁に当たって砕けた。その音に龍也達は揃って壁を見てから令を見た。だから。

「神薙さん! その人は奴らじゃない!」

 叫び、壁をマスクマン側へと倒す。

「ちっ。なんなんだ、一体!」

 くそっ、と龍也は目の前の娘を自分の側へと放り立ち位置を変え、倒れる壁の脇に向かいながら青のマテリアルを前に飛ばす。壁を回り込んできたマスクマンが出現。


「アイスグレイブ」


 宙空に出現した人間の胴回りほどの氷柱がマスクマンに襲いかかった。

「いい感性じゃな!?」

 氷柱の先端を砕いた上で押しとどめる。龍也は押しとどめられた氷柱の広い面に手を当て、更に押し込める――ではなく。

「フリーズ!」

 氷柱をマテリアル代わりにして、氷柱と接触するマスクマンの腕を起点に凍結魔法を行使する。

「ぬおっ。予想外に細かい真似を――こんなもん、溶かしちまうに限る」

「やれるもんなら」

 マスクマンが凍結に対抗しようとした直後、壁を回り込んできたソイツがきた。

「やってみなってね」

 龍也の台詞を引き継いで、パラスが啖呵切った。

 右手は壁に、左手は砕かれた氷柱に。両手の間に魔力の渦が出現。


「源理複合――奏歌省略! Trident!!」


 渦から出現した黄金の三叉槍がマスクマンを背後から串刺しにする。

「なぬっ?!」

 貫く場所から全身に更なる凍結が襲いかかる。三叉槍の凍結が龍也の凍結に上乗せされて、凍結速度を倍速。一気に氷像へと変化していく。

「好き勝手やりおって」

 マスクマンは凍結による痺れも無視して右手で三叉槍を掴み、柄側を引っ張り出す。胴に空いた穴から血ではなく炎が噴き出し、その炎で周囲の空気ごと凍結魔法が蒸発した。


「わし、大爆発じゃ!」


 ふんぬ、と横向きになって胸を強調するポーズをとった途端、マスクマンを中心に爆発が発生。爆心地直近にいた龍也とパラスが別々の方角へと弾き飛ばされた。

 令は地に両手を着け、周辺地表にアクセス。飛んでる龍也とパラスを地面から出した腕で捕まえ地中に引きずり込み、自らの背後まで移動させた。


「「ぶはっ」」


 地中から出てきた途端、息を大きく吸い込む二人。

「おま、物理的ワープとか窒息で死なす気かっ」

「物理ワープなんて人生二度目の経験だよ!? 前回水中で今回地中とかっ」

「刹那のアレだな。従兄弟だからって咄嗟で考えることの方向性変えろよ!?」

「え、従兄弟! 日崎家怖い」

 学生時代のトラウマが同じらしい。

(なんだかんだで息合ってるな、この人達)

 あとなにやら普段聞かない単語が聞こえた気がする、後で聞いてみよう、と令は決心する。

「ともあれ、さっきパラス……さん? がやったのって、神薙さん達が俺を助ける時使ったのと同じような奴ですよね? 効かないんですか?」

「重奏と独奏で違いはあるが系統は同じだけどな」

 令が先に思った通りの名前であるらしい。

「私のは独奏の省略版だけど、なんていうか、やっぱりか~って感じ」

「やっぱりってなんだ、やっぱりって」

「独奏は神威を起動してない神剣と同種だけどランクの足りない魔法なわけよ」

「知っとるわ。だから偽似神剣なんだろうが」

「私とりっくんがアヴァロン地下墳墓で遭遇した怪人に、起動前のアンサラーが効果なかったんだよね」

 龍也はソレを聞いて「あぁ」と思い至る。

(あいつが神剣を叩きつけての鉄の棒発言はそういうことか)

 思い出されるのは過去の光景。

「その後はまあ、なんていうか、首落とされちゃったからどうなったかって……聞いてる?」

「リチャードからは決着つける前に相手がどこかに消えたっつう話だな」

 とはいえ、と。

「起動状態の神剣出力だとフォトニックか?」

「フォトニックは属性としての出力を抑制してるから、無銘の神剣と変わらないわけで。となると、相手の属性に合わせた対抗属性で編んだ人造神剣が効果的かなと」

「ハイフォトかよ。制御ミスったら東京が消し飛ぶじゃねえか。いや待て、お前との重奏って制御と器形成は俺一人か!?」

 龍也は話しながら、右手に黄色と白のマテリアルが拳骨に埋め込まれた木製のナックルガードを、左手に赤と青のマテリアルが拳骨に埋め込まれた木製のナックルガードを装着する。

「そうは言いながらもマテリアルを準備しだす辺りがさすがとしかいいようがないですなー」

「やかましい。奏歌の方は任せるからな!」

「あははは~、合点合点~」

「御崎は時間を稼いでくれ。方法は任せる。俺、完全に無防備だからな?!」

 先程の雷撃では周囲を蒸発させたようだが、今回はそういうものではないらしい。

「押忍! きばって、逃げ回ります!」


「「そっち?!」」


「あいつ、肉弾系じゃないですか! 戦技は苦手なんですよ!」

 ちなみに、御崎令の師匠も戦技は苦手だ。かといって、逃げる方法も色々である。

 令が地面をバンッと叩くと、マスクマンの周囲に無数の土塊が生えた。すべてが人の姿に近い造形をしている。

「命脈より簡易情報収集――ゴーレムに入力――起動!」

 土塊が複数の龍也とパラスに作り変わる。

 そして、一斉に攻撃を開始した。

 爆心地付近は未だ熱が燻っているが、近づいたゴーレムは一瞬ドロリと姿を消しそうになるが、すぐに元に戻って行動を再開する。

 偽龍也は龍也の格闘術を本人の三割減で使用し、偽パラスは両手を挙げて「わーっ」と周囲を逃げ回る。

「なんでその動作にしたの?!」

「このゴーレムは魔法が使えないんですよ!」

 つまり、魔法が使えないただの的だよ、と。

「魔法としてはすごいのに、酷い物を見た気がする……」

「いいからやるぞ――Re:materialise」

 龍也は両拳を思いきり打ち付けた。

 ゴウッと弾け飛びそうになる魔力の塊を全力で押しとどめる。

 やるのは制御。そして、パラスが構築する式を受け入れるための器を生み出すこと。器とは人造神剣PhotonicRayそのものでもある。

 圧縮、組換、昇華。そのすべてが普段の倍以上に時間がかかる。

 生み出されるエネルギーはその衝撃で、周囲に漂う白煙を消失させる。

 龍也は背中――肩甲骨に当たる位置に感触を得る。そこにパラスが左右それぞれの掌を添えた。龍也の身体を通して、龍也が両掌で押さえる魔力に式を流し込む経路を接続した。


「共に奏でるは星の幻想 その極致」


 背中のソイツがかつて聞いたこのある文言を口にする。それを聞いてある種の諦めを持つ。

(あぁ。この歌い上げ――、流れで重奏まで来たものの、間違いねえな。リチャードになんて説明するんだよ、コレ……)

 パラス・ゲネイアの生存に最も衝撃を受けるのは龍也ではない。龍也にとっては、ただ気のあった仲間といえる存在。だが、リチャード・ロードウェルにとっては別の存在。


「その者 みなぞこの彼方たる深淵よりきたりし」


 マスクマンが偽龍也を損壊して、真龍也へと顔を向けた。

「巨獣に風穴開けた奴か! そんなもん痛いじゃ済まんじゃろうがっ!」

 とるべきは逃げるか守るか。発動前に発動者を除外するか。

 真龍也に向かって足を踏み出す。

「おっとごめんよ」

 声は背後から。

 偽パラスが背中に衝突。弾け、中から伸びた蔦がマスクマンの正面へと回り込んでくる。

 無意味だ。触れただけで燃やせる。避ける手間など必要ない。

 しかし、蔦はマスクマンには絡まらない。

 周囲に点在する偽龍也や偽パラスに先端を食い込ませ――、一気に引き寄せた。それらはマスクマンを覆うように積み重なる。

「小賢しい!」


「時に海神の怒りを鎮め

 時に滅亡の洪水を鎮め

 時に悪戯を以て拐かす」


 マスクマンの灼熱が爆ぜる。

 積み重なったゴーレムが溶けて飛び散り、また増え、また襲いかかっては積み重なり、そしてまた溶けてはの繰り返し。

 爆ぜて襲い来る炎から令がゴーレムを盾にして逃げ回る。


「その姿 半身半漁なれど 本質は海神の槍なり」


 本格的に危険を悟ったか、マスクマンは後退するために動こうとして――動けない。足下を勢いよく見た。

 自らが熔解させたゴーレムが溶岩状になって下肢に絡みつき繋ぎ止めている。更にはガントレットの隙間にまで溶岩が詰まり腕の動きを抑制していた。

「好きじゃな、この戦法!? 二番煎じにも程があろう!」

「いやいや、実を話せば三番煎じ。一番煎じをちょっと弄れば足止めにはなろうよってな」

 令は両手を下から掬い上げるようにパンと叩き指の間絡めて握り込めば、溶岩は相手を覆い尽くす。グッと力を込め勢いよく両掌を離し、溶岩から地以外の魔力の大半を排除してみせた。


「ここにその神威を借り受け 水至の一撃をもたらさん」


 形状こそ歪な石棺の完成である。とはいえ、完成直後からも揺れながらヒビが入ってはヒビが修復されるのを繰り返している。

(炉心て連中はどうしてこおもデタラメなのか)

 龍也は素直な感想を抱きつつ、器と中身が完成した重奏魔法を前ヘと掲げる。

「避けろよ、御崎!」

 令は龍也の呼びかけに「問題ないですよ」と手を挙げて応じる。

「やるぞ、ファラ!」

 その声にパラスは顔を上げる。愛称で呼ばれたことに驚いた。それで呼ぶのはつまるところの。

「タツがデレた!?」

「はあ?! 何言ってんだ、てめえ! 俺がデレるのは悠さんだけに決まってんだろ! いいから、さっさと続けるぞ!」

 パラスは仮面の中で、しょうがないチームメイトだなぁ、と苦笑を浮かべる。

「じゃ、せ~の」

 調子を合わせ。


「「ArtificialGodBless――High-Photonic Triton!!」」


 龍也の両掌から蒼の閃光が迸る。

「ぐっ」

 勢いでたたらを踏みそうになるが、右足を前に踏み込み、下肢に力を込めて耐える。

 輝きが石棺に迫る。

 令がパチンと指を鳴らせば、令と石棺が地面の下にストンと音が聞こえそうなくらいの勢いで消える。

 マスクマンが唐突に自由になった勢いで体勢を崩すも、迫り来る輝きに顔を上げ、舌打ち一つで飛び退いた。


「残念! 川は真っ直ぐには流れない! 蛇行してなんぼ! 蛇行時々決壊が真骨頂」

「治水の努力には頭が下がる。お前も頭ぐらい下げとけ」

「うっさい!」


 パラスの声に反応するかのように、輝きが二手に分かれ一方がマスクマンを追う。追わない方は向かった先であらぬ方へとカーブする。

 白煙に隠れてもその白煙を勢いで消し飛ばして追尾する。逃げの方角が変われば更に枝分かれ、時には合流し、そうしてここ、発表の会場中を輝きが流れまくる。

 マスクマンは自分が作った鎧の山があったであろうこの会場半分には一切近づかず、それでも残る半分を逃げ回ったおかげでその領域の白煙はすべて消失した。

 その領域は湖面が水を湛えるかのように、蒼の輝きで満たされている。逃げる領域が既にほぼ存在しない。

「洒落臭い」

 マスクマンは腰の剣を抜き放ち、向かい来る一筋へと叩きつける。輝きは飛沫を放ちながら剣ごと押しのけようとする。

「なんなんじゃこの魔法は?!」

 先の雷撃のように、剣に纏わせて拡散へと持っていこうとするも、力で押しのけられない。ジリジリと押される。

「ぬううううう――んな?!」

 正面以外に別の蒼が来た。更にもう一方。三叉の流れが一点へと集中する。

「どうせえ言うんじゃ……」

 着弾。直後、周囲に展開したすべての蒼が一斉に着弾地点へと吸い込まれ。

 カッ! と蒼い大爆発が発生。爆圧は周囲に広がらず、まっすぐ天へと突き上がる。ただ輝きだけが会場中に満ちあふれた。

 蒼の輝きは会場に満ちた白煙のすべてを消し去っていた。

 やがてばしゃあっと短時間で物凄い量の雨が降った。

 その雨の中、龍也はパラスを振り返る。

「逃げた分だけ威力が増す。相変わらずえげつない。

 で、昔も思ったが、なんでポセイドンじゃなくてトリトンなんだ? お山系の式使うなら、どうせなら強そうな方使えよ」

「そんなん、じいさまよりとうさまの方使った方が…………」

 言いかけて、パラスは頭を後に振りかぶり、思いきり龍也の胸へとフルスイングした。

 ゴツン!

 仮面が胸へとぶち当たる。

「いでえええええっっ??!!」

「今のなーし! 忘れろおおおぉぉぉお!!!!」

「やっぱソレ、武器じゃねえかああああ」

 龍也がグワシッと仮面の右上を掴んだ。

「ちょ。それ取れないっつうか痛いってのは試し済みなんですけどっ!?」

「やかましいわ、取れ、この馬鹿っ」

 ベリッと音がしたわけでもなく、龍也にとってはさしたる力を入れたでもなく、仮面は剥がれた。


「うおおっ、なんかビリッときたああああああ」


 パラスは顔を両手で覆って「うおお」と悶えてから。

「あれ? なんで外れてんの?」

 自分の顔をペタペタと触り、手を離した。その顔に。

(相変わらず、口を開かなけりゃ美人だよなぁ。残念すぎる。

 リッチも懐が深いというか、いや、あの場合はいなかったタイプだからか?)

 雨が止んだ頃になって、令が地面から出現した。

「終わりました?」

「本当に逃げてたな」

「問題ありません。ドイツ帝国の英雄だってこういう戦い方してたりしたんですから。俺のは完全に師匠譲りなんです」

「お前の師匠が特殊なだけだろ」

「そこは否定しませんがっ……って、うわ、なんか凄い人が生えてる?!」

 令はパラスを見て「うわあ」と口を開けた。

(こいつ、刹那と会ったらどういう反応するんだ?)

 見物だろう。

「いやこういう和みはどうでもいいんだ」

 龍也は奏と香奈を前に確認した位置を見る。そこに人影はない。見た感じ凄惨な現場という風でもない。

(逃げたのか?)

 周りを見回そうとして。

「いやいや、どこ見てんのさ? 注意を引くのは間違いなくそっちじゃないでしょ」

 パラスに耳を引っ張られ、顔の向きを変えられて――絶句。


「なんだありゃ」


 そこに展開していた戦場に三人は愕然とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ