表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LR  作者: 闇戸
六章
83/112

ビアガーデンにて-行動選択-

「魔鉱展開――と」

 雛の掌に置かれたサファイアが固体を解いて霧状に四散。周囲の空間に明るい蒼光が舞った。

「これで幻術代わりにはなるよ」

 雛の言葉に夏紀は頷きで応じる。

 現状、雛は練りに練った魔鉱を数少ないが魔法の代わりに展開させることが出来る。夏紀は魔鉱の形状を変化させ雀艶のスペアとして使うことが出来る。

 二人合わせれば、セイジの廉価版のようなもんだと自負出来る程度の自信が芽生え始めた頃になる。

 ただ、雛からすれば、ダハーカ戦で見せた夏紀の艶舞みたいなのが自分達の完成形だと思っているし、無意識にソレをやり、やったことに関して無自覚な夏紀を苛立たしくも思う。二人で一つのように二人を対等に見る相手には正直「節穴」だと感じずにいられない。大体は学校の教師達に対する怒りと言える。

「でも神祇官相手にどれくらい騙せるかは正直分からないかな」

 せめて民間人を公園外に連れ出す一歩手前までだったら、とは思う。

「あの人にはああ言ったけど、本当に門までは安全なんだろうか?」

 不意に、夏紀が慎重そうなことを口にする。これは珍しい。

 雛は、どういうこと? と夏紀を見上げる。

「いや、なんとなくだけど――ああ、でも、なんでこんなこと浮かぶのかな?」

「んん?」

「いや……、もし神祇官が悪意を以て犠牲者だけを山積みにするのが目的なら、門に何も置かなければ一般人を誘い込むのも簡単だなって」

 雛が(゜Д゜)な顔をした。

「な、なっちゃんが理性的なことを……」

「どういう意味だこの野郎。泣くぞ?」

「まあまあ。

 つまり、行きはよいよい帰りは怖い、な状況じゃないかってことだよね?」

「うん」

 嫌なこと考えたな、と肩を落とした夏紀に、傷口を雛に凍結してもらい、顔は青いが先程よりもまだマシな感じの烈士隊員が「気配はどうなんだい?」と促してきた。

 言われ「ちょっと待ってください」と周囲の気配状況を感知しようとする夏紀。ただ、すぐにその眉間に皺が寄る。

「――門までに感あり。この配置だと……待ち伏せ? ううん、雛、サーチ・エーテルをやってみてくれ」

「あいあい」

 請われ、すぐに使用。

「――――これ、出口付近全部待ち伏せありじゃ……」

 うわあ、という感じの雛。

「なんで気付かなかったんだろう?」

 雛は腕組みして困り顔。

「展開だけ見ると、外に行くより中に行った方が安全なのかな?」

 どうしましょう? と烈士隊員に顔を向ける。

「中か」

 周りの一般人達は中という単語に首を横にブンブンと振りまくった。中の状況を見ていない夏紀達には分からないが、夏紀達以外の誰もが凄惨な現場を通って逃げてきているため、もうあそこを通るという選択肢は持ちたくはないようだ。

「ここの裏手はどうなんでしょうね?」

 ふと、夏紀がそんなことを口にする。裏手にあるのは壁で、壁の向こうは内堀通りがある。園外に出るには最短ルートだが……。

「なるほど、結界と警報箇所の点か。それは考えていなかった」

 烈士隊員は「ふむ」と頷く。結界という言葉に「え?」と反応した夏紀のことは目に入らなかったようだ。

「園外の、それも内堀通りだと確か……鏑木の部隊が担当しているな。桜田通りまで行くと天宮だが」

「え、一般烈士じゃなくて九曜系なんですか?!」

「え?」

 夏紀の驚きには烈士隊員も驚きを顔に出し、対して雛は「なっちゃん……」と。

「皇居直近に九曜以外が配置されるわけないじゃん。さすがにないわあ。いくら末席でも九曜関係者でそれは……」

 ないわあ、ひくわあ、とドン引きの雛。

「いやいやいや。うち、そういうのに関わらないんだから気にしないだろ?!」

「そりゃ、日崎にはそういう話来ないけどさあ? 大体先代のせいで。でも、来ないからこそ知っておくのは重要だ、と私は言いたい! 食い扶持のために!」

「――ア、ハイ」

 末席で自分しかいなくても家の当主なのだから、食い扶持は確かに重要ではある。たとえ九曜頂に必要とされても、ヒモになるわけでもない。稼ぐ手段として知識は必要だろう。

「祠魂堂関係は給料がいいけど、堂自体は神祇院の管理下だから除外。警護の紫綬は烈士隊員の中から色々試験が必要だけど、アタシは武力面で絶対落ちる。あとは九曜関係者だけで構成されてる日比谷周辺の烈士隊のみ。他家に頭擦りつけて頼み込めばいけるかも?!

 てのが九曜頂に拾われるまでの人生設計デスケドネー」

 聞いたことはある。他家云々のところで家的には大問題だよね、というのがコレを知る他の人の感想ではある。知る人自体がごく少数ではあるが。

「ひさし」


【まあそうだな。最後の部分はどうかと思うが、食い扶持を考える辺りはまだ現実的だ】


 久しぶりに聞いたな、と言おうとして、夏紀はその場に固まった。

「君達、日崎だったのか?」

「あ、うん、そうだよ。悪名高い九曜・日崎デス」

「そんなに卑下しなくても。御崎、ではないんだろう? 御崎高次の身内だったら多分助けては……」

「あ~、そこで出る辺り、やっぱ分家長って……。あ、でもでも、あそこは長男次男以外は」

 なにやら話している烈士隊員と雛の会話が遠くに聞こえる感じだ。なんというか、今さっきの声の方が近くから聞こえた感じがするからである。近く――否、耳を経ての音ではない。直接脳内に響いた声だったと断言出来る。

(まさか、ナニカに取り憑かれ……。いや、でも、一体いつ)

 まずは憑依を疑う。しかし身に覚えがない。

(監視されてて、監視している奴が話しかけてきてる?)


【中々事態が動かんなぁ。こっちはこっちでなにやら考え中だが、考え込むより動いた方が金策になることもあるんだがなぁ】


(こっち? こっちって……俺のことか?)


【うむ? なんだ? まさか……。おい、桐生の若造、俺の声が聞こえてんのか?】


(は、話しかけてきた?!)


 急に夏紀が(゜Д゜)な顔をしたものだから、雛達まで何事という顔をした。

「なに? なに?! 何か妙案でも思いついたの?」

「あ、いや、なんでも……」

 慌てて口を濁す。

「うん~? トイレでも行きたくなった?」

「違う。ホント、なんでもない」

 誤魔化しきれたかどうかは分からないが、ともかく、だ。

(なんなんだ、お前?!)


【ほ~? なんで聞こえてんだ? まあ、なんだと聞かれれば……いやなんと答えたもんだろうな?】


 自分に聞き返されても困る。


【ああ、アレだ。俗っぽく言えば、守護霊みたいなもんじゃね? 守護したことないけど】


(自分で言ってすぐに否定するなよ。聞いたこっちが困るわ。敵か? 敵なんだろ?!)


【落ち着けよ。お前に敵対しちゃ、大将に敵対するようなもんじゃねえか。んなことしねえって】


(???)


【桐生を見てきたが、お前が一番しっくりくる。おそらく、お前が次の……。おっと、決まったか?】


(何を言ってるのかまったく分からないんだが)

「ちょっと、なっちゃん? ちゃんと聞いてる?」

「ひゃいっ?!」

 現実に引き戻される。

「えっと、なに?」

「なにって……。状況的に緊張するのは分かるけど、ここで戦力になるのはアタシらだけなんだからさ、相談事はちゃんと聞いててよ」

「す、すまん。で、なんだっけ? もう一度頼む」

「アタシが裏手の壁を破壊出来るかどうか確認してくるから、なっちゃんは心字池で待ち伏せしてるらしい神祇官を引きつけてね、って」

「あぁ、囮か」

 懐からルビーを取り出し形状を変えて槍を出現させる。

「それはいつでもいける。神祇官相手にどこまでやれるか分からないけど、時間稼ぎならやってやれないことは」

「んじゃ、決まり」

 烈士隊員によれば、公園を囲う結界は壁や縁よりも上に設置されたもので、結界より下は一般に修繕などの対象となることから物理的に守ることになっているとのことだ。外は園外警護の烈士隊が、中は紫綬が。

「まあ、外から破壊しようとすれば紫綬に、中から破壊しようとすれば園外警護に、違法な魔法使用は内外に、と通報が行くようにはなっているから、これを利用し外へのSOSにもなりそうだ」

 魔法検知が未だに作用しているかどうかは謎だが。

 やることはとりあえず決まった、とまずは夏紀が外に出ていく。次いで雛は幻術を屋内に残したままビアガーデンの裏手に回った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ