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LR  作者: 闇戸
六章
94/112

市ヶ谷戦(幕間)

「では、うちの技術者連中の予想通り魔改造を決行した薙原の為に、我が社こと大和屋が誇る魔構大八車の性能を説明しましょうかっ!」

 私立天宮学園青葉分校の制服を着た女子が腰に両手を当てて胸を張った。

 ここは横浜商工会に割り当てられた整備ドックで、彼女の目前では下半身を排除された巨大な魔構鎧が宙吊りとなり、その下に鉄鋼製の厳つい大八車が置かれ、魔構鎧と六輪大八車を細い糸とも思える魔鉱が繋いでいた。

 大八車の上に立ち、魔構鎧の傍らで隙間に右手を突っ込んで魔鉱を操作している薙原進は女生徒に顔を向ける。

「いや別にいいよ。大体、ヤマハチ(大和屋性大八車)の性能知らない奴がうちの学校にいるわけないし」

「絶対の信用はありがたいですけどねー? ここはほら、一応というものがあるじゃない」

「大和屋さんが全力で語り尽くしたいのは毎度の事ながら分かってるから――あ、そこのモンキー取ってくれる?」

「はいはい。ありゃ、クロモン(クロケット社製モンキー)なんて使ってたっけ? しかもこれ結構なお値段……てか神州で取り扱ってないモデルじゃ」

「誕生日にもらったんよ。物が物だけにガッコ持ってけね。紛失とか笑えないし……、何返せばいいんだろ」

「? あー、なるほどなるほど」

「なにさ」

「いやいやいや。タクローが言ってた例の彼女からってわけですかい」

「なんだその口調」

 ムフフと含み笑いの女生徒の口調を指摘しつつ、卓郎あの野郎何広めたんだブン殴ると心に決める進である。

 女生徒こと魔構企業大和屋の令嬢でもある大和屋庵はモンキーを進に渡してから、自社製大八車と進達横浜商工会がこの大八車で運んできた鉄塊――魔構鎧とを見比べる。

「薙原の海外女性問題はこの際置いておいて」

「そんな問題はない」

「まあまあ、置いておいて、だよ、うん。

 確かに、薙原の構想は理解出来る。バランスに難のある二足歩行の制御に魔力を回すより、上半身をより安定させられる物に載せてしまえば、バランスだけで余計な意識を持っていかれないことで魔力の安定化にも繋がる。

 でもさ、魔鉱糸だっけ? それ。それを神経繊維として鎧側からの制御を可能とするって言ったって……うーん、これは感覚の問題なんだろうけど、世に言うメカだったら制御機構でどうにかなるものも、"意識を直結して動かすことを目指したこの魔構鎧"だと難しいんじゃないかなと思うのよ」

 庵の言葉に、進は作業の手を止めて魔鉱の糸を難しい顔で見つめる。

 元々二足歩行状態での稼働時間は5分に満たない。デモンストレーションくらいなら誤魔化せるが、実戦では到底使えない代物である。

 実戦――そう、神薙龍也が一撃入れて発生した状況で、なんかこれはヤバイと身を守る手段の確立として、至急、魔構鎧を使える物にする必要を感じ、割り当てられたドックに引っ込んで作業を開始したのである。

 同じ事を直感的に考えたのがこの二人だった。片やテスターとして魔構鎧を用いて状況を打開するために、片や町おこしイベントへの出資者として魔構鎧が動けば宣伝になることを考えて。

「タクローのとこの人形使いで二足歩行の人形を使うのは結局の所、自身がそうだから人形の行動を想像し操りやすいからでしょ? 神経操作系ってこれだから面倒臭い」

「……二足歩行の人間が六輪の足を操作する際に生じる意識の誤差、か」

「うん。仮にその魔構鎧が遠距離からの砲撃などで接敵することを想定していないなら、移動砲台として位置の修正程度で済むから問題ないけど、そういう武装は持ってきてないしね。まず接敵からの撲殺スタイルでしょ?」

「撲……いやまあ、拳……かなあ」

 この巨体からの鉄拳などただの凶器であろう。

「その指摘も最もだけど、今から足をつけてとかそういう余裕があるとも思えないわけで」

「うん。だからヤマハチ接続は通常通りで」

「は? やるなってことじゃねえの?」

「えとね。やるなってのは一人でなんもかんもを操作して実戦やりにいくこと」

 で、と。

「私が提案するのは、薙原は上で私は下」

 庵は下と大八車を指差した。

「つまり操縦の分担をしましょうよってことよ」

「分担って……」

 進は魔構鎧の胴体に顔を向け、眉間に皺を寄せた。

「魔構の戦車じゃあるまいし、コレ、復座型じゃねえぞ? どこで操縦……す……、まさか」

 はた、と進はこの大八車の機構を思い出して絶句。

 この大八車は基本的にはリモコンでの操縦で簡単な運転を可能とする代物だが、リモコンが使用出来ない時には緊急手段として機構内に腕を突っ込んで操縦する有人モードというものがある。それは場所としては、魔構鎧を接続する箇所の真ん前。つまり、魔構鎧の前に四つん這いで機構に腕をつっこみ外気に身をさらし続けるということになる。超危険な位置といえる。

「駄目だろ、そりゃ。大和屋さんになんかあったら、青葉の大和屋ファンクラブに何されるか想像したくないんだけど!?」

「やれやれね」

 進の反応に庵は盛大な溜息を吐く。

「薙原のテスター技術は企業側として超信頼してるわけよ。対してそちらに望むのは、このヤマハチを熟知しヤマハチへの愛を語ることがもはや趣味だろと陰口を叩かれるのもなんのそののこの庵さんのドラテクの方も信頼してくれても良いと思うわけで」

「陰口叩かれてる自覚あったんだな」

「うっさいわ。メカ愛さえ語らなければ、アイドルやってる妹の方同様で顔は良いからストライクとか余計なお世話過ぎんのよ。魔構企業の人間が魔構愛語って何が悪いのっつうの」

 瞬間沸騰してガーッと怒りの声をあげる庵さん。

「いい? どうせ何もしないで薙原を送り出しても安全を確保出来るとも思えないし、だったら前線についていってサポートした方が幾分かはマシってもんでしょ。敵の数は減るわけだからさ」

「技術畑なのになんでそんなにイケイケ思考なんですかね?」

「えイケてる? そりゃそうよね」

「変な変換された?!」

(大和屋さんって言い出したら聞かないんだよな……)

 天を仰ぐのは進。しばらくして庵に顔を向けた。

「じゃあ、こっちの提案を飲むならそっちの提案に乗ってもいい」

「ほほう? 言ってみて」

「危険だと思ったらすぐに鎧側コックピットの方に回収し、上も下もこっちが動かす方針に変更すること」

「うん。まあ、そう来るだろうなとは思ってた。だからソレにはOKと言うわ。中でもサポ出来そうなことはするし。じゃ早速、即席復座の調整といきましょうか」

「本当に分かってんのかな」

「大丈夫大丈夫」

 大丈夫じゃない奴ってみんなそう言うよな、とゲンナリしつつ作業の再開。



「お、いいねいいね」

 ものの十数分で接続と最終調整に持って行けるのは、天宮学園青葉分校魔構科トップスリーの上位二人がいるからともいえる。

 魔構鎧の大八車バージョンを満足そうに見上げる庵はウンウンと頷いている。

 進はといえば、魔構鎧側コックピット(胴体の中)で足場付近をゴソゴソと調整している。

「魔構鎧ヤマハチエディション――いや、あえて名付けるなら、チャリオット・ガイかっ!」

「変な名前つけるなよ。なんとかならないのか、そのセンス。そしてなんで敢えてヨロイじゃなくてガイと読むのか。いいよ、ヤマハチエディションの方で」

「薙原はあれだね。タクロー並の斜め上さが必要だと思うの」

「いらねえよ、そんなもん?!」 

「あでも、留学先で女作ってくるとかある意味斜め上っていうか」

「やめてくれる!? そういう勘ぐりっ」

 そういうんじゃねえっつうの、とブツクサ言いながら配線を繋げる。

 その間で、庵は自分の操縦箇所にスタンバって力を込めやすいように四つん這いになった。

「んっ、んっ。いいね、やっぱ、薙原がエンジン周りいじると感度良くなるわ」

「そりゃどうも。よし、これで――――ぶっ」

 配線を終えて身を起こした進が正面を見て盛大に噴き出した。青葉分校の女子制服も他校と同様で――スカートである。

「大和屋さんっ、大和屋さんっ」

「いおりんでもいいのよ?」

「万羽じゃあるまいし。てか、頼むからズボン履いてくれ! 学校指定のツナギ持ってきてるだろ? そっちで!」

 庵は四つん這いのまま怪訝そうに振り向いて、動きが止まる。開かれた胴体で顔を手で覆った進が見え、ちょうど、なんていうか、そう、自分の腰の高さ辺りだろうか。進の頭のある位置は。

 庵の顔がサーッと一度青くなり、次いで、赤くなっていく。

 腕を機構から引っこ抜き、傍らに置かれた工具をムンズと掴み、ゆっくりと進を振り返る。そして震えながら。

「エ・ロ・ハ・ラ~~~~~」

 工具を振りかぶる庵と、なんか嫌な予感を覚えた進が前を覗き見た直後真っ青になって。

「ま、まて、俺は無実だろ?! 不可抗力だぞ! てか握るならサイズ見て握って!? それ死んじゃう!」

 まあ、大体は普段青葉校で繰り広げられる一コマなのだが。

 数分でなんとか撲殺心(をとめのはじらい)を静めた庵が学校指定ツナギに着替えてきて、再度スタンバったろうと大八車上に戻ってきたところで、進はふと思う。何かと逃げ足の速い商工会のおっさん達は無事かなと。で、一緒に来ていた者のことにも思い至る。

「そういや、茜ちゃんは逃げたんだよな? 大和屋さん、ここには一人でいたんだし」

 大和屋からの来賓として来ていたのは二人。庵とその妹の茜である。

「え?」

「……いや、え? そのえ? って何?!」

「薙原としては、うちの茜がこういう時、逃げると思ってたんだ?」

「ちょっと待った。いや待って下さい。逃げると思うじゃなくて逃がす方向で考えろ!?」

「え~? 無理でしょ、それ~?」

 何言ってんのかな、と庵の困り顔に進は再び天を仰ぐ。

「ま・じ・か」

 問題発生である。

「茜はほら、なんていうか、うちらよりも強いじゃん? 個人戦闘能力っていうかそっち系」

「強さの問題じゃなくてさ。いろんな意味で要人でしょうが」

「あれ? 私だって要人だと思うんだけど」

「じゃあ要人の振る舞いから身につけてくれ」

「茜だって同じじゃん。ただ職業欄には今月までの限定でアイドルってつくだけで」

「そこが問題なのだが。ちょっと怪我でもしてたら、俺、学校帰ったら姉妹ファンクラブにフルボッコじゃねえか。助けて」

「諦めなって。私ら二人が同行した時点で色々諦めた方がいいって」

「どっちでもいいから自重してほしいっていうのが切実な思いですな!」

 せめて見えるところに怪我するのだけは止めて、と願いつつ、進は魔構鎧を起動させた。




 はて、コレはどういう状況だろうか?

 アゼルはむむうと口をωにして考えを巡らす。

 背後から胴体をガッツリとホールドされた状態で、目の前で展開する戦闘を観覧させられている。

 銀っぽい髪の男とスーツ姿の女が向かい合っている。女の方は、なんかどっかで見たことあるなーっていうかあの面影は知り合いじゃね? と思う。一体誰に似ているのか。

 確か、今日は起床したら相馬頼華が二日酔いでダウンしていた。アゼルとヒルダはお留守番だったが、前日が学生時代の先輩の結婚式で三次会で酔い潰れたとのこと。

 ヒルダはヒルダで、古い魔法少女アニメを完徹鑑賞した結果の爆睡。なんでコスして見る必要があるのか甚だ疑問である。

 暇潰しに見たニュース番組で魔鉱科研究実践部隊のお披露目式を報じていたから見物がてらに外出してみたところ、野良猫に轢かれ、川に落ちたところをカラスに掴まれ、しばらくの空中散歩後に落下した先で人の気配を感じたため、気を失う直前で人形のフリをした。そこまでは覚えている。

 で、腹がキツイと思って目を覚ませばこんな状況である。

 男が指を鳴らした途端、アゼルは「お?」と口を開けた。周囲の魔力というより、男と女の二点で型が嵌められたと感じたからだ。

(条件発動のユニークスキルかな。とりあえず、男の方はめちゃくちゃ悪そうな剣とか持ってるから、女の方を応援しよう。うん。

 しかし男の方、あの顔で黒マントとか似合わないな。それで黒剣とか旧時代ゲームの魔王かっつうの)

 似合わないファッションだな~と。

 男の斬撃を女が右手甲で剣身の横っ面を外に弾き、そのまま相手の手首を掴みに行こうとして逃げられた。

(…………、ん?!)

 アゼルは両目を瞬かせた。

 女の方は逃げられることなど百も承知と、相手が逃げる際に剣を下ろしていることをいいことに踏み込んで追撃。相手の手首も腕も掴んでいないが、左で踏み込み左の肘で正面から下へと抉るように、削り取るように一撃を食らわせにいく。

(なんでこの女、見たことのある攻撃手段使うのさ。昔、食らったことあるんですけどっ!?)

 あれは誰だったか、いつだったか。

 ただそいつとは別で、かつての相方であった頼華の父親の近くにそれを使える奴がいたから、流派自体は知っている。なんでも自分に技を食らわせた奴に習っていたのだとか。

 あれは確か。

「かなでちゃん……」

 頭上で声がした。声からして、そしてホールドされている高さからして、どうやら自分の腹をホールドしているのは女の子らしい。

 いや本当に"子"か?

 かつて敵対した存在にはメルカードの魔女という奴がいて、そいつは幼女から成熟した女まで姿を変えられたわけで、ひょっとしたら密接している奴もそういう魔女的な――。

 いきなりアゼルは「(´゜ω゜)・*;'.、ブッ」という顔をした。眼前にキラキラしたナニカが噴き出された。きっとデータだろう。

 ホールドが強化されたのである。

(えちょ?! 苦しっ、ぐるじ)

 オブオブと両手を上下に振る。それはもう必死で振る。

 だが、香奈は真剣に奏を見つめているため、気付いてもらえない。

 一見すると、香奈の頭上に"HELP! HELP!"という視認出来る文字が頻繁に表示されているというのが現状か。

 故に、である。

 奏を正面におきその先に香奈を視界で捉えて剣を構えるジャックはその現象を目にして、眉間に皺を寄せ困惑するという事態が発生していた。

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