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LR  作者: 闇戸
六章
93/112

市ヶ谷戦(Ⅰ)

 一体、どれほどの甲冑を破壊したか。否、破壊というよりも分解だろうか?

 分解しても時が経てば他の甲冑が落ちたパーツを再利用して元通り。そうならないのは胴体を破壊した場合のみ。甲冑どもも泣き所を理解しているらしく、胴体を守る時には全力だ。

 埒があかない。

(オロチが出張している時にかぎって……)

 出張というかお供というか。なんにしても、今現在、龍也の腕に岐神はない。今は悠と共に西へ――神薙本来の本拠へとお出かけ中である。何故かと言えば、先代の神薙、龍也と琴葉の母でもある神薙美月からの依頼があって、だ。つまり、霧崎――否、神薙悠は東京には不在である。一言で言えば、戦力的に間が悪い。

 周囲を確認すれば、賓客避難は完了済らしく、魔鉱実験部隊が龍也の攻撃に巻き込まれない程度の間合い外で戦闘へと参加している。これ自体はいい。甲冑どもが実際周囲へと攻撃を行っているのだから鎮圧しなければいけないからだ。ただ。

(神州には色々黙っている手前、本気が出せねえのはちょっとばかし辛いか)

 九曜・神薙の主な戦力といえば練度の高い烈士隊で構成される近衛である。彼らは九曜頂・不破の尽力を得て神州を脱出し、現在は龍也が直轄するアルカナム領土内にて活動中――主に農作業。それは今のところ、神州中枢にはバレていないらしい。明るみに出るのは時間の問題なのだが。

 九曜頂・神薙の主な武装といえば降神器・岐神である。神州政府が把握している神薙龍也という個人は"人間"なので、戦闘手段は岐神とミスロジカルで身につけた源理魔法である。当然の如く、この場にいる烈士隊員達には、龍体顕現などという非人間的な技など知る由もない。

 神薙龍也という人物は、神州という国において神祇院とは異なる指揮系統の最上位に位置する九曜頂であるため、神州以外のいずれの国にも所属しているわけはなく、まさか、他国のトップから能力制限を受けているという非常識な現実が存在しているなどと誰が想像出来るだろうか。

 故に、現状、龍也の保有戦力は身体能力とあまり得意じゃない源理魔法と構想魔法と戦闘経験といえる。あとは禁呪扱いされた重奏から派生する系統くらいか。

 仮に、この場に悠やリチャード・ロードウェルがいたならば、かのNoBody――NBと命名された存在に気付いたとしても龍也に対して「ステイ。今は我慢!」と言っただろう。とはいえ、龍也と同じ戦場にいた二人なので、やっぱり同じ反応をしたかもしれない。

(足丸のパーツで補強されているとはいえ、あのパーツが連中の利点を封じているようにも見える)

 NBの利点。それがロンドン戦において最も面倒臭かった部分。ガーデン戦に参加した学生達が確認出来なかったものだ。

(いや。たとえ器化が出来たとしても中を満たす奴がいなければ……。あの時は日下の奴がいて器に聖霊とかいう面倒なもん突っ込んできたものだが、今は)

 会場内でNB以外に敵対行動を取る者はいない。

「陽動か?」

 そんな疑念。

(ここでこういう事態になることを踏んで? どんな策士だよそいつ)

 NBを使っているならアメリカだろうか? 練度のある兵隊を送り込んで賓客を人質にして何かをするならまだ分かる。だが、NBにはキレというものがない。リモコン操作をされた人形というのがしっくりくるような動きをする。例え有人でも頑丈と怪力さを除けば鈍重な的というのが感想だった。

(これはやってしまったかな?)

 釣られたというのが感想としては正しいのだろうか。感想を抱き、すぐに周囲状況を再確認してみる。

 お披露目会場となった演習場に賓客の姿はない。次に視線を上部へと移し、上階観覧席を見渡す。上階には九曜関係者がいるはずだ。

(桜院も天宮もいない。意外に逃げ足速いんだな。他に誰かいた……か……、なっ)

 緋桜院紫や天宮璃央の不在を確認してから他を探してみれば、龍也のよく知る存在が二人分視界に入り、そこへ今まさに降り立たんとする黒い影を見て絶句し、すぐに声を挙げた。

「香奈ちゃんっ!!」



 赤月奏はふと見上げる。一瞬だが陽光が遮られたからだ。故に見た。妙に派手な仮面をかぶった怪人がどこからか飛び降りてくるのを。その先は香奈の前か。

 怪人は降り立つと流れる動きで香奈の前にひざまずいた。

「唐突の参上をご無礼つかまつる。不破の姫様とお会いできたは我が身の幸運にございます」

 そんなことを突然現れた存在に言われ、香奈はキョトンとした顔で数回瞬きしてから奏を振り返った。

「かなでちゃんかなでちゃん! おひめさまだって!」

 めちゃくちゃ嬉しそうである。

「あ、うん。香奈ちゃんはお姫様だね。はあい、そのままゆっくりこっちにきてねー」

 満面の笑顔で口の端を引き攣らせながら、香奈をかもーんする奏。

 香奈がエ? 首を傾げてから、なんだろうと奏の方に歩きだす。代わりに奏は怪人に向かって足を踏み出した。

 舌打ちを聞いた気がする。

 怪人がゆっくりと立ち上がる。

「神州の人間は本当に空気読めないよね」

 お前が一番読めてねえよ、と心で突っ込んで、奏は怪人と香奈の間に立って左を前にして半身に構える。

「何アンタ、誘拐でもしようっていうの? この子のお父さんホント怖いからね。止めた方がいいよ?」

 奏は忠告を発しながら、相手の機微を観察する。

「あとあっちにも同じくらい怖いのいるけどさ」

 あっちとは神薙龍也のことである。

(ま、現状の実力でいっちゃ、神薙君の方が上だけどさ。神州の制度もね~、アレがなきゃ不破君もね~)

 なんとなしに愚痴りたくなっちゃう。だって今は結構ピンチくさくない? という感想。

「なるほど、うん、なるほどね」

 奏と同様で、奏を観察した怪人は得心がいったように頷く。

「不破の姫に守護あり、と。そうか、うん、僕はついている。本当に幸運だ」

 そう言ってから「あぁ」と漏らす。

「仮面ごしで失礼」

 怪人は自らの仮面に右手を当てる。

「そうだな。ここはこの顔を使おう」

 仮面が外れると、そこにはプラチナブロンドの髪と青い目を持つ見目麗しい青年の顔が出てくる。

 この顔を使おうがどういう意味かは知らないが、少なくとも奏の記憶には存在しない顔である。

「ジャック、と。そう呼んでいただける私は嬉しい」

「おい変態。顔とかどうでもいいんだよ」

 ジャックの容姿にふわあとなった香奈とは違い、辟易した顔で変態と呼んだ奏。あからさまにムッとした顔をするジャック。

「女子二人の前にいきなり現れて、訳分からないこといいながらアプローチしてくる奴なんか変態で十分。

 だいたい、顔だけいいなんて、うちの新人だけで十分よ」

 ヤレヤレと肩をすくめる奏にジャックは呆れ顔で返す。

「お姫様をお連れするには守護者を倒すのがセオリーなわけで、守護者というのは悪い魔法使いだったり悪のドラゴンだったりでね。ま、つまりは君なわけだよお嬢さん」

「はあ? どっちかといえば、アンタだろそりゃ」

 どうやら向こうの脳内では、香奈は悪い魔法使いに拐かされたお姫様で、奏は悪い魔法使いということになっているらしい。とんでもないおかしな奴だ。

「まあ、怒らないでくれたまえ。世の中にはね、"そういう魔法があるのだよ"」

 そう言って、右手を自分と奏の間にかざす。

「さあ、開演だ」

 ジャックがキザったらしくパチンと指を鳴らした。

 その途端、奏は身体が重くなるのを感じる。対して、ジャックが仄かに白い燐光を帯びたように見えた。

(なにこれ)

 異常に、左目に力を入れてジャックを視ようとするも左目には何も映らない。視力そのものがなくなったように思える。

「うんうん。コレを使うのは久しぶりだけど、中々うまくいくものだ。なに、お嬢さんとしては不本意だろうが、僕――いや、私としてはリハビリというやつでね。付き合ってもらうよ」

 あぁ、と挟む。

「"皇帝"はここには辿り着けない。なぜならこの場には、私以外も来ているからね」

 ジャックはマントの下から一振りの柄が長い剣――バスターソードを取り出す。ソレは持ち主が帯びる白とは違い、ドス黒い燐光を纏う紺色の剣。剣身には時々赤黒い線が流れるように浮かび上がる。紺の剣というよりもただ単純に黒剣と言った方がしっくりくる。一目見て「あこれ悪い剣だ」と思ってしまう代物である。

「さて、悪者退治の物語をはじめよう」

 ジャックは黒剣を振りかぶり、奏は見えない左ではなく右を前に構えを変えて、コキリと軽く右拳を慣らす。右掌にボンヤリと蒼光が灯った。

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