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LR  作者: 闇戸
六章
81/112

地祇の王と連理の剣聖(後Ⅰ)

勇【ああ、やっぱり速い。大体さっきまでの2倍程度には速いな】

 勇の斜め前で事代主が身体の葉を札に見立てて符術による攻撃中である。

事【自分で言うのもなんだが、高く見積もっても1.8倍ではないか】

勇【細かいな、おい】

 生弓を番え、火炎符で焼け残った箇所に狙いを定めて射る。弓は鬼の肉を急加速で再生し尽くし生命の限界を軽く超えて組織を崩壊させていく。

 破壊して削る。しかし削り残った箇所は再生し残った他と繋がって再構成。これが巨鬼が大半削られて尚規模を小さくしても満足に活動しうる原因だ、と形代となって巨鬼を観察した事代主の結論である。

 故に、どうせ再生するなら再生の限度を突破させてしまえ、という作戦に出たのだ。結果、破壊速度は事代主曰くの1.8倍に相成ったというわけである。

事【まさかとは思うが、親父殿、未だにどんぶり勘定ではなかろうな】

勇【姉貴じゃあるまいし。これでも霧崎の商売系は俺がだな】

因御【それ権能ですわー。ずっこいわー】

勇【うるさいぞ。ちゃんと学生としては使ってない。後輩に丸投げだ】

 それはそれで酷い。

勇【ん。丸投げをよくこなしている。こう考えると、梧桐の奴は相当優秀なんだな】

事御【……あ・お・ぎ・り? まさかな】

因【???】

 梧桐の姓に二柱がなにやら反応したが、きっと似たような名前の誰かを思い浮かべたのであろう。

勇【ともあれだ、無難に削りきる目途はついたが、結局こいつはどこまで削ればいいんだ?

 神魂であれ鬼魂であれ、直接破壊ないし封印しようにも肉の中を移動しているのか場所が分からんことに違いはないわけだ】

因【ちょおっ、話してないで前! 前!】

 勇と事代主が「え?」と示された方向に顔を向ければ、振り上げられた拳が迫ってくるところであった。

事【直撃針路。親父殿任せた】

「え? え? お、おう」

 弓を掴んだままで両手を前に出し受け止め体勢となる。その姿勢になりながらも、あれこれ無理じゃね? とそんな確信を得る。それくらい、どう見ても、腰が乗っていた。


ゴッ


 風を切っての拳を全力防御姿勢で迎え撃ち、数秒して「ん?」と首を傾げる。思ったほどの威力ではない。というか、若干打点がずれていた。

 訝しむ勇は下を見る事代主に気付く。視線の先は巨鬼の右足。ちょうど親指に当たる位置にそいつはいた。

「嘉藤……利則?」

 親指の代わりに剣聖がいて、あるはずの親指は近くに転がっている。

事【良いタイミングだ】

勇【タイミング良すぎだろ。計ったのか?】

事【アレにそういうスキルはないが――――ごくり】

勇【えまさかの知り合い? てか今なんか飲まなかったか?】

事【気のせいだ】

 勇の問いには答えず、事代主は下に向かってブンブン右腕を振っている。ソレに気付いたわけではないが、利則は上を見上げ、緑の人型を見つけて「うわあ」という顔をした。

 巨鬼が腕を戻し始める。再度の攻撃が来そうだ。

 利則は巨鬼の動きを目で追い、一瞬考える素振りをしてから、巨鬼の背後に向かって走っていった。

「剣聖が来た。ならもう少しがんばるか。何をしにいったか分からんが」

 下で行動するならそれを阻害しないように力を使うべきか。そう思う矢先、事代主が巨鬼周辺を巻き込んだ降雷の術をぶっ放す。

(そういうの気にする関係じゃないのか)

 勇の視界には入っていないが、巨鬼を挟んだ向こうでは降り注ぐ雷をヒョイヒョイ避けつつ巨鬼の腱を斬り廻る利則の姿があった。

「まったく、容赦のない」

 口ではそうこぼしつつも、勝手知ったる降雷に余裕綽々といった感がある。

 不意に吐き気が少し収まる。拾って使う太刀を見下ろせば、柄頭に近い場所には一枚の葉が張り付いている。そこにはかつてよく世話になった文言がミミズののたくったように書き殴られている。効果は単純で酔い止めだ。

「からのサポート。さすがだな――親父」

 虹色の夜を経て恩師が消え、世の中が身近も含めて変動しまくったLRの黎明に、父親が自分のことを神だなどと言い出した時にはどこのネジが飛んだのかと本気で心配し食卓に好物を並べてみたものだが、色々と得心のいくこともあって家の状況を知った結果、黙っていたことを諫める意味でも食卓から一品減らしたものである。

 自分が自分でどうしようも出来ない現状に陥った現在でも、自分が妻を得て後、賀茂とやらに帰った父がいれば妻子の行く末にはあまり心配を抱く必要はないだろうという安心はある。実を言えば、この巨鬼の元へ来たのも、父から妻の現状を聞く理由があった。決して父の神気に屈したからではない。はず。

(しかしこの鬼。武の付け根を斬れば重心が歪み、腱を斬れば動きが歪む。膨れてはいるが、根幹は人体そのもの)

 背面から肉壁を見上げ、巨鬼の四肢を睨む。

(親父達の削ることでの体積削減も手ではある。それはおそらく大元の神魂に当たる位置を割り出せないからと推測出来る。

 それにこれもおそらく、いや、肉を斬る感触からすれば正解か。

 流動する肉は元江郷を統括者とした巨鬼本体とは別系統。つまるところ、この場に存在する鬼は二種類。巨鬼本体とその体表を移動し巨鬼の神魂が移動するのを助ける目くらまし的存在であろう)

 であれば、と頭上を見上げる。

 上では勇事コンビが神技使い放題で暴れ回っている。巨鬼の右に左にと破壊行為が行われているのを観察して、なるほど、と目を細める。

(神魂が移動するにしても身体全体がその範囲というわけではあるまい。体表の流動が目くらましだとすれば……。

 まず、可能性を潰す。

 再生速度の最も遅いのは左腕。神魂から最も離れていると仮定すれば、同様に左足の再生が左腕よりも僅かに速い程度。左の腕と足は違うとして移動及び存在範囲から削除。

 右の腕と足かと言われれば、これらも左に比べれば速いものの、胴体よりも遅い。これらも削除の対象とする。ならば流動の最も多い胴か)

 その胴の体積が一番大きい。

 太刀に貼られた葉を小突き、上を見れば、事代主が下を見た。その視線に対し、左人差し指でまずは右肩を、ついで右足の付け根、右の肋を示す。

 そのやりとりは数秒。すぐに粉塵で利則の姿が見えなくなる。


事【神使いの荒いことだ】

因【主様?】

事【そこではない。親父殿、特定箇所への連続だ】

勇【なんか作戦でも思いついたか?】

事【我が策ではないが、効率は良いと保障する】

勇【それはまさか……剣聖の?】

事【状況判断でアレを超える者はそうそういはしない】

因【買ってるんですねぇ】

事【息子だ。買わぬ理由はない】

勇御因【――――は?】

 数秒。

御【隠し子かあああああぁぁぁぁあああぁ?!】

事【失敬な。隠してはいない。公言していないだけだ。親父殿ではあるまいに】

勇【しれっと俺ディスるのやめてくんない? 俺全部認知してたよ?】

因御【それはそれで】

事【こちらにも色々あるのだ。本来ならカツのことも……】

勇【あっ!? そうか! 嘉藤の祖父になんのかっ!】

勇因【コッシーがコッジイにランクアップ】

事【よし、呪殺だ】

勇因【ごめんなさい m(_ _)m】


 何をしていたかは分からないが、しばしの間隙をおいて攻撃が再開される。

 右半身を中心とした降雷。右肩と右足付け根をほぼ同着弾の閃光が貫通したのを見る。利則の意図を理解してのものではないだろうが、思考の無駄を省く良い攻撃といえる。

(再生開始は……同時? いや、コンマで誤差ありと、速度が違う)

 肩よりも足の方が速い。しかも左側よりも圧倒的に速い。

(右、確定。下寄り。後は……)

 巨鬼の背後、15メートルほどの位置に場所を取る。

 刀身の元を左人差し指と中指で挟みこみ、切っ先に向けてなで上げてから、クルリと太刀を回し脇に構え、やや前傾で集中に入る。

 ここで右肋へと閃光が着弾したと同時に、他所とは違うある変化が訪れる。

「防御だと!?」

 頭上でそんな声が挙がる。ピンポイントで正解を穿てば防御の一つでもありそうだとは思っていたが、どうにも、想像の斜め上の事態が上で発生したらしい。

 そして、勇と事代主の眼前で起こったことといえば、生弓の矢が着弾する寸前、肋付近に向けて周囲を流動中の肉が一斉移動をし盾を形成した、というものである。

 矢は盾を蒸発させたが肋付近は無傷。だが、肋以外にあった肉が跡形もない。


勇【剣聖、まじかよ。状況読み過ぎだろ】

事【驚愕中に申し訳ないが、立ち位置変更をした方が良い――来るぞ。下からだ】


 勇は、事代主から言われて反射的に下を見て、あまりお目にかかることのない魔力の輝きを視る。

(あぁ、アレはやばい)

 咄嗟に事代主の頭を掴んで横っ飛びに離れる際、下からの言葉を聞く。静かだがはっきりとここまでも聞こえる力強い言葉だ。


「草薙流刃伝――刃威断神」


 直後、一直線の閃光が下から上に向かって放たれるのを見た。ソレは切っ先が遙か天の先過ぎて不明だが、間違いなく刀だと思ってしまうような存在だった。言うなれば、閃刀か。

 閃刀は頭頂を斬り抜けると弧を描き、巨鬼の肩口から入り袈裟を斬り、流動の肉が残る箇所を切除する軌道をとって抜けていった。

「あんなので斬られたら俺達もやばいか」

 思わずそう漏らす。

(しかし、草薙流? どっかで聞いたことがあるような……ん?)

 聞こえたばかりの情報を考える間もなく気付く。

「なんだありゃ」

 肋付近の肉から触手らしきものが生え、本来接合しているはずの部位を掴んでいた。


御【惜しい】

因【チャ~ンス】


「っアダッ」

 ゴキンと首が鳴って視界が上へと振り切った。

 勇はグイッと強烈な力に引っ張られた。発生源は足。力の根幹、神気は因幡。

 天高く跳躍し、グルンと半回転して水泳のターンをするかのように天を蹴り。


勇【ちょ、おい! 何する気だ! 嫌な予感がっ】


 勇の悲鳴むなしく、更なる回転を得て蹴りのポーズ。


因【一族悲願のおいしいとこどり超必殺!】


 因幡の神気が足のみならず全身を覆うのを感じる。

 バキュンバキュンと人体が鳴らすとは到底思えない爆音を上げて周囲の大気を貫通して狙うは、問題の肋。肋は肋で今回は盾を作る余裕なく、周囲との接合に超必死。守る力無く着弾。


因【うさ―――――キィィィィィィッッッッッック!!!!】

御【恥ずかしい名前を叫ぶんじゃねええええええ】

事【こんな蹴り放てば末代までの恥だな】


 ちゅっどおおおおん♪


 なんとも緊張感の欠ける爆音を響かせて、恥ずかしいだの恥だの酷い感想を得た必殺蹴りは一発で肋の接合をぶっちぎり、周囲との摩擦熱で肋ごと真紅に染まりながら大地へと突き刺さる。


 ズンッズンッズンッグチャ……


 肋は何度かバウンドした後、嫌な音を出して停止。

 最初の落下地点にはもうもうと土煙が沸き上がるが、中央から放たれた神気の拡散が土煙を弾き飛ばす。

 立ち上がり、よっしゃあ、とガッツポーズをする勇だがしているのは因幡だろうか。その頭に、ぴょこんと兎の耳が生えた。背後で残った肉体が爆散した。


勇【なんか生えたぁぁっぁっぁ】

因【あらやだ、神気の排気したら】

勇【もう、お婿にいけない】

御事【何故お婿】

勇【姉貴を見るに、九曜頂からの解放条件は嫁ぎかなと】


御事因その他神々【神州脱出で問題なし】


勇【泥舟国家かっ】


 利則は「凄いの来たな」と感心したが、目の前で生えたウサ耳に(´゜ω゜)・*;'.、ブッと噴いた。

 勇は無言で耳を纏めて掴んでむしりとって宙に投げ捨てた。

「助力感謝する」

 勇は颯爽と、何事もなかったと謝意を述べ、利則は利則でソッと顔を反らして頷いた。


御【おいおい、コッシーjrうけてるぞ】

因【むっつりさんではないんですなー】

勇【う~さ~ぎ~】

御【親父激怒】

因【ひゃああ】

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